表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/211

無効契約―神に願いを―


 これは散々暴れた後の、目覚め前の夢の中。

 ドリームランドの夜空は星々で満たされていた。


 溜まりにたまった憤懣を爆発させた僕は、やつあたりも済ませて少し満足。

 メンチカツとエビフライのセットも回収し、偽神ヨグ=ソトースも僕が溜めに溜めていた魔性としての鬱憤を覚醒させたついでに、回収した。

 あり得たかもしれない僕と弟も、どうやらエビフライが倒し再召喚したようなので無限に召喚されることもない。


 そもそも彼らがエビフライに再召喚された時点で、あり得たかもしれない未来と現実を反転させる野望も止まっているのだ。

 これは実質、弟が世界を救ったと思っていいだろう!

 よし!

 エビフライの暴走はこの功績で誤魔化すので問題ない――。


 メンチカツの暴走はまあ、いつものメンチカツなので問題ないだろう。


 ようするに騒動は終わったのだ。

 もうここに用事はない。

 だから僕は皆を先に現実世界に返し、ドリームランドからの覚醒待ち。


 そう、後は目覚めるだけなのだが。

 ……。


『がぁあああああああぁぁぁぁ! これ、どうやって起きたらいいんだよ!?』


 目覚め方が分からないのだ。

 他の連中はとっくに外で覚醒していて、起きない僕の顔を覗き込んでいるようだ。

 反響音のような声が響きだす。


「ちょっとマカロニさん!? なんでまだ寝てるんすか!?」

「陛下? さすがに悪趣味が過ぎると思われますが……」

「婿殿、これから式の日取りについて相談をしたいのだが――」


 なんか最後に、雷撃の魔女王ダリアがどさくさ紛れにぶっこんで来ている気がするが、とりあえずそれはスルー。

 ドリームランドの中で一人取り残された僕は朝の女神の力を借り、目覚めの魔術を発動!


『<快眠魔術:双鳥そうちょう蜜露みつろ!>』


 呼びだした双子の鳥が掴んだ枝から零れる”甘い蜜露”を対象に注ぎ、目覚めを促す魔術なのだが。

 ……。

 効果がない。


 僕は夜空に向かいクチバシを向ける。

 きっと、今の景色を外から見ると――無限に広がる夜空を見上げる、愛らしいマカロニペンギンが映っているだろう。

 まあ夢の中を覗くなんて、誰でも出来ることではないが。


『おいー! おまえら! こっちの声が聞こえてるのかー!?』

「あ! やっぱりマカロニさん中で起きてますね、これサボって起きてこない気なんじゃないっすか!?」

『誰がサボりだ!』

「あー、この反応も本人っすね。大丈夫っぽいっす」


 どうやら返事をしたのが僕本人かどうかを確認したかったようだが……。


『おまえなあ……そりゃああり得たかもしれない僕なんてもんも出現してたから、警戒するのも分かるが――もう少しまともな確認方法はなかったのか?』

「まともじゃない人相手なんだから仕方ないじゃないっすか」


 こいつ、何の悪気もなく言い放ちやがった。

 まあいい。


『外の僕はどーなってるんだ!? こっちはなんか知らんが、起きようとしても起きられないんだがー!』

「クチバシの端から涎を垂らして、ズビビビビっていつも通り爆睡してますよー!!」

『ちょっとそっちから目覚め系やら覚醒系の魔術を唱えてみろ! こっちからじゃ無効になって戻れないんだがー!』

「目覚め系っすね――」


 じゃあ、とアランティアの詠唱が響き。


「<快眠魔術:双鳥そうちょう蜜露みつろ!>」


 僕と同じ魔術を発動させ。

 そしてどうやら同じ反応をして……。


「ちょっと! なんで起きないんすか!?」

『だーかーらー! なんで起きられないのか分からないって言ってるだろうが!』

「分からないじゃなくて―! 知らんがって言ってませんでしたかー?」

『揚げ足取りしてる暇があったら他の魔術も試してみろ!』


 僕も僕で、目覚めの魔術を何度か発動させてみるが……。


「ダメそうっすね」

『そこにメンチカツはいるか?』


 あいつなら回復系統の達人。

 僕を目覚めさせる魔術を使えるかもしれないが。


「あの人、あたしたちに内緒で出発するためにー! 別の場所で寝てたじゃないっすかー? だからいまいないんすよー!」

『じゃあ悪いが、ワインダンジョンに誰かいってくれー! あいつはたぶんあそこからドリームランドの中に入ったはずだからなー!』

「ナチュムリア姫に連絡を入れて―! 密偵の方々がもう向かってますー!」


 密偵とは、無駄に顔が良いあの密偵だろう。

 しかし、僕はふと考え。


『てか、おまえ! 転移ができるんだから! ワインダンジョンの最下層に飛んで呼べるだろ!』

「んー、なんか嫌な予感がするんで、あたしがここを離れない方がいいんじゃないっすかー? あたしが寝てるマカロニさんの傍から離れちゃうと、六女神の魔術は発動できないっすよー?」

