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神々の闘技場~お金のにおいとモフモフの香り~


 朝の女神ペルセポネーが生み出したのは、闘技場。

 観戦を余興としていた、あのコロセウムを想像して貰えばまあそのままである。

 最も、その規模も結界も膨大――神々が戦っても簡単には壊れない堅牢な作りとなっているのは明白だった。


 天気も時間も感じさせない、匂いの薄い空間である。


 ここで模擬戦をしろ、という事なのだろうが。

 僕は猛ダッシュでダダダダ!

 何故か既に中に入り込んでいる、見知った顔と大きなリュックに向かい声をかけていた。


『おいニャイリス、これはいったいどういうことだ?』


 ビクっと背負うリュックを揺らすのはネコの行商人にして、実は異世界に存在する最も強大な軍隊……魔王軍に所属し、魔帝という幹部の位まで持っている魔猫ニャイリス。

 見た目は可愛い猫ちゃんな彼は、作られたばかりの闘技場を鼻歌交じりで歩きながら、お金だニャ! お金だニャ!

 と、上機嫌で会場整備をしていたのである。


 つまりは、ここで金稼ぎをするつもりなのだろう。

 前回、僕は神々のギャンブルをぶっ潰したので、ここでもう一度ギャンブル……僕たちの勝負を賭けにしようとしているのだろうとは、瞬時に理解できた。

 ニャイリスが、グギギギギっとモフモフな首をこちらに向け。


『ニャー?』

『ただの猫の振りをして誤魔化せるわけないだろうが!』

『ニャニャニャ! ここは空気を読んでニャーのかわいい猫の振りに騙されるべきニャ!』


 はぁ……やっぱりこいつも一枚噛んでるでやんの。

 ようするに、この流れも誰かの計算内なのだろう。

 もっともその計算の主は、宇宙の外にいる偽神ヨグ=ソトースのような連中ではなく、宇宙の中の厄介な連中だろうが。


 まあこいつはネコの行商人だ。その裏にいる存在もだいたい想像はできる。

 ニャイリスの正面に回り込んだ僕は、やはり正面からジィィィィィっと氷竜帝の眼光で睨みつけ。


『で? 誰が黒幕……てか、胴元(主犯)だ?』

『そもそもあんたも悪いのニャ!』

『はぁ!? 何が悪いんだよ!』

『あのマカロニ印のウォーターサーバーの権利書にゃ!』


 読み通りである。


『よーするに、この流れを組んだのはムルジル=ガダンガダン大王か』

『そうにゃ! あんたはアレの維持コストと責任について説明しなかったニャ! 今大王はウォーターサーバーの品質保持で大忙し、品質を下げればあの水を使ってる全異世界から恨まれるからそれもできないのニャ!』

『ほへー、それは大変だなあ』


 ニャイリスがぐぬぬぬぬぬっと顔を尖らせ。


『にゃにを他人事みたいに言ってるニャ! 氷竜帝マカロニ氏、あんたは大王をハメたのにゃ!』


 図星であるが、一応言っておくが僕は不義理などしていない。

 僕はわざとらしくペンギン仕草で首を伸ばし、キョロキョロと周囲を探すフリをしてみせる。


『あんたのことニャ、あんたの!』

『えぇぇぇぇ? 心外だなぁ』

『ぶにゃにゃにゃ! とぼけるならとぼけるで、ちゃんとやるニャ! にゃんニャ! その反応は――!』


 ニャイリスが仁王立ちになり、ビシっと僕を指差しシャァァァ!

 威嚇する姿をニッコリ撮影する主神レイドの気配を感じつつも、僕はこほんと咳払い。

 茶番はこれくらいでいいか。


『ハメたってのは――神々が僕らのあの時の戦いをギャンブルにするって分かっていて焚きつけて、それを僕が妨害するって分かっていてこっちに協力して、流れを誘導。他の獣神が僕に協力する前に専属で支援、最終的に銭投げの最大火力を出すのを理解し協力――最終目標はウォーターサーバーの権利書を買うことにあった。”あの”未来を読む力のあるマハラジャ猫のことか?』


 あの時の戦いは、他の獣神も僕に協力する意思があったはず。

 宇宙全土の危機なので当然だ。

 けれど、ムルジル=ガダンガダン大王は自分の交渉が有利に進むように調整し、結果として僕からあの権利書を買うことができた。

 まあ、本当に僕が負けそうだったら他の獣神に助けを要請するつもりもあっただろうが。


『はぁ……やっぱり気付いてたのニャ』

『そりゃああっちは商売のプロだが、こっちは詐欺のプロだからな。大王の意図をなんとなく気付いていたから――こっちも契約書に細工をして、大王の作戦を利用させてもらっただけだ。ウォーターサーバーの権利書を買い取ろうと動いていたあいつに一人勝ちさせるのも、なんかアレだしな』


 ニャイリスはさして怒った様子もなく耳を落とし。


『だからマカロニ氏の上を行こうとするのは悪手だって言ったのニャ』

『それで、僕が眠っている間の一年はどうやって最高級の水を確保してたんだよ。あの水は一度飲むと、もうそれ以外の水は飲めなくなるからな。顧客もそれこそ山ほどいるし、大物もいただろうし――大変だっただろ』

