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運命の歯車、運命の糸~二度あることは三度ある~


 モニターの中に、まだ子供だった頃の僕がいる。

 あの日の光景が映っている。

 不完全な神の子として弟が生まれてから、僕の人生には目的ができた。


 普通の状態で産まれなかった弟を幸せにしてやりたい、そう願ったのだ。


 それが、どうやっても宗教狂いから解放されなかった父と母の心を解放してくれた、愛すべき救世主おとうとへの恩返しだった。


 両親の目を覚まさせるために作った偽の宗教団体をそのまま利用。

 超常の力、異能や魔術を求める組織の基盤へと作り替えることにしたのだ。


『だからな? 世界には必ずそういった力があると悟った僕は、学生と宗教組織のボスの二足の草鞋を履いて、異能を発見。僕が作った偽神と宗教を信じてる信者たちを利用してメディアを掌握、世紀末の恐怖の大王アンゴルモアの逸話への恐怖を煽って――』

「だぁああああああああぁぁ! ストップ! ストップっすよマカロニさん!」

『って、なんだアランティア……せっかく僕が直々に映像の解説をだな』


 叫ばれた僕はメンチカツ像からフリッパーを放し、一時停止。

 僕の過去が知りたいようだったから、映像に映る過去をオーディオコメンタリー状態で説明してやっていたのだが。

 眉間に濃い皺を刻みドン引きしているアランティアが言う。


「えーと……どこから突っ込んだらいいか分からないんすけど」

『じゃあ突っ込まなければいいだろう』


 先ほどの意趣返しをしてやった僕に、くわっと大きく口を開け。


「メディアって簡単に言ってますけど、これ、よーするに民草に向けて一方的に情報発信をすることができる情報伝達魔術っすよね?」


 あー、そういやファンタジー世界の連中だからなあ。

 そこからなのか。


『まあそんな感じだな。今の時代はもう他の情報伝達手段が増えてるから無理だし、なにより選択の自由があるらしいが――当時はまだテレビってもんが民衆の思想を調整できたんだよ』

「それをまだ学生だったマカロニさんが押さえちゃったと?」

『まあ自分で作った捏造宗教だからまったく信じてなかったが、これでも教祖だったしな。うちの両親は弟の誕生で目が覚めてそーいうのとは手を切ったが、あの時つくった団体の規模はかなり拡大してたんだよ。僕が望む望まずともな』


 マキシム外交官が感嘆とした様子を隠さず、口の皺を動かし。


「陛下の信者がメディアと呼ばれる情報機関に入り込んでいた、と」

『ああ、だからテレビ局って呼ばれる映像送信魔術の総結社みたいな機関を掌握して、僕が望む情報を発信させることに成功したってわけだな』


 実際にテレビと呼ばれるものがどんなものか、僕は解説したのだが。


「うわぁ……洗脳し放題じゃないっすか。こんなん、マカロニさんに持たせたら世界の終わりっすよ」

『人聞きの悪い事を言うな!』

「だって嘘の情報で罪のない民を騙すわけですよね? 悪人どもを騙すならいくらでもって思いますが、これはちょっと……」


 そーいうの、良くないと思うんすけど……とわりとまっとうな価値観をもつ娘の横で、これは使えるな――と雷撃の魔女王ダリアが関心を向けているが、とりあえずスルー。


『そーはいうが、”1999年七の月、空から恐怖の大王アンゴルモアが降ってくる……”そうノストラダムスって呼ばれる医師が予言したのは本当だからな。んで、おそらくだが実際にアンゴルモアは実在していた。よーするに僕は嘘は言っていないんだ、悪くはないだろ?』


 僕の今の知識の中には、十六世紀に活動したノストラダムスと呼ばれる医師についての情報が浮かんでいた。

 ペストの治療をしていたと記述が残っていたと記憶しているが……。

 ここに一つの引っ掛かりがあるのだ。


 異世界の逸話魔導書を読み解く限り、あのペストの大流行は呪いの一種――魔術や異能に類よる事件の可能性があると僕は判断している。


 ファンタジーを知った今の僕には多くの逸話魔導書の知識がある。

 その中の一つに、具現化された魔女の呪いこそがペストであるとの説が記された魔導書が存在する。

 それはあの大魔帝ケトスの魔導書……彼の逸話に、そんな事件の関係者と対峙したことがある逸話が刻まれていたのだ。


 大災厄と呼ばれる異界の黒猫の正体こそがペストであり、それは神と教会を憎悪した魔女の呪い……。

 今はその呪いは人の形を取り、大魔帝ケトスの娘と恋仲になっている魔族であると記されているのだ。

 だがまあ、正直この辺の情報が正しいかどうかは今の僕にはわからない。

 なにしろ直接会ったことがないのだ。


 ともあれ、ペスト(のろい)が魔女の呪いであるのならば、医師としてペストと戦っていたノストラダムスには何か異能めいた力があったのかもしれない。


 そんな十六世紀の医師であり予言者が遺したのが、ノストラダムスの大予言。

 その中に出てくるのが、アンゴルモア。


 それが僕が利用した終末神話であり、僕が詐欺の宗教団体を発展させることができた大きな理由でもあった。

 そして今になって知ったことがある。

 このアンゴルモア、実はもう僕は会ったことがあるのだ。


 そんな事情も知らずにアランティアが言う。

 

「その、アンゴルモアってのが世界を滅ぼすって大騒ぎになってたんすよね? それが実在したって……どーいうことなんです? ぜったいなんか知ってますよね!?」


 マカロニ隊も話に興味があるのだろう、アデリーペンギンの群れが露店でお好み焼きを作りながら僕を眺める中。

 僕は所蔵する一冊の『逸話魔導書』を召喚してみせ。

 バサササササ!


