激闘~当たれば即死はわりとクソゲーだと僕は思うんだが?~
模擬戦は続いている。
メンチカツの一撃は基本一撃必殺、さきほどは倒し切れなかったが、それは相手が悪かっただけ。
僕の偽証魔術で強化されたその破壊力はおそらく、異世界を含めても最上位に位置するだろう。
時間経過と共に高まるメンチカツの戦意高揚のバフも相まって、次に直撃させればおそらくはどちらかは倒せる。
対するエビフライの不完全な神の子としての性質、”空間と時空と次元”からの攻撃も当たれば防御不能。
おそらく直撃を受ければ僕らも一撃で終わる。
どちらも既に一撃必殺状態なので、観戦席からすると一進一退の攻防で見ものなのだろうが。
僕からするとイライラタイム。
メンチカツを常に強化しつつ、僕は無数の異能を操りエビフライの攻撃自体をキャンセル。
ついでに主神レイドを牽制しつつ、なんとしてでもエリアを得意フィールドの氷海に変更しようと画策すべく。
クワ!
『異能セット! ゲーム再現:神々の天地創造!』
世界作りと管理ができるカセットゲーム、その世界観を強制的に顕現させるゲーム再現の異能を発動させるのだが。
瞬時に主神レイドが聖書と思われる福音書を広げ、にやり!
裁判のページを開き、その力を具現化させ僕を指さし。
『我は命ず、汝――氷竜帝マカロニよ、其のスキルを封印す』
おそらくは相手のスキルを選択し封印する、神の奇跡や祝福なのだろう。
生前の僕が使っていた異能は魔力を内側に溜める性質がある、故にスキルに分類されるようだが……僕はまだ異世界の魔術体系にはさほど詳しくない。
主神レイドによる妨害は成功し、エリアを上書きしようとしていた僕の異能は失敗。
『おいこら! 黎明期のお前は魔王だったんだろ! 聖職者っぽいことをするんじゃない!』
『使える者は親でも女神でも使う、それが性分ですので』
『なんて言ってる間に、くらえ! 領域書き換えダンス!』
僕は神官の異能を悪用しつつ、雨乞いのペンギンタップダンスを披露。
この異能は本来、祈祷や舞によって雨を降らすという単純な効果なのだが――同時にマカロニペンギンの僕がタップダンスを舞う事でモフモフ好きな主神レイドを魅了するという合わせ技になっている。
ちなみに、生前は配下に命じ雨を降らせることで詐欺の演出に使っていたりもしたりする。
僕の目論見通り、主神レイドの耐性を貫通し一時魅了状態に。
『兄さんのタップダンス!?』
どうやらついでにエビフライの動きも一瞬、惹きつけることに成功したようだ。
いける!
本来ならせめてフィールドを雨に変更し、そこから徐々に氷海へと繋げようと思っていたのだが、エビフライの動きが止まった今ならメンチカツの一撃必殺も!
と、僕がメンチカツに目線をやると。
『相棒のタップダンスだと!?』
……どうやら、メンチカツにも効いてしまったようだ。
ああぁあああああああああぁぁ!
このバカ!
主神レイドとエビフライとメンチカツ、三者が全員動きを止めてしまったので雨乞い自体は成功したが。
バカだ、ここにはバカしかいない。
僕だけがまともなので、ここで動きを止めている三人ともぶっ飛ばしてもいいのだが。
天候が雨となったフィールドにて、僕は思わず叫んでいた。
『だぁああああああああああぁぁぁぁ! おまえら全員揃ってアホなのか!』
って、しまった!
せっかくのチャンスなのに僕もアホの仲間入りをしてしまった。
突っ込まずにはいられなかったのだ。
何故か観戦席から、あのペンギン……ギャグ属性持ちか……っ!?
と、めちゃくちゃ真剣で警戒心に満ちた声が漏れてきているが。
なんだそのアホみたいな属性は……。
ともあれ、瞬時に動いたハリモグラなエビフライが雨雲を消し去ろうと虹色の球体を飛ばし。
ぐじゅり――!
