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神様のダイス~確率詐欺をするなら、詐欺らせなければいいじゃない~


 運命と呼ばれる現象がどうなっているのか、それは僕にはわからない。

 けれど、運命を改変する際に発生する魔術的な理論ならば、賢い僕には推測できていた。


 バニランテ女王がかつての船の墓場にて行ってしまった儀式。

 全てを捧げ、復讐を願ったあの儀式により女王とあの戦士の運命が交わることは二度とない。

 じゃあ具体的にどうやって、二度と交わることが無いようになっているかというと――。


 ……。

 本来ならば講義が行えそうなほどに広い、迎賓館の会議室から調度品を全撤去。

 広い場所を借りた僕はとりだしたペンでキュッキュ、キュキュキュ!!

 転移魔法陣を大量に描き、全ての起動をチェック。


 付き合いでやってきているドナが言う。


「見慣れない陣だが……なんだいこりゃあ」

『僕とアランティアが転移魔術を使えることは知ってるだろう?』


 転移には嫌な思い出があるのか、ドナは露骨に顔をゆがめている。

 まあ策略を練るタイプのドナにとって予想外な駒が出現する転移は害悪……トラウマでもあるのだろう。


「いきなりやってくるからあれは正直心臓に悪いね。だいたい今回だって急に転移してきて……って、まあいいさ。それで、これで何をしようってんだい。あの二人を会わせようとすると運命とやらが改変されちまって、どう転んでもニアミスする。会わせようとする限り絶対に会えないんだろう?」

『お、なかなか理解が早いじゃないか。さすが元大統領。ダガシュカシュ帝国にちょっかいを掛けなかったら、今もちゃんとお偉いさんをやってたのかもな』


 ドナはヒクっと頬を揺らし。


「あんたねえ、誰のせいで指名手配されたり戦犯扱いされてると思ってるんだい……っ」

『そーはいうが、おまえ……あの介入は大概じゃないか?』

「あんたには自分の領地が悪の魔導王国で、ちょっと先のお隣さんが悪の騎士帝国だっていう自覚を持ってほしいねえ。ま、たしかに……あたしも人様のことは言えないが」


 帝国に介入し、最終的には皇子に父を殺させたのだ。

 まあ……僕が言うのもなんだが外道ではある。

 だが。

 雷撃の魔女王ダリアが散々暴れていた僕らの大陸、その邪悪な戦力を大幅に削ぐために動いていたと言われたら、おそらく他所の大陸からすると英雄扱い的な評価もされるだろう。


 国同士の争いなど、観測者によって是非は変わるという事だ。

 非常に面倒な概念でもある。

 善悪とか、そーいうのは面倒ではあるので僕は僕で、自分が正しいと思うように好き勝手にやるが。

 そうした意味でも、僕は今好きなようにやるべく。


『話を戻すが、本来なら転移魔術でやってくる相手から逃げるなんてなかなかできないんだよ。アランティアの方はまだ未熟だからタイムラグがあるが、僕の方はほぼ一瞬で飛んでくるわけだからな。おまえだって、僕から逃げようとしてもふつうなら無理だっていうのは分かるだろう』

「そりゃあまあ、そうだろうね」

『だからそこには必ず無理がでてくる。”女王と男を会わせようとする僕”とその男を会わせないようにする改変……つまりは確率を弄り続ける現象を維持するには、滅茶苦茶な負担が世界にかかっているはずだ』


 解説しながらも僕はペンでキュキュキュキュっと書き続け。


『だからいつかは破綻がでる。そうだな……、インチキなしに六面ダイスを振り続けて永遠に六を出し続ける事ってできると思うか?』

「ダイス? サイコロのことかい……変なことを聞くね」


 ズル賢さを政治に使っていた女は考え。


「素の幸運値が高い連中がやったとしてもほぼ不可能。可能性としてはゼロではないが、まあ無理だろうさ」

『そう、この運命改変ってのはその無理を魔術で実現している状態にある。”六を出し続ける現象”を維持しているのと同義と思っていい。なら対処法は簡単だ。六以外が出せないようにインチキしてるダイスがあるなら、そのダイスを振ることそのものを封じるか、あるいはもっと単純に六の目を消してしまえばいいだけ。両方を同時に行えば、確率は百パーセントになる』


