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学生の妄想~中二病とかじゃなくて、本当に学生だったんだから僕のせいじゃない~


 螺旋階段を下りた先に広がっていた僕の夢、深層心理の奥に作られただろう夢世界ドリームランド。

 その道中にて。

 天井に映し出された映像は記憶の残滓だった。


 皆が見上げる中、過去の僕が、わっせわっせ!

 名と姿を隠しさまざまに暗躍していた。


 詐欺師として悪人から巻き上げた金で、詐欺で潰した組織の残党の中でまともな連中を拾い上げ救済。

 行き場を失くしかけていた子供が路頭に迷わないように安全サポート。

 望むならば入信を許可し、教祖の立場を利用してカウンセリングも完璧。

 脱退希望者、あるいは独立希望者には一か月程度の生活保障。


 全ては目的のため、けれど結果的に多くの命を救っていたのだ。


 手段はともあれ、これは明らかに善行だった。

 だからこそ最終的に――僕という存在は謎の救世主として、異能力者やファンタジー世界からの帰還者に知られるようになる。


 これこそが見せたくなかった僕の恥ずかしい過去なのだが。

 どーも想像と違ったのだろう。

 映像を眺めたアランティアが露骨にぶすーっと、口を尖らせ僕を睨み。


「ちょっと! なんなんすか! これ! これのどこが恥ずかしい記憶なんすか?」

『いや、恥ずかしいだろう』

「だってこれ! ふつーに人助けをしてるだけじゃないっすか! 自慢っすか!?」


 僕は嫌味と皮肉を隠さぬペンギン顔で。


『あのなあ、善行ってもんはひけらかすもんじゃないだろ? だったらそれを知られたら恥ずかしいって思うだろうが』

「あぁああああああぁっぁあ! やっぱり確信犯っすね!? わざと隠して自慢したんすね!? あたしはいつも偉そうなマカロニさんの弱点を掴んで、ゲハゲハ笑ってやるつもりだったんすよ!? あたしのこの憤り、いったいどーしてくれるんすか!」

『はぁ? 僕は隠したのに、勝手にお前が勘違いしただけなんだよなあ~』


 フリッパーを振って揶揄う僕に、アランティアは御立腹だが……。

 まあ実際、本当に少しは恥ずかしいのだ。


 ただ――。

 冷静に映像を眺めるマキシム外交官が、裏を知る顔ですぅっと瞳を細め。


「なるほど、陛下はこうやって善意のフリをし……或いは、善意と私欲を同居させた人助けを行い、基盤を盤石にした。多くの人間とのコネや恩は必ずや、いつかは武器となるでしょうからな」

『ま、実際――恩を売ってた連中が味方になってくれたこともあったしな』


 だが、その大半を僕は結果的に裏切り続けていた。

 僕の目的はただ一つ。

 弟を助ける事だけだったのだから。


「組織の人脈を拡大。不完全な状態で産まれた弟殿下の状態を完治できる能力者を探していた、ということでしょうな」

『おまえ、本当に策謀には鋭いよなあ……』


 このマキシム外交官……。

 女神に拾われた僕が獣王としてこの世界に落ちてこなかったら、絶対に世界征服とかやらかしていたタイプだろう。

 そもそも僕が介入する前は、ガチのマジでスナワチア魔導王国は悪の魔導王国扱いだったしなあ。


 お褒めに与り光栄とばかりに、口の端を黒く尖らせた野心家が言う。


「陛下は同時に国家転覆も企んでいた。より正確にいうのでしたら政府に入り込み首脳陣を洗脳、やはり弟殿下を治せる能力の捜査と強制確保をできる基盤を作ろうとしていた――。それが陛下がお持ちになっていた宗教団体から派生した、異能力者の組織。その人選は信者となった者や異能に目覚めた者の中で、強く社会を憎悪していた者。世俗に捨てられたと世界を恨んでいた者。言い換えれば、望んで世界を支配したいと強い願望、良い意味でも悪い意味でも反骨心を持っていた者――といったところでありますかな?」


 正解である。

 僕の微笑を肯定と受け取ったのか、マキシム外交官は小さく頭を下げていた。

 映像の中でも、児童相談所の目が届かず……両親から酷い虐待を受けても放置され、大人に助けを求めても助けて貰えなかった子供たちに、手を差し伸べている僕が映っている。


 もっとも、僕は既に組織の異能力者の力で姿を誤魔化していたが。

 過去の映像の中、偽りの姿の僕が言う。


『それほどに辛いならば、全てを捨ててもいいと心から望むのなら。一緒に来るかい?』


 と、まるで雨の中の捨てられた子猫に声をかけるおじさんのような声音で、僕は次々に捨てられていた者たちを拾っていく。


 社会の裏――行き場を失くし、復讐を誓う子供たちに僕は僕にできうる限りの力を与えていく。

 異能の目覚めに法則性を見出し、戦争時の防空壕から願いを叶えるとされる”歓喜天の像”……おそらくアランティア達と似た性質のある秘仏の一部を回収し、異能の発生確率を上げ――彼らの復讐に力を貸し続ける僕がいる。


