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戦友だから見える景色~そういやおまえ、いなくなってたな~


 イワバリア王国には大きな貸しがある。

 かくかくしかじかで事情を説明された転移門の奥にいるギルダースは、じとぉぉぉぉぉお。

 僕に同行していた時に覚えた僕と似たジト目をしたまま。


「はぁん……なんちゅーか。相変わらず、とんでもないことになっちょるなあペンギン陛下殿」

『まったく、この世界は本当にろくでもないよな』

「他人の世界のせいにしちょるが、そもそもは生前のきさんが元凶じゃろうが」


 まあ全てを辿ると、僕のせい。

 怪しい詐欺宗教にハマる両親の癖をどうにかしようとしたのが始まりだが。


『そうは言うがなあ、僕がいなかったらこの世界……天の女神アシュトレトやら朝の女神ペルセポネやらに呆れられて詰んでたんじゃないか?』

「そりゃあそうやもしれんが、まあええじゃろ。それで、こっちで雷撃の魔女王ダリアを預かればいいんじゃな。こちらは構わんが……その最終決戦の方はどうなんじゃ?」

『ん? どうっていうのは』

「いや、雷撃の魔女王ダリアは当時世俗に疎かったワイすらも知っちょったほどの英傑じゃ。強いんじゃろう? だったら決戦に連れて行けばと思うちょるんじゃが」


 まあ道理ではある。


『決戦は僕一人で行く予定だからな』


 告げた僕にこちらの一部の臣下は驚いた様子を見せたが、自分たちが足手まといになるとは理解しているようで苦言は上がってこない。

 だが、何故かギルダースは顔に怪訝の相を浮かべ。


「のう……ペンギン殿。それ、メンチカツにも伝えちょるのか?」

『いや、言うわけないだろ。あいつ、この話を聞いてたらなんでオレを置いていくんだって面倒な騒動を起こすに決まってるしな』


 ギルダースは僕の顔を見て、はぁ……と露骨に息を漏らす。


「相変わらず、抜けちょるところは抜けちょるなあ……あの暴力の化身のカモノハシは行動力の塊じゃからのう。そっちはどうやら主要人物を集合させちょるようじゃが? そこにメンチカツがおらんのは不自然とは思わんかったんか?」


 あー、たしかに。

 正直、対話やら交渉の時にあの残念カモノハシがいると話が拗れるので放置。

 いなくても気にせずにいたが……。


 僕のクチバシの根元に、じんわりとした汗が浮かぶ。


 ……。

 いやいやいやいや。

 さすがにあいつでも……無茶はしない筈だろう。


 杞憂を気にしないようにして僕は言う。


『はあ? あいつはメンチカツ隊を引き連れて、お前んところのワインダンジョンに戻ってる筈だぞ?』

「こっちの商会であのゲニウスと密談しておったんじゃが?」

『ゲニウスとだ!?』


 ゲニウスとは昼の女神の眷属で、冒険者ギルド幹部となっているカマイラ=アリアンテの兄疑惑のある食えない男なのだが。

 あいつが僕を通さず、メンチカツと密談か。

 ……。


 僕は空中庭園を見上げ、神を睨む獣王の眼光でクワ!


『おい! 昼の女神ブリギッド! お前の仕業か!』

『ふん! やっと気づいたのペンギンさん!』


 女神アシュトレトと女神ダゴンが降臨したばかりなのに、これだ。

 奇跡で貴重な筈の神託が直接落ちてくる奇怪な光景に、一同はもう考えることを止めたようだ。

 構わず僕はペペペペペペ!


『どーせろくなことじゃないだろうがなっ、メンチカツを使って何を企んでやがる』

『あたしはただ世界のために頑張っていただけですもの! 企むなんて心外なのだわ!』

『企んでないなら素直に吐け!』

『い、言いたくないのだわ!』


 ほう?


