表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/211

漁夫の利の道標~崇められるのも面倒だが、おまえらこれはこれで問題(以下略)~


 夢世界の中はまるで深層心理の迷宮。

 人間だった時の僕の記憶が混在し、大きく印象に残っている箇所に偽神が配置されているのだと僕たちは推測していた。

 メンチカツたちに討伐を任せ、漁夫の利を狙う僕らはゆっくり進軍中である。


 希望の女神を媒体に、この世界でも発動できるようになっている六女神の魔術が、ビシバシズバ!

 湧いて出てくる敵をなぎ倒し、僕らはトテトテぺたぺた。

 進軍の足音が、寺院やら教会やら神殿やらのループ空間に響き渡っている。


 心底疲れた顔でアランティアが言う。


「まさか、マカロニさんがあんな美形だったなんて……なんか滅茶苦茶ショックなんすけど?」

『はぁ? なんでだよ』

「いや! だって! ド腐れ外道な鬼畜ペンギンが許されてるのってファンシーなギャグキャラだからじゃないっすか? なのにあんな美形じゃ、本当の裏組織の黒幕とか、大幹部みたいで可愛げが皆無じゃないっすか!」

『みたいじゃなくて……裏組織の黒幕だったんだよ』


 かくかくしかじかで情報は共有しているとはいえ、実際に記憶をみると想像と違う点が多かったのだろう。

 既にこの空間に適応し始めた最高司祭リーズナブルも鈍器で雑魚を狩りつつ。


「現代日本と呼ばれる場所で……異能力とされる魔術とは異なる理論体系の力を行使する組織と、それらに敵対する魔術体系を行使する集団……どちらにも協力して、その実は陛下こそがエビフライさんを助けるために彼らを競い合わせ、欲する技術や能力所持者を探っていた……でしたか」

『まああの時のエビフライは不完全な神の子として顕現していたからな。そういった超常の力に頼るしかなかったんだよ』


 僕の言葉に眉を動かしたマキシム外交官が、探るように問う。


「しかし、陛下がお過ごしになられていた地球と呼ばれる異世界では、魔術の存在はあり得ない現象とされていたのでありましょう? 何ゆえに、そのような薄い線を頼ったのでありますかな」

『バーカ、考えてもみろ。僕の弟は異形かつ僕が今まで信じていた物理法則とは異なる状態で誕生したんだぞ? そして弟自体も明らかに普通ではありえない力を放っていた。ならもう答えは簡単だろう』

「なるほど、道理でありますな」


 この世界の敵にも攻撃できるようになったマキシム外交官はしばし考え、火炎の魔術で周囲を牽制しつつ。


「既に弟の君の誕生時点でありえないことがありえているのならば、世界には例外があることの証明となる。ならば超常の力は世界に存在する。そう陛下はお考えになられた」

『一つでも例外があるのならば、可能性は無限。僕らが扱う魔術の基本と同じだな』


 実際、神の子の失敗として生まれた弟という例外があったように、世界には異能の力も異世界人も存在したのだから。


 だからこそ、神の実在を僕は確信し……そして同時に地球においての神の不在を僕は確信していた。


 神がいるのならばなぜ非道な戦争や、理不尽な出来事が起きるのか。

 それは試練などではなく、ただ単純に見ていなかった……神が不在なのではないか、そう考えると多くの辻褄があったのだ。

 当時の地球には神が実在した、けれど神は何らかの理由でいずこかの異世界へと転移をしていた……だから魔女狩りや奴隷、人種迫害などの理不尽な歴史が作られたのではないか。


 神はいるが今はいない、それがあの時の僕の出した結論だった。


 ならば、僕が付け入る隙もあると行動に移した。

 たとえ何を犠牲にしてでも、未完成な神の子として生まれ落ちた弟を助けようと動いたのだ。

 僕が過去に少し想いを馳せていた裏で、音がする。


 嵐のような斬撃の音だ。


 ギルダースが呪われ装備で敵を一網打尽にし、納刀したのだろう。

 戦闘終了である。

 殲滅の合図の吐息に、王たる男が言葉を乗せる。


「しかしわからんのう、その結末がああやって凍死じゃろう? わりにあっちょらんじゃろ」

『まあ、こういうのは理屈じゃないだろうしな。僕の場合はそうだな、弟は本当に救世主……両親の怪しい宗教狂いから解放してくれた恩人って感謝もあったんだよ』


 マカロニ隊や追加でやってきた武官がドロップ品を回収する中。

 少し先行していたアランティアが、新たに発見されたメンチカツの像を指差し。

 にひぃ!


