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STOP詐欺被害~NOと言えるペンギン~


 今になって思えば、あれは僕からの挑発だったか。

 子供の頃に願ったのは、理不尽への反抗――神様がいるのならこの状況をどうにかしてみろとの罵倒だった。


 だから偽神ヨグ=ソトースこと宇宙は僕と契約を交わし、召喚に応じた。

 逸話魔導書に載っていた、宇宙生物論やら世界生物論やらの正体こそがコイツなのかもしれないが――結局は子供に罵倒されて反応した、神を名乗る心の小さな存在。

 こいつ、もしそうなら子供相手にムキになって、バカなんじゃないかと思ってしまうが……。


『そんなことはどーでもいい! 不当で無効な契約なんて誰が従うか! バァァァァカ!』


 黄金の飾り羽を風に靡かせ、フリッパーを後ろに倒しダダダダダダ!

 僕は来た道を遡りペタ足で全力疾走!

 螺旋階段まで戻ろうと逃走中。


 魔性化した時に偽神ヨグ=ソトースを取り込んだせいか、それでも常に頭上には宇宙の気配が追ってきている。

 クチバシからグペっと取り込んだ偽神を吐き出せば、解放されるかもしれないが。

 ……。

 まあ、この力をみすみす手放すのも勿体ない。


 偽神ヨグ=ソトースが虹色の夜空を発光させ、きぃぃぃぃぃぃぃん!


『諦めよ、何人たりとも神からは逃げられぬ』

『生憎だが、僕が信じる神は僕一人! 宇宙だか全ての父だか知らないが、問題があるならちゃんと裁判所を通して出直してくるんだな! <天体魔術:火星の大乱嵐ヴィヴィ・マルキシコス>!』


 天の女神の力を借りた僕の放つ一条の火球が、宇宙に向かい直進。

 対象を捉えたその瞬間に、火星クラスの魔力渦が宇宙の流れを掻き乱し始める。

 あぁあああああぁぁ! 気持ちいい!


 熱砂のような魔力の粒が飛び交う中。

 宇宙があからさまに上から目線で告げる。


『哀れな――神に逆らうか』

『はっはー! どうだ! 現実世界じゃあ周囲全てが地獄の業火に焼かれて使えないが、ここなら遠慮なく使いたい放題だからな!』


 僕は逃走しながらお尻をペンペン!

 挑発の魔術で相手の精神力を下げつつ、そのままフリッパーを鳴らし。

 追加詠唱。


 創世の六女神の魔術を束ね、ニヒィ!


『朝を駆け、昼を抜け、夜に落ちし日照よ』

『此れ以上はやらせん。其の力、全てが契約の対価であると知――』

『天は地を割り、地は海を受け止め、海は天に豊穣を齎さん。故に、汝らは世界を包むモノなりや。天津神に国津神、共に永劫の安寧を――』

『ええーい! 人の話を聞かん奴だな!』


 よーし!

 相手の上から目線が崩れてきている、これはこちらのペースであるということだ。

 僕はそのまま魔力強化の魔道具を発動させつつ、宇宙の下を駆け。

 詠唱! 強化! 詠唱!


 僕の束ねる魔術は六属性の魔術。

 さすがにぶっ放されると宇宙でもまずいと判断したのか、偽神ヨグ=ソトースは流れ星を発生させ願いの力を解き放つ。

 願いを叶える性質を持つ流星が、宇宙に虹色の輝きを走らせる。


『<汝、氷竜帝マカロニよ。其の詠唱を禁ず>』


 宇宙の法則を捻じ曲げ強制的に詠唱を封じたのだろうが、甘い!

 僕は恐怖の大王アン・グールモーアの逸話魔導書を開き、バサササササ!

 開いた魔導書から、イワトビペンギンの頭を召喚し代理詠唱を開始!


 虹色に輝く宇宙に向かい、アン・グールモーアの詠唱音が響き渡る。


『神々を呪いし女神よ、其の悍ましくも美しい奇跡を今此処に――』

『何故!? 詠唱を禁じておるにもかかわらず……っ、ならば直接取り押さえるだけの話!』


 グゴゴゴゴゴゴゴッガガガガ!


 宇宙から神の腕が僕を掴もうと伸びてくるが、僕は詠唱不要な異能を発動!

 かつて僕の姿を総帥っぽい壮年に変更させていた、”擬態の異能”を応用!

 僕の偽物を大量召喚。

 どれが本物の僕か分からないようにし、全員が逸話魔導書を抱え走りながらの高速詠唱!


