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憤懣の魔性~史上最大のやつあたり~


 ゴゴゴゴゴっと怒髪冠を衝いている僕は、クワァァァア!

 大怪獣もびっくりの咆哮を上げて、偽証魔術を発動!


『おい偽神ヨグ=ソトース! おまえの正体なんてこの際どーでもいい! 全ての父だから宇宙なのか、全ての神々の父なのかなんて僕にとっては些事だからな! だがな! 僕の夢の中でずっと暮らしてたんだから、その分はきっちり働いてもらうぞ!』


 そもそも僕は神という存在が嫌いだ。

 人類の風説に動かされる神も哀れだと思うが、神も神でこうやって戯れを起こす。

 偽神ヨグ=ソトースを取り込んだ僕に、アランティアが言う。


「だぁぁああぁぁぁ! な、なにしちゃってるんすか!?」

『ここの大前提は僕の夢の中。だったら僕が全ての法則を書き換えることもできる。前にも魔術の悪用を裁いていたが、今回はこんな状況でも賭けをやってやがるあいつらに、きつーい説教をしてやろうっていう僕の親切心だ』

「ただブチ切れてるだけじゃないっすか!?」


 実際、僕はブチ切れていた。

 子供のころから賢しく、怒りの感情などあまり浮かべてこなかった。

 そんな僕がマカロニペンギンの獣王となったことで初めて今、演技や打算、計算ではなく怒りという感情を剥き出しにしているのだ。


 そう。

 これはおそらく――。


「って! マカロニさん! 魔性化してるじゃないっすか!」

『子供のころから今まで散々我慢してきたんだ、もうキレた! ブちぎれた! お前ら全員に説教してやるためにももう我慢なんてやめだ! 僕こそが憤懣ふんまんの魔性、怒りの感情を暴走させた獣王だ! この野郎!』

「あぁああああああぁぁぁ! 自慢げな名乗りなんてどーでもいいっすけど! メンチカツさんが来てるっすよ!?」


 魔性とは感情を暴走させた存在。

 感情とは魔力の源。

 つまり、子供のころから溜まり続けたイライラや鬱憤を大爆発させた今の僕は、無限の魔力で満ちている。

 突進攻撃を繰り返してくるメンチカツをジト目で睨んだ僕は、クワァァァァ!


『前から言ってるがなメンチカツ! おまえはおまえで人の話を聞け! なんでも暴力で解決しようとするな!』


 告げた僕は羽毛を逆立てブチ切れたまま、手にしていたムルジル=ガダンガダン大王の魔導書を開き。

 憤懣なる課金!

 ムルジル=ガダンガダン大王のグリモワールは金さえあれば、大抵のことはできてしまう。

 ブチ切れているので金に糸目は付けず、僕は大王の魔術を発動!


『<ネコ商人魔術:衝撃逸らしマント>!』


 僕が大陸を一つ買えるほどの金額で発動したのは、物理攻撃を無効化しどこか別の場所に逸らす防御系の魔術だった。

 無効化したダメージを転写する場所と座標を指定できないので、結構迷惑な魔術なのだが――僕は魔性として覚醒した魔力でそれを調整。

 更に、僕自身の偽証魔術を追加発動。


『宇宙よ、僕が思うにこのマントは一枚じゃなくて二百五十六枚あるよな!?』


 僕の中の宇宙、偽神ヨグ=ソトースがそれを承認。

 僕の宇宙の中に肯定された偽の現実が上書きされる。

 衝撃逸らしマントを256枚に複製した僕は、闘牛の要領でメンチカツの攻撃を受け止め。

 てい!


 魔性と化して膨大に跳ね上がった魔力を用い、魔術式を構築。


『座標指定:僕たちの勝負で賭けをしてる連中!』

『まだだ! オレの攻撃は止まらねえ!』


 メンチカツはモンク僧としての頂の奥義を使うつもりなのだろう。

 背後に百足ムカデの顔をした観音像を浮かべ――瞳を閉じて精神集中……胸の前で平たい水掻きを合わせ、深呼吸。

 闘気を獣毛に集め、しばしの後。

 瞳を開いたカモノハシが――カカカ!


『バアルゼブブ流蟲足奥義:百華の極み【千】』


 それは仏教と蟲の短い一生を武術に組み込んだ、なかなか高度なモンク僧の必殺技なのだろう。


 単純な見た目は、背後に背負うムカデ観音による連続攻撃だった。

 ムカデの動きを取り入れた百連コンボを千回ぶちこんでくる、力任せの奥義のようだが。

 おそらく、一発でも直撃を受ければ次元崩壊が起こるほどの威力となっている。


 だが! 結局は物理攻撃!


 それら全ては僕の衝撃逸らしマントに吸いこまれ――無力化。

 暴力の化身たるメンチカツが、武術の達人のバアルゼブブの技を得たことによるかなりの脅威となる攻撃だったのだが。

 搦め手を得意とする僕に正面からの攻撃が通じる筈もない。


 空中庭園から声が降ってくる。


『ちょ、ちょっとあなた! 止めなさいなのよ!』

『は!? 衝撃逸らしマントの座標は僕たちを賭けの対象にしている外道にしか行かない筈なんだが? まさかおまえら、宇宙の危機にそんなくだらない事をしてたってわけじゃないよな!?』

『あぁぁぁやっぱり、分かってて言ってるじゃないの!』


 向こうでは本来は僕に来るはずだったメンチカツの攻撃が、256倍となって全て飛び交っているのだろう。


 うにゃー!?

 ガルルルル!

 コケー!?