「そんじゃあ、次はアレっすね!」

『……おい、おまえが捕まったらアウトなのになんで前にいやがる!?』

「へ? だってマカロニさんが守ってくれてるから安全っすよね? なんか一回だけなら完全に全ての敵の行動を無効化する……なんていうんですか? 結界? みたいな異能力を使ってくれてるみたいですし」


 異能力の行使、これも今の僕の力。

 まあ安全といえば、それもそうなのだが。


『おまえなあ……過度に緊張感を持てとは言わないが』

「言わないならいいじゃないっすか」


 こいつ……。


『今更おまえの奇行は気にしないが、別にメンチカツ像をいちいちチェックする気なんてないぞ』


 おそらく中ボスを倒して建設したこの像には、僕が凍死した時より前の記憶が残っている筈。

 それを確認する意味は薄いのだが……。

 僕の言葉に何故だろうか、アランティア以外の連中も振り向いていた。


 僕が作ったのは、クチバシを尖らせた上でのジト目である。


『なんだおまえら、その反応は』


 マロンがタヌキ耳を驚きで膨らませ。


「見ないんですか!?」

『いや、だって……僕の記憶なんて僕は知ってるからな。冷凍と女神アシュトレトによって記憶を封印されていた時ならまだしも、今の僕には何の意味もないんだよ』

「しかしですよ、陛下。当方は大変興味があるのですが?」


 キンカンもキツネの尾を振りながら、見ましょう見ましょう! とへりくだる真似をして手揉み動作である。

 タヌヌーアとコークスクィパーは歴史や社会の裏に潜んで生きていた種族。彼らにとって、社会の裏に潜んで暗躍していた僕の過去は興味の対象なのだろう。

 アランティアの場合はただの好奇心、いつもの悪癖か。


 こんな時にこいつらを黙らせるのに一番いい方法を僕は知っている。

 数の暴力である。


『じゃあ多数決を取るぞ、いちいちここで無駄な時間を使ってでもチェックしていくか。それとも先を急ぐか、どっちかに手を上げろ』


 当然、先を急ぐ方が圧勝した。

 ……。

 筈だったのだが。


『って!? おまえら! なんで全員がチェックしていく方に手を上げてるんだよ!』


 雷撃の魔女王ダリアが砂漠騎士の優雅さを醸しつつ、手を上げたまま。


「婿殿に関しての過去、義母としては知っておきたいと思うのは当然であろう?」

『だから婿じゃないって言ってるだろうが! それにマキシム! おまえまで何を考えてやがる!』

「陛下の悪知恵がどのように動いていたのか、もし今後あなたさまが国を離れる選択をした場合においての参考にしたいと存じますが?」


 僕はガバっとリーズナブルを振り向くが。

 困った顔というよりは、お諦めくださいという苦笑にて……加護を感じる美貌から言葉を発する。


「申し訳ありません陛下、アシュトレトさまから神託が下りまして……是非とも見たいとの事ですので、その、すみません」


 あの女神っ。

 天を見上げる僕に構わず――。

 王としての貫禄もでてきたギルダースが、ぬははははは! っと嫌味な嗤い声が聞こえてきそうな顔で言う。


「今回ばかりはきさんの負けじゃな。そもそもじゃ、どうせ急いでもメンチカツが中ボスと戦っとるんじゃ。実際問題――急ぎ過ぎても無駄。漁夫の利は狙えんじゃろう」

「でありましょうな――」

「はい! 多数決の結果! チェックしていくことになりました! いやあ良かったっすね、マカロニさん!」


 ちなみに、今の発言をしたときのアランティアはものすっごいニコニコ顔である。

 マカロニ隊が裏切りやがってフリッパーを振り上げているのも気になるが、まあこいつらはこいつらでノリだけで生きてるからなあ……。

 再び簡易露店を立て始めたので、商売をしたいという意向もあるのだろう。


 これ……マカロニ隊の連中、完全に商業ギルドに染まりすぎたな。

 中央大陸で商売のイロハを学び始めたのが、彼らのターニングポイントだったのかもしれない。

 そのうちネコの行商人と並ぶ商人軍団になるのかもしれないが、ともあれだ。


 ここで駄々をこねても押し切られると悟った僕は、はぁ……。

 中ボスが居た場所に設置されたメンチカツ像に、タッチ。


『おまえらが期待するような過去じゃなくても文句言うなよ。結構、しょーもないからな』


 告げて、祈り……念じた。

 凍死する前。

 僕が黒幕として暗躍していた時代の記憶が、表示され始める。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