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獣王くんうぉーず~神が与えしその姿~


 天を衝くかの如く鬱蒼と育った銀杏ジャングルの砂漠。

 朝か夜かも観測できないほどの樹木に覆われた、闇の中。

 僕たちとダガシュカシュ帝国の面々の前――。


 神話の名残を感じさせる聖水のオアシスにて。


 呼びかけに応じて揺れる水面に発生したのは、魔力を伴った渦だった。


 そして女神は僕たちの前に降臨した。

 この世界の女神とは、ケモノのような姿かたちを持っているようだ。


 渦から出てきた女神の四肢、その先端の色は黒、平たい水掻きのような足でペタペタペタ。

 あぁ、どっこいしょ!

 と、オアシスから上がってブルルルルル! 水分を吸った獣毛を、水を浴びた犬のように震わせ飛ばし。

 嘴を、クワっと広げ!


『おい、こらペンギン野郎っ、てめえ! こっちが必死に隠れてるっていうのに場所を明かすたぁ、どーいう了見だ!? あぁん!? あんま舐めてっと、てめえの短けぇ足を吊るして、干物にすんぞ!?』


 うわぁ、口の悪いカモノハシだ。

 ……って!?


『は!? 海の女神ってカモノハシだったのかよ!?』

『ああぁぁぁん!? おいこらクソペンギン! 誰があのくそアマだ!? オレをあの腹黒女と一緒にするんじゃねえ、殺すぞ!』

『くそアマっ……て、ああそうか、なるほどそーいうことか』


 海の女神本人ではなく、その眷属なのだろう。

 しかもどうやらそれなりに強力な存在のようだ。

 今の殺すぞとの叫びはスキルとなり発動……<毒竜帝の咆哮>との鑑定情報が、僕のスキルによって自動認識されている。


 効果は僕の<氷竜帝の咆哮>と同じ。

 格下相手をひるませ、動けなくすることにある。

 僕以外の全員が、まるで神にひれ伏すように冷えた砂漠に倒れこんでいる。


 リーズナブルまでもが怯んでいるところを見ると、甘く見てはならない相手でもある。

 が――。

 まったく怯まない僕は言う。


『水の女神に誤解しちゃうような力ってことは、おまえ、僕と同族か』

『あぁん!? 誰がてめえみたいなクソと同族だ!?』

『いちいちメンチを切らないと会話ができないって……はぁ、水の女神もなんでこんな珍獣を監視によこしてきたんだか。理解に苦しむね』


 それに、と。

 僕はいったん言葉を区切り。


『なんでカモノハシ?』

『ししし、知るかァァァァァァぁ! ぐががががががががぁぁぁぁ! オレが一番気にしていることをっ! オレは、オレはカモノハシなんかじゃねええぇぇ!』


 地雷だったようだ。

 もしかしてこいつも迷い込んだ転生者かもしれないと僕は眼鏡を取り出し。

 鑑定!


 エラーである。

 ……。

 おや、格下判定ではないのかな。


『ふーん、レジストされたってことは少なくともお仲間ってことは確定かな』

『さて、どうだろうな――って、なんで笑ってやがる?』


 ちなみにカモノハシとは鳥のくちばしのような口を持っていて、卵生。なのに乳から分泌する栄養で子育てをするので哺乳類であり、なのに主に水の中で生息している。

 ようするに、珍獣である。

 ちゃんとした鳥類である僕と比較すると、なんとも愉快な存在だ。


 ちょっと違うかもしれないが――。

 ずんぐりむっくりとした茶色いアヒルが、ぬいぐるみっぽく横に膨らんで、二足歩行で歩く生物に変身した……そんな珍獣やら魔獣を想像してもらえばいいだろう。

 まあ本物のカモノハシはさすがに二足歩行はしないだろうが。


 僕は思わずフリッパーで嘴を押さえ。

 笑いを堪えきれずに爆笑!


『カ、カモノハシがヤクザみたいにイキって! し、しかも立って歩いてるって! ぎゃはははははは! だめだ、これ、だめだ!』


 文字通りに笑い転げた僕はフリッパーで地面を叩き。

 涙をこらえながらの大笑い。

 その笑いが更に相手を刺激したようで、カモノハシのくちばしがググググっと開き。


『シャラアアアアアァァッァプウ! あのくそアマからは手を出すなって言われてたがっ、もう勘弁ならねえ! 表に出な!』

『いや、ここは表だし』

『そ、そーいう意味じゃねえ! 観察してたから知ってたが、てめえ! そのクソみたいな性格はどーにかなんねえのか!?』


 クソが口癖な相手もどうかと思うが。


『そーは言うがさ。カモノハシが二足歩行でオアシスから出てきたら、ふつう笑うだろ?』

『死ね! ヤンキーみたいなうぜぇ眉を整えてる短足ペンギンだけには言われたくねえぞ!?』

『眉? ああ、この飾り羽のことか』


 僕はふっふっふとドヤ顔を浮かべ。


『どうだ! いいだろう! これがマカロニペンギンがマカロニって言われるゆえん! かつてイタリアの伊達男たちを真似た英国のやんちゃボーイたちが、奇抜な格好をしたってことが始まりのマカロニ族。この黄金の羽がまさに伊達男マカロニってことで、マカロニペンギンってわけだ!』

