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かつての敵対者~元大統領とペンギンと奇妙な関係と~


 魔海峡を挟んだ北部大陸に栄える聖王国。

 バニランテ女王が治める地。

 王宮に作られている酒場にて――。


 僕と同じく来賓扱いの彼女は気だるい煙の息を漏らし、僕を睨んで、恨み言のトーンで告げていた。


「それで、あんたの夢? だか意識の中にある世界……ドリームランドに攻め込むってわけかい。へえ、そうかいそうかい」

『おいおいなんだよドナ、せっかく僕が相談しに来てやったんだからさあ。もうちょい景気のいい顔をしたらどうなんだ?』


 そう僕が今相談している相手はドナ。

 かつてこの大陸の大統領だった女傑である。まあ、僕のせいでその地位は奪われたのだが、獣王との戦いやら僕の傘下になっているやらで、既に失った地位に似た立場にいたりもする。

 客観的な意見を聞こうと僕はかくかくしかじかを発動。

 僕という存在の経緯を含む事情を全て説明したのだ。


「あんたねえ、あたしゃあただの客将みたいな扱いだからある意味他人事だがね、ありゃあないだろう」

『ありゃあって』

「いきなり女神アシュトレト様と女神ダゴン様、二柱の女神様を聖王国に連れてきたことに決まってるだろうがい!」


 僕だって連れてきたくて連れてきたわけではない。

 彼女たちは今、この聖王国の代表たるバニランテ女王と会談中。

 御付きの騎士団長ハーゲンもアシュトレトを神と仰ぐ天の女神信仰者、本人の顕現にさぞ驚いていることだろう。


 彼女たちの顕現は、それなり以上のインパクトをこの地に与えている。


 六柱の女神をそれぞれ祀る神殿長やら、司祭長にあたる爺さん婆さん連中もある意味被害者か。

 僕が連れてきた女神共あいつらを眺め腰を抜かしつつも、本物だとすぐに見抜いたようで大騒ぎになっているのだ。

 僕は面倒になってドナと今後の相談すると言い訳をして逃げてきた、というわけである。


「その、……なんだい、バニランテ女王は大丈夫なんだろうね? あんたの話だととんでもない女神様っなんだろう?」

『まあダゴンがアシュトレトのストッパーってか面倒を見てくれるだろうから、大丈夫だろ』

「へえぇぇぇぇぇ、そうかいペンギン様。でもねあんた……そのダゴン様とやらも、あんたにこっそり一緒に宇宙を手に入れようって提案してきてるって話じゃなかったのかい?」

『あくまでも選択肢として提案してくれたって感じだけどな』


 僕がぐびぐびジュースをクチバシに流し込みながら告げると、ドナはため息に言葉を乗せていた。


「宇宙征服を選択肢にいれてくる女神さまってだけで、危険で邪悪。ふつうは放置できないと思うんだがねえ」

『ダゴンに悪意は一切ないからな、本当に主神を守る力の一つにする程度の考えなんだろうが……まあ規模が大きすぎるのは事実だろうな』

「そもそもだ、あたしにそんなことを相談してもいいのかい?」

『うちの連中に聞かせたらどうなるかは想像できるだろ……?』


 ドナは残念スリーともスナワチア魔導王国の連中とも面識がある。

 くすりと笑い、からかうように大きな胸が揺れる程にテーブルに身を乗り出しドナがニヒィ。


「あんたの力が増すなら歓迎だって、全員暴走しちまうだろうねえ」

『そーいうことだ、実際どう思う?』

「どうって言われてもねえ、そもそもそんな創造神を生み出した父……って言われても悪いがあたしにはピンと来なくてねえ。ただまあ、とんでもなくヤバイ存在だっていうのは分かる。そんなもんと契約したり使役したりなんてできるのかい」

『ダゴンが協力してくれるならおそらく本当にできるんだろうな。あの腹黒女神、どうも僕がアレと契約できるように見守りながら育てていた空気もある』


 一度対決した時もそうだが、ダゴンは僕の成長を促していた。

 アシュトレトとは違い用意周到なのだ。


「できちまうってことかい……。あたしはあんたが好きなようにすればいいと思うがね、砂漠の連中とは相談したのかい?」

『ダガシュカシュ帝国か、あいつらにも相談しようとしたんだが無理だったんだよ』

「おや、嫌われちまったのかい?」

『逆だよ逆……あいつらどうも瞬時に情報を共有する情報網をしっかり持ってたらしくってな、僕が女神アシュトレトの息子だって話を聞きつけてやがって、転移したらいきなりアシュトレトが卵の僕を抱いている神像を作ってやがったから……秒で逃げてきた』


 うへぇ……っと思いだして唸る僕にドナは、ケシシシシ! と微笑。

 僕が心底嫌がっていると気付いているようだ。


「まあ、あの砂漠騎士の国にしてみればあんたは恩人で救世主。あたしっていう侵略者から国を守ってくれた神だろうからねえ。しかも元から女神アシュトレト様の信仰圏内、そんな二柱が親子関係だったなんて聞かせたらそりゃあ狂喜乱舞するだろうさ」