 神にダイスを握らせない。


「ようするに、確率判定が出る前に六を出す状態を確定させちまうって事かい?」

『正解だ。どんな偶然を起こしても回避できない状況を実現させれば、運命改変は解除できる。まああくまでも僕の仮説だが、それを証明してみようじゃないか』


 言って僕は転移魔法陣を書き終え。

 パンパンとフリッパーで拍手するように手を叩き。


 <――集え、我らのマカロニ隊!――>


 眷属召喚を発動!

 前回の事件で僕の眷属となっているアデリーペンギンの群れを呼び出し。


『さあおまえら! 全員でその魔法陣の上に乗るんだ! もしターゲットを発見して、接触できたらそいつの勝ち! 最初の個体に名前を付けてやるぞ!』


 マカロニ隊はクワっとクチバシを開き!

 ふんふんふん!

 鼻息荒く魔法陣を陣取り、待機!


「な、なんなんだい!? こりゃ!」

『こいつらは主神のお気に入りの、見た目だけなら可愛いアデリーペンギンのマカロニ隊だからな。夜の女神も攻撃ができない。そしてこいつらはどうも個体ごとに名前を欲しがってるみたいだから、それを優勝賞品にして何度も何度も転移させるっていう単純な作戦だ』

「物量作戦……人海戦術ってわけかい。で? あたしはなにをすりゃいいのさ」


 さすがは元大統領。

 理解も話も早い。


『旧ソレドリア連邦の土地勘はお前には勝てないからな、こいつらを指揮して、ターゲットがいそうな座標を、どんどん指定して欲しいんだよ。で、跳んだマカロニ隊には索敵スキルを発動して貰ってその周囲何キロかを探し回ってもらう。狸とキツネの情報によると、ソレドリア連邦にいることは確定してるからな。全部を塗り潰せば見つかるし、いつかは運命改変の限界がきて、確率が操作できなくなるはずだ。接触が確認された瞬間に僕もそこに跳ぶ』


 指示を確認した女傑は、地図を眺め。


「だいたいは理解できたよ。ただ……マカロニ隊の弾って言い方は何だが、改変の限界が来る前に全員転移しちまったらどうするんだい。先にその時の対処を聞いておきたいね」

『転移先の座標は全て魔法陣に自動で記載されるからな、座標さえ分かっているならアランティアがマカロニ隊を回収できる。多少は遅れるが、まあ多少だ。連続転移させてここに連れて戻らせるよ』


 しばし考えたドナが言う。


「あんた……わりと人使いが荒いね。そもそも連続転移ってアランティアの嬢ちゃんは大丈夫なのかい?」

『ああ、あいつなら大丈夫だよ――は!? あたしにできないと思ってるんすか!? って今、転移空間の中で騒いでるぐらいだしな』


 そもそも転移空間の中に留まっている、その時点で色々と法則を無視しているのだが。

 まあ、アランティアだしなあ……。

 ギャグのようになっているがあいつの能力は少し、異常である。


 ……ま、便利だからいいか。


「まあ、本人が大丈夫って言ってるならあたしは構わないが、マカロニ陛下、あたしへの報酬みたいなもんは期待してもいいのかい?」

『僕の手駒として動いていた事実ってのは、まあ報酬といえるんじゃないか?』

「ふふふ、あはははは! そりゃあいい。あんたの手駒ってだけで少なからずここらの人類はあたしに手を出しては来ないだろうね」


 大戦犯ではあるが、氷竜帝マカロニの手駒。

 その事実が彼女を守る。

 悪くない取引だと判断したのか、ドナは地図を眺め大統領としての顔で。


「それじゃあ行くよ、あんたたち。個体名が欲しいなら頑張りな」


 マカロニ隊は羽毛を膨らませ、やる気満々。

 海に飛び込むように、転移魔法陣に突入!

