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南北共同会議 ~敵の敵は味方。仲良くなるには共通の敵を相手にするのが一番早いって、昔から(以下略)~


 獣王ベヒーモスの顕現は確実。

 被害はまだ発生していない様子だが、おそらくはそれも時間の問題。

 人類同士で争っている場合でもなく、僕は戦力や周囲に影響を与えそうな人物――ようするに関係者全員を招集していた。


 集合場所はスナワチア魔導王国の謁見の間。

 関係者全員を集めることができ、なおかつ安全を確保できる場所がここだったという理由である。

 僕の眷属たるマカロニ隊は警備を担当しているはずなのだが……。

 どうもかなりふざけた存在なので、刑事ドラマ風な看板を立て、”獣王ベヒーモス対策会議本部”などという飾りつけをして遊んでいる……。


 まあこいつらは好きにさせておき。


 関係者全員を集めたという事は僕の手駒は当然いるし、ダガシュカシュ帝国の兄弟やネコの行商人ニャイリスも顔を出している。

 まあ……ニャイリスは”獣王との戦争? 稼ぎ時ニャ!”と商売をしに来ただけのようだ。

 商魂たくましく、既に回復薬を並べて商売用のそろばんを傾けニャヒィ! としているが……。


 ともあれ。

 なにより、負傷し欠損した指を回復魔術で治したバニランテ女王も流星のバシムもいる。


 僕の考えていることはもう分かるだろう。

 そう。


 例の”痴情の縺れ”に発展しそうな”あの件”を、うやむやにしようとしているのだ!


 獣王ベヒーモスの一件は、なによりも優先される一大事!

 つまりは!

 世界の危機という最強の手札がいま、このフリッパーの中にある!


 実際、世界の危機を前にしてはそのような事を話している場合ではない。

 何かを聞かれても、今はそれどころではないで切り抜けることができる。

 というわけで、僕は獣王ベヒーモスに感謝したいぐらいなわけで。


 ついついニヒィっとクチバシの端がつり上がってしまう。

 毒竜帝メンチカツは、あぁん? と僕の反応を訝しんでいるがやりたいことはバレていない。

 だがおそらく……。

 マキシム外交官やタヌヌーアとコークスクィパーの長、マロンもキンカンも気付いている。

 しかし彼らは賢い、僕の思惑に気づいているからこそ沈黙を守っていた。


 そんな中。

 円卓とは言わないが、謁見の間に設置された大きなテーブルを囲む僕ら、その中心の僕をじっと見て。

 じぃぃいいぃぃぃぃ。


「マカロニさん、なーんかあたしに隠してません?」


 そう、今回の強敵は空気の読めないアランティア。

 騎士姿の我が側近は、なかなかどうして問題児。

 僕が例の妊娠騒動をごまかそうとしていることに気づいたら、絶対にツッコミを入れてくる。

 なので僕は詐欺師のスマイル。


『そりゃあ僕は詐欺師だぞ……? いろんなことを隠すに決まってるじゃないか』

「いや、そりゃそうなんすけど。なんか普段よりも本気で隠そうとしてるというか……これだけはバレたくない! みたいなガチ目の空気を感じるんすけど……」

『そんなアホな邪推をしてる場合じゃないだろう……今は世界の危機、ベヒーモスが顕現したのは確実なんだ。たぶん僕とメンチカツで対処できるとはいえ、被害は出したくないだろう?』


 必殺、正論フリッパーパンチ!

 いや実際に殴ったわけじゃないが。

 空気が読めるタヌキとキツネが言う。


「不本意ながら今回はキツネと協力をいたしました。吾輩らの調べはついております。おそらくベヒーモスは北部の氷海エリア付近に顕現したのではないか――と」

「当方も同意見でございますれば、はい。目視はしておりませぬが現在もベヒーモスと交戦している勢力があるので、確実かと」


 ダガシュカシュ帝国のバカと呼ばれがちな弟皇子が、隆々とした筋骨で腕組をし。


「既にベヒーモスと交戦しているだと? それは本当なのか?」

「おや、なぜ当方を睨むのですかな弟殿下」

「ふん、きさまらが我らが国家にした悪逆非道な……っ、いや、やめておこう。すまなかった、今回の件は世界の危機。人類同士が争うべきではないと、マカロニ陛下にきつく言われておるのであったな」


