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習得条件~夢も希望もありゃしない~


 最終ダンジョンとなるドリームランドに向かう方法は簡単。

 僕が昼の女神の魔術を覚えればいい。

 ただそれだけなのだが。


 主神と女神アシュトレト相手に僕とニャイリスが話をしている裏。

 空中庭園で待機していた残念スリーは、ちょうど昼の女神こと午後三時の女神ブリギッドとお茶をしていたのだが。

 僕はペタペタペタ!

 やってきたこちらの四人を見て、人形のような女神は口にしていたティーカップをことりと置き、くすり。


『あら? ふふふ、どうしたのかしらアシュトレトにレイド。かわいいペンギンさんなんて連れて、親子でピクニックかしら?』

『誰が親子だ!』


 唸る僕に午後三時の女神が、はぁ……っとしんどそうに吐息を漏らし。


『みんなが来た理由は知っているわ。ドリームランドに入るための昼の魔術を使えないんでしょう?』

『ブリギッド、事が事です。至急マカロニさんにあなたの魔術を伝授してあげてくださいませんか?』


 主神の言葉を正面から受けた午後三時の女神は、やはり再び溜息。


『あたしの魔術がなくとも、レイド(あなた)の授けた創造神の力……<創世魔術>なら夢の中にだって入れるのじゃないかしら』

『たしかに入ること自体は可能でしょうが、あなたの昼の魔術が無理なく入り込む最善手の筈。オリジナル魔術や外の世界の魔術は……、術者への影響を考えると最終手段になります。いざ夢の中に入り込んで敗北したでは、困りますからね』

『ふーん、でもあたしはあまり面白くないのだわ』


 ぷいっと頬を膨らませて横を向いてしまう午後三時の女神ブリギッド。

 身体を傾け、その頬を指でつつきアシュトレトが告げる。


『なにが不満なのじゃ』

『レイドの魔術とあなたの魔術で産まれてきたような子ですもの。まるであなたたちだけの子供みたいじゃない!』

『なんじゃ、そのような事を気にしておったのか……』

『そのような事とはなんなのだわ!』


 ぷんぷんっとしている午後三時の女神ブリギッドであるが、こちらとしてもこれが親扱いはちょっと……。

 いや、だいぶ嫌である。

 クッキーの食べかすで頬をべったりさせているアランティアが言う。


「だったらなおのこと、ブリギッドちゃんもマカロニさんに昼の魔術を授ければいいんじゃないっすか? なーんか、他の女神さんたちも自分の魔術を授けたことで、マカロニさんの親ですよ感だしてますし」

『心外なのだわ! とっくにあたしも授けてるのよ!』


 は?


『いやいやいや! 現に僕はあんたの魔術を使えないぞ!?』

『あたしが拒否してるんじゃないわ、あなたが拒絶してるのよ!』

『はぁ!? 難癖か? 僕がいつどう拒絶したって言うんだよ!』


 ペペペペっと抗議のフリッパーでビシっと指差す中。

 人形のような顔立ちに呆れを浮かべて、彼女は言う。


『あたしの昼の魔術は基本的に夢の魔術。穏やかで、呑気で、ずっと幸せの中にいたい……そんな陽射しの下の魔術なのよ。けれど、あなたの中に夢のビジョンがない。あたしがどれだけあなたを照らそうと、あなた自身が光を見ようとしていない。だから、あたしの魔術が使えない。あたしの愛を否定しているのだわ!』

『とんだ言いがかりな気がするんだが?』

『言いがかりじゃないのだわ。あなたは夢を知らない、愛を具体的に思い浮かべることができない。だからあたしが照らす昼の温もりを感じることができない、夢を抱けない、それがあたしの魔術が使用できない原因なのよ』


