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カモノハシVSハリモグラ~どちらが相応しいか~~


 女神アシュトレトと大魔帝ケトスに気が逸れていた内に、僕はこっそりメンチカツを超強化。

 このまま不意打ちで倒すつもりだったのだが。

 どうやら相手側も同じことをしていたらしい。


 確かに、エビフライは僕を守ろうと位置をずらしていたし、主神レイドも防御系統の魔術を詠唱していた。

 あれはいざとなったら動けるようにしつつも、あちらもあちらで強化の重ね掛けをしていたのだろう。

 つまりは超強化エビフライと超強化メンチカツのぶつかり合い。


 両者一撃必殺の構えなのだが、互いの力が相殺し合ってイコールゼロになっているようだ。


『おらおら! どうした小僧!』

『おじさんはしつこいなあ』

『はは! おじさんはいいな! この姿じゃあ歳なんてもう関係ねえだろうが、目上としうえってことは理解してるみたいじゃねえか!』


 二匹の戦いは超高速。

 互いに球体の結界を纏いながら戦闘フィールドを、ズガアッガガっと抉り。

 またぶつかり合い。


『主たるダゴンよ! オレ様にてめえの恩寵と力を!』

『バアルゼブブさん! 僕にあなたの恩寵と祈りを!』


 互いに主の名を呼び、祈りの構え。


 獣毛に、光源による濃淡を浮かべながら、ドヤ顔。

 メンチカツが掲げた拳に海の女神ダゴンの恩寵の印を光らせ。

 水を纏う魔力を周囲に発生させつつ、ヤクザな笑み。


『エビ小僧! 悪いがこっちは相棒の信頼がかかってるんでな!』

『やだなあメンチカツさん、どう転んだってあなたは身内の僕には勝てないんですから。そんなにムキにならなくてもいいんじゃないですか?』


 言いながらも主神レイドから受けたバフを夢世界クトゥルフの力に変換。

 夢と繋がりのある自らの影から肉塊を召喚したエビフライは、地の女神バアルゼブブの恩寵の印を輝かせ。

 舞台を守る結界内全体に、肉塊と触手の網を展開し――。


 ズズズズズズ!


 ズズズの音と共に拡張されていく肉塊に刻まれているのは……空間と次元と時空を超越した力。

 つまりは矛盾する言葉だが、虚無を具現化させた虹色の玉。

 ようするにシャボン玉を召喚し……。


 ……。


 って!

 いやいやいや!

 これ、問答無用でどんな存在も運命ごと消し去るんじゃ。


 魔力による風を受けながら、僕は羽毛を逆立て、慌てて叫んでいた。


『おいこらエビフライ! おまえ! それはやりすぎだろ!』

『エビフライさん! それはさすがに直撃すれば終わり、全てを虚無へと帰す再生不能な一撃となります、ルール違反ですよ!?』


 主神レイドも気付いたようで、目を見開き警告するが。

 地の女神バアルゼブブの恩寵は、ますます効果を増していく。


 おそらく肉塊から這い出ているあの虹色の玉に触れると終わり……。

 そこがブラックホール化して、こう……永遠に時の止まった空間に閉じ込められ、時空の中で観測できなくなる。

 つまりは実質的に消滅してしまうだろう。

 どうやら……これがあっちの宇宙で、うわぁ……とされている原因の一つ……、当時暴れた、夜鷹としての弟はこれを使いまくったようだ。


 死んだわけではないので蘇生は不能。

 次元を渡れる時魔術の使い手が、永遠と定義されてしまった空間に介入してようやく救出ができるだろうが、そんな存在は恐らくいない。

 そもそも逸話魔導書から入手した情報によると、時魔術の使い手は貴重らしい。


 つまりは喰らったら終わりなのだ。

 これでよく死者を出さなかったものだと感心してしまうが。


 大魔帝ケトスが、うへぇ……またあの面倒なのかあ……と耳を下げてネコの口を三角に尖らせる中。

 ともあれ。

 怒鳴るように僕が言う。


『おいバアルゼブブ! 恩寵を止めろ!』

『……? ど、どうして?』

『だぁぁぁ! どうしてもなにも! これはヤバイって分かるだろうが!』


 僕はペペペっと指差し!

