抑止力~這いずり出でるペンギンぬいぐるみ~
エビフライもメンチカツも絶賛暴走中。
どちらもルール違反な威力の攻撃を放っているので、失格。
それでも止まらないのなら、僕が止めるしかないだろう。
なのだが……やつらは女神に寵愛されて、力もマシマシ。
自らのヤバい能力も全開にし、今もこうしてズガズガズガガ――ッッ!
球体状となった魔力をオーラ結界として纏い、ぶつかり合って互いに相殺。
『おらおらおら! ヤクザの暴力なめんなよ!』
『うわぁ、そーいうのが自慢ってダサくないかなあ?』
言い争って、ゴゴゴゴゴ!
『こいつでとどめだ! カモノハシ毒爪殺法!』
『夢世界から存在そのものを消し去ってあげるよ!』
メンチカツは極限まで威力を上げた影響で崩壊現象を起こし……全てを破壊する拳に、水を操るダゴンの能力で毒を乗せた奥義を。
対するエビフライは誰にでもある夢世界……、まあ深層心理に侵入し内部から本人を消し去る次元の裏技を。
それぞれに正面からぶつけて、再び世界を揺らして相殺。
『甘いね――!』
エビフライは相殺されることを読んでいたのだろう。
ジャンプし、そのまま背中の針を無数に飛ばすが――。
その悉くをメンチカツは自動蘇生を付与した尾で叩き落とし、着地。
本来なら針の攻撃で尾が裂けていたのだろうが、メンチカツは自動再生能力者。
ダゴンの回復の力と重ね合わせて、やはり結果的に無傷になるよう魔術式が拮抗――互いの攻撃を相殺していたようである。
まあ見た目はなんかオーラで獣毛を逆立てるカモノハシとハリモグラが、ドスドスドスと体当たりをしているようなものなのだが……。
実際は宇宙を揺らす最大規模の衝突なのだ。
もし彼らの攻撃の流れ弾が、どこかの世界に零れでもしたらアウト……その世界は簡単に消滅してしまうだろう。
再び彼らは宙を飛び。
ドスバスゴガン!
相殺現象による拮抗勝負を繰り返すばかり。
史上最大のアニマルウォーズをジト目で見上げ僕が言う。
『おまえら、完全にこっちのことを忘れてやがるだろ……』
結界に覆われた戦闘の舞台。
その内側に形成した転移門から転移しやってきたのは、僕の分身端末。
魔術用語にするのならば、分霊群といったところか。
観戦席からすると、マカロニペンギンの群れが突如現れたように見えただろう。
本来ならこのまま物量作戦でとっととお説教タイムなのだが。
今回の模擬戦は賭けの対象となっている。
そちらをフォローするべく、僕たちは観戦席に向かい全員で偽証魔術を発動!
『言っておくが! こいつらは僕の分身、いわば僕と同じ存在だからな! ルール的にも反則じゃないぞ!』
実際これは事実でもあるので、ルールの正当性を押し付ける僕の言葉はおそらく、あちらの神々の”言葉への耐性”も貫通するだろう。
よーし!
これで後からルール違反だと文句を言われる道も断った。
主神レイドが言う。
『さてマカロニさん、それでどうするおつもりなのですか? 彼らはあなたがこれだけ増えても気にしていない……というよりも、気付いていないようですが』
『……あのなあ、まじめな話をしながら撮影をするのはどうなんだ、それ……。もはや強制行動……呪いに近いみたいだけどさあ、大丈夫なのか?』
『性分ですので、お気遣いなく』
『気遣いじゃないって』
そう、この男……分霊体をかき集めてきた僕の映像を撮りながらの台詞なのである。
ブレないというかワンパターンというか……。
だがまあ……外なる神とかいうこちらを低次元とみて、管理しようとしている存在がいるからこそ、考えも少し変わる。
主神があまり厳格すぎるのも考えものだと僕は思っている。
だが厳格ではなくとも、今、目の前で繰り広げられている獣王同士の戦いは止めるべきだろう。
結界内である事と、希望の女神アランティアが僕の願いを叶え騒動を抑えている事……そしてなにより、こいつらの力が拮抗しているから相殺されて無事なだけなのだ。
少しでもバランスが崩れていれば、たぶんニャービスエリアに迷惑をかけていた筈。
次々と集合する僕を眺め撮影をしていた主神レイドが、ん? と片眼を開き。
転移門を眺めながら、頬に薄らと汗を浮かべ。
『あの、マカロニさん……』
『なんだよ』
『あなた、目覚めたばかりだと言うのにいつのまにこれだけの数の分身を?』
まあこれだけの数と言えるほどの数が、今もわっせわっせ! と転移してきているのだ。
少しは気になるのだろう。
『仕方ないだろ、そもそも僕の息のかかった大きな組織……商業ギルドも冒険者ギルドも僕の不在のせいで問題は山済みだったんだ。その辺の停滞と問題未解決は、僕のせい。人件費削減と説明が面倒だからって、僕がワンオペ状態で回していた部分もあったせいだからな。今後、何らかの改善や分業をするにしてもだ、今現在の問題を解決するにはこれ――僕の分身を全世界にバラまくのが手っ取り早かったんだよ』
なるほどと、主神レイドは納得を示し。
更に増えていく分霊ペンギンを眺め……ジトォォォォ。
考える賢人のように、顎に曲げた指を当て。
『素晴らしいペンギンランド状態ですが。しかし、これだけの分身とは……よく魔力が持ちますね。そもそもこれは少々おかしい。私の鑑定によると、彼らもあなた自身。本体であるあなたと遜色のないステータスを持っているように見えるのですが』
僕は自慢ポイントを見つけだし、ふふーん!
