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大地獣ベヒーモスvs人類連合軍、その4


 試し打ちをするために、僕こと氷竜帝マカロニは魔導書を使用。

 そこに刻まれた逸話を読み解き、外の世界の魔術を習得していく。


 空に浮かぶ玉座の上で本を読む、ペンギンの図である。


 魔導書の売買が終わったネコの行商人ニャイリスは、ネコ髯を前に倒し――。

 瞳と共にヒゲを膨らませ、ぶはぁ!

 ゴロゴロと喉を鳴らして、フンフンフンと興奮気味に鼻も鳴らして、うにゃん♪


『毎度ありニャ~!』

『こっちもネコの行商人に頼むしかないから助かってはいるんだが――なんだ、随分とご機嫌じゃないか』


 魔導書をめくりながらの僕の言葉にニャイリスは、にひぃ!

 仲介手数料の金勘定をしながら、モフ毛をモッフモッフと嬉しそうに膨らませている。


『にゃんでもないニャ~! またのご利用をお待ちしておりますニャ!』

『またの、ってこれで問題が解決できるならもう買う予定はないぞ』

『またのご利用お待ちしておりますニャ~!』


 なんとなく不気味な反応である。

 僕が魔導書の選択を間違えたという事だろうか。

 僕が購入した異世界の魔導書は、三冊。


 まず僕のペンギン化を治せそうな一冊、回復魔術と状態異常を得意とするモコモコな”ニワトリ神の魔導書”。

 次に元の世界に戻るための一冊、次元を渡る能力を持ち、結界と浄化を得意とする白銀色の”狼の魔導書”。

 二冊目の書は聖なる力による解呪も得意としているようなので、これも人間に戻る手段に使える可能性はある。

 そして、三冊目は――。

 僕にとってはかなり実戦向きの魔導書。


 ニャイリスが振り返り。


『そこまで正解の魔導書を選択できたのに、惜しかったニャ~』

『はん! 言ってろ! 僕はこの魔導書で必ず目的を果たすからな!』


 言って僕は魔導書を片手に玉座の上で、お立ち台。

 休憩している人類軍に告げる。


『おいおまえら! 僕は今から大魔術をぶっ放す、一回はそれで倒せるだろうからな! ただおそらくベヒーモスは直後に一度蘇る、さっきと同じやり方でリーズナブルを強化してタイマン。ある程度相手の体力を削ったらまた僕が氷漬けにして、大魔術をぶっ放す。それで一回目と二回目の復活は対処できるはずだ!』


 合図を待つ者は、ドナの指示に従いアイテムの支給を受ける。

 強化を担当する者たちは皆、ネコの行商人から購入した魔力回復薬を飲み切り――準備は完了。

 口元を魔力回復薬の残滓で光らせたドナが言う。


「この魔力回復薬の代金を払ってるのはそこのペンギン様、つまりは氷竜帝マカロニだよ! あんたら、これが一本いくらするかは知ってるだろう? あのペンギンだけが得してるように見えてるなら、あんたらもまだまださ。所持金の一割を持ってかれたぐらいで逆恨みするんじゃないよ!」


