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覚醒のマカロニ~怒髪冠を衝くペンギン~


 想像以上に下らない理由だったメンチカツの単独行動。

 いや、エビフライもセットなので単独行動ではないのだが……そーいうことを考えている場合ではない!


 戦闘開始と共に、僕は氷海エリアを操作し味方を守りつつ。

 キリ!

 赤い瞳を光らせ、僕はムルジル=ガダンガダン大王の書を手にしたまま、フリッパーをバサ!

 両手を広げ普段は使わぬ力を発動!


『仕方ない――っ! 異能解放:<TCGカード奇跡の領域>』


 これは生前の部下が使っていた異能の一つ。

 所持者は僕の知るところで二人しかいないが……カードゲームの効果を現実に再現する、汎用性の高い異能力である。

 僕の羽毛の隙間からカードが召喚され、僕の目の前で円を描き回転。


選択チェイス! 全てを消し去れ、僕のカード!』


 翼を伸ばしその中から僕が選んだのは《無効のカード》。


 全てのバフ効果や、こちらへのデバフ効果を解除する最強の一枚である。

 しかもこれはこの世界の魔術体系とは異なる、僕が元魔王とやり合っていたころの異能なので、こちらの世界の技術ではおそらく回避できない筈。


 当時、異能を巡る事件の中で、このカードの能力者の力はかなり便利に使っていた。

 異世界ファンタジーな連中の魔術もこれで無効化できているのは実践済み。

 これでメンチカツの状態異常無効を解除できれば楽勝なのだが。


 ――問題はこれをちゃんと発動できるかどうかだ。


 異能の効果発動のキーとなる言葉を、クチバシから宣言!


『”!――僕はこのスペシャルカード発動を宣言する――!”』


 やはり僕はこのドリームランドの主神扱い。

 本来なら不発となる筈の異なる魔術式も、偽神の力で発動できる。

 この物理馬鹿は搦め手さえ通るようになれば、ただのカモ!


 僕の無効のカードが死神の形を取り、相手のバフを解除しようと動くが。

 メンチカツの攻撃も既に始まっている。

 何故か蠅の王の冠をオーラとして発生させ、キリ!


『はは! 甘ぇぜ相棒! バアルゼブブ流拳舞術、奥義<蝗疾風アルア・アバ・ドーン>!』


 それはまるでバッタのような跳躍だった。

 僕のカードを避けて、メンチカツは衣色の獣毛を輝かせそのまま突進攻撃。


 どうやら自らの攻撃時に全ての相手の効果を無視する跳躍突進、そして破壊力を追求した正拳突きを組み合わせたコンボのようだ。

 しかし……これは。

 午後三時の女神の魔術を用い、幻術で正拳突きの方向を逸らした僕は宇宙を見上げ。

 クワ!


『おい待てこら、バアルゼブブ! おまえ! なんでこいつがバアルゼブブ流拳舞術とかわけわからん流派の技を使ってきやがる!』

『え? ……エ、エビフライちゃんから、こ、この子に教えて欲しいって言われたから……お、教えただけだよ?』

『あぁああああぁぁぁ! この考えなし女神が! ケンカ殺法どまりだったヤツにそんなものを教えるな!』


 おそらく仕込んだのは僕の弟だろう。

 これ、エビフライのやつ……本気で勝ちにきてるな。

 僕も本気を出さないと負けるだろう。


 全宇宙にペンギンを崇める怪電波を送るなんて未来は却下だ、却下!


『ハハ! 安心しな相棒! 大怪我させちまっても、このオレなら全てを治せる! オレは親友の座を守るために、全力でいかせて貰うからなぁ!』

『このアホ! 親友を殴るバカがどこにいる!』

『そーいう漫画がいっぱいあるだろう!? オレを騙そうっても無理ってもんだぜ? なにせ、殴り合いこそがライバルの証! エビフライからそう聞いてるからな!』


 それはきっと、僕が定期的に部屋から出られないエビフライに買い与えていた漫画の知識だろう。

 つまりは、あの時に買ってやった退屈しのぎが、巡り巡って僕に帰ってきているわけだが。

 エビフライはキャッキャしながら支援魔術を発動!

