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悪戦苦闘~そもそもあんたが母ってのはきついだろ~


 アシュトレトによる優雅な散歩は続いているのだが。

 さすがに騒ぎも大きくなりすぎていて――スナワチア魔導王国の王たる僕は、はぁ……。

 この女神のきまぐれをそろそろどうにかしたいところ。


 長い廊下に設置されている六柱の女神像と主神の神像を見上げ、アシュトレトが言う。


『ふふ、なんじゃマカロニよ。なんだかんだで妾たちを敬い、神たる妾らの偶像を崇拝しておるのではないか?』

『これを一体置くだけで目に見えて寄付金が増えるからな』

『照れずとも良い、妾に”母”を感じておるのじゃろう?』


 お、おう。女神がなんか押しつけがましくこっちを見てやがる。

 つい僕は顔を逸らし、ぷい!

 頭を下げながらもこちらを眺めている文官たちの瞳には、マカロニペンギンがドン引きした時の顔をご覧にいただけていると思う。


『妾が母では不服か?』

『あのなあ、そもそも僕の親ってこの獣王の器の創造主だろ? それって主神になるんじゃないのか?』

『そうじゃ、ならばこそそなたは妾とレイドの子も同然。ママと呼んでも良いのじゃぞ?』


 うわぁ。

 なんとなくメンチカツを彷彿とさせる勘違いである。


 クチバシの付け根を痙攣させる僕とは裏腹、文官たちの反応は違う。「おお、女神アシュトレト様が我らが陛下を御子息と宣言なさった」と、まるで神話の一ページを見る顔で、この場面を眺めていやがるのである。

 同じくこちらを覗いていた……影、顔が無駄に良い例の密偵が頷き、シュッ!

 マキシムさまに報告しなければ! と大慌てで影に消えていく。


『おいこら! うちの連中に変な誤解をさせやがったな!』

『なぁぁぁぁにが誤解じゃ! 妾と夫がこの世界に降臨させたのがそなたなのだから、妾の子じゃろうが!』


 バチバチと魔力をぶつけ合う僕らに文官たちはさすがに後退。

 彼らは僕や残念スリーにも慣れているので、危機回避能力が高い。

 代わりにやってきたマカロニ隊とメンチカツ隊が、パチパチパチ!


 アデリーペンギンとカモノハシでW拍手。

 にっこりとペタ手を叩いていやがるのだ。


 おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 と、邪悪な顔でニヤリ!


『おまえたちっ、裏切りやがったな!?』

『ほぉぉっぉおれ、見よ! そなたやメンチカツの部下の方が素直ではないか!』

『こいつらは僕があんたらの息子判定を受けた方が得! 恩恵にあずかれるって打算しかないだろう! 見ろ、私欲に満ちたこの顔を!』


 言われたアシュトレトはマカロニ隊に目をやり。

 じぃぃぃぃぃ。

 なにやら僅かな間を作った後。


『ドリームランドにはこやつらも連れて行くと良かろう、なかなかに精悍な面構えじゃ。褒めて遣わす』

『そりゃあまあ元から連れて行く気ではあるが……なんだいきなり、わざわざ確認するほどの事でもないだろう』

『念のためじゃ。此度の最終ダンジョン、神たる妾は同行できぬからな。戦力は多い方が良いじゃろうが……』


 アシュトレトは人類を眺め蔑むわけではなく、だが事実を告げるように瞳を細め。


『さすがに……せめてマカロニ隊(こやつら)程度の力がなければ連れて行っても足手纏い。足枷となろう、人選は慎重にな』

『ついてきて欲しいとは思ってはないが、おまえらは無理なのか?』

『少なくとも妾は無理じゃ――そなたの夢の中の世界といえど、世界は世界。妾自身の性質は妾がもっとも把握しておる。さすがに、息子とまで思っているそなたの世界を破壊するのは避けたい。そう願っておる』


 それになによりと、息で黄金の魔力を纏う美麗な髪を揺らし。


『妾がこの世界より離れ、帰らぬ期間ができるのはあまり得策ではあるまい。先日のバアルゼブブもそうじゃ。あやつの帰還が遅れておったら一部の大陸が消えておった、天を消すわけにもいかぬであろう』