 ちなみに。

 この魔力回復薬は僕が無料で作り、無償でネコの行商人たちに提供したアイテムなので……。

 僕にかかっている元手は、ほぼゼロ。


 コストはせいぜい瓶の代金ぐらいである。


 よーするにこれも詐欺の一種。

 魔力回復薬が高級な事から発生する、誤認である。

 これで僕を必要以上に守銭奴だのと煽る輩は減る筈だ。


 まあ、実際。

 大陸二つの戦力を支える程の魔力回復薬は、ネコの行商人も持っていなかった。

 僕からの無償提供がなかったら詰んでいたといえるだろう。


 これは世界のためでもあるので、真実を知ってもツッコムことはできない。


 事実を知っている、瓶詰めを手伝ったリーズナブルとその下につく聖職者たちはニコニコニコ。

 真実を知りつつも無言である。

 僕は分類すると天の女神アシュトレトの眷属、これが天の女神信仰につながると知っているのだろう。


 女神アシュトレトの信仰が広がれば、彼女も強化されるがおそらく僕も強化される。

 僕自身が強くならなければ、そもそも他の女神にも圧倒されているので仕方がない。


 おそらくダガシュカシュ帝国の皇帝ダカスコスくんは僕の思惑に気付いているだろうが、沈黙を保って涼しげな顔である。

 アランティアも母のことがあるからか、他国が関わるとその辺をわきまえているようで、まーた……微妙に騙してるんっすね……と、こちらをチラリとみていたが気にしない。


『んじゃ! 見てろよおまえら! 異界の神の力を借りた結界で安全を確保してから、大魔術をぶっ放すからな!』


 この氷海空間と、僕が展開している結界の中ならば大きな魔術を使っても被害は少ない。

 試し打ちの相手としては最適。

 僕はまるでシベリアンハスキーのような、”白銀の狼”が描かれた魔導書を開き、結界魔術を詠唱する。


 白銀色の魔導書が、自動で――ふわり。

 僕の手となるフリッパーの上に浮かび、バササササササとページを開き。

 僕のクチバシからペンペン語ではなく、日本語での詠唱音が響きだす。


『汝、大いなる光に包まれし、白銀の魔狼よ。汝、魔術の祖たる救世主と共に天を降りし法の番人よ。其の厳格なる瞳を我に重ねよ。我はマカロニ! 氷竜帝マカロニ! 三神のケモノを内包セシ、かつて人だった魔獣の王!』


 詠唱に従い、白銀の狼の魔導書が力を発揮。

 八重に重なった魔法陣が生まれ、異界の魔術が発動される。

 ……って!

 これ、めちゃくちゃ操作が難しいっ……じゃないか!


 ともあれなんとか魔法陣を操作し、結界を発動させるべく!

 クチバシから魔術名を解き放つ。


『<――裁きのための(ジャッジメント・)完全結界領域アヌビチュアリ――>』


 発生したのはまるで、光と森に包まれた法廷のような、特殊な空間だった。

 だが僕ではまだ理解のレベルが届かないようだ。

 うまく認識できないが……。


 おそらくは――術の使用者を裁判官とし、その周囲に法廷と神殿を組み合わせたような<結界神殿>を展開。

 どうやら対象の認識機能があるのだろう。

 結界内に敵がいる場合は、その場所のみは結界の対象とならないようだ……。


 結果としてだが、<結界神殿>で敵を囲む効果があるのだろう。

 結界から弾かれた敵が強固な光の壁に囲まれる様は、さながら裁判にかけられる犯罪者。


 守りと拘束の両立。


 自分と仲間を守りつつ、強固な結界で敵を閉じ込めると考えるとなかなかに使い勝手はいい。

 が!

 僕は、ぜぇぜぇ……。


『な、なんだこの馬鹿みたいに必要な魔力量は、僕の魔力のほとんどを持っていかれたじゃないか!』


 僕の玉座の横で商売カバンをごそごそしながらニャイリスが言う。


『当たり前だニャ、それは外の世界でも上から数えた方が早いぶっ壊れ獣神、ホワイトハウル様の魔導書だニャ。その力を借りた最大級の結界魔術を使ったら、そりゃあ魔力も空っぽになるにゃ?』


 言いながら、ニャイリスは僕も知らない回復アイテムをドサリと取り出し。

 商売猫のスマイルで、肉球を輝かせての手もみ。


『こんなこともあろうかと! ニャーはお得な魔力回復薬を用意してあるニャ?』

『おい――僕が提供したアレはどうした』

『あれは魔力容量が少ない人類用だニャ~? あんなチマチマした回復量じゃあ間に合わないんじゃにゃいかニャ?』


 まあ実際、その通りなのだ。

 なんか結界が強力過ぎて、毎分の魔力消費量が半端ない。

 ニャイリスは全てを読んだような顔で。


『おおっと! こんなところに、飲んだらしばらく<魔力回復状態>が持続する超高級な回復薬があるニャァァァァァ!』


 こ、こいつ!


