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ガチのガチ ~そーいやおまえら、これを見たの初めてだったか~


 多数決によって僕らはゆったりと進軍中。


 ドロップ品を全回収しながらも攻略は進み――僕らは中間拠点のような神殿祭壇に辿り着き、僅かな休憩をとっていた。

 おそらくここで中ボス戦があったのだろう。

 メンチカツたちに先にダンジョンを攻略される形となっているので、こちらは楽といえば楽なのだが……話はそう単純でもない。


 激しい戦闘があったようだが、三人とも無事のようである。

 もしかしたら僕があり得たかもしれない僕に命じた”メンチカツたちへの妨害”が、これにあたる可能性もあるか。

 足止めを兼ね、中ボスの場所へと誘導されたように感じられる。


 それはいいのだ、それは。問題は制圧地に設置されたこれだ。

 メンチカツたちと中ボスの戦闘の痕跡の中。

 建設されていた例の偶像を見上げ、アランティアが言う。


「これ……メンチカツさんの像っすよね?」

『だろうな――なんだこのドヤ顔は……』


 僕はドヤ顔の彫像にフリッパーを当て、祈り念じる……。

 朝の女神ペルセポネの力を借りた、過去視の魔術を発動したのだ。

 そこに見えたのはやはり中ボス戦……受胎告知を行った大天使ガブリエルとクトゥルフ神話におけるショゴスを習合させた邪神と戦っていたようだ。


 僕の過去視にタダ乗りするアランティアが言う。


「うへぇ、スライム状の天使の神っすか……」

『いや、お前なにしれっと僕の魔術に同調して勝手に覗いてるんだよ。どんな原理でそんな無茶な魔術を……』

「ふふふふ! どうっすか! これが女神の力なんすわ!」

『実際すごいだけになんかムカつくな……』


 アランティアも見ているメンチカツと邪神との戦いが気になる者もいるだろうと、僕は魔術を調整。

 休憩地点の祭壇に、モニターにして投影。

 休む間も商売の時間……と、露店を並べたマカロニ隊の店からそれぞれ焼き串などの食料を購入して、見学会が開始される。


 雷撃の魔女王ダリアがモニターを眺め、ごくりと息を飲み。


「このカモノハシ……獣王メンチカツといったか。この強さ――本物だな」

『ああ、普段はどーしようもない暴力とギャグ担当だが……あの女神ダゴンの眷属だからな。どーいうインチキを使ってるのか知らないが、ダゴンの悪知恵で状態異常の対策もできてるみたいだし。マジでこいつでもヨグ=ソトースを回収できるだろうな』

「職業はモンク僧か……バランスが良い職種ゆえに厄介であろうな」


 戦闘狂のきらいがある魔女王に目線をやり、マキシム外交官がチョコでコーティングされた冷やしイチゴを齧りながら問う。


「雷撃の魔女王ダリア、貴公でも勝てぬ相手ですかな?」

「マキシム……挑発のつもりか知らぬがかつての英雄の貴様が、今はペンギンの臣下とはな。まあ野心は死んでおらぬようだが」

「そのペンギンに負けたのは貴公も同じではありませんか? 魔女王殿」

「ふん――ワタシはただ婿殿が我が娘に相応しいおのこか試しただけ、それよりもだ、このメンチカツという男……? そうとうにできるぞ」


 ギルダースもモニターを覗き込み。

 ペタ足の先にダゴンの力を纏わせる本気モードのメンチカツを眺め……。


「モンク僧は回復も攻撃も補助も可能な万能職じゃからのぅ、低レベル帯じゃと器用貧乏な一面もあるが……こげんな高レベルともなっちょると……正面からは対処しきれんじゃろう」

「ぶっちゃけ、メンチカツさんってマカロニさんの前だとネコ被ってますけど、本質は暴力。マカロニさんと合流する前には獣王としての役目を果たして、魔術の悪用をしていた場所を容赦なく滅ぼしていたり黒い一面もありますからねえ……敵に回すと本気で厄介なんじゃないっすか」


 偽神ヨグ=ソトースを内包している僕を監視していた男。

 女神ダゴンの切り札。

 回復のエキスパート。


 それらの情報を踏まえて僕が言う。


『状態異常に異様に弱かったのは一種のストッパー……ダゴンが敢えて作った弱点だったってこともあるかもな』


 実際、モニターの中のメンチカツは強い。

 勝つためだけのケンカ殺法とでもいうのだろうか、型にハマっていない圧倒的な暴力でこの夢世界の神を圧倒しているのだ。

 ……。

 ま、まあ見た目がカモノハシだし、援護しているのがハリモグラな弟とハリモグラと一緒に触手を動かすジャガイモのような肉塊の弟なので……こう……ファンシーな状態になっているが。