 あの日、ニャイリスから購入したペンギン大王の魔導書である。


『偶然だが、ここに書いてあったんだよ――かつて大魔帝ケトスに世界を滅ぼされた異世界の主神。恐怖の大王ペンギンたる神、その名はアン・グールモーア。こいつは地球から見ると異星の主神であり、地球に恨みを持って宇宙から襲って来ようとしていた復讐者。空から降ってくるとされたアンゴルモアとの類似点が多いだろう?』

「これって……マカロニさんが魔術で力を借りていた異世界の獣神っすよね」

『ああ、よく覚えてたな。恐怖の大王アン・グールモーア。イワトビペンギンに転生したオオウミガラス……ニャービスエリアでも会食したから間違いないだろう。こいつが転生前の僕が利用した終末神話ともいえる予言の破壊神にして、世界を滅ぼすと記された大王の正体だ』


 リーズナブルが不安げに顔を上げ。


「しかし、陛下……そのような偶然が本当にあるのでしょうか。一度ならず二度までも……わたくしにはどうも、作為的な気配を感じてしまいますが」


 そう、僕は偶然にも二度、このペンギン大王の力を借りているのだ。

 二度目の偶然など少なくとも僕は信じない。

 だが、本当に二度の偶然がある事自体はありえないことではない。


 それでも。


『だぶん、本当に作為的だったんだろう。ほら、こいつを見てみろよ。僕は手下しんじゃの情報網を使って――主に表に出せないような悪事を働いていた、どんな目に遭っても同情されないようなクズみたいな連中をターゲットにして、詐欺を働いて軍資金を用意していたんだが、僕が潰したどーしようもない組織の中に見知った顔があるだろ?』

「見知った顔っすか……?」


 一時停止していた映像を調整した僕は、モニターに警察の事情聴取の隠し撮り映像を拡大してみせる。

 そこには、僕より少し年上の少年が表示されているのだが。

 覗き込んだアランティアが、怪訝そうな顔で告げる。


「男前になりそうっすけど、なんかちょっとバカっぽそうな子供っすね。この子がなんなんすか?」

『警察……まあ憲兵みたいな相手から事情聴取されて、すごい生意気そうに睨んでるだろ? 見覚えないか?』

「見覚えって……あぁああああああああぁぁぁ! この”あぁん!?” って口癖!」

『ああ、こいつ――たぶん生前のメンチカツだよ』


 そう。

 多くの偶然がここまで繋がっている。

 楽観的な思考の持ち主ならばこれを運命というのだろうが、僕はそうは思わない。


 恐怖を煽る素材として僕が利用した、ノストラダムスの大予言にある恐怖の大王アンゴルモア。

 その正体のアン・グールモーア。

 アン・グールモーアは二度、大魔帝ケトスに滅ぼされている。

 滅ぼされたアン・グールモーアは改心し、大魔帝ケトスの味方となり――流れ流れて僕はその魔導書を手に入れ再び大王の力を借りていた。


 そしてこのメンチカツ。

 あまり素行の良くない組織に、人質に近い形で預けられていた幼い頃の彼は、ここで一度、僕に救われているのだ。

 全てが薄く細い糸のような繋がりだが、それでもこうして今にまで繋がっている。


 この偶然は必然。

 誰かがこうなるように調整していた。

 たとえば、それこそ神のような存在の手が入っているのではないか。


 僕にはそう思えて仕方がなかった。

 思考する僕にアランティアが、うーんと悩みつつ。


「それで、これはいったい何をしてるんです? たぶんマカロニさんの生前の世界の言語で国会議事堂……って書いてあるんですよね」

『ああ、ここを乗っ取ろうとしてたからな。その計画書だ』

「へえ、国会議事堂……って施設を」


 おそらく理解できていなかったようで、アランティアは器用に映像に向かい鑑定の魔術を発動させ。

 国会議事堂の意味を知ったのだろう。

 突然、ガバっとこちらを振り向き叫んでいた。


「って! これ……国家転覆っすよね!?」

『ああ、だからファンタジー世界から転生で戻ってきていた元勇者やら元魔王に目を付けられることになったんだよ』


 しれっと言った僕に、アランティアが言う。


「うわぁ……マカロニさん、弟さんのためとはいえ――ガチでめちゃくちゃ悪人じゃないっすか」

『だから、そう最初から言っただろうが……まあ話もまだあるし、とっとと先を流すぞ』


 僕らはとりあえず映像の続きを鑑賞した。


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