女神顕現~神の布告~
女神ダゴンと女神アシュトレト、彼らの降臨はこの聖王国でも一大事。
せっかく降臨してきたからという事で、バニランテ女王と会談を行っている。
それは僕も知っていた。
ドナの元から転移で謁見の間に飛んだ僕こと、氷竜帝で偽神なマカロニはじぃぃぃぃぃぃ。
ジト目で彼女たちを眺め告げていた。
『……、おい。なんであんたたちが全員揃ってるんだよ』
そう。
六柱の女神が全員降臨していたのである。
神の威光を抑える結界を張っているので、なんとか人死にはでていないが……正直、けっこう危険な状態であると言える。
こう、なんというか。
彼女たちの魔力は強すぎて、呼吸困難になりかけている神官やら家臣もいるのだ。
天の女神アシュトレト。
地の女神バアルゼブブ。
海の女神ダゴン。
朝の女神ペルセポネ。
昼の女神ブリギッド。
夜の女神キュベレー。
女神たちは僕の言葉に反応し。
『ふふ、たまには良いではないか』
『あ、あたしも、ふ、二人が降りてたから……ふ、ふたりだけ、ず、ずるいよね?』
『あたくしとアシュトレトちゃんの降臨に続き、バアルゼブブちゃんまで降りてきちゃいましたので』
三女神が告げた後。
ヤンキー風美女な夜の女神さまが三女神に牙を向け。
『おめえらがルールを破って降臨してるのが悪いんだろうがっ!』
『そうなのよ! あなたたち三柱が揃うと何をするか分からないのよ!』
『然り、故に朕らもこうして降臨した――』
午後三時の女神ブリギッドと朝の女神ペルセポネも続いて苦言を呈したのである。
言葉を受ける三女神の前には、平伏するバニランテ女王や人類達。
あぁ……これも絶対に後に神話になるやつだろうなあ。
と思いつつ、僕は女神たちと人類の間に立ち。
ビシ!
『とりあえずだ、これで分かっただろう! あんたらが降臨すると面倒なことになるんだよ! おとなしく帰れ!』
『良くぞ言った、妾のマカロニよ! この連中に言ってやれ! 迷惑じゃから戻れとな!』
『あんたがその迷惑の筆頭なんだが?』
『はて、妾には何のことだかさっぱり』
僕とアシュトレトのやりとりに神殿長の爺さん婆さんは顔を上げ。
「マカロニ様、できましたら……」
「我らが神との謁見は貴重にございます」
「いましばらくの謁見をお許しいただければ、と……」
そりゃまあ信仰してる連中にとっては神との対面。
なるべく長くこの時間が欲しいのだろうが。
アシュトレトが、ふふーん? どうじゃ? どうじゃ? とドヤ顔をしているのがなんかムカつくな。
『とは言うがなあ……こいつらの魔力は人類にとっては毒なんだよ。うっかり結界から毒気が漏れたら、この辺り一帯が人が住めないほどの魔力で汚染されて、終わるんだぞ?』
「それが女神さまのご意志とあらば」
だめだこりゃ。
頬に手を添え女神ダゴンがおっとりと唇を揺らす。
『ふふふ、大丈夫よマカロニちゃん。あたくしたちも人類を大事に思っていますもの、結界の維持には細心の注意を払っておりますわ』
微妙に外に向けて作った声でやがる。
まあダゴンが扱う水と海の魔術には、回復系統の魔術が多い。
実際の彼女はともかく……外面だけは清楚でおっとり、腹黒とは無縁の聖女風の美女に見える。彼女は信者たちからの印象を大事にしているのだ。
そんな猫を被ったダゴンを眺め、ジジジジジジ。
バアルゼブブがこっくりと首を九十度も倒し。
『ダ、ダゴンちゃん?』
『な、なんかいつもと、ち、違う?』
『お……おなかでもいたい?』
空気を読まない発言にダゴンは狼狽えず、ふふふふっと清楚な笑み。
『あたくしはいつも通りです、そうですよね、マカロニさん?』
『こっちに振るんじゃない! とにかく! 少しでもこいつらにその魔力で悪影響を与えたら、僕は本気で怒るからな!』
夜の女神さまが長髪を掻き上げ言う。
『はは、あいからわずおめえは身内に甘めぇなマカロニ。なんだ、やっぱりこの女王様や爺さん婆さんを仲間の群れとして認識してやがるんだな』
『それはそうですよ、ウチのスナワチア魔導王国の連中とは違った意味でこちらも頼りにしているのです』
丁寧に女神さまに対しての礼節をもって応じる僕を、なぜか人形風幼女な昼の女神が眺めていて。
プクーっと頬を膨らませ、キャンキャンキャン!