雨雲に接続し、その雨に自らの針と、空間と次元と時空を消去する力を……って、おい。
『メンチカツ! 咆哮で雲を散らせ!』
『――任せな!』
僕の指示に瞬時に動いたメンチカツがゴムクチバシを大きく開き、ドラゴンブレスのような閃光を解き放つ。
エビフライがやろうとしているのは雨雲の乗っ取りと汚染。
僕の生み出した雨雲に自分の力を乗せ、雨粒に例の一撃必殺効果を乗せようとしているのだ。
メンチカツの放った閃光が雨雲を散らしかけた、その瞬間。
主神レイドが大地に手をつき、天へと魔力を伸ばし。
宣言する。
『《天候魔術:嵐の丘の統治者たちよ!》』
バアルゼブブ神の権能により大地に眠る邪霊を操り、天の玉座に座するアシュトレト神の領域に干渉――天候を自由自在に操る天候魔術のようだ。
天候を操ること自体は上位の人類でも可能な芸当である
だが、これは主神が放った天候魔術なのだ、おそらくなにか裏があるだろう。
どちらにしてもエビフライに乗っ取られた雨雲を散らせば問題ない。
僕はメガホンを構え。
偽証魔術を発動。
『ああ、いい天気だなあ!』
強制的に天候を晴れに書き換えた。
その筈だったのだが。
『うわ!? さっきの魔術、天候を固定させる天候魔術だったのか』
『大丈夫だろ相棒、オレの咆哮が突き刺さればあんな雲ごとき……、ほら見ろ。あっさり散って……っ!?』
メンチカツの言葉が詰まったのも無理もない。
散る筈だった雲が散らずに、そのまま雷を纏った雷雲になり始めていたのだ。
これも先ほどの主神レイドの天候固定魔術の効果なのだろう。
天候は固定。それなのに自分からの変更は可能なのだろう。
詠唱の省略ができる強者で、オリジナルの魔術を操る相手の強みはこれ。
魔術効果を読み解きづらくできる点だ。
僕とメンチカツが共に一手をミスったせいだろう。
既にエビフライがベヒーモスの権能で巨大化している。
『じゃあ悪いけど兄さん、これで終わりだよ! 僕は兄さんを守るためなら、たとえ兄さんだって超えて見せるんだ!』
瞳を真っ赤に染めて、巨大イタチのようなポーズで巨大化したエビフライはそのまま背中の針を逆立て。
シャァアアアアアアアアアアァァ!
威嚇のような魔力音を上げ、雨雲を操作。
豪雨が降り注ぐ。
『僕だって! いつまでも兄さんに守られてるだけじゃないんだ!』
ざぁあああああああああああぁぁぁ!
ざぁあああああああああああぁぁぁ!
ざぁあああああああああああぁぁぁ!
それは黒い雨だった。
それも一撃必殺の属性を纏った、避けようもない豪雨攻撃だ。
メンチカツが慌てて死亡時蘇生の遅延蘇生魔術を詠唱するが――サポートに徹する主神レイドがそれを許さない。
『《汎用沈黙魔術:サイレンス》』
おそらくそれはどこの世界でもありがちな、深い効果もない沈黙魔術。
ようするに魔術詠唱を禁止する妨害だろう。
魔術の基本は自分ではない大いなる存在から力や理論、逸話を借りて魔術式に変換することにある。
だがこれは……。
特に大きな存在の力も借りていないような魔術なようだ。
普通ならばレジストできるが。
『(やべえぞ、相棒……口を封じられた!)』
グワグワガァガァ!
メンチカツのゴムクチバシにはバッテンマークの封印が施されている。
こいつ……本当に状態異常に弱いな……。
『お前は引け、メンチカツ!』
こちらの対策は間に合わないので、僕は異能を発動!
