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終演―銀河に願いを―


 大魔帝ケトスによる勧誘を受け。

 彼の監視を含めて、確かにその話も悪くはなく……。

 けれど返事を出す前にと、僕はアランティアを連れて三毛猫の元魔王、かつての友人を探し散策中。


 猫の足跡銀河を捜索していたのだが。

 やはりついて回ってきているカモノハシなメンチカツが言う。


『なあ相棒、なんでこんな宇宙の狭間を行ったり来たりしてやがるんだよ』

『そうだよ兄さん。見つからないなら見つからないで別にいいんじゃないかな』


 ちなみにメンチカツのゴムクチバシに続いたのは、のんびりとした弟の声である。


 当然、僕を心配してやってきたエビフライもいるので……。

 僕ら獣王、既に三匹が宇宙と宇宙の狭間をふよふよと浮かんで探している状態にあった。

 探査能力を発動させているアランティアが、夜空に舞いながら言う。


「お二人とも……留守番するって話だったんじゃ」

『おう! ちゃんとメンチカツ隊に留守は任せてきてあるからな!』

『僕もマカロニ隊のみんなにお金を渡して頼んできてあるよ!』


 そーいうことじゃないだろう……。

 僕とアランティアはジト目で言う。


「ま、お二人がこうなるのは予想済みっすよね……」

『まあな』


 万が一に備えて残ってもらうという体だったのだが。

 どうせ女神ダゴンと女神バアルゼブブが、僕を追いかける許可を出したのだろう。

 ピクニック気分で宇宙を泳ぐメンチカツが僕に並走し、ペタ足で空を掻き。


『それで相棒。なんでまたこんな、なんもねえ宇宙を彷徨ってやがるんだよ』

『アランティアの願いを叶える能力によると、あの三毛猫とはこの辺りで会えるってなっててな――あっちの宇宙に連絡しても、どうもあいつは出張中らしくって、しばらく帰って来てないらしいんだよ』


 僕を殺されたことを忘れていないエビフライが、悪意ない声でモキュっと言う。


『しばらく帰って来てないって、それって死んじゃったとかじゃなくて?』

『おう、なら仕方ねえから帰ろうぜ相棒』

『そーだね! メンチカツさんもたまには建設的な事が言えるんだね!』


 ははははは!

 あはははは!

 と、カモノハシとハリモグラの獣王は同時に笑い、帰ろう! 帰ろう! とアピールしてるが。


 こいつら……すげえ仲いいな。

 なんだかんだで良いコンビになりつつあるが、あんまりメンチカツに毒されてほしくない兄としての僕もいる。

 こいつらの帰ろうコールを一蹴するべく、羽毛をうにゅっと膨らませた僕は振り返り。


『実はもうあいつの孫娘とは連絡が取れてるんだ――ちゃんと無事なのは確からしいんだよ。でも何をしているのかまでは教えてもらえなくてな』

『孫娘だぁ?』

『アシュトレトの話だと通称、赤き魔女猫姫……名前は確か……アカリ、だったかな。大魔帝ケトスの娘でもあって……次元の狭間だか空間の狭間だか時空の狭間だかにある図書館の主で……基本的に現存するほぼ全ての逸話魔導書グリモワールの制作者って話だぞ』


 そんな彼女から連絡がきたのはつい先日の事。


 自分の父親が僕を勧誘していたことを知り、そこを横取りしようと動き始めたようなのだ。


 曰く。

 ねえねえ! あなたお父様に勧誘されてるんでしょ?

 それよりも、あたしの方の勢力に入らない!? 歓迎するわよ! 待遇もこっちの方が絶対にいいんだから!


 ――と、側近らしい三匹の猫公爵を遣いに送ってきたのである。

 その辺りの事情を知っているアランティアが言う。


「時間と次元も関係なく運命を変えるために逸話魔導書グリモワールをばら撒く、厄介な存在らしいんっすけど……どうもマカロニさんが逸話魔導書を自作できるって事で目を付けたみたいで、ひっきりなしに勧誘してきてるっぽいんすよ」

『人気者だね! 兄さん!』

『勧誘といえば――おう、相棒! すまねえ忘れてたんだが……ああっとどこだったか……』


 勧誘と聞いてメンチカツがなにやら思い出したのか。

 自らのアイテム空間になにやら平たい手を突っ込み、ゴソゴソ。

 あぁん!? ねえじゃねえか!

 と勝手に騒ぎつつもグワ! 発見したのか――空いた酒瓶の隙間から手紙を取り出し、僕に差し出し。


『おまえさんに神鶏ロックウェル卿ってやつから預かってたんだ。もう酒も受け取っちまったから、読むだけ読んでくれると助かるぜ?』

『おまえなあ……』


 こいつ、賄賂にあっさり負けやがったな。

 渡された手紙を読むと……まあ内容は予想通りだった。

 アランティアが言う。


「勧誘っすか?」

『よく分かったな。この神鶏ロックウェル卿ってのは常日頃から大魔帝ケトスを観測して、あの猫が世界を壊さないように未来を書き換える生活をしているらしい。その手伝いをしろって内容なんだが……ようするに、別口の勧誘だな。これ』


 メンチカツとエビフライが言う。


『あぁん? 常日頃から観測だぁ』

『なんだかストーカーみたいだね』


 お前らが言うな。

 そんな僕の率直な感想をおそらく読み取っているだろうアランティアは、頬を掻きつつ。


「これ、早くその三毛猫陛下って人? と合流した方が良いっすね――たぶんマカロニさんの噂を聞きつけた神々とかが、どんどん勧誘の怪文書を飛ばしてくるんじゃないっすか」