『ちょっとあなた、待ちなさいよ!』
『なんだよ、今は夜の女神さまとお話をしているんだけど?』
『それよそれ! なんであたし達にはミミズに対応でもするような雑な反応なのに、この子にだけはそんなに神対応なのよ!』
『はぁぁぁ!? おまえらに神としての威厳がないからだよ!』
直球での正論に、昼の女神こと午後三時の女神は更にプクー!
『そんなに威厳が見たいのなら、ここであたしの神の威光を発動させちゃってもいいのかしら!?』
『そーいうところが問題なんだろうが!』
『あなたがあたしを尊敬しないのが悪いんじゃない!』
『尊敬して欲しけりゃ尊敬されるだけの態度をしてみろ!』
ペペペペペっと罵倒する僕を眺め、朝の光を纏うヴェールを揺らすペルセポネがペカーっ。
『ふむ――マカロニよ、ブリギッドよ。そなたら、仲が良かったのであるな』
『どこかだ!』
『どこがよ!』
『言いたいことを言える仲、それは懸想の一種であると朕は思うておるが……違うと?』
僕とブリギッドは、うわぁ……っと古臭い懸想の言い回しに呆れを示し。
『おい、朝の女神っていつもこんななのか?』
『この子、一番年長者面をしてるくせに結構抜けてるのよ。天然オバさんなのよ』
おばさんと言われたペルセポネが、やはり……ふむと考えこみ。
『ブリギッドよ、朕の歳を考えれば確かにオバさんと呼ばれても仕方のなき事。なれど、そうなればそなたとてオバさんとなるが……良いのか?』
『あたしのどこがオバさんなのよ!』
『しかし、そなたが言うたのではないか。分からぬ、嗚呼、分からぬ。言の葉とは複雑怪奇な文化よのう』
わざとではなく天然で言ってることが分かるからか、昼の女神はわなわなと震えるも反論はそこで止まっていた。
何を言っても無駄だと判断したのかもしれない。
こいつらの会話……本当に面倒くさいな。
また面倒な流れになる前に、こいつらを空中庭園に連れ戻したいのだが。
どうしたもんかとクチバシを擦っていた僕を眺めていたのだろう、老いたるバニランテ女王が顔を上げる。
「――発言をお許しいただけますか?」
『妾の権限で許そう。なんじゃ』
ん? なんか妙に芝居がかっているが。
なんだこの違和感は。
うにゅっとペンギン眉間に疑問を浮かべる僕の前、台本を読むようにバニランテ女王が女神たちに問いかける。
「ありがとうございますアシュトレト様、そして創世の女神さま方。聖王国としての質問は一つにございます……。マカロニ様があなた様の息子にあたるとの話は本当なのでしょうか?」
『妾も我が夫もそのように認識しておる。故に、妾はマカロニが何を選択しようが口を出さぬと決めた。それが母としての愛であり、この地に多くの光を運んだ息子への信頼じゃ』
また何か言いだしやがった。
どーしても自分の子と認定させたいらしい。
『あのなあ、おまえや主神がそういっても他の連中が認めるわけないだろう』
そう。
他の六柱の女神はおそらく、僕を主神と女神アシュトレトの子とは認めない。
その筈だったのだが。
『あたくしは認めておりますよ』
『ぼ、ぼくも構わないよ?』
『おいおい、オレもおめえが天と大将の子だって認めてはいるぞ』
『あたしもそれは認めているのだわ』
『朕もまた同じく、汝に天と主の御業を感じる者なり』
あ。
『決まりじゃな。此度、この瞬間に妾ら六柱の女神は偽神マカロニを正式に、主神の子と認めようぞ。聖職者の長よ、そして公平な裁きを下す女王よ。しかと耳に刻んだな?』
あぁあああああああああああああああぁぁぁぁ!
嵌められた!
もしやとバニランテ女王を振り向くと……。
彼女はごめんなさいねと申し訳なさそうに苦笑をしている。
『では、神託じゃ――人類よ、我が子らよ。我ら女神の声に耳を傾けよ』
アシュトレトが手を翳したその瞬間。
他の女神たちも、スゥっと魔術波動を展開し――魔力を解放。
世界に、神託が一斉に下る。
全世界に、僕こそが主神と女神アシュトレトの子であると、一瞬にして情報が広がっていく。