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【眠るマカロニ、変わる世界】


 【SIDE:現実世界】


 ゴゴゴゴゴっと獣毛を膨らませ、目を尖らせるのは獣王二匹。

 メンチカツとエビフライは完全にブチギレているので、マカロニの寝室はガタガタガタと揺れている。

 足元から波のように連続した魔力を放つ彼らを諫めるように、雷撃の魔女王ダリアがぎろっと獣王を睨み。


「落ち着かれよ、黎明の時代より謳われし伝説の魔獣王らよ」

『あぁん!? オレさまは超冷静なんだが?』

「そうか――ならばせめてその覇気を纏った魔力波状を止めよ、貴殿らとて、非戦闘員を魔力の海に汚染し窒息させたいなどとは、思っていないのだろう?」


 ”つぶら”だが鋭く尖っていたメンチカツの瞳に、頭痛を堪える文官たちの姿が映っている。

 魔女王が止めていなかったら、実際に何人かは失神してしまっていただろう。

 メンチカツは自らの魔力の高ぶりに気付き、ちっと舌打ちをし。


『悪かったよ』

『はは、メンチカツさんもまだまだだね』

『って! おめえはいまだに魔力をまき散らしまくってるじゃねえか!』


 そう。

 あのメンチカツですら冷静になったが、エビフライの方はそのまま。

 だが、メンチカツとは違い魔力操作ができているのだろう、失神している者や苦しんでいる者はいない。


『僕はね、今この魔力を使って世界全部の命に接続してるんだ。暴力だけの人とは違うからね』

『ほぅ、ケンカを売りやがるのか?』

『いやだなあ、ケンカじゃなくて協力するんでしょう? 少なくとも兄さんを目覚めさせて、そしてあの黒幕気取りのダニを消す。それが弟としての役目だからね』


 アランティアが言う。


「あのぅ……冷静そうに見えてメチャクチャぶちギレてるのは分かってるんで、なんかやらかす前に具体的に説明して貰いたいんっすけど、大丈夫っすか?」

『ホウレンソウだね、兄さんがいつも言ってることだから大丈夫。安心してよアランティアさん』


 冷静に告げて、エビフライはすぅっと瞳を細め。


『まずはこの世界の全員に支援を求める、反対する人は洗脳する。ここまでは問題ないよね?』

「だっぁぁあああああああああぁぁ! やっぱり! 初手でやらかしてますって!」

『この世界だけじゃなくて、ニャイリスさんたちの世界も巻き込まないとダメってことかな? アランティアさん、それはさすがにやり過ぎじゃないかな。兄さんは猫の足跡銀河の先にまで迷惑をかけるつもりはないと思うんだけど……』


 やはり冷静なフリをしてぶっ壊れているエビフライに、やはり、だぁぁぁぁぁぁっとアランティアが頭を抱え、くわ!


「そーじゃなくて! 反対する人を洗脳するって部分ですってば!」

『だって、兄さんを助けようとしないなんて生きている意味がないよね? そーなると存在自体を消さないといけないから……それは可哀そうだし、だとすると洗脳してあげた方がいいって思ったんだけど。もしかしてアランティアさんはジェノサイド的な殲滅を望んでいるとかかな?』

「あたしを何だと思ってるんすか!」


 いつもはマカロニがツッコミ担当だっただけに、止める者が必要だった。

 その役目をアランティアが努めている姿に、母たる雷撃の魔女王ダリアは感心しているが、ともあれ。


「それ! 洗脳までやっちゃったら確実に起きたマカロニさんに叱られるヤツっすから、却下っすから!」

『じゃあ脅して』

「それもアウトっすよ!?」

『そうは言うけど、アランティアさん。じゃあ宇宙で一番尊い兄さんに従わない愚民どもからどうやって出資させるんだい?』


 悪意なく告げるブラコンに、うわぁ……っとしながらもアランティアが言う。


「エビフライさんて……マカロニさんがいないとガチめにヤバいっすよね」

『そうなんだよ、兄さんがいない宇宙なんてヤバいくらいに価値がないんだよね』


 メンチカツとは違った意味で話が通じないタイプである。

 周囲はあれ? これ、陛下が目覚めないとヤバくね? となっているが――。

 王の側近で秘書たる立場のアランティアは、はぁ……とため息一つで済ませて終わり。


「とにかく、ある程度指示には従って貰いますよ。あたしはマカロニさんとこの世界で最初に契約を交わした存在っすからね。ここの指揮をマカロニさんに指名されているのと同義、エビフライさんもマカロニさんに契約違反をさせたくないっすよね?」


