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そのペンギンは転ばない~転んでもただでは起きぬ~


 僕こそが主神と女神アシュトレトの子供。

 そんなクソ面倒な神託を一斉に下しやがった女神たちは、なにやら満足そうな顔で一同にっこり。

 僕が言う。


『おまえら、ふざけるなよ! よりにもよってっ、全人類に向けた神託をやらかしやがっただろ!?』

『まあいいじゃねえか、マカロニよ』

『夜の女神さま、どーいうことか事情を説明していただけますか!?』


 アシュトレトが、こやつ……こんな状況でもキュベレーにだけは敬語を使いおって……と、微妙にジト目をしているが。

 夜の女神キュベレーに代わり、朝の女神ペルセポネが朝のヴェールを春風の吐息で揺らし。


『此れにて汝は主神の子と証明された。即ち、朕らにも子がおっても問題ないという事になろう』

『お? おう……何の話だ?』

『あたくしはメンチカツを、バアルゼブブちゃんはエビフライちゃんをそれぞれ自らと主神との子と認識しておりますの。けれど彼女たちにはまだ獣王の器を用いた、旦那様との眷属こどもがいないでしょう?』


 おい、こいつらまさか……。


『まさかおまえら……よーするに、あのモフモフ狂いとの子供が欲しくて、僕で先に既成事実を布告しやがったってことか?』

『その通りなのよ!』


 昼の女神こと午後三時の女神ブリギッドは、ふふんと幼女風なドヤ顔を作り。


『レイドはあたしたち女神にはわりと公平なのだわ! アシュトレトの眷属であるあなたを子供として世界に報せたのならば、そのうちメンチカツとエビフライにも同じ布告が下るのよ! そうしたらあたしたちには不公平になるでしょう?』

『然り、ならばこそ朕らも三女神同様に、獣王の器を用いた眷属を作るべく……この時、この瞬間を創り出した』


 改心した今のバニランテ女王は本当に色々な国との懸け橋となっている。

 公平な女王として別大陸からも慕われている。

 その女王のもとに六柱の女神が揃い、宣言したのだ――それもそれぞれの神殿長の前で。

 いまさら取り消しもできないし、人類はこの神託を信じるだろう。


 そして女神アシュトレトだけが主神の子を作っているとなると、他の宗派は多少困ることになる。

 主神としても一強になり過ぎても問題だと、他の女神とも子を作ることになるだろう。

 よーするにだ。


『僕はあんたらのダシにされたのか……』


 ケシシシっと少しドナに似た女傑風な笑みを浮かべ、夜の女神さまが僅かに肩を竦めてみせていた。


『とまあ、そういうこった。利用しちまったみてぇで悪ぃなマカロニ』

『まあ夜の女神さまがそう仰るなら』

『ペンギンさん、あなた……本当にこの子にはまともな反応をするのね。一応言っておくけど、夜よりあたしの方が強いのだけれど?』

『いや、強さで言うならおまえも今の僕とそう変わらないだろ……』


 ジト目で冷静に語る僕に、昼の女神はムキー!


『だから余計にムカつくんじゃないの!』

『ふむ、やはりそなたらは仲が良い。朕は思う。此れは、あれじゃ……ツンデレ、というやつであるな?』

『いや、ツンデレって……そーいうのとは若干違うだろう』

『良い、良い――素直に認められぬのが人の心。此れこそが理解。朕には全て分かっておる』


 まーたヴェールの下で得意げに唇を揺らす朝の女神が、頓珍漢な事を言いだした。

 ジト目の僕とジト目の昼の女神は目線を合わせ。


『もうほっとくのよ』

『だな――それでこれでお前らの目的は果たせたんだろ。そろそろ帰ってもらえるとありがたいんだが?』


 こいつらの気が緩めば、周囲の人類は神の威光に潰される。

 まあ聖職者の連中はそれも本望なのだろうが、さすがに気分はよくない。


『分かっておる、じゃがこれは必要な儀式……そなたのための通過儀礼でもあるのじゃ』

『僕が主神の子だと認定されれば信仰心を一気に集めることができる、そうすれば”神性”を持つ僕の基礎能力が大幅に上昇する。それが目的だってのはまあ分からんでもないが……』

『ダゴンはなにやらせこい裏の手を使い……夢の中に入り込んでも問題ないらしいが、妾らはそうもいかぬ』


 アシュトレトはこの世界の美しい景色を、謁見の間の上空に投影し。

 愛しいものを眺める豊穣たる地母神の眼で優しく告げる。


『天と地と海、朝と昼と夜。これらの神性と成り立ちが、女神という神格を通じこの世界と結び付けられておるからのう。留守にすれば時間経過でこの世界の理が崩れる。故に、ドリームランドへは踏み込めぬ。そなたを強化する手段を多く用いることが前向きで、合理的じゃろうて』