 そう。

 これも例の件をうやむやにするための布石である。

 かつての帝国になにやらされたらしいコークスクィパーの長も主張があるらしいが、やはり自重して。


「話を進めさせていただきますれば、現在、交戦している彼らが時間を稼いでいるうちに方針を決めるべきかと具申いたします」


 話を聞き、動いたのは流星のバシム。

 やばい、まさかこの場であの件に触れるとは思わないが。

 緊張し、クチバシの表面にうっすらと汗を浮かべる僕を向き。


「いったい、どこのどいつが獣王ベヒーモスと戦ってるんだ。北部は正直戦力がねえ、かといって南部のおめえらの強者はここにいる。駒が足りてねえだろう」


 よし、あの件にはニアミスすらしていない。

 バシムの疑問に答えるように動いたのは、答えを知らないはずの元大統領ドナだった。

 彼女は相変わらず胸元を強調した海賊女傑風ルックで、とても嫌そうな顔をし。


「バシム殿はそんなことも分からないのかい?」

「あん!? てめえには分かるってのか、元大統領殿」

「ああ、いやってほど分かるね。北部で独立した戦力を持っていて、獣王なんていうバケモノと対抗できる勢力っていったら、一つしかないさ」


 言葉は強気だが、顔を青ざめさせドナは叫ぶように言葉をつなげていた。


銀杏ぎんなんに決まってるだろう……っ! 言わせるんじゃないよ!」


 銀杏。

 そう、僕が北にけしかけた彼らは北部の大地に根付き、そのまま棲息。

 魔物牧場周辺で目覚めたベヒーモスと戦闘状態になり、現在もなお熾烈な戦いを繰り広げているのだろう。


 ダガシュカシュ帝国のダカスコス皇帝も銀杏にはトラウマがあるのか。

 ぶるりと褐色の肌を震わせ、その端正な鷹目に畏怖を浮かべているが。


「偶然であろうが最強の敵が、味方となった……か。や、やつらがベヒーモス神と戦っているのならば、じ、時間もまだ稼げようぞ」


 ダガシュカシュ帝国からの来訪者とドナは、ガタガタガタと震えそうな体を押さえているようだ。

 こいつら……本当に銀杏がこわいんだな……。

 ちなみに、うちの諜報員でもあるタヌヌーアの長マロンは、あの銀杏の種を自在に操るという能力を持っていたりする。

 むろん、教えたのは僕である。


 毒竜帝メンチカツが僕を、じぃぃぃぃぃっと眺め。


『おまえ……本当に容赦なくやりやがったよなあ。こいつら、ガチでびびってるじゃねえか……可哀そうに』

『は? 僕のせいじゃないだろ』


 しれっといえば問題なし。

 ネコの行商人ニャイリスも銀杏には特にトラウマはないのか。


『怖がる必要なんてないのニャ! 銀杏たちはイイ商売相手ニャ! できたら加勢して欲しいのニャ!』

『え? あいつらって通貨の概念を理解できるのか?』


 さすがに驚いた僕に、ニャイリスはモフ毛をこてんと横に倒して。

 頷き。


『いま、一番のお客さんだニャ』

『うわぁ……まじか、あいつら。いつのまに……』


 そのうち植物人類になったりしたら笑ってしまうのだが。

 まあ正直、銀杏の謎の進化よりも、例の”痴情の縺れ”を追及される方がよほど怖い。


 僕はバニランテ女王の方をちらっと見るが、彼女は騎士団長ハーゲンくんに任せ、ただいるだけといった様子なので、こちらも問題なし。

 まあ女王は今、力を失っている。

 調停者の国の女王という威光だけが武器だが、発言する気もない筈だ。


 毒竜帝メンチカツはやはり僕の態度に少し違和感を覚えているようだが、理由は把握できていないようだ。


『相棒、おめえがそこまで落ち着きがない様子を見ると、結構やべえのか?』


 どうやら僕の反応を読み違えてくれたようだ。


『そうだな、だがベヒーモスが次に動く場所はまあだいたい分かってる。銀杏に加勢するか、こちらで待ち構えるかによって作戦も異なるだろうが――相手は所詮ただの獣王、僕らに比べれば三分の一。しかも本能に従って刑を執行する魔獣の王でしかない。どうとでもなるだろ』


 リーズナブルが眉を顰め。


「三分の一、ですか? それはいったい」

「あれ? リーズナブルさん、気付いてなかったんすか? マカロニさんにメンチカツさんって、ジズとリヴァイアサンとベヒーモス三体を使った、女神印の特別製な合成獣なんすよ?」


 もちろん、今のはアランティアである。

 ちなみに、僕はその説明を一切していない。

 当然、マキシム外交官も含み全員が驚愕している。

 彼が驚愕しているのならおそらく、真実に気付いていたのはアランティアだけだったようだ。


『アランティア、おまえなあ……ふつう、そういうことをバラすか?』

「は!? なんで睨んでるんすか! さすがに情報共有しておいた方がいいと思っただけっすよ!」

『まあ、そりゃそうだが――まあいいか。そんなわけで、こっちは獣王三体分の力を持っている僕らが二柱だ。戦力的には負けないだろうから、あとはどれだけ被害を出さないかの問題だって話だな。人類がこのまま絶滅するってことはないから、そこは安心していいぞ』