『あんたのところの腹黒女神がお困りのようですねって、腹黒な笑みを浮かべてやってきたニャ――こうなることを予測していたみたいで、準備してたらしいニャ。おかげで水の供給が途切れることはなくニャったけど、大王は結構な額の水道料金を払ったって話なのニャ……』


 間違いなくダゴンだろう……。

 あいつも本当に食わせ物だな。

 となると――この施設は……。


『それで、大王は儲けが作れなかった分をこの闘技場で取り返そうって事か』

『そうニャ! おみゃぁからウォーターサーバーの権利を買い取ろうと暗躍していた大王の自業自得なのは分かってるニャ! けれどニャ! その金で偽神ヨグ=ソトースをぶっとばしたのも事実ニャ、協力して貰うのニャ!』

『肝心の大王はどこ行ってるんだよ』

『あそこであんたのところの主神レイド氏に捕まって、モフモフされてるみたいだニャ』


 まあ、ムルジル=ガダンガダン大王はキュートな短足猫。

 マンチカンやらスコティッシュフォールド系の魔猫なのだ、そりゃああのモフモフ狂いの近くにやってきたら捕獲されるか。

 普段は胡散臭く、慇懃やら鷹揚といった方向の性格だがあれでも本気で強い神性。

 ムルジル=ガダンガダン大王といえど、ネコ吸いと呼ばれるモフモフに顔を押し付けられる被害を受けてしまうのだろう。


『おい、こら放さぬか!』


 あ、本当にあっちで捕まってるな。

 図にすると、超絶美形でスタイルもいい皇帝のような糸目イケメン神が、スーハースーハーと、ナマズ帽子をかぶった魔猫大王を吸っている……。

 そんな奇妙な状態である。


『レイド=アントロワイズ=シュヴァインヘルト=フレークシルバーよ、あいかわらず貴様は変わらぬな! 余を誰と心得る! 天下の四星獣、ムルジル=ガダンガダン大王であり……っ、ええーい! 頬をすり寄せるな! マカロニよ! ニャイリスよ! そこにいるのであろう! 余を助けよ!』


 メンチカツもエビフライも、うわぁ……と引いている。

 まあここでムルジル=ガダンガダン大王に恩を売るのもありか、と僕は全ての異能を発動できる能力にて、”交換の異能”を発動。

 ニャイリスと大王の座標を変換し、大王を救出。


 ニャイリスの悲鳴が響き渡っているが気にせず。


『よお、大王。こっちからするとさっきぶりなんだが、一年ぶりだな』

『ふむ、どうやら本当に覚醒し(めざめ)たようだなマカロニよ。あれほどの規模の超攻撃だ、反動もそれなりとは思っておったが――無事ならばなによりだ』

『お? なんだ大王、あんまり怒ってないんだな』

『余を欺いたその手腕への褒美である、それに――ぐわははははははは! 余とて汝の水の利権を奪おうと画策していたのは確か、お互いさまというやつであるな!』


 豪胆な笑いなので、遺恨はないようだ。


『どうだ、マカロニよ。余は本気でそなたの手腕を気に入った、余の配下、或いは同胞となる気はないか?』

『ま、互いに必要となったらまた協力するだろ?』

『ふっ、そうであるな――貴殿に授けた余の逸話魔導書はそのままおぬしが持つと良い、友好の証だ』


 なーんか、カモノハシがこっちを睨んでいるが。

 面倒なのでスルー。

 僕は確認するように空気と魔力を真面目な方向へと変え――闘技場内部を見渡し。


『猫の足跡銀河の先の連中も来るんだな?』

『……向こうでもやはりおぬしを含む三獣王の実力や性格、危険度を把握しておきたいようであるからな。ただ、安心せよマカロニよ。おぬしにはあの時……偽証魔術に対抗する術……おぬしの逸話魔導書を即座に販売してもらったという恩がある、悪いようにはならんだろう』


 情けは人の為ならず、というやつかもしれない。


『で? 大王、今回の賭けでいくら儲けるつもりなんだ?』

『そう怖い顔をするな! あの時は大事な戦いを賭けたのが問題であって、此度は模擬戦、はじめから遊戯の一環でもあろう? このギャンブルを止める大義名分もなし! 余は合法にて儲けるだけなのだ!』

『はぁ……うちの商業ギルドのマカロニ隊とメンチカツ隊も呼ばせて貰うからな』


 こっちも商売をさせて貰おうとすると、大王は頷き紙を召喚すると。

 すぅっ――と、協賛金の書類を肉球で押し出し、ニヒィ!


『この闘技場にて商売をするのならばまずはこの書類にサインが必要であろうな』

『ちゃっかりしてやがるな、まあ構わないけどさ』


 既に多くの商会や異世界のギルドも協賛金を出しているようで……。

 そこには豪商貴婦人ヴィルヘルムの名もある。

 あの貴婦人ハイエルフも、なかなかどーして……やはりしたたかそうである。


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