おそるべき侵入者~効率をあげるには睡眠時間も大事だって論文でも証明されて(以下略)~
あり得たかもしれない僕たち兄弟。
強力過ぎる未来視の中から具現化された彼らと、彼らを具現化させているかもしれない偽神ヨグ=ソトース。
敵と認定できるそれらの三体は僕の夢世界の中。
その中でもあり得たかもしれない僕に対抗できるのは、僕の偽証魔術のみ。
だから偽証魔術が記された僕の<逸話魔導書>はよく売れた。
僕が女神や二匹の大王や三獣神の魔術が使えるようになったように、<覚醒のマカロニ>の書を読んだ者は僕の魔術を使えるようになるのだ。
ニャイリスも商売のチャンスであり、協力的。
なおかつ実際に僕の”逸話魔導書”をあいつの世界で販売することは、あちらの宇宙の平和にも繋がる。
最終決戦の前になにをちんたらしている。
そう思われるかもしれないが、放置すると相手の戦力が増えるパターンではないので問題なし。
むしろ時間が経てば経つほど偽証魔術の使い手は増えていく。
急ぐ必要などなく、時間が経つほどこちらの方が有利になるのだ。
明日ももっと逸話魔導書を増産するぞと、スピー、グペペペペェ!
ぐっすりと僕は眠っていたのだが。
夢の中。
なにやら変な気配が近寄って来ていた。
ここはふわふわとした夢空間ではなく、多くの怪しい宗教の経典や教義で溢れた不気味な子供部屋。
見覚えがある。
子供時代の僕の環境と、その時の生活空間を反映させた夢だろう。
そこで頬をヒクつかせて腕を組み、激怒した様子で待っていたのは”あり得たかもしれない僕”。
敵の僕が言う。
『おいこら、おまえ! いつになったら攻め込んでくるんだよ!』
『はぁ……まあそのうちにな』
言ってフリッパーをペシペシ振って、ベッドを召喚!
毛布に潜って僕は再び目を閉じスピー!
『おまえ! 本気で寝ようとしてるだろう! これでもペンギンのおまえの夢の中に入ってくるのに苦労したんだからな!?』
『うるさい! 黙れ! 今はめちゃくちゃ稼げるチャンスなんだよ! 終わったらちゃんと攻め込みに行くから黙って待ってろ! 空気を読め、空気を!』
『空気を読むのはそっちだろうが! あのなあこっちがそっちのパンドラの女神かイエスタデイ=ワンス=モアを捕縛したらどうなると思ってるんだよ!』
まあそうなるとアウト。
夢と現実世界がひっくり返るのは確かなのだが。
僕は言う。
『おまえだって僕なら分かってるんだろう? アランティアには既に偽証魔術を習得した六柱の女神が、イエスタデイ=ワンス=モアには偽証魔術を習得したムルジル=ガダンガダン大王をはじめとする強大な獣神がそれぞれ護衛してる。あれはもうどうやっても攻略できないだろ』
『万が一って事もあるだろうが!』
『そりゃあまあな、だからちゃんとそっちの攻略準備も進めてるから安心して待ってろ。じゃあな』
話は終わりだとやはりフリッパーを振り。
僕は毛布の中でスピースピー!
明日の商談に備え、深い眠りに……。
『だから会話を途中で切るなボケペンギン!』
『あぁあああああああああああぁぁぁぁ! 眠れないだろう! アホ人間!』
『おまえ! すっかりペンギンになっちまってて恥ずかしくないのか!?』
『どんな未来を辿ったのかは知らないが、僕はおまえと違ってこっちの世界で楽しくやってきたからなあ。今は、このマカロニペンギンの姿が気に入ってるんだよ!』
毛布から顔だけを出し、バーカバーカ!
揶揄ってやったのだが……どうやら本気で怒りだしそうなのでこれくらいにしておこう。
僕はベッドをしまい。
『で? 何しに来たんだ? まさか文句だけを言いに、わざわざ僕の夢の中に侵入してきたわけじゃないんだろう』
『お前が来ないから、おまえたちの目線でいうあり得たかもしれない弟が暴走しそうなんだよ』
『は? おまえがいるから大丈夫だろ?』
『あいつは僕が偽物……未来視の中から召喚された虚像だって気付いてるんだよ。あいつ自身もそうなんだが、それでも本物のおまえを探してる。今は僕の偽証魔術で抑えてるが、そのうち止められなくなってそっちの世界に溢れ出すぞ』
どうやらまっとうな警告のようである。
『まあ……本当なら欲しい情報だけど、なんでそんなことを教えてくれるんだよ』
『あのなあ! 本物の僕はどこだどこだって、四六時中虹色に発光してるんだぞ!? 偽神ヨグ=ソトースも神の価値観で百年でも千年でも、一万年でも夢に漂って待つつもりでやがるし。がああぁああああああああああああぁぁぁぁ! まともな! 僕だけが! 発狂寸前なんだよ!? 分かるか!? 分かるよな!?』
その姿はさながら絶叫。
自画自賛ではないが――脂汗を滴らせ、目の前で指をぷるぷるさせる美青年の図である。
なかなかの魂の叫びとも言う。
そしておそらく、あり得たかもしれない僕がなんらかの理由で消えても、再び強制召喚される。
その無限ループに発狂しかけているようだ。
僕は言う。
『はぁ、所詮は偽物って事だな』
『文字通りそうなんだよ! 未来視はあくまでも未来視、本物じゃない! もう限界だから、とっとと来い! 早く来い! いますぐ来い! 嫌なら女子供を巻き込む形で現実世界に弟を投げつけるぞ!』
『いや、おまえって僕だろう? 全世界を巻き込むって形でもないなら、子供相手にそういうことはできないだろ』
『分かってるなら本当に困ってることも分かってるだろう! おまえは僕の可能性の一つなんだからな! もう無理だ! なんとかしろ!』
限界が近いのは確からしい。
しかしこいつ。
僕が残念スリーや女神に振り回されているように、厄介なクトゥルフ系列な弟と神様に振り回されてるのか……。
どのルートでも僕は、そういう役回りにされがちなのかもしれない。
『じゃあそっちの地図とか魔術体系とか規則とか、そーいうのを来週までに持ってこい。少しは攻略準備が早まるからな、それまでこっちはちゃんと商売して待ってるから。急ぎたいならなるべく早く、んで、正確なデータを持って来い』
『おい、まだ話は――』
『おまえに構ってる暇はないんだよ! こっちは宇宙規模の商売なんだぞ!? 寝る時間も大切にしてるんだ、話は終わり。終了。それじゃあ帰れ!』
今度こそじゃあなと言い切り、僕はペンギンペタ足キック!
夢の中に侵入してきた輩を追い払った。