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禁忌の魔術~いや、基準の確認とかちゃんとしないとダメだって~


 オアシスから女神の視線を感じつつ……。

 ペンギンあんよの隙間に入り込む冷えた砂を、ペペペペ!


 氷の粉を発生させ払いながら、僕こと氷竜帝マカロニは周囲を観測――ダンジョン内の構造を把握するときにつかわれる魔術を応用し、周囲の空間の完全マップ化に成功。

 敵と味方と、他国の観測員の位置を確認しつつ。


 じぃぃぃぃっぃぃい。


 砂漠一面を埋め尽くす銀杏たちも戦の空気を察したのだろう。

 色を失ったサラサラの砂は小刻みに揺れている。

 天を覆うほどの樹木が進軍しているのだ、まあ地震のように揺れるのも当然か。


 地平線の向こうには蠢く森。


 こちらが武装してやってきたことに反応した銀杏たちは、天を覆っていた状態を解除し集合。

 砂漠の丘にて群れとなって陣を組んでいた。

 なのでこちらは今現在、晴れ。

 いつもの熱気が戻り始めている。


 前代未聞の巨大樹木軍と魔導王国、及び砂漠騎士王国連合軍との戦いを前にし僕は言う。


『……これ、たぶん別の国家の大陸も揺れてるだろうし、まーた僕のせいにされたらたまったもんじゃないな』


 よし!

 今の言葉は両国の書記官がメモしてるし。

 さりげなく、これは僕のせいじゃないと史実に刻むことに成功した。


 こーいう小細工は本当に必要なのだ。

 実際、おもいっきし他の国家が様子見してる情報がマップに表示されてるし。

 彼らは僕の様子を見に来ていると考えられるが、敵かどうかは……まだ判断できないか。


 シリアスに――。

 黄金の飾り羽の下でグググっと眉間にしわを寄せる僕に、秘書たるアランティアが言う。


「いや……僕のせいにされたらもなにも、この意味不明な戦いってほとんどマカロニさんのせいっすよね?」

『まあ一割ぐらいはな』

「九割ぐらいだと思いますけど、なんかすごい顔で睨みそうなので別にいいっす」


 いちおう学習能力はあるようだ。

 両国の書記官も僕のペンギンにらみに負け、今のアランティア元王女との会話は筆記していないので大変けっこう。


 氷竜帝マカロニこと賢い僕は考える。


 今回の事件の根底にあったのは老いたダガシュカシュ帝国の皇帝に起こった、統率力の低下。

 言うならば悪意のない帝位争いだ。

 兄弟本人たちに争う意思はなかった。


 だが最終的には、ダカスコス第一皇子は皇帝を討った。

 歳と共に判断力を狂わせた老帝……かつて騎士英雄たる父のためもあり、第一皇子も家臣と苦渋の選択をしたのだ。


 そのきっかけはどこにあったのか。

 僕が思うに、国のためにと自らの子、第二皇子すらも謀殺しようとした父の狂気にあると判断していた。

 入れ替わる直前には、もはや狂王とさえ呼ばれたスナワチア魔導王国の逃げた王とは対照的といえるだろう。


 スナワチアの国王は無能ゆえに自らの器を悟り身を引いた、けれどダガシュカシュの皇帝は有能だったからこそ自らの器を過信し道を踏み外した。

 その結果は、まあ言うまでもないだろう。

 スナワチア魔導王国は稀代の大天才にして麗しい飾り羽をもつ僕という最高の王を手に入れ、対するダガシュカシュ帝国は銀杏に支配されている。


 逃げることが必ずしも悪いことではない。

 時には正解となる場合もあるのだと、僕はそう思う。

 うん、そうだろうそうだろう!


 かつての戦乱の時代。

 ……いや、戦乱かどうかは知らんけど。ともあれ! かつてこの帝国はアランティア元王女との同盟を破棄し、見捨てた。

 そのことも今回の一件に影響を与えていると言えるだろう。


 もしあの時同盟関係を破らず、援助していたのならば未来は変わっていた。

 初恋を拗らせた第二皇子は暴走しなかっただろうし、老いに狂った皇帝も焚きつけることもできなかった筈だ。

 そして、弟の命さえ危険にさらさなければ……第一皇子は敬愛する父の人生に終止符を打つこともなかった。


 国のため、自分のため、家臣のため、弟のため。

 大義名分は山ほどにあっただろう。

 けれど、やはり……父を殺してしまったその時、その瞬間だけは――あの男は泣いたのだろうと、僕はそう思う。

 ま、イケメン野郎が泣こうが別にどーでもいいけど。


 決断した爬虫類顔イケメンのダカスコス。

 ダガシュカシュ帝国の新たな指導者を見上げ、僕はくちばしを動かす。


『一応は共同戦線。そっちとこっちは一応は対等ってことになってるだろう? 僕が指揮しちゃってもいいのか?』

「は! 是非お願いしたいと」

『つまりは失敗した責任も僕にあるって事か。他国の監視が来ているってことはさすがに気づいてるだろうし、手の内を明かしたくもないんだろ? おまえ、なかなかしたたかだな』


