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シンプルな話~偉そうな存在ってだいたい心がちっさい~


 宇宙には多くの強大な存在がいる。

 主神レイドと創世の女神たちが作り出したこちらの宇宙とて、猫の足跡銀河を通し繋がっている。

 もしかしたら宇宙そのものが生物の体内という可能性もあるが、もしそうならおそらく、低次元にあるこちらからは宇宙の全容は観測できないと予想される……。

 つまりは考えても無駄ともいえるのだが。


 ともあれだ。

 今、僕の頭上にいる僕の夢の中に根を張っているコレ。

 僕らの運命を弄り倒した、父なる神たる偽神ヨグ=ソトースについて――僕が気に入らないというマイナス感情を抱いていることだけは確かだ。


 だからメンチカツ像の安全地帯から僕は考える。


 メンチカツ像の安全地帯から攻撃しまくりゃ良くね?

 と。

 まあそう上手くはいかない可能性も高いし、そもそも僕が偽神ヨグ=ソトースに乗っ取られたらアウト。

 あと、希望の女神アランティアや四星獣イエスタデイ=ワンス=モアが捕まってもアウト。


 こちらの敗北条件ともいえる僕はとっとと逃げた方がいいのは確かだ。

 だが。

 瞳に赤い魔力を浮かべたまま、僕はムルジル=ガダンガダン大王が提示する魔術による通信販売カタログを眺め。


 最上級ランクの異世界の杖、【猫目石の神杖(三毛猫)】を購入。


 先端に”赤色に輝く猫目石の宝玉”がセットされた一品で、神が付くほどの名工猫が作り出した、とある神器のレプリカらしいが……。

 消費魔力を抑えるいつもの王の腕輪を発動させつつ、魔性化したことで跳ね上がった最大魔力量を計算に入れながら――ペペペペ!

 カタログにある商品説明文を読み上げる。


『おい大王。このアホみたいに値段の高い杖だと本当に詠唱速度が跳ね上がって、連続詠唱や連続発動ができるようになるんだろうな』

『それだけではない! 出品者の話では、宇宙属性なるモノや敵が広大ならば広大なほど威力が増す、つまりは特効となる神杖との事だ!』

『特効ねえ……』


 僕らの宇宙には既にファンタジー要素が広がっている。

 つまりは、竜を相手にドラゴンキラー的な装備で攻撃すれば、ダメージが跳ね上がるようなものなのだろう。

 ……。


『ちょっと状況に沿いすぎている装備の気がするんだが……詐欺だったら訴えるぞ?』

『たわけ! 余はそなたと違い真っ当なマハラジャなのだぞ!?』

『ま、試してみれば分かるか』


 言って、僕はメンチカツ像によじ登り。

 フリッパーで掴んだ杖だけを安全地帯の外へ。


『なあ! 僕はあんま杖とか使ったことないんだが、こういうのってなんか特別な使い方とかあるのかー?』

『そのレベルの杖とならば、ただ念じるだけで能力をブーストしだす筈! 詠唱し、念じるのだ!』

『ふむ――』


 僕は全ての原初ともいえる宇宙を崩壊させるイメージを脳内で構築。

 選択したのはやはり、僕の中では破壊力の象徴となっている女神アシュトレトの魔術。

 彼女の力や伝承を再現する、神話再現とも言うべき魔術を構成し発動。


 瞳を見開き、カカカ――ッ!

 高速詠唱が可能な杖の効果で詠唱を短縮し、魔術名を解き放つ。


『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』


 僕の杖の先端から、世界の法則を捻じ曲げる魔術式が解き放たれる。

 アランティアが現実で寝ている僕の横にいるので、アシュトレトの力を借りた魔術がちゃんと使用できる。


 術により書き換えられた夢の中の法則。

 その影響が現れたのだろう、宇宙が広がっていた天をまるで肉を割って入り込んでくるように、なにかがやってくる。


 それは黙示録の伝承を再現した偽りの女神。

 虚空から召喚された顔を覆う女神が……胸に抱く血を受けた聖杯を傾け、ガクン!

 宇宙に向かい、血の濁流が注がれ。


 そして。


 ぐぢゅぅぅううううううううぅぅぅぅ!

 宇宙から、血に塗れた肉塊が落下し始めていた。

 おそらく、宇宙と言う曖昧な存在に肉を与え世界に産み落とし、そしてその産み落とした肉を天からの圧力で握りつぶす……そういうプロセスの魔術なのだろう。


 僕はあくまでも新魔術を構成するにあたり、アシュトレトの伝承を誇張して再現しただけ。

 ここまでの術指定はしていなかったのだが、なかなかエグイ魔術である。

 ちゃんとダメージもあったのだろう、偽神ヨグ=ソトースが苦悶の叫びをあげていた。


『馬鹿なっ……なぜ、なにゆえ人の風説により歪められたイシュタル神、堕ちた天の主アシュトレトが我の邪魔をする!?』

『はぁ……。まあよく知らんが、おまえが誘導しようとしていた未来とは書き換わってるんじゃないか?』

『気まぐれに多くの運命を捻じ曲げる忌々しい三獣神どものしわざか、或いは救世主の割れた欠片……ネコとなり自由気ままに生きることを願ったあの者かっ。いや、神にのみ許された世界を用いた遊戯を我が物顔で永続させた、四星獣の誰かの戯れか。ええーい、どいつもこいつも宇宙の存続こそが全ての責務、ただ唯一の最優先事項だと何故理解できぬ』