 納得したのだろう。

 この中でも人類最強なリーズナブルがそのまま言う。


「しかし、なぜ地の女神バアルゼブブ様は我ら人類を滅ぼそうとしているのでしょう」

『別に滅ぼそうとはしていないだろうな。僕が止めるのは分かっていて、試しているってのもあるが……たぶんこれは女神からの警告だ』


 まさか構って欲しいから出した。

 などと言えるはずもなく、だがウソの中に真実も混ぜて僕は瞳を細め。

 フリッパーを顔の前で組む。


『ベヒーモスが生まれた場所は魔物牧場。あれがたぶん魔術の悪用と判定されたんだろうな。だからベヒーモスはあの地から顕現し、次にこのスナワチア魔導王国を目指している』

『あぁん? どーいうことだ』

『……。いや、おまえも獣王なら分かるだろう』

『バカかおめえ。このオレに分かると思うか?』


 安心のメンチカツさんクオリティーである。

 こいつ、最近は開き直りを覚え始めてるんだよなあ。


『魔物牧場では北部が生き残るためとはいえ、多くの魔物……それもモフモフに該当する存在を家畜化に近い状態にしていた。これは主神としては減点要素になる』


 リーズナブルが聖職者としての顔と声で、スゥっと息に言葉を乗せる。


「最高神様は、家畜を肯定はしない……と?」

『いや、狩られた獣や魔獣は浄化されて輪廻転生の輪に戻れるようだからな。おそらくはそこは否定されていない、だが、その、なんだ……マカロニ隊って、まあ見た目は結構可愛いだろう?』

「ええ……愛すべき神の御姿かと。それがなにか?」


 個体名付きアデリーペンギンの”もんじゃ焼き”が、媚びを売るようにリーズナブルの膝の上に乗っているが。

 まあ……こいつらの行動はもう気にしないことにしている。


『こいつらは生き残るために可愛く進化したんだろうが、その途中経過でもそこそこ可愛かったんだろう。で、だ。可愛い動物を魔術によって檻に閉じ込め、神への供物とする。実際は神への供物だって魂の浄化に繋がるから問題ない行為なんだが……見た目が可愛いだろう? そこが”なんとなーく引っかかった”と考えるのが妥当だ』


 なんとなーく、というニュアンスに皆は困惑しているが。

 メンチカツさんがフォローするように、現実のカモノハシとは違い前足にも毒爪をもつ手で、片肘をつき。


『てめえらは知らねえだろうが、神々(あいつら)はまじでテキトーなんだよ』

「はは、まあちょっとそーいうところありますねえ、あの人たち」


 と、海の女神ダゴンと交流のあるアランティアも肯定である。

 マキシム外交官が老獪な眼光を瞳の奥に込めながら、ゆったりと口を開く。


「では、なぜ次に襲われるのが我が国だと……」

「師匠……、マカロニさんがこの国に顕現した時に、あたし、言ったっすよね? こんな国、滅んじゃえばいいって。九代目の王をお迎えあそばされたスナワチア魔導王国って、長い歴史の中で結構暴れてましたっすよね? この国がどんだけ魔術の悪用をやらかしまくってると思ってるんです?」

「……なるほど、否定はできませんな」


 魔術の悪用を裁く獣ならば、次にこの地に向かう。

 その意見は皆に容易に受け入れられたようだ。

 ……。

 うちの国、本当に……悪の魔導王国扱いなようである……。


「だいたい、滅ぼすつもりならマカロニさんたちの介入を禁じてる筈っすからね。いきなりアウトにされるよりも、こうやって段階を踏んでくれたってことはこちらに有利。かなり優しい神なんじゃないっすかね、バアルゼブブさんって」


 ようするにこれはバアルゼブブのやらかしではなく、滅ぼしたくないからこそ、あえて獣王を降臨させ――警告することにした。

 そう話をすり替えたのだ。

 それぞれの女神を崇拝する神殿長の爺さん婆さんも、納得している。


 これで信仰は厚くなっただろう、後でバアルゼブブにはその辺のことで見返りを求めるとして。


 僕はやはり、もう一度、こっそりとバシムとバニランテ女王に目をやる。

 ……。

 よーし! かなりうやむやにできている気がする!


 こっそりと個人に向かう魔術通信でアランティアが言う。


「(あー、なーるほど。あたし、マカロニさんがなんで挙動不審なのか分かっちゃったかもっすねえ)」

『(おまえ……気付いてても絶対に言うなよ)』

「(まあそうしたいなら従いますけど。たぶん、マカロニさんが心配しているようなことにはならないと思うんすけどねえ)」


 僕は片方の飾り羽だけを揺らし。


『(は? どー言う意味だ)』

「(さて、どういう意味でしょうね。でも、なんでしょうね。同性の勘っていうか、うまく説明できないんっすけど。本当に……女王が真実を知っても、特に問題は起きないと思いますよ)」


 と、妙に達観しているアランティアに眉を顰めつつ。

 僕たちは獣王対策を進めた。


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[一言] 痴情の縺れにハラハラしながらの対策会議… マカロニさん人間だったら胃薬が必要になってたでしょうなあ…
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