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其の魔術の名は希望~ギャグみたいな扱いだけど、実際はたぶんけっこう強い~


 暴走しているのは獣王二匹。

 弟のエビフライと相棒を自称するメンチカツ。

 そして僕が詠唱するのは、今会場にいる女神の力を借りた新たな魔術。


 マカロニペンギンパラダイスとなっている状況は、一部の獣神マニアにはとても魅力的に見えるようで。

 なにやらパンダが『ねえねえ~、あれ欲しいなぁ~!』と、羊の獣神に訴え。

 その羊の獣神にギシっと歪んだ悪魔顔をされて『無理に決まっているでしょう!』と反論される中。


 僕らは同時に翼を掲げ。

 世界の法則を書き換える魔術式を展開。

 足元から天に向かい伸びる魔力に、尾羽をブワブワ揺らし!


 くちばしにて、望みを刻む。


『女神よ――我はマカロニ。偽神にして氷竜帝。スナワチア魔導王国の王マカロニ! 我が願うは汝の導き、我が望むは汝の奇跡』


 天幕の中で僕の構えを眺め、瞳を細めたアシュトレトが告げる。


『そうじゃマカロニよ、そやつらは各々ダゴンとバアルゼブブ、妾ではない三女神の恩寵を得た状態であろうからな。ならば我が子マカロニよ、そなたが唱える魔術は当然、妾の……』

『希望の女神よ、パンドラよ。汝、其の名はアランティア』

『な! 待つのじゃマカロニよ! ここは妾の力を借りた新魔術で、状況をどうにかするという見せ場がであるな!』


 当然、僕は母を自称する女神を完全にスルー!

 僕は僕をこの世界に招き入れた原因であり、始まりの彼女の逸話を読み解き術に再構成。


『嘆く者よ、されど希望を捨てず祈った者よ』

『ストップじゃ! ここはやはり妾の力を借りた魔術で』

『アシュトレト、気持ちはわかりますがここはマカロニさんに任せましょう。我が子の成長を認め、自主性を認める、これも親としての在り方でしょう』


 助け舟を出してきた主神レイドだが、こいつもこいつで我が子扱いでやがるし。

 しかしアシュトレトはどうも主神の言葉には弱いらしく。

 ふっと無駄な美貌に感慨を浮かべ。


『我が夫よ、そなたが言うのならば――そうであるな。確かに、我が子の自主性を認められぬのならば偽神ヨグ=ソトースと同じになってしまう……良い、マカロニよ。好きにせよ。母はそなたの成長を見届けると決めた。さあ! やるがよい!』

『よく耐えましたね、アシュトレト。それでこそ私の妻にして妃』

『ふふ、おだてても何も出んぞ』


 こいつら、他の世界の神々の前でよーやるわ……。

 他の五女神はもはや慣れているのか、特に突っ込もうとはしていない。

 おいおまえら……思考を停止するな。


 ともあれ、僕は詠唱を継続。

 女神としてのアランティアの魔術体系を形成するように、魔術式を構築し続けた。


『汝は封印されし希望。汝は希望と惨禍を併せ持つ者。汝、其の真なる名は魔術なり。故に我は汝に希望を捧げ続けよう。自我を得た魔術よ、希望よ――我が呼びかけに応えよ。繰り返し告げる、我はマカロニ! 氷竜帝マカロニ! 汝の願いにより顕現せし、神を創りし父たる者が零せし雫なり!』


 アランティアの存在を魔術そのものと定義。

 同時に自我を得た魔術であり、魔術には希望の力もあると再定義。

 詠唱する本体の僕の手には、新たな逸話魔導書グリモワールが生まれつつあった。


 アランティアの人生が、獣王たる僕らの物語と結びつき合い、それは形となって顕現する。


『魔術ってのは人々の希望でもあるからな! 希望ってのは願いや祈りに近い、ならば! アランティア! おまえの物語は希望を信じた魔術の物語。魔術から発生したおまえって自我が、僕という変わり者を呼んだことから発展した、新たな希望! 新たな魔術体系ってことだ!』

「え? いや……なんすかそれ、すみませーん! あたしにはー! ぶっちゃけ意味わかんないんですけどー!」

『だぁああああああああぁぁ! それっぽい事を言って無理やり宇宙を騙してお前の魔術体系を組んでるんだ、茶々を入れるんじゃない!』


 当然今のツッコミは、僕の側近で秘書で腐れ縁のアランティアである。

 ツッコミながらも僕は最新の魔導書を獲得。


 ――希望の女神アランティアの逸話魔導書を入手した――。


 そのままいまだにぶつかり合っているあいつらを眺め、キリ!

