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201/211

最恐コンビ~いやおまえ……本当にどこまでやらかしたんだよ~


 会場に広がる無数の歓声。

 あちらこちらから漂ってくるのは大物獣神の濃厚な魔力。

 今日はギャンブルの当日――。


 それぞれ異なった魔術体系や魔術理論を持つ、多くの異世界の珍獣が集まっているようで……。

 観客席は色んなアニマルで埋まっていた。

 まあ此方の世界からも女神たちや、主神レイドが元住んでいた世界から大陸神や勇者と呼ばれる連中もきているようだが。

 ともあれ。


 朝も昼も夜もない空間、無限の広さのあるコロセウムの舞台に僕たちは立っている。


 あの観客の中には三獣神やら四星獣、白き鳩に扮しているとされる天を照らす光や、カラスに扮する冥界の王などもいるのだろう。

 が――。

 なんか場違いというか、空気を読まない連中もいた。

 太った猫や、酒を飲みまくっている鳩やタバコを吸いまくっているカラスが見えているのだ。

 おそらくは強大な異世界の神の眷属……あるいは分霊なのだろう。


 よーするに、ここには直接姿を見せていないのだ。

 根拠は簡単。

 逸話魔導書にあるほど強大な神が、あんな能天気でダメアニマルのような姿の筈がないからである。


 審判を務めるムルジル=ガダンガダン大王に僕は視線を向け。


『なんだ、異界の大物が賭けに来ると思ったんだが、来てるのは眷属とかなんだな』

『んぬ? 何の話であるか?』

『だってまさか、偉そうに玉座に座って、僕たちの世界のグルメを貪り食っている猫と犬とニワトリが、あの三獣神のわけないだろう? つまりは送り込んできたのはあくまでも三獣神の目となる部下、あるいは分霊。合ってるだろ?』

『なーにを言うておるか、あれが三獣神の本体であるぞ?』


 なるほど、そーいうことにしておきたいのか。

 僕は話を合わせることにし、大魔帝セットと呼ばれる装備をした偽物の三匹を……大魔帝ケトス、白銀の魔狼ホワイトハウル、神鶏ロックウェル卿として扱う事にする。

 ムルジル=ガダンガダン大王がなぜかジト目で僕に言う。


『おぬし、やはりなにか勘違いしておらぬか?』

『なにがだよ』

『まあよい――それにしてもだ。おぬしの弟……計り知れぬほど注目されておるぞ……』


 そう。

 かなり強固な結界で覆われた闘技場の舞台の上にいるのは、五人。

 僕とメンチカツと、審判のムルジル=ガダンガダン大王。

 相手側に会場のモフモフを撮影する主神レイドと、そしてハリモグラなエビフライ。


 会場には多種多様な観客がいるのだが……その視線の殆どがエビフライに向かっているのである。


 この闘技場の座標はニャービスエリア。

 宇宙と宇宙の境にある中継地点なので、百年に一度の制限もない。

 それでもここにやってくるのは制約が多いのか、やはりアニマル系の存在が中心である。


 軍属と思われる魔猫の群れや、獣神を引き連れるパンダや、二匹並んだ二足歩行の羊が、じぃぃぃぃぃぃぃっと弟を観察している姿は異様だった。


 僕が言う。


『おいこらおまえら! うちの弟は見せもんじゃないんだぞ!』

『えへへへ、なんか僕のこと睨んでるね~』


 目線なんてまったく気にしないエビフライの前に僕は立ち、文句あるのか!