『なるほど……おまえ、僕が思ってるよりはバカじゃなかったんだな』

「あのぉ……そのナチュラルにバカにする感じ、かなり舐め腐ってると思うんで――この機会にやめません?」


 実際に馬鹿にしているのだが、それはお互い様のような気もする。

 しかし、そんなことよりもだ。


『おまえがなんか嫌な予感……ってのは少し気になるな』

「話を逸らさないでくださいっすよ!」

『うるさい! その辺は起きてから相手をしてやる! おまえのその嫌な予感ってのは、具体的にどんな予感なんだ』

「どんなもなにも――」


 アランティアの悩む声がした後。


「嫌な予感は嫌な予感としか言えませんってば。でも、そうっすねえ……たとえるなら料金の支払いを求めに借金の取り立てがきてる……みたいな感じっすかねえ」


 意味不明なたとえだと一蹴したかったのだが。

 どうやらアランティアはやはり、真実を見抜くかなりチートな性質があるのだろう。

 僕は彼女の嫌な予感の意味を、今、まじまじと感じていた。


 宇宙が、僕を見ていたのだ。

 それも先ほどまでとは違う空気で。


「マ……カロニ……さ…………?」


 外からの声も遠くなっていく。

 妨害か何かだろう。

 ドリームランドの最深部、真っ暗な宇宙の中で僕はそれに気が付いた。


『おまえ――偽神ヨグ=ソトースか』


 そう、それは僕が取り込んだはずのすべての父たる偽の神。

 僕の妄想と独自の宗教から発生し、召喚された偽りの存在。

 けれど、実際に召喚されていたのだから、それは僕を見下ろすこともできるのだろう。


 宇宙が星々を虹色に輝かせ、音を発生させる。


『如何にも、我こそが全にして一、一にして全。汝等が父と呼びたる神。メシアを授けし存在。ロゴスを授けし生命の祖にして――』

『あー、そーいう難しい話をされても困るんだが? ぜんぜん意味分からないし、てかおまえだろ! 僕を目覚めさせないように悪さをしてやがるのは!』


 抗議する僕に宇宙が応じる。


『我と汝はかつて契約を交わした筈。そして今、其の約束は果たされた。哀れな夜鷹よ、孤独の星で鳴く事すらも叶わなかった凶星よ』

『あぁあああああぁぁぁ! だから! わけわからん言い回しをするな!』

『……氷竜帝マカロニよ、偽神われを纏いし寄生木ヤドリギよ』

『なんだ!』

『契約を果たせ――我と汝はあの日、契約を交わしたであろう。幸福になりたいと、幸せを知りたいと、そのためならばどんなコトでもすると。思い出せ、思い出せ。汝の誓いを』


 子供の頃の僕が偽神を召喚してしまった時の話だろう。

 僕は気付かず、全ての父たる宇宙を呼んでいた。

 だから、その代価を今支払えと言ってきているのだろう。


 僕はジト目で言う。


『は? 契約書はあるんだろうな?』

『否、成れど宇宙たる我と契約を交わした、其の瞬間は星々の歴史に刻まれておろう。宇宙の法則より逸脱した、異界の神々すらも翻弄できうるマカロニよ。其の力、其の魔力、其の叡智、其の魂。全てが既に契約の対価。宇宙の乱れを正すため、我には力が必要なのだ。故に、我は汝の前に現れ契約を交わし、汝の願いを叶えた。さあ、約束を果たすのだ、我にその器を――』


 魔力満ちた宇宙には、元の状態に戻ろうとする性質がある。

 多次元宇宙の存在も、そのやりなおしが原因で発生しているのかもしれないと、多くの逸話魔導書にその論説が上がっていた。

 たとえば宇宙が壊れるような事件が起こると、宇宙は自分の意志で最初から世界をやり直すと考えられている。


 だが――今はそれができなくなりつつある可能性が高い。


 理由……というかできなくなりつつある犯人は明確だ。僕とメンチカツの戦いで賭け事をやらかしていた異世界の神々と、六柱の女神たちのせいだろう。

 三獣神をはじめとした、名のある神々が強くなりすぎたせいでおそらく、宇宙にもその歪みを直せなくなっているのだろう。

 だから、それらの歪みを直す力になりうる僕の力を欲している――そんな感じか。


 実際、先ほど僕は上位存在の筈の神々に一泡吹かせることに成功しているのだ。

 もしかしたらそれを収穫時と判断し、こうして宇宙が僕に仕掛けてきた……という可能性もある。

 そりゃああれだけの力だ、対価に求められるモノも本来ならばかなりのモノになっていたと想定できる。


 こりゃ、たしかにアランティアが言っていた通り、借金の取り立てに近いか。

 ……。

 いつもの空気で僕は言う。


『却下だ却下! 宇宙に契約の瞬間が刻まれているなら、それはむしろ子供を騙して契約をした証拠映像だろうが! この犯罪者めが!』


 よーし!

 正論で返してやった。

 無効契約だと主張する僕が、ビシっと前足を出し――フリッパーを向ける姿もおそらく麗しい。


『それじゃあ、僕はこれでおいとまさせて貰うからな。ちゃんと妨害解除をしておけよ』


 うんうんと自己完結して背を向け、ペタペタペタ。

 出口を探し歩き出す僕の背に、神々しい輝きと共に声が襲う。


『契約を果たせぬのならば、神すら偽証し滅ぼす其の力――力尽くで奪うのみ』


 ま、こうなるか。

 僕は先ほど前足を出したときに設置した罠を起動し。

 バシャァアアアアアアアアアアアアァッァア!


 宇宙に向かい、女神ダゴンの聖水の噴水を発生させ猛ダッシュ!

 水しぶきに隠れ逃走した!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