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未知なる雑魚戦~僕らの優先順位~


 邪神を祀る礼拝堂エリアには、濃い闇の気配。

 空気は少し冷たい。

 多くの灯篭と燭台、光源の分からないステンドグラス風のガラス窓が並んでいる。


 この景色を言葉で形容するならば、不安定な悪夢、そして歪んだ宗教群、だろうか。


 神殿を抜けると寺院。

 寺院を抜けると教会。

 教会を抜けると神殿。

 その繰り返し。


 ドリームランド内は既にメンチカツたちが暴れていたので、幸いにも多くの敵の姿は消えている。

 だがもちろん全てを倒しきっているわけではなく。

 僕は闇に潜む、顔のない天使型の敵の群れを発見し先制攻撃!


 地の女神バアルゼブブの力を借りた、耐性無視の即死魔術を発動!

 フリッパーの先から生まれた闇の霧が、超広範囲に広がり。

 そして――。


『<殲滅腐食魔術:死肉喰蟲ガガギギガガ>!』


 僕のクチバシから発生した魔術名が因となり、効果を発動!


 ギイッギギギギギギィィィィ!

 と、声にならない断末魔を上げて天使型の敵が消滅していく。

 アランティアが闇の霧に刻まれ消えていく敵を眺め……うへぇ……。


「あのぅ、ちょっといいすかマカロニさん……今の敵、全攻撃に耐性持ってましたよね?」

『ああ、なにしろ今のは僕の妄想の産物。子供の頃の僕が考えていた闇の眷属……邪神たちの王に仕え、神の威光に歯向かう敵を偵察する斥候スカウトの役割を与えられた天使で』

「いや、そーいう子供が考えたような設定はどーでもいいんすけど」

『おい! なんだその子供が考えたようなって、文字通り子供が考えたんだから仕方ないだろうが!』


 ドロップ品を回収しながら吠える僕に、アランティアもドロップ品を拾いながら。


「あたしが聞きたいのはマカロニさんの攻撃っすよ! なんで全ての攻撃を無効化させるほどの耐性がある敵なのに、マカロニさんはふつーに倒してるんすか!? こっちの攻撃、マカロニさん以外は通じてないっすよね!?」


 そうなのである。

 どうもまだこの夢世界に適応できていないのか、魔物……と呼んでいいのか分からないが、ともあれここの敵にこちらの攻撃が通用していない。

 あの法則を無視するアランティアでさえ、相手の耐性を貫通できていないのだ。


 僕の攻撃だけが通じているので、他の面子はもちろん面白くないようだ。


『僕の攻撃が通ってる理由は単純に二つ。純粋に強いからと、後は相手の耐性の隙間を狙った攻撃属性を選んでるからだよ』

「でも今の天使……くどいようっすけど、全ての攻撃に耐性持ってましたよね?」

『ああ、基本属性はな。ただ地の女神の魔術にあるような相手を食べる<食事属性>には耐性を持っていない。なにしろこの魔物を考えた時の僕はファンタジーがこんなどーしようもない世界だなんて知らないからな、まさか食べることに関しての耐性すらも必要だとは想定してないんだよ』


 周囲を警戒しながら鈍器で結界を張るリーズナブルが、ふふっとおっとりとした息を漏らし。


「なるほど、ならば正攻法ではなく……子供の頃のマカロニ陛下の裏をかくような搦め手ならば攻撃も通ると?」

『まあそーいうことだ。僕だってはじめ女神の世界に来たときは呆れかえったからなあ……そのままの意味でここは子供の頃の僕には、想定外の世界なんだよ』


 おまえらのせかいがへんなんだぞ?

 と、女神ともどもにこの世界の住人にジト目を向けてやるが。

 ギルダースがジト目を返してきて。


「こげん奇妙な夢を精神世界で構築しちょるきさんに、言われとうないんじゃが?」

『まあ子供がしたことだからな』

「それは本人が言うて良い言葉じゃないじゃろうが!」


 ガルルルルっと吠えるギルダースがいつもの呪われ装備から、ボヤァァァっと鬼火を発生させる横。

 ドロップ品を回収するマカロニ隊の尾を眺めたキンカンが言う。


「しかし、悠長にアイテムを拾いながらでよろしいので? メンチカツ氏と弟殿はもっと奥に進んでいるのでありましょう?」

『まあなんというか、あいつらは銅像やら彫像を道中に建設しながら進んでるからいずれは追いつく。んで、あいつらの攻略を利用して先行させた方が道中は楽だろうし……それに、ここは夢の中の世界だろ? アランティアの希望の属性みたいに、本来なら叶う筈もない法則を無視したアイテムがドロップする可能性がかなりある。それを放置するのは、ちょっと勿体なくないか?』