『へえ、あんたでも一応創造神の一柱って自覚はあったんだな』

『そうじゃな――そなたが来てくれてから、そう自覚する機会も増えたのじゃろう』


 アシュトレトは王城からこの世界を見る。

 太陽熱を吸った大地と緑の香りが風に乗ってやってくる。

 女神の瞳にこの王国はどう映っているのだろうか。


『マカロニよ、そなたはこの世界を気に入っているのであろう?』

『そりゃあまあ――もう世界の半分ぐらいが書類上は僕の所有物だし。飲み水を支配してるからやろうと思えばなんだってできるだろうしな』

『所有物だから気に入っておる、か。ふふふふふ、ほほほほほ。まあ今はそれで良しとしようぞ』


 含みのある笑い方をしやがって。

 文句を言ってやろうと見上げた僕と女神の目線が合う。


『正直を言うとじゃ、妾にも実はよく分かっておらぬ』

『は? なにがだ』

『誰かを大事と思う感情じゃ。妾はかつて我らを拾ってくれた救世主……今は主神となったレイドを愛しておる。まつろわぬ女神の同胞も、家族と考えておる。じゃが、それ以外は分からぬのじゃ』


 闇の魔力を纏ってみせた女神は、悲しく微笑していた。


『妾はかつての地球にて、人類に悪魔へと貶められ……神格を辱められた女神じゃ。バアルゼブブもダゴンも……。どれほどに現在いまを楽しんでいても、ふと浮かぶときがあるのじゃ――あの日々の記憶が心を蝕み、脆弱なる人類を許せぬと憎悪する感覚を思い出すのじゃ』

『なるほど……』


 僕は相槌を打ちながらも、ジト目を作り。


『それであんた、やたらとダゴンに警戒されてるし――あんたを楽しませろって他の女神たちにせっつかれるし、今もこうして人類滅亡の未来視が無数に引っかかるんだな』

『しかし、そなたが来てからは少し変わった。そなたは鼻で笑うやもしれぬが、拾った魂のそなたがこうして統治するこの王国、この世界を愛おしくも思えておるのじゃ。そうさな……そなたの故郷の感覚で言うのならば、我が子が作った折り紙でも見ている気分とでも言うべきか』


 あ、これガチなやつだ。

 完全に子供認定してやがるのか、こいつ。

 正直、僕には母の愛とか親からの愛とかいう感覚はまったく分からないのだが。


『……なんかあんまり嬉しくないんだが?』

『反抗期、というやつじゃろう? 知っておる、みなまで言わずとも構わぬ』

『もうこれ以上は突っ込まないが、なあ……あんたのこの徘徊に何の意味があるんだ?』

『そなたの昼の魔術に足りないのは、夢や希望という話じゃからな。たまにはこういう観光も良いものじゃろうて』


 そのまま続けてアシュトレトが言う。


『妾とのこの時間こそが温もり、そなたに確かな夢と希望を与えたであろう。今のそなたならば昼の魔術も使える筈。さあ、試してみよ』


 言われて僕は渋々ながらもフリッパーを伸ばし、祈り、念じる。

 僕の中にある温もりを意識しつつ、そのまま魔術を解放!

 したのだが。


 僕の伸ばすフリッパーの先に、小さな煙が生まれて。

 ぷす!

 ……。


 それだけである。

 かなり恥ずかしい。

 僕はわなわなとクチバシを揺らし、ペペペペッペエ!


『不発じゃねぇぇぇか!』

『なぁぁぁにをしておる! ここでふつうならば、妾の母性に愛を感じ昼の魔術を習得するところじゃろう!』

『ちゃんと発動はしてただろ! 足りないんだよ、愛とか夢とか温もりって感覚が!』


 ま、まあ一応まったく発動しなかったのが発動するようにはなった。

 無意味ではなかったのだが……。

 それはそれとして、簡単に世界崩壊の原因となるこいつには言ってやりたいことが山ほどにある。


 しばらく罵詈雑言の争いになるだろうと想定できたのか。

 マカロニ隊とメンチカツ隊が結界を張り始めるが、その結界は不要に終わる。

 いがみ合う僕らの前に、くすりとした微笑みの吐息が聞こえてきたのだ。


『あらあらまあまあ、ふふふふふ。どうやら、苦戦をしているようですのねマカロニさん』


 この声と波動は、腹黒女神。

 海の女神ダゴンである。

 僕とアシュトレトは、じぃぃぃぃぃぃ。


 まるで親子の様な同じ表情で、腹黒女神の顕現に眉を顰めていた。


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