 失敗した時のリスクマネージメントを考えれば、悪くない選択だ。


「地を支配せしベヒーモス閣下を信じております故、失敗など――我の目には見えませぬ」

『だから、ベヒーモス閣下なんてもんじゃなくて僕はマカロニなんだけど、まあいいや』


 この騒動が終わればダガシュカシュ帝国もおそらくは落ち着くだろう。

 問題は、こっちの水の女神の眷属だ。


 こっちとも共同戦線とは言ったものの、正直なところこいつの扱いには困っていた。

 このカモノハシの目的は僕の監視。

 おそらくは僕の転生に反対していた女神ダゴンの命令で、じっと観察し続けているだけ。

 まあその爪の裏にあるだろう毒能力はかなり使えるだろうが、僕の指示通りに動く可能性は低い。


 そして問題になるのはコレが女神からの監視者だということ。

 僕は最高神から魔術の悪用を口頭で禁じられている。

 あくまでも伝承で禁じられているのなら多少の誤魔化しもできるが、直接降臨されて釘を刺されたのだ。


 この場で僕が魔術を披露。

 銀杏の群れを一掃すればどうなるか。

 魔術で生み出した銀杏を用い、それを魔術で解決し不当に報酬を得る。


 これは魔術の悪用ですと、そう判断されてしまえば終わり。


 僕の存在を否定しかねない水の女神に消される可能性はゼロじゃない。

 可能性がゼロじゃない、それはいつか実現する可能性も残り続けるということ。

 だったら僕と同格っぽいこのメンチカツを使い、無双させる手もあるが……。

 いつ裏切るかわからない存在は利用しにくい。


 あのリーズナブルよりも強いことは確定だが、このカモノハシ自身を戦力と数えない方がいいだろう。

 しかし……。

 こいつ……本当に貧乏アルバイト生活してるんだろうなあ。

 黄金の延べ棒を抱えるそのゴムのような嘴からは、涎がじゅるり。


 その頭上に、豪遊する姿と共にグルメの数々が透けて見えている。


 女神にこき使われているのだろう。

 ……。

 哀れな奴。


 そんな憐憫の目線を向けてしまったせいか、毒竜帝メンチカツさんはサクサク衣の眉間をググググ!


『あぁん!? ペンギン野郎っ、がん飛ばしてんのか!?』

『目が合っただけでケンカの合図って……あのなあ、ゲームの世界じゃあるまいし……まあいいけど。いざとなったら砂漠騎士たちの避難を頼みたいんだが』

『はぁぁあ!? 騎士達の避難だと?』


 なぜ戦闘要員を避難させるか理解できないようだ。

 どーやら頭はちょっと残念らしい。


『あのなあ。当たり前だろう……砂漠騎士の鎧を購入するのはこいつらなんだ。買い手が全員死んじゃったら、顧客はゼロ。需要がなけりゃネコの行商人が別大陸に行っちゃう可能性が増えるだろう?』

『おまえ……ほんとうに利己的な野郎だな』

『自分のために動けないのもどーかと思うがな』


 まあ、僕の目的はネコの行商人と交渉することにある。

 その最善を尽くし、なおかつ魔術の悪用に抵触しない解決策を考える。

 僕は言う。


『おいトカゲ顔』

「我のことでありますか?」

『あ、すまんつい本音がでちゃったけど、あんたのことであってるよ。偵察に行った第二皇子おとうとはどうしてる』

「それがその……面目ない話なのですが。銀杏に返り討ちに遭い、治療魔術師による看護を受けている最中でして」


 やはり第一皇子ダカスコスの弱点は明白で分かりやすい。

 弟という足枷があるのならば、その行動にも一定の信頼がおける。

 しかしやはり調査に失敗し、返り討ちに遭ったと。

 ……。


『状況を聞いてもいいか』

「構いませんが……弟が何か? っと、なんですか!? その邪悪な顔は!?」

『ググググ、グペペペペペ! いやあ! おまえの弟、なかなかやるじゃないか! 状況次第じゃあそれ、かなり使えるんだよなあ!』


 話を聞いていたメンチカツが『あぁん?』と、メンチを切る中。

 大義名分を得た僕はフリッパーを翳し。

 僕オリジナル魔術を展開。


 僕の魔術は創造の力。

 自分が望む魔術をこの世界に構築する、一種のチート能力。

 天の女神はバランスやらやりすぎという言葉を知らないのだろう。


 さすがに僕の魔術をぶち込むのはまずいので、あくまでも演出のみに使用する。


 僕が使ったのは、まだちゃんと名前を決めていない<ラスボス演出の魔術>。

 周囲の魔力を吸い纏って、ペタ足を浮かせた僕は空中に飛翔。

 なんかラスボスが少しだけ空に浮かぶような、そんな光景を想像して貰いたい。

 あの光景をオリジナル魔術によって作り出したのだ。


 ……。

 他国からの監視が戦場を眺め、「さ、砂漠にペンギンが飛んでいるだと!?」と、めちゃくちゃ混乱しているようだが構わず。

 銀杏戦線と僕たち共同戦線のちょうど中間に、魔術を放つべく。


 テキトーに、既存の魔導書を展開。

 既に人類たちが使ったことのある魔術ならば、まあ大きな問題にはならないだろう。

 スナワチア魔導王国の図書館から拝借した、やはり持ち出し厳禁、永久封印、複製禁止と書かれた封印書のコピーを開き。

 ニヒィ!


