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大地獣ベヒーモスvs人類連合軍、その1


 戦場は旧ソレドリア連邦の氷海エリア。


 かつての事件で僕の生み出した空間である。

 ベヒーモスと戦っているのはやはり、その誕生に僕が関わっている植物。

 <動く銀杏の大樹>、その群れだった。


 まずは銀杏と共闘契約をする方針に決まり、雲に届くほど巨体なベヒーモスと敵対する巨大樹木と接触しているのだが。

 既に、獣王と銀杏の戦いは始まっていた……。


 ベヒーモスを言葉で示すならば、巨大ハリモグラだろうか。

 大地の神と関係する存在だから土竜モグラなのかもしれないが……ハリモグラってふつうのモグラと違い、そこまで地面を掘らないような気もするのだが……。

 まああくまでも比較しての話だ。

 女神の知識の中ではよく地面を掘るのかもしれない。


 しかしなぜ、この巨大なモグラがベヒーモスだと断定したのか。

 答えは簡単だ。

 銀杏とバトルするベヒーモスが瞳を赤く輝かせ、細長い顔の先。

 咢を開き――超広範囲スキルを発動。


『グググゥウウウウウウウウウウウ――ッ!』


 効果範囲にいる相手を怯ませるこのスキルを鑑定すると、<ベヒーモスの咆哮>と表示されるからである。

 本来ならば相手を怯ませる咆哮系の能力だが、銀杏は高レベル判定なのか咆哮をレジストしている。

 しかし咆哮と連動するように、ベヒーモスは獣毛を膨らませ。


 ブフォ!


 連続で能力を使用。

 鋼のような針の獣毛を持つベヒーモスが前脚を上げ、その毛先の一本一本に魔法陣を発生させ自己強化。バフを多重に掛け、上げた前脚を振り下ろすと――。

 ドゴゴゴゴゴゴ!

 それは、大地を断つ勢いの攻撃となって銀杏を襲っていた。


 けたたましい音と共に大地をえぐり、天を衝く、無数に連なる柱状の衝撃波を発生させたのだ。


 が!

 銀杏の群れは一致団結!


 ザァアアアアアアアアアアァァァァっと樹々を揺らし、葉の振動音を詠唱代わりに魔法陣を展開。

 大地に根を伸ばし衝撃波の直撃を受けてもダメージを受け流し、どこからともなく怪光線を放ち。

 ビィィィィィイイイ!

 ビームでベヒーモスに反撃していた。

 

 かなりの良い戦いとなっているのだ。

 まさに神話の戦い!

 なのだろうが……。

 結界を展開しつつ、僕はジト目で唸っていた。


 なんというか、これは……。

 言葉にはしなかった僕の横、毒竜帝メンチカツが爪で頬を掻きつつ――ぼそり。


『なんつーか……これ、ゴジラ対うんたらかんたらみたいになってやがるな』

『ああ、言いやがったなおまえ……! あのなあ! こっちが折角、雰囲気を重視して言わなかったってのに!』

『いや、だってよぉ……こーいう映画を生前に見たぞ? てめえだって見たことぐらいあるだろうが、相棒マカロニ


 神話時代から伝承された獣の降臨の筈なのに。

 巨大な樹木と戦ってるし……。

 なんか怪獣大決戦的な空気感なのだ。


 ともあれ。


 ここは主戦場とは少し離れた場所。

 麓町カルナックから少し離れた位置に新たに建設した砦である。

 参加しているのは魔海域を境とした、北と南の大陸のほぼ全員。

 非戦闘員はもちろんいないが戦闘が可能なモノは、参戦している。


 世界の危機という事で北も南も関係ない。

 はからずも北にとっては解体された旧ソレドリア連邦の再集結となっているが、その指揮官は<指揮官レベル>や<リーダーシップ>を有していることでドナが就任していた。


 北にとっての戦犯であるが、「そのようなことを言っている場合ではない」が通じる事態だ。

 もちろん彼女が北の指揮を執ることに反対する者はいた。

 解体され小国家群となったソレドリアの、それぞれの代表たちはバニランテ女王の事件を知らず彼女を推薦したが――彼女は力を失っていることを理由に辞退。

 ならば誰が指揮を執るとなると話が進まず。

 膠着状態となった時点で毒竜帝メンチカツがキレはじめ――単純に鑑定に表示される<指揮官レベル>が高い者が指揮官になる流れとなり……。


 結局ドナへと戻ってきた形である。


「あたしを嫌う気持ちは分かるがね、言い訳はしないしもはや覚悟は決まってるさ。だがね、今この瞬間は世界の危機だ! 魔術の悪用によって降臨された契約のケモノがいるこの時だけは、あたしの指示に従って貰うよ!」


 ドナの残党を筆頭に、鼓舞の声が上がる。

 続いてドナは魔術を発動。

 ダメージを自分に引き受ける、騎士系統の職業がよく使う<自己犠牲>系列の波動を纏い。


「あんたらのダメージは全てあたしにくる。つまりは、あたしが意図してあんたたちを捨て駒にはできないってことさ。これでも文句があるやつは、あたしの代わりに名乗り出な! 作戦開始前の今なら、名誉ある指揮官を譲ってやる! さあ、いないのかい! いないなら大戦犯のあたしで決定さ、運命を共にしてもらおうじゃないか!」


