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母と娘と雇用主と~(無駄な)戦いの果てに~


 荷物を撤去した僕の私室。

 魔力と床が擦れて発生する、鉄に似た独特な匂いの空間。

 氷竜帝マカロニこと僕と側近のアランティアの前には、砂漠騎士の流れを感じる女帝風の騎士。


 雷撃の魔女王ダリア。


 挑発で引き付けているので相手は逃げられない。

 そして敵はアランティアの母。

 雷撃の魔女王ダリアとして歴史に名を遺しまくっている、なかなかに問題のある人物らしいが……。


 さきほどから発生させている僕の説得判定は全て失敗。

 いつかの模擬線のような戦い……何度やっても女神ダゴンが僕の説得に失敗していたように、超低確率のようなのだ。

 てか、今考えればあの腹黒女神……。

 あいつ……あのとき既に僕の夢の中にヨグ=ソトースがいるのを、知ってやがったな……。


 どうもあの時点で戦いを仕掛けてきているのは不自然だとは思ったのだが、あわよくばあの時に偽神へと昇華するだろう僕と、偽神ヨグ=ソトースを確保するつもりだったのだろう。


 ともあれだ。

 今は目の前の相手の事に集中しよう。

 単純な説得は無駄、ならばやはり戦いによって納得させるのが手っ取り早い。


 いいだろうと、相手も言っていたので条件を提示。

 六女神の魔術属性を纏う僕が言う。


『僕が勝てば素直に降伏しろ! 夢の中から召喚された存在とはいえだ、さすがに側近の母親を殺したくはないからな!』

「我が娘がワタシを殺したスナワチア魔導王国の側近……か。ふふ、本当にワタシが死んでいる間に時代が動いていたのだな」


 悟ったようなセリフの後、雷撃の魔女王ダリアは突剣ではなく大振りの騎士剣を二刀召喚し。

 いちいち風格と貫録を滲ませて、手に掴んだ獲物をチャキ。


「どうせワタシは異世界の大神が見た夢の残滓。泡沫うたかたの中に浮かんだ一瞬の幻。神殺しの果てに消滅するのならば、それも一興であろう!」


 言葉の終わりに、参る――と告げ。

 スゥウゥゥウウウウウウウゥゥ!

 先ほどとは全く異なる剣舞を披露してくる。


 原理はおそらく踊り子系統の剣舞。

 四連続攻撃かつ、二刀でそれぞれ舞うので八回攻撃を一瞬で放ってきたのだが。

 どうもこの技を返すのはマズイ気がするな。


 僕は海の女神ダゴンの魔術を選択し、ニヒィ!


『距離を稼がせて貰おうか――<海水幻影魔術:貝竜の蜃気楼>』


 僕は巨大な貝を背負ったナメクジのような軟体竜を一瞬だけ召喚し、蜃気楼を発生させる。

 その蜃気楼が生み出すのは、煙の道。

 無限に広がる煙の通路だ。


 それはドラゴンとしての性質を持つ貝竜によって作られた幻の道、けれど現実となって僕と敵との距離を稼いでいた。

 どれだけ駆けても一生僕には届かない。


 カカカカカカカカ――ッっと甲冑音が延々と鳴り響く中。


「小癪な……っ、搦め手ばかりを」

『戦いなんて勝てばなんでもいいんだよ!』

「その一点のみは同意しよう、だが――所詮は幻影魔術、実体を伴わない泡沫でワタシは誤魔化されん。キサマのその甘さが命取りだ!」


 雷の魔力を纏った雷撃の魔女王ダリアが、一瞬だけ立ち止まり。

 斬――!

 煙の道を剣舞の一閃で切り裂く。


 本来ならそこで幻影は解除される。

 幻の道は所詮幻と消え去るが――僕は幻すらも現実にできる偽神。

 僕に従い、僕の側につけば泡沫の存在であるあんたも、現実化できると見せつけるように――僕はグペペペペペペペ!