『おまえ、はかりやがったな!』

『今ならニャー特製の、獣神でも十分に回復できる魔力回復薬とセットで販売してあげるのニャ? 本当にお得だニャ?』


 おそらく、本当にお得はお得なのだろう。

 だが、この魔力消費量を維持するほどの回復アイテムとなると、相場の時点でアホみたいな値段なのだろう。


 アランティアが破顔し、ぶひゃひゃひゃひゃ!

 マ、マカロニさんが逆に商売されちゃってますよ! あ、あれ! 見てくださいっすよ、あの顔!

 と、爆笑する中。


 背に腹は代えられないと僕は、クチバシをヒクつかせ。


『それで、いくらなんだ!』

『所持金の一割でいいニャ!』


 あ。

 ああぁああああああぁぁぁ!

 やられた!


 ちなみに、僕の所持金はそこそこ以上にある。


 スナワチア魔導王国を乗っ取る前に作った商業ギルドは大繁盛しているし、ペンギン印のウォーターサーバーはいまや二つの大陸をほぼ覆っている。

 その稼ぎのマージンは当然、僕に入っているので。

 一割でも、国が三つ以上は建つ。


 流星のバシムが、キシシシと笑い。


「おい、ペンギンの旦那。まさか世界の危機にそんなことを言ってる場合じゃねえよな?」

「ま、みんな一割は出してるんだ。今回は諦めるんだねえ」


 ドナも僕がネコの行商人の肉球に転がされたことが面白いらしく、ふふっと女傑の笑み。

 この一割は僕が言いだしたことだ。

 今更そこにケチをつけることは、詐欺師の沽券にかかわる。


 それに、ここで僕も一割を出せば、少なからず発生するだろう僕への反感は間違いなく低下する。

 それが分かっていての、この一割要求なのだろう。

 僕にとっても損ではないという事が、ポイントなのだ。


『はぁ……わかったよ、ネコの行商人と敵対する気もないし払うよ、払えばいいんだろ!』

『毎度ありにゃ~!』


 異界の魔導書、それも神に属する存在の<逸話魔導書グリモワール>を発動すればここまで魔力を消費する――それは外の世界ではおそらく常識。

 回復アイテムが必要になるのは当たり前で、ネコの行商人全員が既に準備していたようで……。

 リレー形式で、わっせわっせ!


 魔力回復アイテムが僕の羽毛にある、アイテム保管空間に収納されていく。


 僕は購入した”ホットサンド状の回復アイテム”をついばみ、全回復。

 所持金の一割ということで、在庫もかなり追加されている。

 ゲームならもったいなくて使えないような全回復アイテムが補充されたと考えると、やはりこれも悪い取引ではない。


 というか、得したまである可能性は高い。

 僕の魔力容量はここにいる人類の合計よりも高いのに、一瞬で全回復したのだ。

 その効果はすさまじい。


 というか、これ、体力も魔力も問答無用に全回復するようだ。


 それがダース単位で購入できた。

 ……。

 めちゃくちゃうまみがある。


 なおかつ、はたから見るとネコの行商人にうまいこと利用されたと映る。

 人間、たまには失敗する存在の方が逆に信頼されるし、心を預けやすい。

 僕へのヘイトも減ったと考えると……あれ? 本当にお得じゃないか、これ。


『今後もよろしくお願いだニャ♪』


 おそらく僕の心を商売人の勘で読み、肯定しているのだろう。

 このニャイリス。

 その辺りのさじ加減が上手なようだ。


『ったく、まあいいや。じゃあ、一度ぶっ飛ばすから――ドナ! リーズナブル! 準備はいいか!』


 言われた二人は、戦闘準備。

 ドナの号令に従い、三分割された部隊が詠唱を開始。

 リーズナブルは天の女神に祈りを捧げ、自己強化を開始。


 いつでもいけると、二人の合図を受け。

 いざ!

