良かれと思って~人の夢の中を汚染するな! いやマジで!~
外が何やら騒がしいが、氷竜帝マカロニこと僕は夢の中で戦闘を継続。
宇宙そのものといえる偽神ヨグ=ソトースへの嫌がらせの真っ最中。
安全地帯を作るメンチカツ像が、魔力の消耗やら、なんらかの理由で消滅するまで一方的にこちらは魔術攻撃。
こうしてメンチカツ像が消えると、次のメンチカツ像まで猛ダッシュ!
その間が相手にとって攻撃期間。
さすがに一方的に攻撃され続けるのは、全ての父を名乗る変人でも腹に来るのか。
宇宙が虹色に輝き、惑星規模の広大な魔術式を構築。
三次元世界の表示限界と思われる十重の魔法陣を展開。
大規模な攻撃魔術で僕を攻撃しようと、神のくせに魔術に頼って攻撃を仕掛けてきているのだ。
当然、僕はそこを揶揄い挑発するべく相手の弱点を探り。
そして、魔術理論を逸話魔導書から検索。
相手がおそらく嫌がることを選び、猛ダッシュしながら――ペペペペペ!
『ま、まさか魔術!? 魔術ってのは異世界の魔王が開発した、世界の法則を書き換える技術の総称だろ? しかも、たしかその原理は他者の力のレンタル、かつて魔術の祖たる魔王が宇宙に浮かべた魔力球から力を借りてるらしいじゃないか! はん! おまえさあ! 全ての父を名乗ってる宇宙のくせに、おまえ自身の力じゃなくて宇宙の命が作り出した魔術に頼るのか!?』
『魔王とて我が生み出した全能神。故に、その創造主たる我がその力を――』
言葉を遮り、グペェ……!
魔術の祖を創り出したのがこの宇宙だとしても、その魔術に頼っているのは事実。
つまりはこいつはそれほど全能な存在ではないのだろう。
そこをつくように――。
『あれ? あれあれあれ? ま! まさか本当に自分の子供が生み出した魔術に頼らないと、僕を取り押さえることができない? うへぇ! それで全ての父!?』
『黙れクソペンギンめっ』
『黙れと言われて誰が黙るか、バァァァァァァカ! 悔しかったら僕を捕まえてみることだな!』
バァァァァカ! バァァァァカ!
と、煽る度に僕の羽毛からは挑発の魔力が発生。
相手の思考力を低下させていく。
虹色の球体を輝かせる宇宙が、荒ぶりながら周囲を揺らし。
宣言する!
『これで終わりだ――貴様を一度消し、再構築したその器さえ使えばよいだけよ! 虚無の中へと消えよ!』
相手の操作する十重の魔法陣が、北斗七星の配置で輝き。
そして、それは発動される。
『無差別広範囲破壊魔術:<核熱爆散>!』
相手の魔術が完成した、その瞬間。
くるっと振り返った僕は、左右のフリッパー同士を叩き。
パン!
単純な魔術を発動!
『汎用解除魔術:<解呪>!』
挑発によって思考力が下がっている偽神ヨグ=ソトースの魔術を、パキン!
正面から崩壊させ魔術をキャンセルしてみせていた。
十重の魔法陣が流星のように、宇宙に散って消えていく。
僕の妨害が成功していたのだ。
『バカなっ!』
『ここは僕の夢の中だからな! それに、魔力ブーストも万全! おまえが魔術っていう技術体系、型にハマった理論に頼る以上、同じその理論で対抗すれば魔術式も打ち消せる。当然の結果だろうが、バァァァァヵ!』
『くくくく、くそペンギンがぁああああああああああああああぁぁぁあぁぁ!』
あ、壊れた。
支離滅裂になりながらも相手は大規模破壊魔術……、特に破壊力をイメージしやすい核分裂に近い魔術、僕も扱える主神レイドが得意としたアルティミックを連打してくる。
――が!
僕は主神レイドの横っ面すら、いつかフリッパーで叩いてやろうと画策しているペンギンだ。
その主神が得意とする魔術への対策ができていない筈がない。
僕は宇宙が放ってくる核分裂を読み解き――逆算!
魔術が計算式によって宇宙の法則を書き換える現象なのだとしたら、その反対を同時に計算。
答えがゼロになるようにこちらも干渉すれば、理論的には全ての魔術を相殺できる。
つまりは――!
『解除! 解除! 解除! 全部なかったことに、<魔術相殺 >にできるってことだよ!』
実際に全ての十重の魔法陣を打ち消し!