『それに比べて、おまえは本当に僕に敬いとか……そーいうの全然ないよな』

「あたしはあんたに振り回されてるからね、この糞ペンギンって感情がどうしても抜けないのさ」


 僕もだからこそドナに相談しに来たのだが。


『ああ、なるほど。これがあれか』

「ん? 何の話だい?」

『いや、僕に対する女神どもや主神からの好感度が初めから妙に高かったんだが……その理由が自分を敬わないから、みたいな理由だったんだよ。あいつらにとっては敬われるのが当たり前で、場合によっちゃ間違った意見でも全肯定する信者ばっかなんだよ。そんな中で、自分を敬ってなくて反抗する相手が現れたら』

「ああ、そーいうことかい……っ」


 告げてドナは、くくく、ふふふふふふ!

 女傑とされた時の面影など捨てて、腹を抱えて笑い出し。


「あーっはははははは! おかしいね! あんたもその神様連中みたいな反応を起こしているっ。自分が嫌ってる神みたいに、自分を敬わないやつが気に入る体質になっちまってるって事かい!?」

『僕が言うのもなんだが、おまえ……よく僕を前にしてそういう反応できるな』

「さっきも言ったが、いまさら敬えって言われてもねえ」


 だからこそ相談しやすいのだが、こいつ……。


「まあ馬鹿笑いはこれくらいにしてさ、あんたは少なくとも忖度のない意見を言いそうなあたしに相談しに来た。だったらその時点で分別はついてるって事さね」


 ケシシシっと海賊風な笑みを作り、彼女はそのまま嫌味を言う顔で口を開く。


「だいたい、あんたはなんだかんだで根が善人なのさ。意味もない虐殺なんて絶対しないタイプだろう?」

『そりゃあ快楽殺人者ってわけじゃないからな』

「だったら堂々としてりゃあいいんだよ。あんたがどんな選択をしようと、この世界の住人にとっちゃさして変わらない。今のあんたの時点で十分脅威で、こっちじゃあどうしようもない怪物さね。極端な話だ、差が見えないほどのレベル差があるあんたの差が更に伸びたって、こっちへの影響はあまりないだろう? 違うかい?」


 僕がどんな選択をしようが、この世界の住人に影響はないか。

 まあ前向きに考えれば。


『好きにしろって事か』

「だいたい、あんた……あたし達の言葉で方針を変えるのかい?」

『時と場合によってはな』

「ならやっぱり問題ないだろうさ。そりゃあんた――もしあたしたちの意見が最適解だったら、それを選ぶだけって話だよ。そしてあたしたちが思いつくようなことなら、あんたも既にその最適解を選択肢に入れている。あんたは結局、自分の考えで動く。大抵の相談ってのは相談しに来てる時点で答えなんてだいたい決まってるのさ。はぁ……答えが決まってる質問とか愚痴っていうのは、言う前に気付かないもんなのかねえ」


 と、ドナは愚痴っぽく告げてグラスを傾け。


「そもそもさね――その神とやらと契約するかしないかあたしにとっちゃどうでもいいが、どっちにしても簡単な事じゃないんだろ?」

『そりゃあ倒すよりか複雑になるかもしれないが』

「だったら難しく考えず――契約できそうならして、できなさそうならしないでそのまま倒しちまえばいいじゃないか。んで、契約できたとしてだ――なんか違うって感じたら契約を解除すればいいだけじゃないのかい? 永続的に契約する義務なんてないんだろう?」


 わりと行き当たりばったりな意見な気もするが。

 僕も同意見である。

 一つの意見として僕は心に刻み、ジュースをごっくん。

 そんな僕の心を読んだように、じぃぃぃっと眺めドナが言う。


「その顔は――ほら、やっぱり結局答えは決まってるんじゃないかい!」

『分かってないな、相談ってのは後押しして欲しい時にもするんだよ! おまえがそう言ってたからって言い訳にも使えるからな!』

「それは責任を少し押し付けてるだけじゃないのかい!? って、どこ行く気だい! ここの支払いは――」

『帰ってきたら払ってやるから、おまえのツケにしといてくれ。んじゃあなあ!』


 言って、僕は転移魔術を発動!


「待ちな! この酒がいくらすると……あぁああああああああぁぁぁぁ! やられたっ、相談料どころか代金を押し付けるなんて、このクソペンギンっ! 後で倍にして返して貰うからねっ!」


 叫びは既に転移波動にかき消されて、シャットダウン。


 もし僕が帰ってこられなかったら、これでちょっと得をする。

 そしてドナはちょっと損をする。

 だからこいつも僕の帰還を祈るだろうと、グペペペッペ!


 女神共あいつらを回収するべく謁見の間へと向かった。


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