 っと、破壊力だけは神々と並んでも最上位のメンチカツ、その百足観音の攻撃が流され降り注ぐ空中庭園は阿鼻叫喚のようだ。


 さすがに宇宙を揺らすほどの衝撃だったのと、初めて本気で激怒している僕を見たからだろう。

 メンチカツもふと冷静になったのか――。

 あぁん? っといつもの声で訝しみ攻撃を中断。


『なんだ、今の声は』

『おい、メンチカツ――おまえ、僕の親友だよな?』


 僕は知っている。

 こいつはけっこうチョロい。

 親友だよな? の発言の直撃を受けたメンチカツは悪人の顔で、ゴムクチバシの端をニヒィ!


『当たり前だろうがっ。おう? なんだなんだ、いつもよりも邪悪ってか、悪ガキみてぇな顔をしやがって、オレになにかさせようってのか?』

『僕は僕らの戦いを賭けにしてる連中に、たまには説教してやりたいって思っててな。戦闘の余波をあっちに送りまくるぞ』

『あぁぁん!? オレたちの戦いを賭けにだと!?』


 それは許せねえなあ!

 と、メンチカツも僕の話に乗り気であり、僕はその後ろで援護に徹していたエビフライに向けて言う。


『おいエビフライ、お前が勝っても絶対にあいつらが邪魔するからこの勝負、あんまり意味がないことになってやがるぞ』

『どーいうことだい、兄さん?』

『さすがに僕を宇宙の神として洗脳するのはあいつらが止めるだろうからな。だったら、やらかしまくってる神々に一泡吹かせた僕って風に、宇宙に僕の名を轟かせる方がいいだろう? 協力しろ!』


 あり得たかもしれないダニッチの怪物を従えるエビフライは、ぱぁぁぁぁ!

 笑顔ルンルンで頷き、モキュー!


『分かったよ、兄さん! 兄さんが望むなら僕は神だって宇宙だって潰してみせるよ!』

『いや、実際に潰す必要はないが――まあいい! ここで僕ら獣王が協力して、神々(おまえら)もたまにはちゃんと反省しろって説教する存在になろうと思う。この心は分かるな?』

『大義名分ってやつだね、兄さん!』


 そう、宇宙の危機に賭け事をやらかしていた連中だけが対象の、説教である。

 僕らはなにも悪くない。

 僕ら獣王は、ゴゴゴゴゴゴっと天を見上げ。


『で? 相棒、まずは何をすればいい』

『さっきの百足観音をマカロニ隊とメンチカツ隊で強化する、で、だ! おいおまえら! 人類も神に対して思うところがあるっていう言い訳が欲しい、全員でマカロニ隊とメンチカツ隊を強化しろ!』


 話を振られたアランティアが言う。


「えーと……いいんすか、そんなことしちゃって」

『人のまじめな戦いを賭けにしてる連中が悪いんだから、問題ないだろ。だいたい僕は怒ってるんだからな!』

「やつあたりが入ってる気も……てか、やっぱりマカロニさん……弟さんに甘いんじゃ」


 メンチカツが、チッチッチっと器用に前脚を揺らし。


『嬢ちゃんよぉ、考えてみな。オレと相棒の崇高な戦いで金を賭けてるなんて、そりゃあダメだ、ロクでもねえ連中だろう? 誰かが説教してやらねえと、これからもやらかしまくるだろ? こりゃあ、獣王として罰を与えるべきじゃねえか?』

「あのぅ……さっきまでやらかしてたメンチカツさんが言っても説得力が……」

『さっきはさっき、今は今だろ嬢ちゃん――違うか?』


 メンチカツクオリティーはいつもの通り。


 アランティアが報復とかは大丈夫なんすか? と心配しているが。

 マカロニ隊の中から、姿を現したイワトビペンギン……おそらくニャービスエリアでの一幕の後、スパイとして紛れ込んでいた恐怖の大王アン・グールモーアが悪戯そうな顔でニヒィ。


『報復など、まさかまさか。マカロニ氏の説教対象は、こんな事態にもかかわらず賭け事を楽しんでいた悪い神々だけ。吾輩はこーしてカメラマンをやっていたので対象外でありますし、なにひとつ、問題ないでありますなー!』


 空中庭園からも声が降ってくる。

 夜の女神さまだ。


『たしかに、こいつらはたまにラインを越えやがるからな。オレは賭け事に参加してねえし、悪趣味だからやめろって忠告したのに無視しやがったからな、こいつら。遠慮はいらねえ――マカロニやっちまえ』

『朕も構わぬ。享楽主義も過ぎれば毒となる、強者だからこそ忘れてしまったのは遺憾であり悲劇。其れを思い出させる必要があろうて』


 どうやら朝の女神と夜の女神さまはギャンブルには参加していなかったようだ。

 やはりまとも組の神という事だろう。

 空中庭園から声が響く。


『ダァ-ッハッハッハッハ! マカロニよ! 未来を司る四星獣が一柱、ムルジル=ガダンガダン大王たる余はこーなると予想しておったからな。構わぬ、存分にやるが良い! 他の逸話魔導書が使用を拒否しようとも、余と恐怖の大王アン・グールモーアの魔導書は発動できようぞ!』


 僕も知らない間の抜けた声が響く。


『えぇ……~、ひどいよ大王~!』

『黙らんかナウナウよ! それに他の神々もだ! 貴様らもたまには反省と言う言葉を刻む必要があろう! 三獣王には今後、本来なら裁かれぬ神を審判するケモノになって貰わなければ、いずれ必ず全ての宇宙が滅ぶ!』


 大王たちのお墨付き、よーするに正当性を確保した僕は複製したマントをひらひら!

 頷いたメンチカツが、精神を集中させ。

 カカカカカカカ――!


 マントに向かい、全力で攻撃を開始した!


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