パキンパキンパキン!
今までは最大魔力が足りずできなかったことが、できるようになっている。
魔性化した影響で魔力が無限に近い形になったおかげだろう。
安全地帯から安全地帯への移動もスムーズになりつつあった。
問題があるとすると、メンチカツ像の残数だろうか。
……。
いや、まああんなものが僕の深層心理にズラズラズラ……僕の心の中ともいえるこのドリームランドに違法建築されているのも、結構な問題なのだが。
僕の理想としては、メンチカツ像を全て破壊して貰ったと同時にケリをつけることか。
相手の精神から逆算し、理想のタイミングを計り始める僕……その手にする逸話魔導書の中から声がする。
安全地帯から安全地帯への移動中は危険だからと、書に逃げるムルジル=ガダンガダン大王である。
『気を付けよ! 驚異的ななにかが、くるぞ!』
『は!? なにかって、そんなの計算にないぞ!』
『何事にも計算外はあろう! おそらくは外界からの干渉であろうな! 安全か安全ではないかの判断を余の未来視にて、共通金貨一億枚で行うが、どうであろうか?』
こいつ! いや、まあこれでも相手は金銭を力に変える異世界の獣神。
金銭の価値がなくなると力も消失する。
つまりは本当に金がないと効果が薄い魔術体系なので、大王の要求も真っ当なのだ。
その中でも、なんとか工夫した大王が――本当にお値打ち価格にまで下げてくれているのだろうが……っ。
『だぁあああああぁぁぁ! 仕方ないな!』
ケチっている場合ではないと承諾し、契約書にサインをする。
『大王! 早くしろ!』
『今やるので慌てるでない!! ふうぬぬぬぬぬぬ! かぁ!』
大王が未来予知を発動。
この夢世界に迫る脅威を感じ取り、ビシ!
なぜか困った様子で顔面を硬直させている。
『おい。なにがあった!?』
『け、結論から言えば問題はない……問題はないのだが、おそらくおぬしにとっては問題であろうな』
『結論から言ってないだろうが! なにが起こるか早く言え!』
『そなたの夢世界をほぼ埋め尽くすほどの、膨大な数のメンチカツ像が送られておるのだ! おそらくはメンチカツが偽神ヨグ=ソトースに復讐するため、そしておぬしに助力するために、安全地帯ともいる像を送り込んできているのだろうが……っ』
は!?
『夢世界を埋め尽くすほどのメンチカツ像!?』
『ええーい! だから余も慌てふためいたのだ! あやつ! 安全地帯のメンチカツ像でそなたの深層心理を圧迫し、中に巣くっている偽神ヨグ=ソトースを圧死させるつもりなのであろう!』
『そりゃあ結界で相手を圧殺するみたいな戦い方はあるが』
それを僕の夢の中でやるな。
いやマジで。
どうしたものかと呆然としていると、怒り狂いながら僕を狙う宇宙が叫びをあげていた。
『な、何事だ!? う、動けぬ! 何をした! 死の世界で漂流し続ける筈だった者よ!』
あ、もしかして僕の氷竜帝の名前って……漂流から来ていたりするんじゃ……。
……。
って、そんなことよりも!
『あぁああああああああぁぁぁ! マジで埋め尽くすほどのメンチカツ像がきてやがる!』
『避けよ! マカロニよ! もしメンチカツ像に潰されればそなたの精神も汚染され、メンチカツ思考になるぞ!?』
ああ。ああ。あ。あ。あ。あ。あ。
あいつ!
敵でも厄介なのに、味方でもクソ厄介でやがる!
罵倒する時間はない。既に宇宙に向かい、メンチカツ像が雨のように降って来ているのだ。
直撃を避けたい僕は異能の力を探り――該当する能力を選択。
緊急回避の異能を展開!
その刹那の瞬間――!
ドガドガドガガガガガガガ!
宇宙そのものをえぐるように、ドヤ顔をするメンチカツ像の雨あられ。
流星群の如く、無差別に落下し始めた!
偽神ヨグ=ソトースはメンチカツ像の傍には近寄れない――。
ものすごく、認めたくはないが。
これは、かなりのチャンス!
僕は決着をつけるべく、とっておきの切り札を発動する決意を固め。
ダダダダダ――! ズシュゥゥゥゥゥ!
氷の道を作り、逆走!
マカロニペンギン最速移動の腹滑りによって、最後の勝負を仕掛けることにした!