『はい、ハズレ!』

「なに!?」

『あのなあ、あまり僕を舐めるなよ? まさか、あんなに武勇伝を持っておきながら、虚実すらも確立させる最上位の詐欺師と戦ったことがないのか?』

「ぬかせ――!」


 んー……今のあんたをどうにかできる。

 そういうメッセージをこめて、幻影を現実に書き換える改変を行ったのだが。

 どうやら騎士として戦いの決着はつけたいらしい。


 仕方ないと、僕は蜃気楼を操作。

 剣舞を仕掛けてきていた雷撃の魔女王ダリアと僕との距離が、どんどんと遠ざかる。

 距離を確保したと同時に、クチバシをガジガジとした僕はペタ足でジャンプ。


『秘儀! 技でもスキルでも魔術でもない、ただのつぶて!』


 先ほど噛み砕いた剣の破片をクチバシに含み、空からプププププ――!

 ズガガガガガ!

 っと、マシンガンのような礫の弾丸が蜃気楼によって生まれた、現実化された幻の通路に突き刺さる。


 弾丸を剣舞で弾きながらも、相手は後退を余儀なくされている。


「ちぃ……っ!」

『はははは! どうだどうだ! あんたの武器の礫で技を返される気分は!?』


 観戦していたアランティアがジト目で言う。


「って! ただスイカの種を飛ばすみたいに破片をクチバシから飛ばしてるだけじゃないっすか!」

「違うぞアランティア。氷竜帝マカロニ、こいつはワタシがカウンタースキルを仕掛けようとしていたことに気付き、攻撃判定にならない手段で妨害したのだ――」

「うへぇ……マカロニさんもよく見抜きましたね。あのぅ、どっちの応援もしにくいんでそろそろ何とかして貰えませんか? ぶっちゃけ、この状況で他の誰かがくると結構めんどうなんすけど」


 こいつ……他人事みたいにいいやがって。

 悲壮な顔をされるのも嫌だが、こうも普段通りだとそれはそれでイラっとするな。


「ふふ、どうやら我が娘は健やかに育っているようだな」

『いや、健やかって……僕が出会った時は既にテロリストで、初手で国家転覆を企んでやがったぞ?』

「それでこそ我が娘、ワタシの大切で唯一の心残り――強く生きているのだな」


 国家転覆を喜ぶなっての。

 しかも、言いながらも既に僕の蜃気楼を斬撃だけで打ち破ってるし。


 このアランティアの母……。

 剣の腕が半端ないな……。

 純粋に武器を使った技量の勝負ならば、やはり僕はあっさり負けるだろう。


 まあ戦いとはそう単純なものではない。


 事実、僕はほとんど何の力もないのにかつての地球で、黒幕なんてやっていたのだ。

 相手の裏をかく卑怯な手段で負ける気はしない。

 そして基礎スペックはこちらが圧倒的に有利。


 相手がいかに技術に長けていても届かないほどの差……かなり苦労しないとたった一つの搦め手すらも解除できないほどのレベル差がある。

 こちらが負けることはないだろう。

 それは相手も分かっている筈なのだが。


 これ以上やっても無駄だと悟ったのか。

 相手はようやく斬撃の嵐を止め、納刀。

 なにやら悟ったような、深い笑みを作り……告げた。


「そうか――なるほどな。氷竜帝マカロニよ、ワタシも汝を見極めた」

『こっちの説得に従ったって事でいいのか?』

「そうだな。貴公……いや、貴殿にならば我が娘を預けてもいいのであろうな。試すようなことをしてすまなかったな。マカロニ殿、そしてアランティアよ。ワタシは此度、この瞬間に貴殿とおまえの交際を認めよう」


 ……。

 ……。

 ……。


 僕とアランティアは、真顔で目線を合わせ。

 同時に言う。


『あの、なんか勘違いしてないか?』

「えと、なんか勘違いしてません?」


 ああ、そうか。

 なるほど。

 これ……僕とアランティアがそーいう仲だと思われてたのか。


 さすがにないわぁ……と互いが本気で思っていると母には伝わったのだろう。

 大きな勘違いをしている事に気が付いた雷撃の魔女王ダリアは、かぁぁぁぁぁっと顔を赤くさせ……夢の中に帰ろうと……唇を震わせ、ぷるぷるぷる。

 こーいうところは、娘に似てるでやんの。


 当然、ヨグ=ソトース達の様子も聞きたいのでそのまま捕縛した。


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