 アランティアが言う。


「てか、エビフライさんもガチであっち側についちゃってますね」

『自立してくれるのは兄としてありがたいことだな』

「……いや、あのマカロニさん? もうちょっとこう、僕を裏切りやがったな! とか、兄を置いて抜け駆けしやがったな! とかないんすか!?」

『そーは言うが、ずっと依存するのはあいつのためにもならないだろ。こういう反抗期が成長の第一歩だって言うだろうが』


 弟の成長に、うんうんと頷く僕にアランティアが呆れた様子で頬を掻きつつ。


「マカロニさんって、ほんとうにエビフライさんのことになるとポンコツ駄目ペンギンになりますよね」

『じゃあ弟のために協力して、世界と宇宙を支配するとか言いだす方がいいのか?』

「あのぅ……ここって夢世界ですよね? たぶん現実では起きない……起こしにくい法則改変まじゅつが発動しちゃう可能性があると思うんすよ。なんで、あたしに向かって本気でそういう感情があると、叶えちゃうんで……冗談でも控えて貰えませんか?」


 あ、ガチトーンなダメ出しだ。

 そのままアランティアが言う。


「マカロニさんは軽く思ってそうですけど、あたしはマカロニさんに? まあそこそこ? 感謝をしてるんで? ガチ目な空気で願いを叶えてくれって思われちゃうと、マジで危ないんですってば」

『ふむ――』


 試すように僕は空のコップを召喚し、本気で願う。

 すると、カラカラコロンとコップの中に氷が発生。


『お! 便利だなこれ』

「って!? 危ないって言ってる傍からなにしてるんすか!?」

『実験は大切だろ! おいおまえら! 氷が必要ならどんどん言えよ~!』

「は!? なんなんすか!? 人を氷発生装置にしないで欲しいんすけど!」


 ペペペペペっと笑い話にして切り上げたが……。


 これ……。

 僕の夢世界の中で、希望の女神の力があればたぶん本当にどんな願いも叶えられるだろうな。

 まあ大前提としてどんな犠牲をも気にしなければという、最低最悪な条件がつくが。


 マキシム外交官はその辺に気付いているようで、どうするべきか僕の判断を仰いでいるようだが。

 僕はとりあえず黙っておけと目線だけで返していた。

 そのやりとりを見ていた雷撃の魔女王ダリアがコホンと咳払い……音もなく、静かに唇だけを動かしていた。


「(婿殿は野心があまりないのだな)」

『(あのなあ……僕が本気で野心を抱けば、けっこうヤバイぞこれ……)』

「(守ってもらえるのだろうな?)」

『(まあ……僕の夢世界と、アランティアの力を狙ってくるやつはでるだろうが……)』

「(我が娘はなかなかどうして、顔が良いと思うが?)」


 お母さんとしては、それを含めて娘を頼むと言いたいようだ。

 だが知らん!

 しれっと目線を逸らし、モニターに意識を戻した僕は言う。


『こうやって圧勝したメンチカツが、エリアを占拠……中ボスを倒し、制圧した証としてこの像を立ててるってことだよな』


 かつて僕が「偽の聖書」ともいえる偽典に刻んだ偽の神……その中にはヨグ=ソトースとは異なる神もいた。

 正確に言うならば聖書を弄り、新たな合成神として捏造したのだが……それが夢世界では具現化されているのだろう。

 どうやらこのドリームランドには多くの合成神がいるとみて間違いない。


 だが――それらの超常の神々の数体を、メンチカツは既に討伐済みのようだ。


 モニターの中のメンチカツが、倒したボスを眺め静かに瞳を閉じている。

 瞳を閉じているのに……変な話だが、何かを見ているのだろう。

 ボスを倒した後に、イベントが発生。

 先に進めるようになる仕掛けになっているとみるべきか。


 スライム状の天使型のボスの残滓から、記録を読み取っているようだが……。

 アランティアが言う。


「ちょっとメンチカツさんが何を見てるのか、表示してみますね」


 夢世界に適応してきたのか、そういう調整もできるようになってきたようだ。

 どういう原理かは分からないが、モニターの中のメンチカツが見ている景色と接続したようだが……。

 ……。

 ああ、これ……あの時の”生前のメンチカツが僕を殺す時の景色”だな。


「うっわ! なんすか!? この超美形!?」

『なにって……ほぼ毎日見てるだろうが』

「なにを言って……って……え? まさかこの美形っ、マカロニさんの転生前の姿なんすか!?」


 うわぁ……。

 マカロニ隊以外のほぼ全員が、人生で一番驚愕したと言わんばかりの顔で、こちらを凝視している。


『あのなあ、僕が女神アシュトレトの加護を貰った一番の理由だぞ? 僕が美形だって前にも話したこともあっただろう』

「だだだ、だだだ、だからって! お笑い担当のマカロニさんの正体が、こんなガチでガチの美青年だなんて思わないっすよ!? てっきりカボチャとかジャガイモみたいな顔かとっ」

『誰がお笑い担当だ!』


 酷い言われようであるが、他のモノ達の反応も同じようだ。

 こいつら、あとで覚えとけよ。


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