 理解できぬ、理解できぬと壊れたように自問自答を繰り返している。


 どうやら、ここまで辿り着くまでに既に計算違いがあったようだ。

 当然だ。

 おそらく、生前の僕の友、元魔王の三毛猫がこうなるように全ての力を犠牲にしたのだから。


『ああ、はいはい。宇宙凄い凄い』


 言いながらも僕は安全地帯に戻り。

 魔力ブースト。

 会話を継続する顔で、背中に回した猫目石の神杖の中で魔術を再構築。


 天を見上げて言う。


『てか、おまえさあ。本当に宇宙を維持したいんだったら、こそこそと暗躍なんてしてないで、宇宙の強者どもと相談……ちゃんと話し合いをしたら良かったんじゃないか』

『相談であると?』


 宇宙が虹色の閃光を放ちつつ、周囲に黒い霧を蒔きながら告げる。


『笑止。何故、崩壊するたびに宇宙を作り直す責務を果たす我が、宇宙に住み着く寄生虫の如きムシケラ共に相談せねばならぬ』

『うわぁ……神を作った神ってはずなのに、ちっさいなぁ……』


 僕はブーストと多重詠唱と多重魔術ストックが完了した猫目石の神杖を再び、ズチャ!

 メンチカツ像によじ登り、先端だけを突き出して。

 クチバシの付け根を邪悪に歪め、ニヒィ!


『こんなに相手がちっちゃいんじゃあ、大物相手に威力を発揮するこの杖の特効のひとつが、まぁぁぁぁったく効果を発揮しないんじゃないか? あーあー、勿体ないじゃないかー!』

『我が創りし、我が降臨するためだけの器の分際で――』

『その器の挑発に簡単に引っかかるから、小物だって言ってるんだよ! バァァァァァァカ!』


 こちらを睨みつけているだろう宇宙の虹色に向かい。

 僕は再度、アシュトレトの魔術を発動!


『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』

『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』

『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』

『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』

『<盃豊穣神アシュタロスの惨禍――!>』


 今度は五連続で発動する構成に変更。

 宇宙を肉として生み落とし、破壊を繰り返す。


 だが相手は宇宙。

 本来ならば消える筈がないような広大な存在だが、僕はそこを偽証する。

 さすがに肉として産み直されるという経緯を経て、器の中に強制的に召喚され続けている影響だろう。

 偽神ヨグ=ソトースを構成する宇宙が、明らかに乱れ始めていた。


 具体的に言うならば、真黒だった天に光が差し始めていたのだ。

 ムルジル=ガダンガダン大王が感嘆とした様子で息を漏らす。


『これは――確実に効いておるな』

『ああ、だが……たぶん倒したとしても無駄だろうな』

『既に我らの宇宙は二度、三度とやり直しておるからな。行き止まりになる、或いは崩壊する……維持できなくなると宇宙そのものをリセットさせていた。あの現象にも理屈があるとすれば』

『そのリセットとやらを発生させていた理由がこいつ、あるいはこいつらみたいな存在って事だろうな。まあ観測者が違えば、また違う結論や魔導理論が提唱されるだろうが』


 僕の理論と、大魔帝ケトスが逸話魔導書にて提唱している理論には誤差がある。

 どちらが正しいかは知らないが、僕には理論として設定されていることならば、それがたとえ嘘や虚実、間違いだったとしても現実に書き換える力がある。

 いつかは倒し切れるだろうが。


 ムルジル=ガダンガダン大王が言う。


『余は思うのだが……こやつ。おそらく、倒してもリセットしてやり直してくるタイプの輩であろうな』

『だろうなあ……』


 そう。

 逸話魔導書の記述が正しいのなら、そして女神たちの神話がその通りなら世界は何度も繰り返している。

 宇宙には既に全てをリセットして仕切り直し、今度はリセットしないようにルート調整をし再開――崩壊を回避したという実績がある。

 僕の存在もそのルート調整という可能性が高い。


 文字通り、僕はそのために宇宙が直接創り出した……宇宙から産み落とされた調整役なのだろう。

 もしかしたらメシア自体もそうなのかもしれないが――。

 だが重要なのはそこではない。


 もし全ての父、全ての始まりが擬神化した存在がこいつならば、リセットして自らの死をやり直してくる筈なのだ。


 つまりは倒してもキリがない。

 計り知れない労力と時間をかけ、僕の夢世界に根付いているこいつを倒し切っても無駄なのだ。

 それでも、僕は杖の使い方を実戦で研究しつつニヤリ。


『まだ僕の憤懣は消えてないからな』

『んぬ? なにをするつもりなのだ?』

『倒せない敵の倒し方なんて簡単だ。もうやめてくださいって相手が思うほどに、ボコボコにすればいい』


 グペペペッペっと僕は羽毛に赤い魔力を走らせ。

 ペペペペペペペ!

 猫目石の神杖を、僕の複製能力で量産し――宇宙に向けて、ズラァァァァ!


『やいやい! せっかくだからな! この機会におまえをサンドバッグにしてやるから、覚悟しやがれ!』


 言って、僕は連続魔術を発動!

 回復アイテムが無限に買える環境なのでできる、文字通りの全力全開!

 全ての杖から、応用し、強化と改良を繰り返すアシュトレトの魔術を発動し続けた。


 僕の宇宙に、無数の肉塊が弾け続ける。


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