宇宙一のマカロニペンギン ~怒りのフリッパー~
カモノハシの像がエリアを覆いつくすように降り注ぐ中。
羽毛を輝かせて氷の上を腹滑り。
宇宙を飛ぶマカロニペンギンの光景がここにある……。
……。
『酷い絵面であるな』
『やかましい! そんなの僕が一番分かってるんだよ!』
並走し、冷静に突っ込んでくる逸話魔導書の中のムルジル=ガダンガダン大王にツッコミを返し――。
そのまま氷の道を自作しつつ、加速!
僕は偽神ヨグ=ソトースに再起不能なダメージを与えるべく、全力疾走!
スケールは無駄に広大だが、実際はこの宇宙の枠の中でしか行動できない相手に向かい!
更に挑発を発動!
『あれ? あれれれー!? おまえさあ――まさか、自分が陥れたメンチカツを計算に入れずに、そのせいで追い詰められてる!?』
『否、否、否! このような例外は、認めぬ!』
『例外を認められない、つまりは計算に入れられない程度の力しかないってことだろ!? ほへー! 驚きだな、それで神を名乗れるのか!? 僕なら恥ずかしくて消えたくなるな!』
おそらく、本当にこいつは理の外にある上位存在……僕らより上位の次元にいる管理者のようなものと考えるのが無難だ。
仮に僕らが、内の中側にいる水槽の中の稚魚ならば、こいつは内より外側で水槽を管理する側の存在。
人はそれを神、あるいは創造主、全ての父と呼ぶだろう。
だからこそだ。
僕の神煽りは、この偽神ヨグ=ソトースにはダイレクトに届く。
なにしろ僕らとて、池の中の稚魚や道を歩く蟻に本気で嫌な部分を煽られたら、カチンとくるだろう。
そしてこいつはそれをスルーできるほど大人じゃない。
よーするに、幼稚なのだ。
メンチカツ像に翻弄され、行き場を失いつつも宇宙が吠える。
『聖母よ! 原初の母たるシュブニグラスよ! 我に力を貸せ! 貴様の分霊体も中に送り込んでいるのだろう!?』
必死の叫びだった。
それほどにメンチカツ像が脅威なのだろう。
まあ、僕もこれに潰されてメンチカツ脳にはなりたくない。
だが、偽神ヨグ=ソトースの呼びかけに返答はない。
もしかしたら聖母と呼ばれるシュブニグラスも、既にどこかの逸話魔導書の物語にて、討伐されている……或いは改心している可能性もあるか。
これもおそらくは、元魔王で三毛猫の彼のおかげだ。
散々に煽った直後、若干の引きを作るべく。
ペーラペラペラ!
『おそらく子供の頃の僕はあの日、本来なら自分の宇宙には直接干渉できない筈の、概念みたいな存在のあんたを呼んだ。今もこうして僕の身体を乗っ取ろうと躍起な所をみると、やっぱり僕をどうこうした後じゃないと夢世界の外に出られないのは確定だ。あんた、偉そうにしてるが制限の中でしか行動できないんだろ?』
それはおそらく、自作した二次元世界……よーするに僕らが漫画の中に入って直接なんだかんだできないのと、同じ原理。
……。
いや、訂正するか……たぶん異世界の獣神連中なら、自作した漫画の中にすら入り込む輩はいるだろう。
とにかく!
そういう破天荒な例外を除くと、基本的に低次元に入り込むことはできない。
全ての父たるこいつも、それは同じなのだろう。
ただ僕らとはおそらく、条件が違う。
たとえば僕らが、自分で描いた絵の兵士を殺したいとする――。
その時は単純に描いた兵士ごと紙を切ったり、丸めて捨てればいい。
他にも自分で描いた兵士の絵の横に、強力な魔物を描き足し、次のページに魔物が勝つ様子を更に描きこめば終わり。
兵士を直接的に殺すことができる。
しかし、こいつらは違う。
推測するに高みからの干渉……自分の一部分を入り込ませる程度が限界なのだ。
こいつの最終目標が自分自身を神として召喚させ、この宇宙を好きなように操作しようとしているとする。
手っ取り早いのは僕を直接操って、自分自身をこの世界に召喚させればいい。
だが、それができない。
僕に自分自身を召喚させたくとも、僕に外から命令し、そう動くように直接動かすことはできないのだ。
やりたいならば、まず僕にそう行動させるための駒を制作し、それを自分で送り込む必要があるのだろう。
それがおそらく僕の両親であり、メンチカツの人生を壊したあの引き取り手。
自分自身の分霊体のようなモノを創り出し、外から中へと送り込み……子供を作る。
その子が僕であり……全ての父であるヨグ=ソトースの子供であるがゆえに、神をも呼べる特別な神の子となるのだろう。
そんな神の子を追い込み、そしてさりげなくクトゥルフ神話の書を置いていく。
それが誘導、間接的な干渉。
運命を操り、望む盤面を作っていた。
そう上手くいくとは思えないが……。
実際の話。
まんまと僕は両親の誘導に従い、偽神ヨグ=ソトースを僕の夢の中に召喚してしまったのだ。
後は夢の中から女神に拾われ成長した僕を乗っ取り、この宇宙を好き勝手に乱している”獣神や女神を倒せる存在”として宇宙に降臨。
この宇宙を維持するために、多くの神を殺すつもりなのだろう。
それも、自分に都合のいいように。
だが、そうなるように配置されていた駒も、作戦も全てがパァ。
元魔王の三毛猫が持てる限りの力を使い、運命を再配置した。
その結果がこれ。
僕は今、おそらく僕の創造主に逆らい。
ズザジャジャジャジャダァァァァァ!
