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メリットデメリット~必殺技の名前を叫ぶタイプのカモノハシさん~


 銀世界だった雪山を魔術で塗り替えた、僕の生み出した氷海エリアにはアデリーペンギンの群れ。

 マカロニ隊と呼ぶと、それが定着してしまいそうなので避けたいところ。

 ともあれ。

 おそらく魔物牧場の、言ってしまえば家畜のような存在が進化しただろう存在である。


 現在、”あのアデリーペンギンの群れ”について分かっている性質は、数点。


 まずは僕の咆哮の中でも怯まず、海で遊ぶぐらいの図々しさを持っていること。

 そして意図して毒竜帝メンチカツを愛らしさで魅了していること。

 ようするに図々しくて悪辣なのだ。


 アランティアが言う。


「なんか悪辣さがマカロニさんみたいっすよねえ、あの子たち」


 ……。

 ここで大きな反応をしたら負けだろう。


『まあ種類は違うが見た目はペンギンだしな』

「いやいや、そーいうんじゃなくて行動というか、図々しさというか……魅了とかの搦め手を使ってくるとかも滅茶苦茶マカロニさんがありません?」

『人間味みたいな言い方するなっての……』

「ところで――さっきからメンチカツさん、なにやってるんすか? 戦うって話だったと思いますけど。何もないところで秘奥義! とか叫んで空に亀裂つくってますし」


 確かに指摘通り、戦いのはずだがメンチカツさんは一匹でハッスルして、当たれば即死級の攻撃をなにもない空間にて、空振りしつづけていた。


『はは、やるじゃねえかマカロニ!』


 だが、これならどうだ!

 と、一人で盛り上がってメンチカツさんは闘気を、ドゴゴゴゴゴゴゴ!

 空と大地と海を揺らし。


『<必殺! 三虎灰燼さんこかいじん烈風蹴れっぷうしゅう!>』


 吠えたカモノハシがモフモフの獣毛を膨らませ、格闘ゲームの対空攻撃のように空に向かい三段蹴り。

 蹴撃は一撃、二撃、三撃とおこなわれ。

 その都度、カモノハシのモフモフフォルムが天を昇り、爪の先からは雄々しい虎のエフェクトが発生し、ガオーガオーガオー!

 ……。

 これ、離れた場所からも見えてるし、すごい威力で天を引き裂いてるから……たぶんまた物理的な意味でも世界を震撼させてるんじゃないだろうか。


『な……ッ!? マジかよ、これも耐えるだと!?』


 カモノハシさんのクチバシの表面に、つぅっと濃い汗が浮かんでいる。

 が――!

 僕は、クイクイっとフリッパーで空間を操作し。


『あいつ、状態異常に弱いって話だから<幻惑状態>にして架空の僕と戦わせてるだけなんだが――これ……こいつの弱点を装備とかで補ってやらないと、ヤバイな』

「まあこの破壊力っすからねえ……ちょっと本気出した魔術師とかが操れるなら、誰でも国ぐらい壊せる獣王を使役できちゃうようなもんっすし。ダゴンさん……何考えてるんすか、これ」


 アシュトレトや最高神たる創造神と接したことのある僕は知っている。

 神々(あいつら)はなにもかんがえてないのだろう。

 けれど彼らと違い、かしこい僕は考える。


 胡散臭くテキトーな連中だが、このなにも考えていない状態は少し引っかかる。

 彼らが僕に禁止したのは魔術の悪用だけ。

 現状、世界をけっこう荒らしているが魔術ではないのでお咎めは一切ない。


 後の歴史の中。

 文献を辿り、俯瞰的な視線でこの世界を見るものがいたとしたら、現状の神を疑問視する者も多いのではないだろうか。

 しかし、神は何も動かない。

 干渉しない、与えも奪いもしない。


 僕は仮説を立てていた。

 これが神にとっての平等なのではないか、そんな説である。


 つまり神々は、考えた末にあえてなにも考えていない行動を選択しているのではないか、という可能性だ。

 神としてみれば世界のすべてが等価値。

 全てが平等。


 もしかしたらだが平等を貫こうとして――今の人類が滅んだとしても、神は手を差し伸べない可能性まであると僕は考えていた。


 それは平等という概念の欠点でもある。

 よく言えば神は人間や魔物や動植物などすべてを愛しているといえるが、逆に言えば、差をつけないのだからすべてを愛していないとも言える。

 世界が滅びるならともかく、今現在の万物の霊長たる人類が滅んだところで、別の種族や魔物がそれに成り代わるだけ。

 今の知的生命体が滅んだとしても、長い歴史を刻むだろうこの世界にとっては些事。

 所詮、世界にとっては頂点に座るモノが変わるだけで、大差ないのだ。


 僕のいた地球とて、人類が繁栄する前は鳥のお仲間たる恐竜が地球を支配していたのだ。

 彼らが滅んでも、地球はつつがなく動き続けていた。

 けれどもし僕の地球でも神が実在して、恐竜を愛していたから人類を滅ぼして恐竜の時代に戻そうなんて動かれたらどうなるか?