 子供だけではない、そこには大人もいる。


『ああ、辛かったのだろうね。どうだい、僕も色々と世情の理不尽には疲れていてね――、少し大きな事をしようとしているんだ。君が一緒に来るのなら少しの間だけ生活のサポートをしよう。このまま死ぬくらいならば、どうだろうか。最後に僕らと共に遊ばないかい?』


 と、疲れた者たちに声をかける偽りの姿の僕がいる。


 上司に利用され社会から廃棄された者、逆に部下に利用され裏切りに遭い会社と社会性を奪われた者。

 僕は僕のためになるならば、そしてなにより彼らが望むのならばその全てに手を差し伸べた。

 勧誘条件はただ一つ。

 罪のない真っ当な存在を殺さない事。


『ああ、そうだ。だって悪いことをしていない人たちを不幸にしてしまったら、僕らも僕らを苦しめた連中と同じになってしまうだろう? だからこれは必ず守って欲しい。分かるね?』


 時には教祖の姿で、時には草臥れた渋い壮年の姿で。

 僕は彼らを拾っていく。


 彼らは世界を呪っていた。

 世界を恨んでいた。

 手を差し伸べなければ、自ずから命を絶つか、生きてはいられなかった者たちばかり。


 だから、そんな彼らに復讐という名の希望を授けたのだ。


 それは利害の一致だった。

 僕は求める異能力を探すため。

 彼らは自分をどん底に落とした恨みある存在に、報いを受けさせるため。


 その恨みの心が彼らに異能を授けたのだ。

 おそらく心こそが異能の原理、今となって思えば心が影響するという事は、異能も魔術の一種だったのだろう。

 僕は学生という本分の裏――宗教団体の教祖として、詐欺師として、異能者集団の裏の総帥として悪い者達から搾取し続けた。


 悪人ばかりを狙うのは良心が痛まないから。

 どれだけ痛めつけても、自業自得だろうと言えるから。

 いつか全てが失敗し僕が死んだとしても、彼らが社会に復帰できるために――。


 学生でありながら裏の顔がある。

 漫画やアニメのように生きている。

 それは――まともな価値観のある僕にとっては、ちょっとした……いや、だいぶ恥ずかしい歴史なのだ。


 だから、この記憶を隠したかったのは本音である。

 元から魔術の在る世界に生きている彼らにはきっと、この感覚は分からないだろう。

 ともあれだ。

 異能の実在と、仲間の異能力者が増えた僕の計画は順調に進んでいた。


 そう――彼らが出てくるまでは。


 これはあくまでも僕にとって隠したかった恥ずかしい記憶。

 だから映像もこれで終わる。

 僕は映像を補足するように、あの日の自分に投げかけるような言葉で告げていた。


『結局、この辺でファンタジー世界からの帰還者に国家転覆計画がバレて、上手くいかなくなったんだけどな』

「それでも異世界の力を目にした陛下はお考えになられた、異能とも違うその者たちの奇跡の力、魔術をも利用しようとしたのでありましょう」


 マキシム外交官の補足に、僕はジト目を向けていた。

 こいつ、本当に他人の心の観察やら人心掌握が得意でやんの。


『もしお前があっちの世界にいて僕の補佐だったら、もしかしたら結果も変わってたのかもな』

「さて、どうでありましょうか――少し抜けているところがありますが、陛下はどんな手段を用いても目的を達成させるお方なのです。多少人心に詳しい補佐が一人いたところで些事。陛下の御力で叶わなかったのでしたら、無理だったのやもしれませぬ」


 謙遜か本音かは、ちょっと分からないか。

 ともあれ。


 ノストラダムスの大予言による恐怖への煽り。

 国家転覆を企んでいた異能力者の組織。

 そして、偽神を祀る怪しい宗教団体。


 その全ての奥に共通する黒幕がいると知って動いたものこそが、異世界からの帰還者。


 地球ではないどこかのファンタジー世界で、戦っていた者。

 それぞれ別の世界線で殺された元魔王と、元勇者。

 僕は結局、彼らの中にも入り込むことになる。


 それが終わりの始まりでもあった。


 それはきっと、大事な話なのでその記憶の残滓はおそらく雑魚からはドロップしない。

 メンチカツが倒している中ボスが持っているだろう。

 漁夫の利を狙う僕たちは、攻略を再開した。


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