 と、お兄ちゃんの構えでペペペペっと威嚇しているのだが。

 あぁん!? と会場を睨みながらメンチカツが言う。


『なんだこいつら、なんかおめえら兄弟の事を妙に緊張しながら眺めてやがるが――相棒にエビフライ、おめえらなんか向こうでやらかしたのか?』

『するわけないだろ!』

『んー、どうだったかなあ』


 弟にケンカを売るなら買うぞと羽毛を逆立てる僕に、主神レイドがふむ……と考え。


『そーいえばエビフライさん、あなた……向こうの宇宙を滅ぼしかけたのではありませんでしたか?』

『あ!』

『……マカロニさん、まさか忘れていたのですか?』

『……あっちの宇宙には、可愛い弟がやったことは全て無罪になるって言う法則とかないのか?』

『兄を守るためには何をしてもいいという法則は欲しいですが、今のところありませんね』


 そーいや、僕が死んでしまった宇宙ごとイケニエにして、僕を蘇生させようと暴走したんだったか。

 ”ダニッチの怪物兄弟”として、それなりに警戒されているとも話には聞いていたが。

 んーむ。


 目線が凄い……。

 若干三匹ほどの例外……こちらを眺めようともせずグルメを貪っている”ふてぶてしい顔”の猫と犬とニワトリ以外は、いざとなったら動けるようにと臨戦態勢なのだろう……。

 空気もすんごい重い。


 メンチカツがジト目で言う。


『エビフライ……てめえ、どんだけのことをしやがったんだ?』

『主神さんが言ったとおりだよ?』

『言った通りって……おまえ、マジで宇宙に住むすべての存在をイケニエにしようとしやがったのか……すげえな』


 決していい意味ですごい、と言ったのではないだろうが。

 前向きな我が弟は、エヘヘヘヘっとモキュっと頬を崩している。

 しかし……だ。


 僕は再び周囲を眺め……思うのだ。

 この注目のされ方は、本当にどんだけやばい事したんだ……これ、と。

 いや、やった内容自体は知ってるが。


 僕はムルジル=ガダンガダン大王に問いかける。


『なあ大王、なんか空気が凄いことになってるが――実際にどんくらいの被害が出たんだ』

『まあ……世の中には知らぬ方が良いという事もあろうて』

『なんだ、その微妙な反応は。死者は出てないって聞いてるんだが――違ったのか?』

『確かに死者はでておらん、でてはおらんが……ええーい! あのような出来事を余に口にさせるでない!』


 あのムルジル=ガダンガダン大王が獣毛を縮ませ話を切ってしまう。

 うわぁ……なんか知らんが、まーじでうちの弟は相当にやらかしたっぽいな。

 観戦席で商売しているニャイリスに視線を向けると。


『ニャ!? ニャーも口にはしないのニャ!』

『映像資料ぐらい残ってるんだろ? タダとは言わんが、誰か販売してくれても』

『あんにゃ危険なモノは映像に残せないニャ! 見たら取り込まれて廃人になるか死ぬのニャ!』


 どうやら、よほどあっちの宇宙ではトラウマになっているようだ。

 ニャービスエリアにて、少しは当時の様子も知ることはできているが……。

 僕はいかんせん、全容を知らないからなあ。


 まあ、そーいう過去があるからこそ、こーして獣の集い……今のエビフライの様子を強者たちが眺めに来ているのだとは理解した。

 とりあえずこっちは暴走もしないし、弟に危険はないと伝えるのにはちょうどいい場所ではある。


『まあ別にいいが、それでルールはどうするんだ?』

『そうですね――相手側の選手両方を戦闘継続不能な状態にすれば勝ちでどうですか? この空間では死亡状態にはなりませんが、やり過ぎて他の世界に破壊のエネルギーが漏れても困りますからね。そもそも私はあなたがた可愛いアニマルに対しての攻撃制限がついておりますが、それでも何があるかは分からない。倒しても存在消滅などはさせない……そういう制約はつけておきたいのですが』


 そーいやこの主神……モフモフには攻撃できないとかいうふざけた制限を本当に持ってるんだったか。


『まあこっちも弟を再起不能にはしたくないからな』

『決まりですね』


 勝負の方法の細かいルールを決め、いざ賭けの開始となったのだが。

 ……。

 そのオッズを眺め、僕は言う。


『おい! なんだおまえら! このふざけた配当は!』

『てめえら! オレと相棒をなめてやがるのか!?』


 僕が吠えた後に、メンチカツもあぁん!? とゴムクチバシで抗議の声を上げる。

 それもそのはずだ。

 なにしろこっちに賭けている数は少数、圧倒的な人数がエビフライと主神レイドに賭けているようなのだ。


 集計を取りながらもムルジル=ガダンガダン大王が片目をこちらに向け。


『そもそも主神レイドはあちらの宇宙においても、最上位の存在として知られておる。おぬしも知っておるように、一度、魔術無き世界への変換を願い”宇宙をリセット”という名の滅びに導きかけたのでな。そしてなにより……エビフライ……こやつの暴れ方を知っておったらこうもなるであろうて』


 ああ、なるほど……あっちの二人は宇宙を滅亡しかけた戦犯コンビなのか。

 僕とメンチカツが弱いのではなく、相手が悪いと言いたいようだが。

 こいつら……。


 まじでラスボスみたいに、大暴れしたんだろうなあ。


 しかし。

 この余興の意味……真の目的も何となく理解ができてきた。

 よーするに僕がこの前科持ち極悪コンビを止められるかどうか、それを彼らは確かめたいのだろう。


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