『言えないことをやらかしてるって事だろうが!』

『ち、違うのだわ! め、女神を馬鹿にしないで欲しいのだわ!』

『言葉が単調になり始めてやがるし……おまえさあ、隠し事をできないタイプか……?』

『煩いのだわ! だいたい、ペンギンさん! あなたが悪いのよ!』


 すぐに人のせいにするのは女神あるあるだが。


『あー、もう分かったから。僕が悪いって事でいいから事情を説明してくれ』

『あら、素直じゃない。いいわ、このあたし午後三時を愛する女神昼の女神ブリギッドが生意気ペンギンなあなたに説明してあげる!』

『手短にな』


 神に対する威厳なんて感じない僕は塩対応だが。

 転移門の奥に見えるギルダースの家臣たちは神の言葉であると、頭を垂れて平伏している。

 こんな女神でも、ちゃんと創世の女神扱いされているのだろう。


『分かって欲しいのは、そもそもあなたがあたしの昼の魔術を使いこなしていないのが悪いってことね』

『そりゃまあ……だがもうちゃんと使えるようになってるぞ?』

『それが遅かったのよ!』

『あのなあ……まったく話が見えないんだが?』

『とにかく! まずはあなたが悪いってことを認めて欲しいのだわ! あたしのせいじゃないって誓約書を交わすのだわ!』


 この反応を見る限り、こいつ……相当なやらかしをしやがったな。

 おなじみのジト目で僕は言う。


『一応言っておくが、こーいうときはとっとと謝罪した方が罪は軽くなるぞ? なにをした、とっとと言え』

『ちょ、ちょっと……その、あなたが昼の魔術を使えないと、ドリームランドに行けなかったでしょう?』

『まあな』

『だからあたしもちょっと責任を感じて、魔術を使わなくてもドリームランドに入れるアイテムをゲニウスに作らせていたのよ……』


 言って、昼の女神は陽射しを利用した幻影魔術を発動。

 ふわふわな枕を提示して見せ。


『これを使って眠ると、あなたの夢の中に入れるようにしたのだけれど……』


 別に変な話ではないし、むしろこちらに協力しようとしていた話なのだが。

 裏がある事は確実。

 呆れを滲ませる詰問の口調で、僕はクチバシをくわり。


『で――? 続きは?』

『で、でも……その、ペンギンさん。結局、世界の美しさとかそーいう感情で、あたしの昼の魔術をつかいこなせるようになったわよね? じゃあそのアイテムも要らなくなるわよね?』

『まあそりゃあな』

『だからあたしは、その……もう要らないわ! って処分をゲニウスに頼んだのだけれど。ちょうどワインの買い足しに来ていたカモノハシさんに見つかっちゃったみたいで』


 ……、ま、まあまだ普通にある話だ。


『で?』

『ゲニウスもその、なんていうのかしら。原価がかなり掛かっちゃってたらしくて、そのまま処分するのも惜しいって事もあってね? カモノハシさんに、その枕を売っちゃったのよ』

『おい、待てこら』


 話が見えた僕が、わりと真剣にクチバシの付け根をヒクつかせたと気付いたのだろう。


『ほら! そうやって怒るじゃない! だから言えなかったのだわ!』

『そんな大事な事を黙ってるから怒ってるんだろうが!』


 唸る僕にアランティアが言う。


「えーと、何が問題なんすか?」

『メンチカツのバカが僕より先にドリームランドに行きやがったんだよ』

「あ、なるほど。でも……状態異常で操られて面倒なことにはなりますが……それだけっすよね?」


 他の皆も同意見のようだが……。

 僕とギルダースは違う反応だった。


『あいつは度し難いほどのバカだが、戦略とか戦術って方面だとそこまでバカじゃないんだよ』

「今頃は状態異常耐性の装備やアイテムをかき集めて、その枕を使ってスヤスヤじゃろうな」

「えーと……つまり……」


 アランティアの言葉を拾う様に、雷撃の魔女王ダリアが言う。


「ワタシは獣王について詳しくはないが――おそらく、その者は誰よりも先に偽神ヨグ=ソトースを討伐し、その力を利用するつもりなのであろうな」

「えっ、いやいやいやまずいっすよ!? 利用って! あのメンチカツさんに好き勝手、願いを叶えるような力を渡しちゃったら!」


 やっと、どうヤバイのか気付いてくれたようだ。


『そう、正直どーなるかわかんないだろ?』

「しかし婿殿、相手は仮にも偽神。いかに獣王といえど勝てぬのではないか?」


 メンチカツを知らない雷撃の魔女王ダリアならば確かにそう思うだろう。

 だが、ある意味であいつに一番詳しい僕が言う。


『あいつ、単純な戦闘能力だけなら僕よりも上なんだよ』

「婿殿よりもだと!?」


 もう婿殿呼びが普通になっているが、この状況でいちいち突っ込むのも面倒なのでスルーして。


『まじめに状態異常対策を済ませてあるなら、たぶん本気で目的を達成させるだろうな……』

「なるほどな、だがしかしだ。やはりワタシには分からないのだが……そのメンチカツとやら、それほどに変な思想な男なのか? ヨグ=ソトースは人の心や感情に大きく左右される神性だろうからな、まともな相手ならばさほど問題にもならぬぞ?」


 まともな相手ならば。

 その言葉が深く、突き刺さっていた。


 ここにいる全員、メンチカツのことは知っているので。

 汗を浮かべ、しばし沈黙。

 ……。


 僕が真っ先に唸っていた。


『あぁあああああああああああああああぁぁぁぁ! こんなことしてる場合じゃないだろ、これ!?』


 メンチカツが天の魔術を使えないからと油断していた。

 あいつがヨグ=ソトースをどうにかしてしまったら、世界どころか宇宙がやばい。


『おい、やらかし女神! 僕の昼の魔術と同調して、ここにいる全員をドリームランドに転移させろ! あのバカを力尽くでも連れ戻すぞ!』

『や、やらかし女神ですって!?』

『どえらいやらかしをしたんだから当たり前だろうが!』


 ダゴンにとってはどちらでもよかったのだろう。

 僕と協力したら問題なくヨグ=ソトースを回収できる。

 それとは別に、メンチカツを利用してヨグ=ソトースを確保するルートも用意していたと考えるべきだ。


 おそらく僕が伝授したおかげで、偽証魔術への対策もできている筈。


 あの腹黒女神っ。

 たしかにヨグ=ソトースに対し、万が一僕が対処できなかった場合の別ルートは必要。

 そのためのメンチカツの能力、無駄な高スペックだったのだろう。


 文字通り、メンチカツは女神ダゴンの切り札だったのだ。


 あんな超範囲の蘇生魔術が使える時点で、なんかおかしいとは思っていたが……っ。

 そして、まちがいなく”この世界”を守るための善性よりの行動なのだろうが、やり口がっ。

 やり口がっ。


 計算高い女神と、バカだが私欲もちゃんとあり戦闘スペックの高いメンチカツ。

 あいつら……ある意味でアシュトレトよりも、バアルゼブブよりもたちが悪いでやんの……。


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