 右フリッパーにはアランティアの逸話魔導書を。

 左フリッパーにはメガホンをそれぞれ装備!


『このまま説教タイムだ、この野郎!』


 僕は偽証魔術を併用しつつ、希望の魔術を発動!

 新たに生まれたアランティアの逸話魔導書を、バササササと開き。

 大きく息を吸い、魔術式を展開!


 展開された魔術式は宇宙に向かい広がり、まるで銀河のように青く輝き始める。


 かつて魔術そのものだったアランティア。

 しかし今はもう逸話のある女神だ。

 それだけではない。


 逸話のあるペンギンの僕。

 その側近としての彼女の物語も、確かに存在する。

 アランティアはもはや魔術というよりは、アランティアという個人なのだ――そう宇宙が認識し始めたのだろう。


 僕の手に乗る逸話魔導書から、目の前の獣王の力に匹敵するほどの、強大な魔力が放出され始めていた。


 魔術体系の定着に成功したのだろう。

 僕はそのまま難しい操作と調整をこなし、希望属性の魔術体系を宇宙に新しい法則として登録。

 この時点で、僕のしている事を読み解けるレベルの神々は、僕の偉業を認めているようだが……アランティアのやつ……おまえ自身が気付かないでどうする……。


 ともあれだ。

 新たな魔術として認定されたアランティアとしての希望の魔術、その効果を発揮させるべく。

 僕は吸った息を吐き。

 ガァガァ、ペペペペペペペ――!


 メガホンから魔術名が解き放たれる!


『<おいこらおまえら! 異世界よそさまにこれ以上恥ずかしい姿を晒すんじゃない!>』


 相手の行動を制限する、いわゆる制御の魔術である。

 魔術の直撃を受けたメンチカツとエビフライの獣毛がぶわっと逆立ち。

 その場で力を失ったのだろう。


 当然。

 いきなり力を失ったのだ。

 球体状のオーラを纏ってぶつかり合っていた彼らは、そのまま激突する。


『ぐえ!』

『あた!』


 互いに額をぶつけて、落下。

 闘技場の地面に激突し、ピヨピヨピヨ。

 目をぐるぐるにし、頭上に星を浮かべて気絶していた。


「って! マカロニさん!? 折角のあたしの魔術なのにその魔術名は酷くないっすか!? 限定的すぎませんか!?」

『やかましい! 勝てばいいんだよ、勝てば!』


 言って僕は全員で魔導書を抱えたまま、主神レイドを振り向き。


『こっちはこれだけの数だが、まだ続けるか?』

『参りましたね、今、あなた達全員の手にアランティアさんの逸話魔導書があるように見えるのですが――』

『僕は昔から複製や偽造を得意としてるからな、僕が生み出した逸話魔導書だ。コピーできるのも当然だろう!』


 主神がマカロニペンギンの群れとなっている僕を眺め。

 ふぅ……と苦笑の息を漏らし、両手を上げ。


『あなたを攻撃できない私はエビフライさんの戦闘不能……いえ、ルール違反の時点で勝ちはなくなっていましたからね。素直に負けは認めましょう』


 まあこの主神が持っている……モフモフへの攻撃制限とかいう、アホみたいなデメリット能力がなかったらこうはならないが。

 勝ちは勝ちである。

 審判であるムルジル=ガダンガダン大王が僕の勝利を宣言し、戦いはこれにて終了。


 無事に騒動が終わる……。

 筈もないよなあ……。

 んーむ、アランティアの逸話魔導書を制作し、複製したせいだろう。


 逸話魔導書の生成は、どうやら僕が思っていたよりも高度な技術。

 それなりに重要な案件らしい。

 ここの連中が明らかに説明しろと僕をじっと眺めていた。


 その中を代表したのだろう。

 三獣神である大魔帝ケトスが話がしたいと、僕に目線で合図を送ってきた。

 無視するわけにもいかないだろうと、僕は渋々頷いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] これはまさか!ムチュメたんへのプレゼントのお強請り!!
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