『イタリア!? 英国!? マカロニペンギンの由来を知ってるってことは!? まさかおまえ!』

『あれ、もしかして気づいてなかったの?』


 彼もようやく気が付いたようだ。

 ギャグ化していた空気を切り替え、まじめに僕は言う。


『そうさ、おそらくだけど僕たちの故郷は――』

『さては勉強ができるやつだな!?』


 ……。

 声が被ったと同時に、僕はニヒィ!


『わざわざ勉強ができるヤツっていうってことは、おまえ! 勉強が苦手なのか!』


 図星だったようだ。


『バ、バカ野郎! んなことあるか!』

『いいや! 確信したね! やーい! 勉強ができないカモノハシ!』

『いや、ガキじゃねえんだから……そんな風に言われてもぜんっぜん、効いてねえからな?』


 といいつつも、カモノハシの嘴はプルプルと震えている。

 その額には、びっしりと青筋が浮かんでいる。

 これがいわゆるやからだったり紋々(モンモン)を刻んだヤの字の人なら、僕もちょっとビビるだろうが。


『カモノハシだからなぁ……』

『ペンギンに言われたくはねえぞ……? わりとまじでな』

『まあいいや、もう知ってるだろうけど僕はマカロニ。この世界での個体名は氷竜帝マカロニらしい、これでも分類上は獣王、天の女神アシュトレトって問題女神の眷属らしくってね。以後よろしく頼むよ』