 それっぽく詠唱を開始!

 せっかく魔術の在る世界にやってきたのだ!

 やはり大魔術っぽい演出をやりたくなるのが人間心理!


 だから!

 禁断だか、禁書だか知らんが!

 腐っても魔導王国と呼ばれた国の、なんかそれっぽい詠唱が刻まれた魔導書を用い――


は冥王の名を冠する者。回転せし恒星。弾け、増えよ。さすれば汝は永遠の呪いを孕み、憎悪を生むだろう。我、氷竜帝マカロニが命じる。集え、集え、集え! さあ――。原子よ、破滅の平和を築き給え!』


 威力を調整して……てい!


『大規模破壊魔術式:<核熱爆散アルティミック>!』


 刹那――。

 世界が。

 揺れた。


 音を表現するのならば、ちゅどーん、だろうか、


 無人の砂漠に、天を貫くほどの大爆発が発生。

 魔術の悪用とされないように直撃はさせずに、威嚇をしたのだ。

 砂漠に、天高く咲き乱れる魔術の花が荒れ狂う中。


 ビシっと、僕は義憤に震える顔で。


『おい銀杏ども! 僕はこのダガシュカシュ帝国と同盟関係にある国家、スナワチア魔導王国の新国王マカロニだぞ! よくもっ、よくも! 僕の大切な同盟国の皇子をボコボコにしてくれたな!』


 そう。

 僕はただ同盟国の皇子が半魔獣化した樹木に襲われたので、助けに来ただけ。

 そういう、単純なシナリオを描くことにしたのだ。


 嘘は言っていないので、おそらく本当に史実にはそう残るだろう。


 銀杏も今の大魔術が直撃したらまずいと察したようで、ザザザザザ!

 やべえぞ、やべえぞ、なんだあのペンギンは……っ!?

 と、植物会話で相談を開始している。


 ……。

 これ、状況をちゃんと把握していない他国の観測者たちからすると、どう映ってるんだろう……。

 ラスボスのオーラを纏ったペンギンが砂漠の海の上で、飛翔し。

 いきなり天を衝くほどの大魔術をぶっぱなし、その魔術を見て植物が怯んで相談しているのだ。


 全方位でツッコミどころしかない。

 部下が真顔でこんな報告書を持ってきたら、とりあえず僕なら休暇を与える。


『よし、これで威嚇は成功って……どーしたおまえたち』


 なぜか、皆が固まっている。

 あのアランティアですら、茫然自失となっていた。


 あれ?

 なんだこの反応は。僕は格好いい詠唱に、さすが王です!

 的な発言を求めていたのだが。


 この中では三番目に強いリーズナブルが言う。


「ジズ様……あの、今のは禁忌の魔術<アルティミック>。神々にしか使えないとされた、名は知られているけれど複雑すぎて発動できない。いわゆる伝説の魔術でして……目にしたのは初めて、というよりも、実際に発動したことなど歴史的にも稀なので」

『あちゃぁ。人間じゃ使えない魔術だったのか、これ』

「い、いえ……一応は何人かの大魔術師が儀式を用い神を自らの身に下ろし、その命を対価に使用したと公式記録がありますので、使えないわけでは。ただ、使用者は皆、伝説の魔術士とされるような存在ばかりでして」


 たしかに。

 砂漠には新しいクレーターが誕生していて、そこに聖杯の水でも注げば第二のダガシュカシュ帝国の誕生。

 新たな神話の誕生ともいうが。


 瞳を輝かせたメンチカツさんが言う。


『てめえ! やるじゃねえか! ロックだ、ロック! こーいうのは嫌いじゃねえぞ!』


 何がツボにはまったのか知らないが、腕を組んだカモノハシは上機嫌。

 暴力を司っていそうなこいつが褒める時点でなんかズレてるんだろうし。


 これ。

 まあ、よーするに。

 やりすぎたってことかもしれない。


 これを報告しないといけない他国の方々は、まあご愁傷様である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 派手に吹き飛ばしたね!マカロニ氏ヾ(≧∇≦) [一言] この世界においては神話級の魔法をぶっ放して銀杏を駆逐(≧▽≦) お疲れ様!(。・_・。)ノ
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