 ――。


 それと同じだ。


 人類が滅んだ後の世界を想像する。

 そこにはやはり魔物が座るのではないかと、僕は想定している。

 だが、神が人類を優先し魔物を滅ぼしたとしたら?

 魔物が人類に勝たないように、神の手を加えたとしたら?

 それは不平等――魔物や別種族の権利を害することにもなるせいで……平等に愛しているのならば、滅びゆく人類を助けてはいけないともいえる。


 そういった意味でも、創世の女神たちはあまり人類に干渉することを是としていないのだろう。


 だからこそだ。

 たまに神が戯れに、けれど思い切り世界に干渉してみたくなったりした結果が、僕たちのような存在の可能性もある。

 しかし、そうなると。

 もし魔物側が人類の聖職者のように神に語り掛けたとしたら、今の神々はおそらく魔物にも恩寵を……。


「なんかむずかしいこと考えてます?」

『いや、好きなようにやればいいのにってな、そー思ってただけだ。むずかしいどころか、簡単なことを考えてたんだよ』


 しかし、それはともあれ。

 僕はじっと、目の前の状態異常に弱い同類を眺める。


 いいなあ、こいつ。

 状態異常に弱いという事はデメリットばかりではない――たぶんタヌヌーアたちから人間化の状態異常を教えてもらえば、人間に戻れるという事でもある。


 僕は状態異常を無効にするぐらい耐性があるので、失敗したが。

 まあこいつだけ人間に戻れるのもムカつくから、教えないでおこう。


「てか、あのマカロニ隊の魅了を止めれば解決なんじゃないっすか?」


 さりげなくマカロニ隊の名を定着させようとしているようだが、そうはいかない。


『いや、だって考えてもみろよ。あの”アデリーペンギンの群れ”を先に止めたら、この脳筋カモノハシをドツく正当性がなくなるだろ?』

「あ……なるほど、一発殴りたいんすね」

『ま、どっちが上かはっきりさせるって意味もあるけど実際に必要としているのは実戦データだな。なにしろ僕はわりと強いだろ?』

「そりゃあマカロニさん、ガチの獣王っすからねえ。自分で言っちゃうのはなんか自慢してるみたいなんで笑っちゃうっすけど」


 ちなみに今回に限ってこいつはシリアス顔である。

 笑いを堪えてくれてどうもと、クチバシの根元をムグググとしながらも。


『同じ獣王クラスならどれくらいの力を出せるかとか、そういうチェックは必要ってことで。このまましばらく暴れさせる。なに、被害は出ないようにするから安心しろって。それでなんだがアランティア、おまえ……転移が使えるようになってるなら、リーズナブルを呼んでくることはできたりは――』


 自分だけの転移と他者を連れた転移では難易度が異なる。

 ハエと混ざってしまった博士の物語ではないが、変に融合されても困るのだが。

 キョトンとした顔ではあるものの、アランティアは<魔力を灯した光る指>で空に理論を刻み。


「できますよ」

『うっわ、マジで理論もあってるな。おまえ……実は優秀だったのか?』

「あの、マカロニさんはあたしのことバカにしまくってますけど、これでも一応スナワチア魔導王国の国家転覆を成功させた組織の首謀者みたいなもんすからね? 昔からやるときはやる子だったんっすけど? なんでそーいう評価なんすか……」


 日頃の行いというのは大切なのだろう。

 普段のおまえに聞かせてやりたいな、と思いつつもそれは口には出さず。


『んじゃ、リーズナブルを呼んでカルナックの連中の守りを頼んだ。あの狂信者はアレでも外向きの顔はかなり評判がいい、おまえと違って聖女っぽい美貌だしたぶんあいつらも素直に言うことを聞くだろう』


 なるほどと納得しつつも、アランティアは「ん?」と顔を上げ。


「いま、さりげなくあたしをバカにしたっすよね? って! マカロニさん! まだちゃんと返事聞いてないんすけど!? 逃げる気っすか!?」


 バカの相手をしている時間はないと。

 僕はこれもいい機会だとばかりに様々な幻影を召喚。

 獣王の戦力実験を開始した。


 既に相手のすべてを支配し操作する<重度の幻惑>の状態異常にかけている時点で、勝負はもう決まっている。

 僕の勝ちである。

 どこかでこちらを眺めている女神ダゴンもそう判断したのだろう。

 海の波紋に、あとでこちらにいらっしゃいな――と魔力の文字が浮かんでいた。


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