雷撃の魔女王ダリア~そりゃ当時最強でも、昔の僕ならともかく今の僕ならさあ~
其れは、雷を纏った突撃だった。
まさに疾風迅雷。
かつて多くの大陸で暴れまわった雷撃の魔女王ダリア……その一閃は確かに強力だ。
だが! 敢えて真正面から受けて立つ!
僕は発生する魔力摩擦の煙の中。
悠然と構え、天の魔術を緊急詠唱――天体を操作し”小さな月”を天井に召喚。
月光の下――雷撃の魔女王ダリアのレイピアによる攻撃を羽毛で受け、ドヤァァァ!
「なっ……!?」
『どうだ! これぞ夜の魔術! 月光による防御力アップだ!』
「ちぃ……っ、小賢しい真似を」
ダリアによる連続攻撃が僕の羽毛に弾かれ、キンココキン。
黄金に輝く羽毛に防がれ、滑稽な音しか発生していない。
攻撃が効いていないと知った瞬間に瞳をわずかに揺らし、敵は僕も知らない影魔術を用いて後退。
武器召喚の波動を発生させ、闇に手を入れ魔女が唇を蠢かす。
「来い――如月、花月」
やはり装備召喚の魔術のようだ。
ダガシュカシュ帝国で見覚えのある砂漠騎士の構えで、輝く突剣を二刀装備し。
更に突撃!
まあ、一切効かないのだが……これ、防御を突破されてたらちょっと痛かっただろうな。
「攻撃が通じない……? どうやら――本当にただのペテン師ではないようだな」
『はっはー! あんたの剣術はたぶん凄いんだろうけどな! 僕の防御を貫通できないようでは……って! おいこら、僕がまだ格好いい煽りを……っ』
「貰った――っ!」
防御を高めた羽毛をブワブワに膨らませ煽る僕に構わず、雷撃の魔女王ダリアは髪の毛先まで雷の魔力を纏い突撃!
転移ではなく雷の如き神速で、一気に距離を詰めてきて。
ジュウゥゥウウウウウウウウウゥゥっ――!
「<三千二刀流奥義:蛇蝎のさざめき>」
発動に宣言が必要な類のスキルかなにかか。
効果は……防御力を一定量無視する攻撃のようだが、やはりそれも無駄。
彼女の装備するレイピアが溶け、魔力熱を帯びながら弾ける音が響き渡る。
溶けた武器の破片が僕のクチバシの中で輝き、爆発を……っ。
こいつ!
クチバシの内側を狙ってきやがる!
わざと武器を破壊、破裂させズタズタにするつもりなのだろう。
僕は慌てて海の女神の魔術で緊急消火!
ついでに口の中に入り込んだ武器の破片を、ガリガリガリ! と咀嚼!
地の女神の魔術で緊急消化!
『普通っ、煽ってるペンギンのくちばしの中を攻撃するか!?』
「武器を食らうだと!?」
『地の女神は武器すら喰らう暴食の悪魔王、武器に食事不可属性をつけていないのは未熟な証拠! 六柱の女神に対する研究不足だな!』
「愚かな、如月には触れた者の平衡感覚と座標認識を奪う呪いが、花月には燃えるモミジのように呼吸を失う毒が滲ませてある。それを喰らえば、いくら道化たる貴様とて」
まあ、ふつうの相手ならそうなのだろうが。
『悪いんだが、僕。状態異常は無効にするぞ?』
「無効……だと」
『マカロニペンギン化っていう最上位の状態異常が既にかかってるからな! 他の状態異常は全部弾くんだよ! バーカバーカ! ロートル魔女騎士!』
情報開示と共に話術スキルの<挑発>を発動。
状態異常無効という情報を知るという結果を得たことで、その中に入っていた挑発も相手は同時取得、敵を引き寄せ逃げられなくする挑発状態を強制的にかけたのである。
正直、逃げられるのが一番面倒だという判断である。
『あのなあ、あんたがどれだけ強いかは知ってるがそれは過去の話だ。これでも僕は神性持ち、六柱の女神の第四席にも勝ってる神だぞ? 基礎の戦闘技術はともかく、さすがに格が違うって事は分かるだろう』
言いながらも僕は室内の荷物や調度品を全て転移。
母を目の前にしても冷静、僕の部屋を優先して防御していたアランティアが言う。
「母さん。なんでこんなことを……」
声に母は振り返り。
僅かに顔を伏せ、愛を感じさせる顔で口を開く。
「決まっているだろう。アランティア……確かに今のワタシは偽物だろう。自分でわかる。だが、現実世界にあるとされる願いを叶える性質のある神器、神話時代に語られたパンドラとされる神秘、あるいはイエスタデイ=ワンス=モアとされる異世界の猫の置物……そのどちらかを手に入れれば、全てが解決する。ワタシは夢ではなく現実となっておまえを迎えに行ける。そうだろう、ペテン師マカロニ」
ちなみにこのお母さん、めちゃくちゃイイ声である。
軍を従える将軍や騎士としてこれほど適した声はないだろう。
しかし――ああ、なるほど。
やっぱりそうか……。おそらく彼女が発生した理由も僕にはわかっていた。
僕はちらりとアランティアに目をやった。
「なんすか?」
『ああ、うん……まあいい、なんでもない』
自覚なしである。
こいつは気付いていないが、僕には原理が見えていた。
先ほど、少し昔の話をしたときにアランティアは、心で想ってしまったのだろう。
母に会いたい。
心のどこかでそう願ってしまったのだ。
そしてその願望を夢の中で叶える存在が身近にいた。
僕の中にいる偽神ヨグ=ソトースである。
あるいはヨグ=ソトースも彼らの同類……アランティアやイエスタデイ=ワンス=モアのように、他者からの願いを叶えてしまう……そんな厄介な性質があるのかもしれない。
今回のこれに限っては完全に計算外である。
そしておそらく今の魔女王を消滅させても、また夢の中で再生する。
それもこれも凄すぎる未来視を持っている神鶏ロックウェル卿とかいう、異世界ではなんか大きな顔をしている三獣神とやらのせい。
ヨグ=ソトースの召喚リソースはその鳥の未来視の中。
そして全てを見通すというその鳥が”見えているルート分岐”はおそらくほぼ無限大、いつか果てはあるだろうが……現実としては際限なく引っ張ってくることができる。
そして母との再会を願っているのはアランティアなので、元を断ち消滅させるのは論外。
心情的にも、魔術の素となっている部分でもだ。
だから僕は言う。
『いや……あんたがふつーに僕の側につけばいいんじゃないか?』
「キサマの側にだと」
『ああ、僕こそが世界を騙す偽証魔術の祖みたいなもんだからな。可能性の中に在った夢でしかないあんたの存在を現実世界で維持することだって、たぶん本当にできる。それにだ――』
やることは簡単。
ごく普通に交渉するだけである。
僕はこっそりと三獣神の逸話魔導書……大魔帝ケトスの書を開き、説得の魔術を多重起動。
ついでに、成功判定にプラス補正を発生させる黒猫魔術も多重発動。
『雷撃の魔女王ダリア、あんたじゃあ僕に勝てないぞ』
「ほぅ――自信があるようだな」
『そりゃあ伊達でスナワチア魔導王国の王をやってるわけじゃないしな。本気で試してみるか?』
「いいだろう――」
かつて女神ダゴンが僕にやったように、僕は説得判定を連続発生させていた。