『だいたいメンチカツ、おまえその手紙はどこから手に入れてきたんだよ』


 睨む僕にメンチカツは思い出すように視線を上に向け。


『この神鶏ロックウェル卿ってのはなんでも鳥の神で王様らしいからな、”汝はクチバシもあるし……鳥であろう!” って鳥類に手紙を渡す魔術でオレさまに飛ばしたらしいぜ』

『あ! そーいえば兄さん! 僕も変な犬からこれを預かってたんだ!』


 もうパターンは読めたが……。

 案の定、どうやら勧誘の手紙のようだった。

 アランティアが言う。


「この差出人のホワイトハウルさんてのは……たしか」

『ああ、大魔帝ケトスと同格の神獣、狼の三獣神の一柱だな。で? おまえはなんでこの手紙を持ってるんだ、知らない人から簡単にモノを受け取るのはあんまり感心しないぞ』


 うわぁ……あいっかわらず過保護っすね、マカロニさんと突っ込むアランティアを無視し。

 僕が手紙を開く中――メンチカツと同じように目線を上に向けエビフライが言う。


『”汝は……まあ大地に住まう獣であろう!” って、獣を眷属とする力で接触してきたみたいだよ?』

『は!? 眷属って、大丈夫だったのか!?』

『すぐに次元から反撃したから問題なかったよ。話したらちょっと意気投合しちゃってね、効率のいい次元の渡り方も教えてくれたから今度遊びに行くんだ~』


 うちの弟に友達か。

 ふむ……。

 それはお兄ちゃん的にはありがたいことでもあり、果たして弟の友達にふさわしいか試す必要もある。


「あのぅ……マカロニさん。なんかすごいアホみたいな事考えてますよね?」

『誰がアホだ!』

「それよりも! まずいっすよ! これ以上、いろんな勢力から勧誘されたら収拾つかなくなるんで! たぶんその人らにもある程度の説教ができそうな三毛猫さんを、早く探しますよ!」


 だから探しているのだが。


『本当にこの辺で再会できるのか?』

「マカロニさんの願いを叶える形でやってますんで、願いの力が足りないんじゃないっすか?」

『おまえはすぐに人のせいにするよな……』

「いや、そっちもっすよね?」


 ニヤニヤとしながらメンチカツがゴムクチバシを開き。


『イチャイチャしてねえで、早く見つけようぜ。どっちが相棒のダチに相応しいか、勝負しねえといけねえんだからな』


 イチャイチャって……。

 僕もアランティアも、はぁ……と落とす肩の勢いに言葉を乗せ。


「せっかく三獣王が揃ってるんっすから、全員でやった方が早くないっすか?」

『そうだな――おい、おまえら。もう一回願いをかけるから力を貸せ』


 メンチカツがニヒィっと金銭を寄こせとばかりに手を出しているが。

 その手をベシっと叩いたエビフライに睨まれ、渋々と手を伸ばし。

 三匹の獣王が手を伸ばし、祈り、念じ。


 アランティアがその祈りを受け止め、告げる。


「あのー! 三毛猫さーん! 宇宙を泳いでるのも寒いし疲れるんで―! そろそろ出てきて欲しいんですけど-! あたしのメンツもあるんでー! お願いしますよー!」


 間の抜けた声だが、これでもちゃんと魔術式は動作している。

 三匹の獣王と願いを叶える性質のある希望の女神の、魔術的にはかなり高位の合わせ技だ。

 実際、効果はあったのだろう。


 猫の足跡銀河が、キラキラキラ。

 まるでアランティアの声、そして僕の願いに反応するように輝きだしたのだ。

 これは――。


「マカロニさん、これって――」

『……』


 ああ。

 そうか。

 そういうことか。


 僕は――この宇宙の誕生。

 黎明期の時代の逸話を思い出し、宇宙の中で夜空を見渡した。


 どうやら、ずっと。

 見守ってくれていたのだろう。


『ずっと、そこにいてくれたんだな』


 死んでいるわけではない。

 転生したわけではない。

 元にも戻れるだろう。

 だから――。


 ただ、一時……彼は自らを星の姿に変えていたのだ。


 あの日、魔術の封印された箱をひっくり返した猫と一緒に――。

 こちらに……既に来ていたのだ。


 メンチカツも気が付いたのだろう。

 つぶらな瞳に星々の光を反射させ、ゴムクチバシを重く開く。


『おい、相棒これは』

『ああ、まあ元からあいつは神みたいな存在だったからな。神話にもある通り、神は星へと姿を変えられるものもいる。この猫の足跡銀河こそが、彼。僕の友人だよ』


 息を飲んだメンチカツが、はっと銀河の星々を睨み。

 クワ!

 強大な結界を張りつつ、真剣な顔でキリ!


『あぁん!? ずっと見てたってことだろ……!? 気をつけな相棒、やっぱストーカーじゃねえか!』


 真剣に警戒しているので、こっちとしてもツッコミにくいが。


 僕もアランティアもエビフライもジト目である。

 本当に心配してくれているのは分かるが、分かるだけに……。

 ……。

 メンチカツ……こいつ、ほんとうに空気が読めないな。


 まあ一緒にいると退屈はしないが。


 そんな僕らを眺め。

 星々と共に銀河が輝きだす。


次回、最終回。

今後の予定も明日のあとがきにてご連絡させていただきます。

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