 契約を重視する兄を考えたのだろう。

 エビフライは渋々、洗脳の件からは引いた顔で。


『……それはまあ』

「それにっすよ? もしここでエビフライさんが他の人に迷惑を掛けずにマカロニさんを助けることができたら、たぶんマカロニさん、すごい喜ぶと思うんすよねえ」

『兄さんが! 喜ぶ!?』


 パァァァァァアっと表情を明るくするエビフライが、空気を変えて。


『それで! それで! 洗脳も脅迫もダメなら、どうやって”お願い”すればいいのかな?』


 お願いのニュアンスになんとなく物騒な気配を感じつつも、アランティアが応じる。


「簡単っすよ、人間ってけっこう単純なんで――リーズナブルさんの所の聖職者たちを使って文字通りお願いすれば一発だと思うんで」

『説明して貰ってもいいかな?』

「ここら一帯は美の女神のアシュトレトさんの信仰圏内っすからね、ぶっちゃけメチャクチャ顔面レベルが高いんすよ。スタイルもいいですし。なので――強大な敵と戦闘状態なのは確かなんで、苦戦してるっぽい戦地の映像を捏造して、子供を守る美男美女の家族を用意。飢えに苦しんでる様子で、ちょっと上目遣いにお願いする広告を作れば……」


 具体的な広告を昼の魔術の幻影で創り出すアランティア。

 その目の前には、いかにもな絵が創成されていた。

 ジト目でメンチカツが言う。


『これ、募金詐欺じゃねえか』

「は!? 詐欺ってなんすか! ただ誇張してるだけっすよ!」

『嬢ちゃん、たぶん相棒的にはアウトだぞ』

「なんでっすか!」

『こーいうのがあるとちゃんと活動しているヤツらや、本当に飢えに苦しんでるヤツらが助けを求めた時にも詐欺扱いされちまうからだよ。相棒は、そーいうラインは守る。そうは思わねえか?』


 うっ、っとメンチカツに諭され怯むアランティアだが。


「ま、まあ……確かに、けどじゃあどうしたらお金を騙し取れるんすか!?」

『おい……本音が漏れてやがるぞ――騙し取るんじゃねえだろ。本当に素直にお願いすりゃあいいじゃねえか』

「えぇぇぇ……だって、他の人が支援するだろうからってなにもしない連中が絶対でますよ?」

『あのなぁ、そんなのタヌキとキツネ連中に任せりゃ簡単に世論を誘導できるんじゃねえか。主要都市にはとっくに入り込んでやがるんだろ?』


 頭に「!」を浮かべ、アランティアが言う。


「その手がありましたね!」

『よしさっそくあいつらに連絡を』

『もうやってるよ~!』


 結局、マカロニの取り巻き連中の彼ら三人の性根は似ている。

 そして彼らを支える文官たちも、即座に行動を開始……その後ろにメンチカツ隊も続く。

 雷撃の魔女王ダリアがマキシム外交官に問う。


「……スナワチア魔導王国、貴殿らは少し変わったな」

「すぐに戦争となった昔よりは、こちらの方が良いのではあるまいか魔女王よ。歓楽街と共に娯楽も増え、ただ生きるだけではなく生きる意味も考えるようになった。かつては無駄と切り捨てていたのであろうがな、今となればこの変化が悪い事とは思えぬ」

「ふん、まあいい――我は所詮は宇宙とやらが生み出した泡沫、婿殿の方針には従うまでだ」


 しかし、と言葉を区切り。


「この世界は婿殿の登場で随分と騒がしい……いや活気に満ちた世界となっているのだな。野心破れた英雄、常に覇権を狙っているとされた貴殿がよもやここまで気が抜けているとは。世の中の流れとは分からぬものだ」

「全ては、陛下が変えてくださったのであろうな」

「なるほど、やはり我が娘の婿にふさわしき人材はこのペンギン殿しかおらぬな」


 雷撃の魔女王ダリアが言う。


「ところで、メンチカツ殿はなにをしようとしているのだ」

「はて、陛下の夢世界になにやら送り込もうとしていると思われるが」


 そう。

 メンチカツは考え、動いていた。

 アランティアを通し眠るマカロニの夢世界を把握。


 偽神ヨグ=ソトースに対する決定打を送るべく。

 ニヤリとゴムクチバシを歪め。

 嗤った。


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