 自己犠牲により自分にダメージがくるという状況は極めて危険だが、だからこそ皆、ドナの指揮を信頼するだろう。

 ……。

 まあ、この<自己犠牲>系列の波動はただの詐欺。

 僕がマカロニ隊を使い、蛍光塗料の魔術を教え込み、波動と同じ色を出しただけだったりする。

 ふつーに考えて、指揮官にダメージがいったら指揮に影響するし……。


 ともあれ。


 指揮官能力を有する存在はたとえ実際に指揮をしていなくても有効。

 指揮官レベルに応じた支援ボーナスが付く。

 前線に出ない王が指揮官になる場合がこれに該当するだろうか――。

 だが、こうして実際に指揮をした方が効果は当然上がってくる。


 まあ<指揮官レベル>といってもそのスキルや能力名は固定されていないので、様々に細分化できるのだがそれはいま語るべきことでもないだろう。


 あ、当然。

 南の指揮官は僕である。


 南北の戦力が集結している状態はなかなかに壮観だ。

 僕の生み出した氷海エリアは空間がバグっている、大軍となっても場所を確保できる特殊な場所となっているので戦うには適したエリアと言えるだろう。


 そして!

 これだけの戦力を整えた理由は、もうおわかりだろう。

 そう。

 規模を大きくすればするほど”例の話”から矛先を逸らせるのだ!


 ちなみにこの戦いには、互助会扱いされがちな冒険者ギルドの面々も参加している。

 僕たちは北と南だけで戦線を組んだのだが――急遽、ギルドが戦力を送ると進言してきたのである。

 まあ、実際に世界の危機である事と……僕を含め、獣王ベヒーモスを監視したいのだろう。


 冒険者ギルドも別大陸ならばそれなりの勢力を持っているとの話だが、はてさて。


 一大勢力となっている銀杏と交易しているネコの行商人ニャイリスが交渉役となり、ウニャウニャウニャ♪


 二足歩行で商売リュックを背負っている猫が、肉球を輝かせ、ウニャウニャ!

 銀杏を見上げモフモフな尾をふりふり。

 愛らしく交渉する姿は、遥か頭上の空中庭園から観察している最高神に、大ヒットしたようで。

 撮影をしておいてください、いますぐに! と、なぜか僕に通信してきているが……。

 まあ無視すると面倒なので、一応撮影を開始。


 緊張感……ねえな、この神。


 何か突っ込んでやろうかと思ったが、裏を返せば神が見守っているという事だ。

 主神も地の女神のやらかしで死者が出ることは望んでいないのだろう。

 そもそも女神たちは主神の妻。

 管理責任的なナニカがあるのかもしれない。


 交渉を成立させたニャイリスが、仲介手数料を要求しながら丸い口をウニャり♪


『銀杏たちの意見は一致、ここで氷竜帝マカロニに逆らったら後が怖いから、絶対に協力するって言ってるニャ』


 ……。

 全員がジト目で僕を見ている。


『は!? なんだ! おまえら、その顔と目は!』


 アランティアが言う。


「いや、とうとう”あの”銀杏にまで認知されるようになったんすねえ……って、さすがにドン引きしてるだけっすよ?」


 実際、北部の連中はあの銀杏にまで恐れられる獣王、と僕に対してめちゃくちゃ高レベルの畏怖を抱いたようだが。

 そのままアランティアは眉を下げ。


「まあ、あの時けっこう大きな魔術で脅しましたしねえ。変に助太刀無用! とか言われるより良かったんじゃないっすか」

『前向きだなあ……おまえ』


 僕は周囲を見渡し。


『あれ? そーいやリーズナブルはどこにいった?』

「ああ、銀杏と交渉する前に――こっちの戦力の有用性をアピールするためにってニャイリスさんの頼みで、あっちでベヒーモスと戦ってますよ」


 言われて僕は瞳を双眼鏡モードに変更。

 といっても、ただ遠くを目視できる魔術を使っただけだが。

 ああ、たしかに。

 人類側としては単騎で既に参戦、聖杖でボコボコとベヒーモスを殴ってるな。


 しかも銀杏とも連携が取れている。


 リーズナブルを直接知らないだろうギルドの連中が言う。


「あ、あのエルフの司祭様……なんで最前線で戦ってるんだ?」

「バカ、知らねえのかよ。あれが最高司祭リーズナブルさま、世界最強の人類だよ」

「は? いや、だからなんで後衛職なのに杖を鈍器みたいに使って暴れまわってるんだよ!?」


 まあ……ふつうは聖杖を使って軍を強化したり、集団回復魔術で治したり……そういうのが戦時下における司祭の仕事で役割ではある。

 が……。

 リーズナブルの場合は暴力担当の司祭だからなあ。


 ギルドの連中は、そのままなぜかこちらを見て。

 こっそり……。


「だいたい……なんでペンギンが王様なんだよ。意味が分からねえんだが、どう報告するべきか」

「知らん、俺たちはただ真実をありのままに報告すればいいだけだ」

「いやいやいや、これそのまま報告したら精神汚染を疑われてしばらく療養所送りじゃねえか……? だいたい、なんでここの連中、銀杏が普通に一大勢力になってることを受け入れてるんだよ。頭どーかしてるんじゃねえか?」


 どうやらギルドを通じての諜報員のようだが。

 そりゃ……そのまま報告したら正気を疑われるだろうとは思う。

 旧ソレドリア連邦も同じ轍を踏んだが、まあご愁傷様である――。


 既にタヌヌーアとコークスクィパーと、そして影に潜む例の無駄に美形な密偵が、彼らの後ろについて――こくり。

 僕に頷いている。

 外の大陸から入り込んでいるだろう彼らの中に入り込む、という合図だろう。


 まあ世界の危機という状況なので敵ではないだろうが、それは今の時点での話である。


 様々な勢力が動く中。

 ベヒーモスとの本格的な戦いは始まろうとしていた。


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