メンチカツだけを雨の範囲から逃し、豪雨の直撃を受けていた。
僕の身体が空間と次元と時空から消去され、消滅。
やはり弟の存在は脅威、正真正銘の一撃必殺の攻撃だったのだろう。
僕が消えた戦場で、元のサイズに戻ったエビフライがしゅんとしながら言う。
『ごめんね兄さん、この暴力カモノハシも倒したらすぐに蘇生させるから』
『いや、その気遣いは不要だぞ。何故なら、おまえのお兄ちゃんはこんなことで消えたりしないからだ!』
『兄さん!?』
『ああ、そうだ! お兄ちゃんを舐めるなよ!』
言って、僕は主神の装備していた髑髏の杖に、窃盗!
次元の隙間から、ひょいっと抜け出し。
へへーんと腕を組んで着地!
髑髏の杖にも独自の意志があることを察し、即座に買収。
杖に魔力を注ぎ込み、味方に取り込みグペペペペペペ!
メンチカツの沈黙状態を、主神から盗んだ武器”邪杖ビィルゼブブ”による解除魔術で解除!
『やいやいやい、おまえら! 僕の分霊を一体戦闘不能にするとは、良い度胸じゃないか!』
負けてきた分霊の記憶を吸収し、分けていた魔力も回収しながら僕は決めポーズ!
『マカロニさん、あなた――さきほどまでのマカロニさんは分霊体、だったのですか』
『あのなあ……こっちは一年も眠ってたんだぞ!? 本体は当然、スナワチア魔導王国で書類仕事に全力を出してるに決まってるだろうが! 僕は王で責任者だぞ!? 書類仕事から逃げるなんて最高責任者失格だからな!』
なぜか、ぐはぁ! っと、ダメージを受けた様子の観戦席のネコを遠巻きにしつつ。
僕は盗んだ杖を宙に浮かべ、ぐるんぐるんと回しつつ。
こっそりと天候固定と上書きを解除。
僕の天候への小細工に気付いた様子だが、それを受け入れつつも主神レイドが眉を下げ。
『そういえばあなたは恐怖の大王アン・グールモーアの分身系列の術の使い手。ペンギンの端末を操作するプロ。手を抜いていた……というわけではないのでしょうが、今までは本気ではない分霊を使っていたのですね』
『こっちは本当にクッソ忙しいんだよ! 本体の僕はそのまま書類を片付けてたはずなんだぞ!』
実際、今も王国では僕の分霊が書類を超高速で片付けている。
その辺りを察したのか、観戦席の何名かは僕にそれなりの敬意を示しだしているようだ。
おそらくは弱体化すると分かっていながら――魔力を分けた分霊をいまだに使いながら戦場に出ていること、そして王としての責任を果たそうとしている姿への尊敬だろう。
エビフライが目を輝かせ言う。
『うわあ! やっぱり兄さんは凄いね! でも、本気にならなくて大丈夫なのかなあ? たぶん、今のままだとそっちが負けるよね? たとえ忙しいからって魔力を分裂させてる兄さんが負けても、僕は一向に構わないんだよ?』
『それはどうだろうな! おいメンチカツ!』
告げて、僕は後方に飛ばしたメンチカツを振り向き。
『今僕の分霊たちは書類の前にいる、お前……というか僕たちが勝ったらワインダンジョンへの投資を百倍にしてやってもいいぞ! なんなら異世界からのワインも取り寄せてやってもいい!』
『マジか!?』
『ああ! だがあくまでも勝ったらだからな! 僕は詐欺師で嘘もつくが、契約は守るって知ってるだろう?』
単細胞なメンチカツにはこういう餌は効果抜群。
単純なメンチカツの能力が、餌を前にして大幅に上昇していく。
『しゃあ! 言質は取ったからな!』
メンチカツのリミッターが更に解除され。
ゴゴゴゴゴっと私利私欲に満ちた魔力が充満する。
会場が異様な熱気に満たされ始めたのだ。
おそらく戦い慣れている主神レイドは気付いているだろう。
僕の作戦はメンチカツの超大幅強化。
それはこの戦闘に勝つためでもあるが、目的はそれだけではない。
こちらの宇宙には、こんな考えなしの暴力馬鹿もいるぞ――。
迂闊にこちらを利用しようとしても、この単細胞が何をするか分からないぞ。
ヤベエのは六柱の女神だけじゃないからな! と、観戦席に見せつけているのだ。