 アデリーペンギンスマイルを作ったマカロニ隊が全力で頷く中。

 未知のアイテムに年甲斐もなく瞳と野心を輝かせるマキシム外交官が、鑑定の魔術を瞳に浮かべながら告げる。


「ならば王宮の影たちを呼んだ方がいいでありましょうな。これらの宝を放置するなどとんでもない損失、あやつらにもドロップ品を回収させましょう」

『マキシム……おまえ、なーんか上機嫌だが。なにを拾ったんだ?』

「効果の方はさほど大きくないようですが、”若返りの石”のようですな」


 我が犠牲、実験台となりましょうとマキシム外交官が石を掲げて、アイテムとして使用。

 マキシム外交官の身体に僅かな魔力が走るが……。


『何も変わってないな』

「いえ、一歳ほど若返っております」

『一歳だけか……まあ効果自体は悪くないが』


 僕にとっては何の価値もないアイテムである。

 それでもこの野心家の男には宝に見えるのだろう。


「陛下、是非ともここの宝はすべて回収いたしましょう」

「お待ちくださいマキシム外交官」

「なんだリーズナブル」

「メンチカツさんには陛下の弟君であるエビフライ様が同行しておりますでしょう? もし何かあっては困りますし、合流の方を優先した方がよろしいのではないでしょうか?」


 かつてマキシム外交官と覇権を争っていたリーズナブルの進言に続き、同じく王に化けて覇権を争っていたマロンが僕に言う。


「陛下――本気のメンチカツさんがついているなら大丈夫そうではありますが、本来敵の筈のイレギュラーも同行しているのでありましょう? なにをやらかすか分からないお三方を放置するというのも、どうなのか……そこが心配ではありますが」


 リーズナブルとマロンは合流を優先させるべきと考え。

 マキシム外交官はアイテム回収をしながらでいいと考えているようだ。

 アランティアがコホンと咳払いをしているので、スルー。


 僕はギルダースに目線を向け。


『お前の意見はどうだ?』

「どうじゃろうな……だが、ワイは急ぐ必要はないとは思うちょる。なにしろどうもここには緊張感がないじゃろう? 死の気配というべきか死線っちゅーもんを感じられんのじゃ。あのメンチカツが本気ならばそうそうなことは起こらんじゃろう」


 どちらかといえばマキシム外交官よりということか。

 んーむと悩む僕は雷撃の魔女王ダリアに目線をやるが。


「ワタシは口を挟む立場にはないであろう、婿殿の判断に従うまで」


 ちっ、責任を押し付けてやろうかと思ったが無理そうだ。

 アイテムに価値があるのは確かだが……。

 ……。


『おい、さっきからなんだ?』

「なんだじゃないっすよ!? なんであたしには聞かないんすか!?」

『おまえの意見が入ると、ぜったいいつもみたいに騒がしくて面倒な流れになるからに決まってるだろうが!』

「は!? なんすかそれ!? だいたい、いつもの騒動だってあたしのせいじゃなくてマカロニさんのせいじゃないっすか!?」


 こいつはこう言っているが、おそらくこいつも元凶の一つ。

 希望の力により……良く言えば賑やか、悪く言えば騒動な未来を望んで騒ぎが大きくなる傾向にある。

 なので、今回に限っては絶対にこいつの意見は入れたくないのだが。


 マキシム外交官が言う。


「たしか陛下の故郷では民主主義というのでしたかな? 多数決をしてみてはいかがかと愚考いたします」


 普通ならば平等なのだが……マカロニ隊がいるからなあ。

 間違いなくアイテムの全回収を狙っているだろうから、多数決となれば答えはもう決まっているのだ。

 まあ、いいか。


 多数決になれば当然、結果は予想通り。

 マカロニ隊が、ペペペペペペ!

 全員同時に商人の顔で、ニタリ!


 マキシム外交官のドロップ品を回収しながら進む提案に手を上げた。


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