 僕は本命の魔導書を開き、詠唱を開始。


『開け、異界の魔導書!』


 それは一匹の、イワトビペンギンが表紙に刻まれた魔導書。

 そう、異世界にも強大なペンギン神が一羽存在しているらしいのだ。


 魔導書の名は、<始まる世界のペン・グイン>。


 逸話を読み解く限り、そのペンギン神の名は――。

 恐怖の大王アン・グールモーア。


 おそらく世紀末に降ってくるとされた、あのアングルモアだろう。

 その異世界神は、ペンギン姿の神。

 ペンギン種族の繁栄を目的として動いている、大いなる存在。


 その正体は、かつて滅んだオオウミガラスがイワトビペンギンとして転生体した神らしい。


 同じペンギンということで、僕が使用すれば相乗効果でかなり実戦に使える書になるだろう。

 実際、先ほどの書よりもコントロールもしやすいし、魔力消費量も節約できている。

 魔力を帯びた魔導書に向かい、僕は呼びかける。


『僕は氷竜帝マカロニ、マカロニペンギンのマカロニだ! 異世界のペンギン神よ、僕に力を授けたまえ!』


 呼びかけに応じ、魔導書が更に魔力を膨らませた。

 次の瞬間。

 信じられない量の、膨大な魔力が僕の周囲を包み始めた。


 魔導書が僕の基礎ステータスそのものを強化してくれたのだ。

 今ならいける!

 確信を持った僕は結界と氷に囲まれるベヒーモスを指差し。


 ほぼ詠唱が要らない、初級の氷魔術を使用。

 氷の散弾で敵を貫く魔術を発動。


『<氷の粒よ(ペペッペペ)敵を穿て(ガァガァペペ)>』


 これで相手の鋼の皮膚を砕き。

 追撃の本命の魔術で装甲をはがしたベヒーモスの内部を叩く!

 予定だったのだが。


 僕の想定以上の量の、氷の散弾が生まれていて。


 ズザザザザザザザザザ!

 ザズズズズズズズズズ!

 ざぁああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!


 僕の生み出した氷の散弾は、そのままベヒーモスの体を貫通。

 弱い魔術の筈なのに、敵を撃退。

 獣王の身を二回分倒すことに成功していたのだ。


 その威力はベヒーモスを二度倒すだけにとどまらず、僕の生み出している結界の中で荒れ狂い。

 ズジャジャジャジャジャジャ!

 初級魔術の筈なのに、世界を揺らすほどの氷となって暴れまわり続けていた。


 二度倒されたベヒーモスは、力を失いモキュー!

 三度目の魂を保つべく、次元の狭間へと帰還していく。


 敵は倒した。

 だが魔術は終わらない。


『は!? え、なんだこれ』

「ちょ、ちょっと!? やりすぎっすよマカロニさん!?」


 アランティアも思わず声を上げている。


 僕も想定外の威力で唖然としていたのだが。

 それはここを眺めていた存在も同じだったのだろう。

 ズン――とした衝撃が、周囲を包んだ。


 その刹那――。

 読み取ることができないほどに大きな、けれど洗練されたロジカルな魔術式が広がり。

 どこからともなく。

 未知の魔術名が告げられる。


『<”解呪ディ・スペル”>』


 僕の魔術が解除された。

 これはおそらく、魔術効果を無効化する魔術だろう。

 しかしいったい、誰が。


 考え、僕が答えを出すより前。

 極光が、世界を照らしていた。

 凛とした声が。

 響く。


『マカロニさん、すぐにその魔導書を閉じてください――世界がもちません』


 それは、普段飄々とした声を持つ男の命令。

 今の僕にははっきりと見えていた。

 そこに――。


 この世界の主神。

 空中庭園の主たる創造神が降臨している。


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― 新着の感想 ―
[一言] ホントに惜しいなぁ、黒猫様の書があれば……
[一言] ペンギン繋がりでいつか出番があるとは思ってましたがここでかあ さすがのマカロニさんも外のアニマルズと比べるとまだまだのようですねえ
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