 天幕の中から返事を飛ばしてきたバアルゼブブにもう一度要請するが。

 彼女はコテンと九十度の角度で首を倒し。


『あ、あたし達はね?』

『ぼ、僕たちはね? 思うんだよ』

『本気になってるこの子たちを止められるって、証明しないと、三千世界のみんなも納得してくれないんじゃないかな?』


 よーするに、当時やらかした弟の恐怖を和らげるには、ここで止めて見せろといっているのだろう。

 理屈としては分かるが。

 それよりも気になることがあり、僕はメンチカツのように眉間にあぁん!? とした皺を寄せ。


『ちょっと待て、その、この子”たち”ってのはなんだ?』

『おそらくはアレですよマカロニさん。メンチカツさんをご覧ください』


 言ったのは主神レイド。

 その目線の先のカモノハシは、強化を受け過ぎた影響だろう……なんか深淵の海水という言葉が浮かびそうな闇の水を纏って、赤い瞳をギラーン。

 気合を込めて闘気を纏う、ただそれだけで次元を軋ませるメンチカツがそこにいたのである。


 夢世界クトゥルフの属性を付与されている海の女神ダゴン。

 彼女の眷属であるという流れで、クトゥルフの力を纏ったダークハイパーなメンチカツになっているようだ。

 僕はクチバシの付け根に怒りマークを浮かべ、尾羽をバサっと広げグペペペ!


 メガホンを構え、偽証魔術を発動!


『この馬鹿ども! とっとと力を抜け! 模擬戦は仕切り直し! 仕切り直しったら、仕切り直しだ!』


 これでこいつらを止めることに成功する筈だったのだが。

 観戦席からダゴンの微笑と声が広がってくる。


『ごめんなさいね、マカロニさん。メンチカツに頼まれてしまいまして、この模擬戦は中断させたくないそうなの。だから、この子の意志であなたの偽証魔術を拒否する能力を付与してあるの』


 あぁぁぁ……。

 そういやこのカモノハシは、対僕への最終兵器でもあったのだ。

 ダゴンは偽神ヨグ=ソトースの騒動でメンチカツを別行動させた時点で、偽証魔術を防ぐ仕掛けを編み出していたと考えられる。

 無駄だと思いつつも僕は言う。


『じゃあとっとと恩寵だけでも解け! これ! あんたの権能のせいだろう! このまま暴力馬鹿の力が増すと次元崩壊が起きるぞ!』

『それを止められる力を皆さまは求めているのでしょう、だから、お願いしますね?』

『お願いしますね? じゃない! この腹黒が!』


 こちらの叱責も気にせず、女神は女神らしく微笑み。


『そもそもクトゥルフ神話を取り込んだ詐欺宗教を生み出し、当時の日本に広げてしまったのは……マカロニさん、あなただった筈ですわよね? クトゥルフ系統の力が異常に発展しているのは、おそらくはそのせいなのですが』


 そうなのだが……っ、そうではあるのだが!


 あぁぁぁぁ!

 三女神共はこれだから!

 実際に僕の力を見せつけるならこれくらいやらないといけないのだろうが、だからといってこれはないぞ普通!


 たぶんダゴンもバアルゼブブも性格はこんなだが、アシュトレトと同様に自らの眷属を愛している。

 だからこそ、眷属であるメンチカツとエビフライが望むなら、恩寵を解く気はない。

 このまま二人の対決を許すと、女神の慈悲を見せているのだろう。


 その証拠に、エビフライはメンチカツを睨み。

 モキュ!


『これは僕の存在証明だよ、僕が一番うまく兄さんを守れるってね!』

『あぁん!? はは! 笑えるぜ! 兄貴に心配かけておいて何を言ってやがる?』

『兄さんに迷惑をかけてるのはいつもメンチカツさんじゃないか!』

『オレは相棒だからな? 相棒の度量がありゃあなんだって許してくれるだろうよ』


 なんだっては許さないって……。

 しかし、既にこいつらの争いはぶつかり合いとなって止まりそうもない。

 幸いなのが力が拮抗しているので、結果的にイコールゼロ……相殺となっていることだが。


『はは! やるじゃねえか!』

『あんたもね!』


 こっちの心配をよそに、こいつらはなにやら全力バトルで高揚中。

 その姿が気に入ったのか、主神レイドも写真撮影タイムになってやがるし。


 ……。

 なんか、だんだんとイラっとしてきたし。

 この際だ、もう全員ふっとばすか。


 僕は憤懣の魔性としての力を、ふつふつと滾らせ。

 ぶち!


『おまえら、全員戻ってこい――』


 スナワチア魔導王国のみならず、他の地域にも派遣していた分身端末に呼びかけ。

 会場内にいるアランティアを探し。

 目線で合図。


 最初から僕の命令でこっそりとしていた彼女は頷き。

 事前の仕込み通りに、希望の女神としての力を発動。

 僕はそのまま、転移門を形成し始めた。


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