閑話休題の反対は余談~どうせメンチカツ待ちとはいえだな……~
先ほどのメンチカツ像の記憶はあの直後で途絶えていた。
一辺に過去を辿れると思っていた彼らは拍子抜けしたようだが、僕としてはこっちの方が気楽であった。
だが、途中まで見せられた話というのは、どんな内容でも先が気になるのが人間心理なのか。
テンションが低い僕とは裏腹にメンバーたちのテンションは高く……次のメンチカツ像を探し、いざ行かん!
と、鼻息荒く大張り切りで探索を再開することになった。
探索魔術でメンチカツ像をサーチするも反応はない。
まだメンチカツが中ボスと戦闘中なのだ。
ならばもう少し先で待っていようと――いつもは協調性という言葉などそっちのけのくせに、うおおぉぉぉぉぉっと全員が攻略に尽力。
今は雑魚敵との戦闘の真っ最中。
ケモノ型の天使ケルビムとクトゥルフ神話の猟犬を組み合わせた合成天使の群れを相手に、一致団結でGO。
仮にケルビム猟犬と呼んでおくが――。
天使の翼を刃とし、超高速空中移動攻撃をしかけてくる面倒な相手だ、直角に突進してくる鉄砲玉のような相手でもある。
ただこちらは僕の話の続きが見たいらしく、全員の士気は高い。
飛んでくる敵は全てリーズナブルが鈍器で叩き落し、防御結界を展開。
ギルダースが呪いの装備をコントロールし――刀から雨音を立てて刀の力を解放。
「咲き狂るんじゃ――村雨!」
刀から放たれた斬撃の雨が、空間を支配。
次元を渡り歩いて直角突撃翼アタックをしてくるケルビム猟犬の翼を切り裂き、完封。
地面に落下した敵に向かい、マカロニ隊が突撃し生きたままの相手の翼を蟲って素材回収。
なかなかの地獄絵図である。
しかしまあ、こんなカオスな空間で最もカオスなのはアランティアだろう。
どうやら魔術に造詣の深い彼女はこの空間にウズウズしているようで……。
「いいっすよね! いいっすよね! ここはあたしがやっちゃいますよ!?」
『うわぁ……テンション高いなあ』
「当たり前じゃないっすか! マカロニさんの夢の中に魔術の素のあたしがいるんで、たぶん普段は発動できない法則の魔術も発動できちゃいますからね!」
六女神の世界には、理論は完ぺきなのに発動できない魔術がある。
おそらく彼女たち女神ではカバーできない属性や、異世界の大物の力を借りることが必須な魔術群である。
それをアランティアは発動させたいのだろう。
『まあ、ほどほどにな……』
「許可も下りたんで、覚悟するといいっすよ!」
ビシっとアランティアがケルビム猟犬の群れを指差し、決めポーズ。
魔力操作を開始する。
夢の中ゆえに不安定という性質……そして、偽神ヨグ=ソトースを内包している世界。
更に、なんでもできるという僕の夢の中という性質を利用したのだろう――。
魔法陣に記述した魔術式にて、世界の法則を書き換える異世界の魔術体系の魔術を詠唱したアランティアが、にひぃ!
九重に積み重ねた魔法陣をコントロールし、異世界の魔術を解き放っていた。
「範囲消滅魔術! <灰燼の大焦土>!」
砂利と金属が擦れるような音が鳴り響いた、その直後に霧が発生。
範囲内の敵を破壊力のある霧で包んだ後、霧が消滅。
霧の中に包まれていた存在を消滅させる攻撃魔術……といったところか。
かなりノリノリなのだろう、そのままアランティアは瞳を赤く染め詠唱を開始。
「続けて、魔力解放っす!」
足元から魔法陣を発生させたアランティアは、魔導書と剣を召喚。
異次元空間へと逃走を図る残党をターゲットに、高速かつ多重詠唱。
この詠唱は――主神レイドの力を借りた魔術のようだが。
「其は冥王の名を冠する叡智なり。自転の星、陽子纏いし恒星よ。弾け、増え。殲滅を今ここに。我、希望の女神アランティアが命じる。集え原子よ、我らを阻む世界に破滅の礎を築き給え」
これは僕も前に一度使ったことのあるアルティミック。
あくまでも原理としてはだが――核分裂を利用した、爆発的な威力を出せる超範囲攻撃魔術である。
逸話によると神話時代の主神レイドの得意魔術でもあったのだが。
それを口と魔導書と細身の長剣を用い、三つ同時に詠唱。
高レベルの魔術を三発同時に打ち込み、相手の逃げ場を奪うつもりなのだろう。
徐々に拡大する十重の魔法陣が三つ、アランティアの周囲を回転しながら空間に広がり。
……おい! これ!