きつい一撃を与えるべく、僕の内宇宙に作られた氷の道を腹滑りで滑走しているのだ。
『追い詰めたぞ、この詐欺神が!』
逃げ場を失い、場所を固定され。
宇宙という広大な存在ではなく。
僕の夢の中に寄生する偽神ヨグ=ソトースとしての敵が、今、目の前にいる。
虹色に輝く発光体。
それが今のこいつの正体。
目視で来たのならば、おそらく潰す事とて可能。
『待て。汝等が外なる神と定める我らは、ただ、全ての宇宙の存続を』
『はいはい、すごい凄い。でもな、僕の目的は復讐。あんたが僕にしてくれた仕打ちと、相棒とやらの人生を潰してくれたことへの私怨なんで。そーいう、宇宙の存続がどうとかの、尊い目的になんて興味ない』
『待て、待て、待たれよ。我を滅することは宇宙への!』
本気で慌てていることを見ると、ここまで追い詰められると宇宙のリセット能力は使用できないとみていいだろう。
正確にいうのなら、もうやり直したくない。
倒されたくないという感情が勝っていると思われる。
こいつも宇宙の内側にいる以上、この宇宙での法則でしか行動できない。
そして感情や心とは魔力の源。
ここで徹底的に倒されると、心が縮み、魔力の喪失と共に能力が減ると考えていいだろう。
まあそれでもリセット能力に似た力は使えるかもしれないが。
どちらにせよ、ここで一発ぶんなぐる。
メンチカツ像に圧迫されている宇宙を見逃すほど僕は甘くない。
そもそも僕は善人でもない。
詐欺師なのだ。
怯える神擬きを眺め――グペェ!
僕は僕が持つ、一番破壊力のある攻撃を準備。
魔導契約書に契約を刻みつつ、僕はつまらないモノを見る顔で圧迫される宇宙を見る。
『くっだらない神様を世界に招き入れて呼んじゃったってことかな。はぁ……なんか、すげえ残念だな。落胆ってやつ?』
『我は、我はキサマの父でもあるのだぞ!』
『はいはい、ワロスワロス。あのなあ、そーいう命乞いはちゃんと父親としての役割を果たしたヤツの特権であってだな。僕を見ようともしなかったおまえに、そーいう感情は育ってないんだよ』
契約書に記載する内容は、僕の最も大きな財産。
ペンギン印のウォーターサーバーの権利譲渡。
僕は既に主神レイドと六女神の世界、そして猫の足跡銀河の先にもウォーターサーバーを感染させている。
宇宙に生きる多くのモノに関係する水の利権だ。
その権利譲渡の額は、おそらくどんなモノよりも高額。
矛盾する言葉ではあるが、最も高い権利の一つとなるだろう。
宇宙一高い権利をムルジル=ガダンガダン大王に譲渡。
そして、その代価を大王の能力で全て攻撃力に変換し。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
『ま、待て!』
『やかましい! 待てと言われて待つバカなんて、メンチカツぐらいしかいないんだよ!』
今、魔力を溜めるフリッパーには。
宇宙史上最高値のダメージ値が、銭投げによって実現しているだろう。
僕はいままでの憤懣を込め。
『これが獣王の制裁! なにが神だ、バカバカしい!』
ペペペペペペペペペェェェ!
『自業自得だ――、本体に戻って反省しろ!』
それは――フリッパーによる、ぶん殴り!
ペンギンの殴打は、実はかなりの高火力!
そこに銭投げ火力が乗れば、どうなるか!
僕の夢世界に。
宇宙最大火力が迸る!