腰のペンギン独特なくびれにフリッパーをあて、ふんぞり返ってドヤァァァァァ!
『はは! そりゃそうだろ! これは僕と相性が良いペンギン、恐怖の大王アン・グールモーアの流れを組んだ魔術と、生前に知り合った複製を得意とした異能力者の能力の組み合わせだからな!』
『と言いますと』
『僕の分身能力は、魔力消費がほとんどない! まあそれでも維持には魔力がかかるが! そこは更に! あの時の”王の腕輪”で消費魔力も抑えられる! 僕が憤懣の魔性として開花したことで魔力はほぼ無限。やろうと思えばもっと増やせるはずだし――そもそもこうなる前にもある程度、いろんな場所には忍ばせてあったからな!』
告げる僕は僕の神殿で売っているマカロニぬいぐるみを取り出して見せ。
ちょいちょいのちょい!
僕の分霊となり、ビシっとポーズを決めて歩き出す。
『なるほど、偶像崇拝を利用したのですね。ぬいぐるみには魂が宿る……そして、あなたのぬいぐるみを買う方々は、毎日あなたを眺め満たされる。それは既に信仰であり、信仰とは神性を得た存在の能力強化……最も力が上がる要因となる。偶像も利用しているのですか……』
僕の分霊も全員、ふふーん! とふんぞり返って。
ドヤァァ!
『それで――私の世界にいったい何体の分霊を派遣していたのですか』
『ちゃんと数えなかったが、まあ五、六千体ぐらいは飛ばしてるぞ』
『5、6千……ですか』
『販売しているぬいぐるみも全部実際は僕の分霊だからな、やろうと思えばもっと増やせるぞ』
僕の言葉に、観戦している神々もわずかに息を詰まらせる。
僕のぬいぐるみは売れると判断されたのか、ネコの行商人ニャイリスが持ち帰り、様々な場所で販売しているだろう。
そして、僕は僕の逸話魔導書を偽証魔術対策に、各地に飛ばしてある。
この意味は大きい。
もはや相手の宇宙に、いつでも出現する”そこそこ強い僕”という存在を刻んでいることになる。
あちらにとって問題なのは、そこそこ強い僕が、下手したら万単位で湧くことになることだ。
こちらの戦力は十分。
というかおそらくは僕がいるだけで過剰戦力だろう。
だが――。
戦力だけではない仕掛けに気付いたのか、主神レイドは苦笑に言葉を乗せていた。
『あなた自身があちらの宇宙に対する抑止力であり、あなたがいるからこそあちらも下手なことはできなくなる。問題はあなたが暴走した場合なのでしょうが……あなたを止める手段は、あちらは既に入手済み。あちらの宇宙に属するムルジル=ガダンガダン大王が、こちらの基礎生活にかかわるウォーターサーバーの権利書を所持していますからね。事を構えるとなったら交渉に持ち込める……よく考えられていますね』
そう、これで無駄な争いは避けられるのだ。
まあどうやら、そんな僕を相手にしても問題なく戦ってきそうな存在が、三柱程いるが……。
三獣神と呼ばれる連中は、どうやら伝承通りグルメに弱い。
こちらが生活を営む中、文化を発展し続け――新しいグルメを用意し続ける限りは、こちらを滅ぼそうとは絶対に思わないだろう。
猫の足跡銀河の先との関係は、これでひとまずは安定すると僕は考えていた。
これで無駄な戦いをする気はないという僕の意図や力も、観戦席には伝わったはず。
なので、後の問題は。
このバカたちだ。
こいつら……一応は僕のために戦っているようだが。
僕に迷惑をかけても構わずやらかす辺り、本当にどーしようもない連中である。
まあ、嫌いではないが。
というか、弟に関しては宇宙で一番かわいいと思っているが。
それはそれとして、お兄ちゃんとしての説教は必要だ。
『人を無視しやがって! 僕をスルーだなんて、おまえら――覚悟しろよ!』
僕は全ての分霊と共に、ビシ!
フリッパーを構え。
全羽同時に大詠唱を開始するべく息を吸う。