 そういわれると、なんかものすごい寂しい存在に見えてしまうのだが。

 どうも主神とアシュトレトの顔色を見る限り、彼女の言う通りのようだ。

 僕はメンチカツに問う。


『夢って言われてもなあ、なあメンチカツおまえ、夢なんて言われて急に思いつくか?』

『あぁん? そりゃあアホ程思いつくだろ』

『いや……僕は具体例を聞いてるんだって』

『そうだな――たとえば相棒がもっとオレのワインダンジョンを尊重し、国家予算をドバドバ充ててくれるようになってくれればいいな、とかだな!』


 このカモノハシ。

 真剣な質問なのに真顔で言いきりやがった。

 犬みたいに尻尾を揺らしやがって……。


 エビフライがハリモグラなくちばしの先を擦りながら言う。


『本当にダメダメだよね、メンチカツさんって』

『あぁん!? なにがダメダメだって!?』

『兄さんは真剣に質問してるのにそれじゃあ、兄さんの隣にいる資格がないんじゃないかな?』

『だったらてめえの夢はなんだっていうんだ!?』


 ヤクザ眼光で睨むメンチカツの言葉を受け、ほわほわな空気を浮かべたままにエビフライが告げる。


『そりゃあ全ての命が兄さんに平伏して、兄さんを讃えるような理想郷に世界を書き換える事……かな?』

『ふむ、妾のマカロニを讃える世界か悪くはないが――』


 お前が乗るな、アシュトレト。

 エビフライならやりかねないぞと睨む僕に微笑み返し、天の女神としての声で口を開き始める。


『して、実際どうなのじゃ? そなたの中に明日への展望や、希望。思い描く夢さえあれば直ぐに習得できよう』

『そう言われてもなあ』


 だいたい心の中の夢と、希望という意味での夢では若干ニュアンスが違うような気がするのだが。

 ……。

 思い浮かべようとしてもまったく浮かばない。


 なんか、ものすっごく……。

 いややめよう、口にすると残念感が増してしまう。


「なーんかマカロニさんって、ものすっごくアレっすよね?」


 はい、アランティアがぶっこんで来た。


『おまえなあ、本人が言わないでおこうと思ったことをふつう口にするか?』

「だからアレっすよねってボカしたじゃないっすか!」

『アレなやつにアレって言われたらどう思うか、考えろ!』

「はぁぁぁ!? アレなやつってなんすか!?」


 ぐぬぬぬぬっと額をぶつけあう僕とアランティアであるが、実際問題どうにかして解決しないと最終ダンジョンに突入できない。

 まあ……三獣神の魔導書も揃っているので、本当に無理やり入り込むこと自体はできるのだが。


 メンチカツが言う。


『まあ相棒よ、おまえさんの過去の話を聞く限りだ。どうも夢を抱けるような状態じゃなかったってのはマジだろう?』

『そりゃあ、まあな』

『だったら生まれ変わった今はどうなんだ?』

『どうって言われても……』


 ……。

 おまえらの世話で滅茶苦茶大変なんだが?

 と、ジト目を作る僕の中でわずかな光が生まれていた。


 それは。

 生まれて初めて感じた感覚だった。


 僕は、振り返った。

 記憶だけではない。

 実際に振り返って、空中庭園からこの世界を見たのだ。


 そこには、どーしようもないくだらない世界が広がっている。

 だが。

 キラキラキラと、彼らは確かに輝いているのだ。


 綺麗だったのだ。

 空も大地も海も、美しいと心から思えたのだ。

 アシュトレトが言う。


『のう、マカロニよ。妾と少し、下界を歩かぬか?』


 世界の輝きの中。

 手を差し伸べながら女神アシュトレトが告げる。

 ――が!


『いや、遠慮しとく……』

『……は!? これこれこれ! ここは素直に頷き、妾の伸ばした手にフリッパーを伸ばす場面じゃろうが!』

『うるさい、黙れ! だいたいあんたがそのまま歩いたらアウト、人類は神の威光に焼かれて危ないんだよ!』


 僕の突っ込みに、にひぃっと微笑み。

 僕を拾った女神が悪戯小娘の顔で――口を開く。


『よぉぉし! 言質を取ったのじゃ、レイドよ! 他の者もじゃ! 妾に神の威光を防ぐ結界を張るのじゃ!』

『は!? ふざけるなよ! あんたを連れて下界にって、どー考えても面倒なことに……っ』


 天上天下唯我独尊、コレが人の話を聞くわけなく。

 天の女神は僕の身体を持ち上げ、転移の魔術を発動させた。


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