 逸話魔導書から顔を出すイワトビペンギンのクチバシが、詠唱を完了させ。

 夜空に膨大な魔術式が発生。

 創世の六女神の合成魔術が展開される。


 魔術名は、<愛しき主のための創世>。


 ただ僕の詠唱は禁じられているので、魔術名を解き放つことができない。

 けれど既に魔術自体は完成しているので問題なし。

 宇宙に創世の女神の力が広がっていく。


 それは天地創造の力を攻撃魔術として利用した、おそらく六女神の力を借りた魔術の中では最高峰の攻撃。

 天と地と海。

 そして、朝と昼と夜。

 六つの創世の力が白い極光となって、宇宙の闇を払いのける。


 音はなかった。

 色もなかった。

 ただ無と言うべき破壊のエネルギーが、宇宙を相手に侵食。

 夜空を白濁とした混沌の海へと変貌させている。


 おそらく、ある一定以上の破壊力を持った攻撃には、色も音も間に合わないのだろうと推測される。


 僕の攻撃は通じているようで、禁じられていた詠唱が解禁されているようだ。

 逸話魔導書から”ひょこっ”と顔を出すアン・グールモーアが言う。


『ほほー!? マカロニ氏。どうやら、貴殿はいままでのツケを払わされているようでありまするな!?』

『あんたなぁ……なんでそんな楽しそうな顔をしてやがるんだ』


 イワトビペンギンとマカロニペンギンの邂逅である。


『いやはや同じペンギン同士、世界を揺らす愉悦に感動しているだけでありまして、ええはい』

『で? 外の連中もこの状況は理解してるのか?』

『大体のところは予想されてるでありましょうな』


 恐怖の大王アン・グールモーアは自らの逸話魔導書に魔力の水を張り、風呂釜のようにプカプカ浮かびながら。

 白濁した極光が爆発する夜空をじっと見上げ。


『あの偽神ヨグ=ソトース。おそらく分類するなら宇宙そのもの……。壊れた部分を元に戻そうとする自我ある防疫機能のような存在。自らの宇宙、つまりは体内に発生しているバグを排除する、免疫機能や防衛機能といった存在なのでありましょう』

『よーするに、バグってる異界の神々(あんたら)みたいな存在を排除する神ってことであってるか?』


 恐怖の大王アン・グールモーアは、へへんっと悪い顔をし。


『なーにを他人事みたいに言っているのでありますか! 貴殿も既にそのバグの一つ、魔性化という現象は宇宙の法則から隔絶されたバグみたいなもの。そう吾輩らは推測しておりますので、ええ! はい! 貴殿も既にバグの一つと言えるのでありますなぁ!』


 つまりはバグを以てバグを制すため――。

 いつかそのバグさえ手玉にとれる可能性のある子ども……幼い頃の僕に目を付けた宇宙が、僕が魔性化するまでの道に誘導していた。

 そーいう可能性もあるのか。


 たしかに、偶然が重なり過ぎていた部分はある。

 特に元魔王の三毛猫が干渉する前、生前のメンチカツとの接点など偶然で片付けられるとは思えない。

 その辺の運命を、世界の維持のために偽神ヨグ=ソトースが操っていたのなら。


 僕が不幸だったのって、この偽神ヨグ=ソトースのせいなのではないだろうか。

 よーするに、こいつが全ての黒幕と言えなくもない。


『なーるほどなあ、だがこいつの誤算は僕が素直に契約に従わない事だな』

『ま、実際に子供を騙していたのですから、無視して問題ないでありましょう。吾輩、日本国の法律にこのような状況で契約を履行する必要がある文面を知りませんしなあ! っと、先ほどの六女神の魔術ですら耐えているようなので、そろそろ吾輩も干渉されて元の世界に戻されるかと』


 実際、ここは僕の夢の中なのでなんでも再現可能な宇宙。

 それを外の現実に上書きすることで、なんでもできてしまう場所である。

 相手もこの宇宙にいる以上、結構な無茶をやってくるはずだ。


 消えゆく同胞に僕は言う。


『そっちでなんとか僕の夢に干渉して、ムルジル=ガダンガダン大王の逸話魔導書を使用可能なように妨害はできたりしないか?』

『可能でしょうが……はて? 三獣神の魔導書でなくてよろしいので?』

『ああ、僕にはおそらくあの大王の書が一番相性が良いからな』

『左様ですか、ならばそのように――ああ、もし貴殿が宇宙に乗っ取られることになったらおそらく、バグ連中に本気で処理されるので、ご留意を。それでは――吾輩はこれにて』


 ま、ここで作った仮想や嘘を現実世界に上書きできる力だ。

 そんな僕が偽神ヨグ=ソトースに乗っ取られたら、どうなるか。

 まあ少なくとも今の宇宙の終わり、そもそもバグのような存在が生み出した僕らの世界……六女神の世界も消滅してしまう可能性がある。


 だから、僕は僕でなんとかこいつを追い払い調伏させないといけないのだが。

 僕が放てる最高火力の極光が終わっても、宇宙は虹色に発光している。

 まだ倒せていないのだ。


 宇宙が、僕に契約を強制しようと蠢きだす。

 が――!

 こいつ……力任せにやってくるだけで、正直かなり戦いやすいな……。


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