 ダゴンは話を振られても信徒たちの前なので、ニコニコニコニコ。

 糸目を僅かに開き。


『まあアシュちゃんったら、せこいだなんて。ふふふふふ。まるであたくしに裏があるみたいな言い方は、あまり好きじゃないのですけれど? ねえ、みなさん。どう思われますか?』


 どう思われるか……。

 そう信仰する女神からニコニコ糸目の圧力と共に問われた神殿長たち、彼らがとっても可哀そうなので僕が言う。


『おい、化けの皮が剝がれかけてるからそれくらいにしとけよ』

『化けの皮だなんて。うふふふふふふ』

『怖いからその顔はやめろ……だいたい、たぶん僕以外にはおまえら全員、なんか正体不明な神々しい光がペカーってなってるようにしか見えてない筈だぞ』


 僕も初めはそうだったが、それがレベル差というものである。


『え、え……そ、そうなの?』

『じ、じ……、じゃあ、ぼ、ぼくや、あ、あたしは……』

『み、みんなに、ど、……どう見えてるのかな?』


 バアルゼブブの言葉に答えられる者は少ない。

 それもその筈、たぶん彼女は悪魔王としての影響で……けっこう、きつい見た目に映っている筈。

 悍ましくも禍々しい光球が、グジジジジジっと蠢いているように見えている筈なのだ。


 誰も答えないのは不敬となると思ったのだろう、すぅっと皺のある口を開きバニランテ女王が言う。


「畏怖と尊敬を覚える程のとても力強き存在が、千を越える群れとなり、多くの瞳で我らを見守ってくださっている……そのように映っております」

『えへ、えへへ……マ、マカロニちゃん、い、畏怖だって』


 じろじろ見てくるクソやべえ蟲のレギオンを、失礼に当たらない言い方に変えただけだが。

 まあ本人が喜んでいるからいいか。

 同じ感想を抱いたらしいアシュトレトが息を吐き、顔を引き締め告げ始める。


『して、どうなのじゃ妾のマカロニよ。最終決戦に挑む準備はできたのかえ?』

『いや、まだまだだな』

『なれど、奴らはまた夢世界から這い出て多くの箇所を襲う。あまり悠長にはしておれんぞ』


 そう、タイムリミットがあるのだ。

 普通ならば。

 僕は言う。


『大丈夫だって、僕に考えがある。どうせ最終ダンジョンに行くなら万全な状態で行きたいからな!』

『じゃから、時間はあまりないと……』

『時間がないなら稼げばいいだけだ。ほら、あんたらの分もあるからちゃんと読んで習得しとけよ』


 告げて僕が取り出したのは、僕がいつも座る位置の調整用クッションに使っている”周囲の情報を自動で記載する魔導書の複製”。

 その更に複製だった。

 僕が儀神へと昇華された時から、その表紙にはこう刻まれている。


 <覚醒のマカロニ>――と。


 これは既に僕のグリモワール。

 逸話になっている他の神々と同じだ。

 僕の逸話と魔術が刻まれている最新の<逸話魔導書>といえるだろう。


 空に浮かべた六冊の書を受け取ったそれぞれの女神は逸話魔導書を開き。

 それぞれが愉快そうに笑いだす。


『ふふふ、ほほほほほほ! そうかそうか! そう来たか!』

『あらあら、ふふふふふ!』

『お、おー! す、すごいね!』

『はは! やるじゃねえかマカロニ』

『褒めてあげるのだわ!』

『此れならば、なるほど――天晴なり』


 女神たちが僕の逸話魔導書から学んだのは、僕が生み出した枠外の現象。

 偽証魔術。

 そう、そもそもだ――あり得たかもしれない僕が厄介だったのは、あり得たかもしれない弟の影響で無限リポップする存在かつ、偽証魔術がどうしても防げなかった事にある。

 偽証魔術には偽証魔術でしか対抗できなかったのが問題だったのだ。


 ならば僕が偽証魔術を定義づけ、編纂。

 逸話魔導書に描かれた魔術体系へと落とし込んだことで、全てが解決する。

 極端な話、今の女神たちならば敵が夢世界から這い出てきても、容易く撃退できるようになっただろう。


 危機といえど、その危機の根底をひっくり返せばいいだけ。

 これが詐欺師の戦い方だ。

 本来ならもうちょっと準備をしたかったが、まあいい!


 邪悪なペンギンの顔で僕はグペペペペッペエ!


『なあ、三千世界の連中にこの魔導書、どれくらいの額で売れると思うか?』


 あっちの宇宙の連中が偽証魔術を防ぐには、この魔導書を買うしかない。

 そしてこの書は僕ならば複製し放題。

 これは超ビッグなビジネスチャンス!


 僕は共犯者にできるニャイリスと連絡をとり!

 宇宙の危機を利用し商売を開始した!


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