 かなり鼻息を荒くし、ふんふんふん! 前のめりになってメンチカツの支援に徹している。


 ……。

 まあ、こーして僕と正面から相手ができることが楽しいのだろう。

 よーするに、これはあまり遊びを知らなかったエビフライが自由になった証でもある。

 温かい目で見てやりたいところだが……。


「ちょっとマカロニさん!? まさかわざと負ける気じゃないっすよね!?」

『バーカ! こーいうときはお兄様の偉大さってもんを見せてやるのが兄の役目だろうが!』


 僕もまた、メンチカツのようにゴゴゴゴゴっとオーラを纏い。

 結構本気の眼光で空と獣王をギロリ。

 付き合いの長いアランティアは、どうやら気付いたようだ。


「あ、あのぅ……マカロニさん? いったい、なにを」

『なにをって、これは兄の責任だよな?』

「そのぅ……マカロニペンギンがガチで真顔で睨んでる顔って、けっこう怖いなぁって……はは、ははははは、はは……。これ、マカロニさん。けっこうガチギレしてます?」


 僕のクチバシからの返事はない。

 それが答えだったった。


 僕が本気で「これは一回ガツンとしてやらないといけないな」と――兄として弟へ、そして付き合いの長いメンチカツへの、マジ説教モードに入ろうとしていることに気が付いたのだろう。

 いつもよりもアランティアは謙虚である。

 そして、口元をぎゅっと結んで汗を垂らしつつ同行者たちを振り返り。


「だぁああああああああぁぁぁぁ! やばいっすよ! これ、マカロニさんガチギレなんで! 早く戦闘領域から撤退を! 巻き込まれたらシャレになんないっすよ!?」


 アランティアに任せておけば、とりあえず周りは問題ないか。

 こーいう時にちゃんと側近としての仕事をするので、アランティアもなかなか優秀だ。

 さて。


『ああ、分かった。分かった。本当に良い機会だからな。おい、おまえら! 悪い事をしたらお仕置きされるって、この機会にキッチリばっちり教え込んでやる! 覚悟しやがれ!』


 メンチカツはともかくエビフライの願いはかなり危険だ。

 そしてなにより恥ずかしい!


 全宇宙に向かい、僕を崇めるような宇宙からの毒電波を飛ばすなど言語道断!

 どーせこいつらは話を聞かない。

 だったら説教もかねて、ここで一発お仕置きタイム!


 僕は怒髪冠を衝いたかの如く黄金の飾り羽を逆立て、腕を組み!


『女神もおまえらも、僕らを賭けの対象にして観察してるっぽい異界の連中も、この機会に全員反省させてやる!』


 神々は賭け事が好きだとグリモワールからも読み取れる。

 ならば――僕らを観測している神々は絶対にこの機会を見逃さない、おそらく勝手にギャンブルをやらかしていると、僕は踏んでいた。

 アシュトレトの珍しく狼狽した声が天啓として降り注ぐ。


『マカロニよ!? おぬし、空中庭園に異世界の神々が来ていると知っておったのか!?』

『あぁあぁぁぁ! ちょっと、バカアシュトレト! これはペンギンさんのブラフ、罠なのだわ!』


 はい、引っかかった!

 もしかしてと思いカマをかけたのだが、どうやら正解のようだ。

 僕らの中に異界からのスパイ……というか、観測者が設置されているのだろう。


 まあ実際には保険。

 僕が対処できなかったときに、エビフライの野望を止めてくれる気もあるのだろうが。

 それはそれとして、空中庭園では多種多様な神々が、どちらが勝つかなどで賭けをしていると予想できる。


 もちろん、僕は面白くない。

 女神たちも異界の連中が来ているのに黙っているということは、賭け事には参加している。

 そして悪いことをしている自覚はあるらしい。


 僕が説教したいのは、なにも暴走しているメンチカツや弟だけではない。


 怒髪冠を維持した僕は、ペペペペペッペペ!

 全魔導書と、僕の持つ異能をフル稼働させ。

 カカカカ!


『説教される準備はできたか! ここから先は、一切容赦しないからな!』


 そう告げた僕は、神すらも騙し殺す偽神の権能をオーラという形でメラメラさせつつ。

 グペペペペッペエェェエエエエエエエエエェェ!

 今まで出したことのないほどの本気で。

 氷竜帝の咆哮を、全宇宙に向けて発信した――。


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