『おまえら! このバカがデカイのをぶっぱなす! 衝撃に備えろ!』
「等しく滅びてくださいっすね――攻撃魔術の秘奥義<【核燃爆散】>」
『人の夢の中で――っ』
僕の文句は途中でかき消される。
あまりの規模の爆発が同時に起こったからだろう。
周囲から一時的に、音と色とが消えていたのだ。
ケルビム猟犬が光の柱を振り向き、そして――そのまま硬直し……。
逃げ場を消滅させるほどの三連続の超爆発が、連鎖爆発を起こしたのだろう。
周囲の敵は壊滅していた。
それでも律義にアイテムをドロップするのだから、僕の夢は健気というかなんというか……なかなかどうして根性はあるようだ。
雑魚を吹き飛ばしたアランティアがまるで司令官のような顔で、キリ!
「さあ! ドロップ品を回収して次のマカロニさんの記憶を探すっすよ!」
アランティアの暴走ではなく、他の連中も乗っているのでたちが悪い。
ドロップ品を鑑定する僕はジト目で周囲を見渡し……。
今拾った記憶の欠片をこっそりと封印していた。
メンチカツは何度も中ボスを倒し、僕の記憶を覗いたようだが……。
なるほど、雑魚からもこうした形で記憶の残滓が落ちるときもあるのか。
僕の夢の中の世界なのだから、まああり得ない話ではないか。
『おまえらなあ、人の過去を見てそんなに楽しいか?』
「恐れながら、陛下はいままでご自分の事をあまり語っておられませんでしたのでな――我らにとっても大変な興味の対象であるとだけは」
マキシム外交官に続き雷撃の魔女王ダリアが召喚した槍に雷撃を纏わせ、直線状の範囲攻撃をチャージしつつ。
「婿殿が既に神の一柱として認識されているのなら猶更であろうな。おそらく、ここで入手した記憶は記録へと昇華され、後に神殿に祀られる”聖典”として纏められるのではあるまいか」
『いや……それはちょっと……』
「さっきからなんなんすか!? 皆がマカロニさんのことを知りたいんっすから、もっと喜んだらどうなんすかぁ?」
まるでこちらが悪いように言いやがる。
「それと、さっき隠した記憶の欠片とか破片みたいなもんも見せて貰っていいっすよね?」
気付いてやがる……。
僕はにこやかに告げる。
『こんなの見ても面白くないだろ』
「それを判断するのはこっちなんで」
にこやかに返してきやがる。
笑っていたアランティアが、がばっと僕の羽毛アイテム空間に手を伸ばし。
勝手に空間干渉を開始したので、僕はフリッパーで押し返し。
『おいこら! なにしやがる!』
「そこに隠してるのは分かってるんすよ!?」
『隠したがってるのが分かってるならやめろって意味だよ!』
押し合いで取り合いな状況で、僕らはぐぬぬぬ!
『隠したのは少しだけ悪いとは思うがな……! たぶん重要な記憶は中ボスを倒さないとでてこない! これは本当に、そんなに価値がない記憶の残滓なんだよ!』
「見てみないと分かんないじゃないっすか!?」
『見られたくないって言ってるんだよ、このボケ!』
ガルルルルっと唸り合いケンカするバカ犬の状態に近い僕らに、ギルダースが呆れた様子で言う。
「実際の話じゃ、氷竜帝マカロニさま言うたらもはや女神と同格の神じゃろう? その記憶の一つ一つが六女神の逸話と同じ――おそらくペンギン陛下の力を引き出す魔術の素となる。戦力増強って意味でも開示することは悪くないっちゅー話じゃろうが」
「そうっすよ! 神の逸話を読み解き、その人生、その物語を力として再現するのが魔術の根底! これは好奇心じゃなくて、あくまでも戦力増強の一環なんすよ!」
これが神になるという事だろう、と強引に押し切られるのは困る。
うぐぐぐぐぐっと、こちらは結構全力でアランティアを押し返しているのだが――こいつ、なんでも実現できてしまうこの空間の力やら、自分の希望の女神の力を悪用しているのだろう。
『おまえ! なんだこの法則を無視した馬鹿力は!』
「強化魔術もこの世界だとバリエーションを出せるみたいっすからねえ!」
『だぁあぁぁぁぁぁ! お前は本当にっ、こんな時だけ賢くなるんじゃない!』
ふっふっふっと、僕以上の力を込めてアランティアは、いつもハイテンションなのに更にハイテンションで――にやり!
「貰ったっすよ!」
僕の羽毛から、記憶の残滓が回収され。
それはメンチカツ像がなくとも、映像となって展開され始めた。
僕の隠しておきたい記憶が映像となって投影される。