 僕たちは作戦を開始した。


 ◇


 ドナの指揮によるマカロニ隊の連続転移。

 それでも世界は運命改変を行い……彼と僕の手駒との接触を回避。

 ……し続けていたが、やはりそれはやがて破綻をきたし。


 その瞬間はやってきた。


 マカロニ隊の一匹が彼と接触した、その僅かなスキに転移を開始!

 僕は北部に生まれた”あの氷海エリア”の最奥にて。

 魔物の群れと戦っている最中の男を発見した。


 どうやら彼はパーティーを組み魔物退治をしているようだ。

 血と肉の香りが氷海エリアに伝わっている。


 あの時のギルドの若手もいるが、ちらほらと僕の見知らぬ顔がある。

 相手もこちらに気づいたのだろう。

 かつて肩を負傷していた男は、大量の魔物を前に結界を展開。


 前よりもまともな装備をしていたようで、男は銀の斧を片手に振り返り。


「なんかヤベエ気配が飛んできたと思ったら……あんたか、マカロニ陛下。どうしたんだ?」

『流星のバシムとしてのおまえに用があるんだ、忙しそうなところ悪いんだけどさあ、ちょっと話をしてもいいか? って、どーしたんだよ、汗びっしょりじゃないか』


 そう。

 もうお分かりだったと思うが、女王の想い人の名は流星のバシム。

 マカロニ隊との出会いの場所ともなった、あの酒場の店主の中年男である。

 バシムは月の女神の結界を張りつつ仲間を守り、歯を食いしばり。

 ギリ!

 魔物の魔力に押されるように踵を、グググググ!


「わ――悪いがもう少し待ってくれ! 街を襲う魔物退治をギルドに頼まれちまったんだが――これがなかなか強敵でな。若い連中を守りながらだと、けっこうきついんだよ!」

『……僕が倒しちゃってもいいのか? 横取りとか言わないならやっちゃうが』

「言うわけねえだろう――こっちにゃ負傷者もいるから、可能なら陛下にお願いしたいぐらいだっての!」


 後から横取り! っていわれるのは面倒だし。

 確認は大事だと僕は思うのだ。


『本当に言わないか?』

「言わねえよ!」

『そっちの連中はどうなんだよ。ほら、若い奴らって自信満々な連中が多いし。終わった後に、喉元過ぎればなんとやら――ほんとうなら俺が倒してたとか、言い出さないか?』

「だぁああああああああぁぁぁ! こっちはピンチなんだよっ、ウダウダ言い出すやつがいたらぶんなぐって黙らせるから、早くしてくれ!」

『よーし、言質は取ったからな!』


 大丈夫そうだと確信した僕はフリッパーを鳴らし、振動で魔術を発動。


『<霧よ、血肉を啜り(ペペペ、ペンドラ)食らい尽くせ(ペペペンスト)>』


 魔物の群れの中心から発生した闇の霧が、敵を包み……その肉ごと消滅。

 手順は霧の発生と消失。

 ただ――発生させた霧を中の存在ごと消すことで、その中にいる敵を抹消する静かな攻撃魔術でもあった。


 彼が相手にしていた魔物の群れを一瞬で消し去っても、僕は平然としたまま。

 この方が格好いいだろう! と思いつつも。

 何事もない顔をしてクチバシを開く。


『これでいいか?』

「マジかよ……オレがめちゃくちゃ苦戦してたやつらを一撃って……はぁ、おめえら神話の存在ってのは本当に規格外だな」


 どさりと地に腰を落とし、流星のバシムは重い息を吐いていた。

 彼の仲間が言う。


「バ、バシムさん。この生意気そうなペンギンはいったい……」

「おまえ……こんな魔術を見てよく生意気とか言えるな。口には気をつけろよ? こいつ……いや、この方があの氷竜帝マカロニ陛下。まじもんの獣王様だよ」


 え!? このペンギンが!

 と、なかなか良い反応をしてくれたので僕は満足だ。

 とりあえず恩も売れたし、話を切り出しやすくなっただろう。


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