 おそらく相手も転生者。

 彼が元に戻りたい、元の世界に帰りたいと望んでいるのならば協力関係を結ぶ未来もあるかもしれない。

 しかもおそらくだが……カモノハシのオスならば毒をもっている。

 植物を減らす手段として、有効と考えられるだろう。


 もしかしたらその毒を用い、この状況を何とかしろと派遣されたという可能性もある。

 僕は友好的に翼たるフリッパーを差し出したのだが。

 ベシンとカモノハシチョップで叩き落とされてしまった。


 なぜかカモノハシはじっと僕の顔を見て。


『よろしくするわけねえだろう!?』

『なんで?』

『さんざん人をコケにしておいて、するわけねえって話だボケかす!』


 あの程度で、心の狭いヤツである。


『せめて名前を聞かせてもらいたいんだけどなあ』

『誰がいうか、死ね!』

『つまり女神ダゴンの眷属は名乗られても自らの名を名乗り返せない上に、死ねって罵倒する。そーいう輩ってことになるけど。それで大丈夫なのかなー!?』


 海やら水の女神ダゴンがどのような神性かは知らないが。

 カモノハシにするくらいだ。

 どーせ、女神アシュトレトの同類だろう。


 面倒な相手の、しかも上司のメンツを潰したらどうなるか? その辺はこういう輩の方が詳しい筈。


 チッと露骨な舌打ちをし、カモノハシが言う。


『……メンチカツ』

『ん? え? なに……?』

『メンチカツだよ』

『――食べたいの? 悪いけど、まだうちの国家でもメンチカツは作ってないけど』


 ブチブチブチっと額の血管を沸騰させ。


『ちげえんだよ――ッ! てめえが名乗れって言ったんだろうが! オレの名はっ』


 自らのステータス情報を開示し、プルプルと羞恥と屈辱感をにおわせる顔で。

 ぼそり。


『ど、ど……毒竜帝メンチカツ』


 聞き間違えじゃなければ。

 メンチカツと名乗った。

 ああ、そーいうことか。


 僕は気づいたけれどわからないふりをし、すっとぼけ。


『は?』

『だから――ッ! メンチカツだっつってんだろう!』

『ぶぶぶ、ぷぷぷぷぷ! メメメメ、メンチカツ!?』

『笑うなぁあああああああぁぁぁぁああぁぁ! てめえ、マジでその嘴引っこ抜くぞ!』


 と、メンチカツ色の獣毛を膨らませカモノハシは大激怒。

 ああ、たしかにカモノハシって少しメンチカツに似てるかもしれない。


『だってメンチカツって!』

『てめえのマカロニだってぜってぇ、マカロニサラダとかマカロニグラタンとかそっちから来てんぞ!?』


 毒竜帝メンチカツさんのツッコミに、僕の黄金飾り羽がビクっと跳ねる。

 いやいやいや。

 それはない。


『いーや! 美の女神は僕を伊達男のマカロニだって命名したから!』

『はん! どうだろうな? てめえだってあの女神どものてきとーさは気付いてやがるんだろう?』


 やばい、言い返せない。

 僕の知恵と勘が言っているのだ。

 たぶん本当に……マカロニサラダとかグラタンから名付けられているだろうと。


『っく、僕としたことがっ……』

『ふん! 人を馬鹿にした報いだ、この野郎!』

『さすがは毒竜帝、竜帝の名を冠する獣王ってことか――いいだろう、僕はおまえを強敵と認めよう!』


 ビシっとフリッパーで指差してやると。


『いや、別に敵じゃねえんだが……それにだいたいこの”竜帝”ってなんなんだよ』

『さあ』

『さあって……知らないのに凄んでやがったのかよ! てめえも女神に負けずとも劣らずテキトー野郎だなっ!』


 実際、スナワチア魔導王国で確認できる資料や文献に限った話ではあるが、竜帝と名がつく魔物や魔獣の存在は確認されていない。

 僕は言う。


『なあ、ちょっと真面目な話なんだが』

『んだよ』

『おまえもジズとかリヴァイアサンとかベヒーモスだとか、そんな感じのアレか?』


 僕の指摘にメンチカツさんは嘴を開け。


『じゃあ、やっぱりてめえもか』


 つまりはカモノハシたる彼も、天と地と海に関するケモノ。

 例の三匹の獣王の合成獣なのだろう。

 きっと、僕と同じく女神にはイラっとさせられていると考えられる。


 交渉できる価値や隙はありそうだと、僕は考え。


『なあ。とりあえず情報交換をしたいところなんだが、まずはその魔力をどーにかして欲しいんだけど?』

『あぁん? 魔力がなんだって?』

『いや、おまえの魔力にてられてウチの連中も、ダガシュカシュ帝国の連中も動けないんだよ』


 僕は獣王の気迫とか重圧、プレッシャー的なモノをしまっているのだが。

 メンチカツさんは慌てて魔力波動ともいうべきプレッシャーを解除し。


『すまねえすまねえ! しっかし、分からねえな。なんで王様になってやがるんだ、てめえ』

『まあ色々とあってこうなっただけとしか』

『色々って……オレなんかちまちまバイトしながら生活してるっていうのに、王様暮らしとかありえねえだろう。なあ、どうやって出世したんだよ! 教えろよ!』


 おそらく僕と同じく、人類が魔術を悪用したときにやってくる盟約の獣王が――それも二足歩行のカモノハシがバイトしてる姿もなんか笑えるが。

 まあ今のところはまだ友好的にしておこう。


『教えろもなにも……本当にたまたま流れでこうなったんだよ』

『いいから聞かせろ! オレはもうっ、人間どもから「店番できて偉いのねえ」って頭を撫でられながら小銭をもらう日々にはウンザリなんだよ!』


 こいつ、獣王の力を活かしきれてないのか……。

 ここで話をしないで関係がこじれても面倒だと、僕は王になった経緯を語りだす。

 ――。

 話を聞き終えたメンチカツさんは、露骨にドン引きした様子で。


『国家相手に詐欺を働いて? 自分が販売する水に依存させて? しかもテロリストに加担して国家転覆って……おまえ、頭どーかしてるんじゃねえか?』


 たしかに、まあ言葉にするとそうなるか。

 だが僕を襲ったのは向こうが先。

 僕は言う。


『そうは言うがな、こっちは命を狙われてたんだし。お互い様だろう』

『なるほど――タマ狙われたんじゃ、まあしゃあねえな。ケジメってやつは必要だかんな』


 なぜか納得してくれたようだ。

 この毒竜帝メンチカツ……悪い奴ではなさそうだが。

 品行方正な僕と違って、柄はあまりよくないようである。


 問題があるとしたら……海の女神は本来リヴァイアサンを眷属とする存在であり……。

 彼女はたしかあの日、僕の転生に反対していた女神。

 僕個人に友好的かどうかはかなり怪しい。


 ならばと。

 僕はぽん。


 どこでも換金できる<黄金の延べ棒>を差し出しニッコリ。


 賄賂という名の<氷竜帝の根回し>を発動!

 女神ダゴンから彼が何を命じられているのか。

 そして何をしていたのか、聞き出すことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 水陸両用で嘴とペタペタ歩ける奴か……思いつかねぇ…… フライキング様はエラそうで飛べる鳥さんな気もするなぁ 居ないはずがないよねフライキング様の眷属w ブラウンペリカンか尾長ガモ辺りを予想し…
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