プロローグ~初手誤算~
やあ皆さんこんにちは、賢い僕ことマカロニペンギンな氷竜帝マカロニさ。
いつもと空気が違うって?
そりゃあそうだ、僕はいまさっき主神と女神の目の前で魔帝ニャイリスと一緒にお腹を上に向けてゴロゴロゴロゴロ。
全力で可愛さアピール。
神々の空中庭園にて、そもそも僕を拾ったあんたらが悪い!
とペンギンと猫のダブルアタック!
全責任をとれ! と、主神と女神に責任を押し付けに来たのだが……。
主神も天の女神アシュトレトもにっこり微笑んで、そうでしょうね、そうであろうな――と納得してくださってしまったのだ。
あちらは主神レイドと、天の女神アシュトレト……そしてこちらはニャイリスと僕。
マカロニペンギンたる僕と、ネコの行商人のニャイリスはその不気味さにズザザザっと後ずさっていたのである。
モフ毛と羽毛を近づけ、僕らは共に毛を逆立て。
『(お、おいニャイリス……なんだあいつらのあの反応は!)』
『(知らんニャ! モフモフに甘いちょろすぎ神様だとはおもっていたニャが、いくらなんでも異常ニャ!)』
詐欺師たる僕と商人たるニャイリスにとって、この事態は異変。
さすがに全部の責任を押し付ける僕らのゴロゴロ攻撃を、全て承認……快諾するとは想定していなかったのだ。
詐欺師も商売人も、うまく行き過ぎた場合は警戒するのだ。
疑念のまなざしを浮かべる僕らに、玉座に鎮座する主神レイドがにっこり言う。
『なにか御不満でも?』
『いや、不満はないが……あのなあ、こっちから仕掛けておいてなんだが、全部あんたらのせいって事にしていいのか? 結構な大ごとだぞ』
隣に降臨している女神アシュトレトが、ふふっと口紅を輝かせ。
『良い、妾が許す――すべてを許す』
『あのなあ……いくら天の女神のあんたでも、今回は他所の世界も関係してるんだろ? あんただけの権限じゃあ』
『安心せい、妾のマカロニよ。歯向かう者は全て叩き潰す、そうさな――それがたとえ果てなる宇宙……三千世界にて最強の名をほしいままにしておる、大魔帝ケトスが相手であろうともな』
ニャイリスが大魔帝ケトスの名を聞き、ぶるりと全身の毛を震わせ。
目線を逸らし、首を後ろ脚で掻きカカカカ!
あっしはただの野良猫ですよ? という感じの空気で告げていた。
『ニャーは聞かなかったことにするにゃ……』
『あんたがどれだけ強くてもだ、バアルゼブブの話だと戦力差があるんじゃないか――?』
さすがに負けるとクチバシを挟もうとした僕に、女神アシュトレトは妙に慈愛に満ちた微笑みを作り。
『どんな手段を使っても勝つ覚悟も秘策もあるということじゃ、まああの魔猫は全てを見通す者と親しき魔族、そして本人も未来視を使用できる……本気となった妾と正面から全面戦争をする気はない筈じゃ。のう、我が夫よ』
『はは、そうですね――なにしろ宇宙がまた壊れかけますからね』
この夫婦神……またしれっと物騒なことを言いきりやがった。
ジト目の僕に主神が言う。
『ご安心ください――既にあなたもそうですが、一定以上の強者となりますと戦いの決着がつく前に宇宙の方が先に壊れてしまいますからね。基本的には本気の戦いにはなりませんよ』
『そして妾は此度の件、そなたの件も含めすべての責任を負う……手出し無用と、既に足跡銀河を越えたあちらに文を出しておる。幼きそなたが生み出した偽神ヨグ=ソトース、救世主を生み出す父なる神は必ずこちらで処理するとも伝えてあるのじゃ』
僕はしばし考え。
『は!? 手出し無用!? 向こうに協力して貰った方がいいだろう!?』
『あちらも一枚岩ではない――』
女神は空中庭園の空に、無数の世界の映像を投射し。
白く輝く女神の細指を折りながら告げていく。
『異なるルートを進んだ二つの世界……遠き青き星が二つ。魔王と大魔帝の住むグルメ世界。楽園に聳え立つ盤上遊戯世界。願いを叶える魔象が生み出した乙女ゲームの世界。そしてこちらで神話時代として伝わっておる、かつて妾らが生み出した混沌世界。他にも無数の世界と強者が存在する厄ネタの宝庫じゃ』
厄ネタの権化が何か言っているが。
まあアシュトレトが警戒するぐらいには厄介な連中が、世界という派閥で分かれているのだろう。
『あちらに助力を願えば、そなたとそなたの弟にしてバアルゼブブの眷属たるエビフライの身に危険が及ぶ可能性もあろう。それはそなたとて、望むところではあるまい?』
アシュトレトの言葉を確かめるべく、僕はニャイリスにペンギン眼光を向け。
『どうなんだ、ニャイリス』
『まあ、その通りではあるニャ。例に出された世界全てと大魔帝ケトスは繋がってはいるニャが、状況によっては勝手に動く筈ニャ……。全ての世界に面倒な……』
面倒なと言いかけたニャイリスは、はわわっと猫の口を肉球で塞ぎ、一呼吸。
何事もなかったかのように再開する。
『全ての世界に”自分の意見をしっかりと持っている”代表がいるニャ。それぞれの世界の主神の意見が一致することなんて、難しいニャ~。大魔帝ケトスが許しても、他の代表が”ダニッチの怪物兄弟の身柄を要求する”そんな可能性も結構あるのは事実ニャ』
『ニャイリス、おまえも大変そうだな……』
まあ、こちらの戦力で解決できるならそれでいいのだが。
現実的な質問があるので僕は女神と主神を見上げ。
『なあ、それでどうやったら僕の夢の中にある世界。ドリームランドだっけか? 偽神ヨグ=ソトースとありえたかもしれない僕ら兄弟が隠れてる世界に行けるんだよ』
主神と女神、彼らは顔を見合わせ。
『何を言っているのですか、マカロニさん』
『ふふ、そのような戯れごとを。そなた本人が昼の女神の魔術を使えば、即座に向かえるじゃろうて』
たしかに昼の女神の魔術には、そういった惰眠やお昼寝タイムなどの安眠の魔術があるらしいが。
僕が言う。
『いや、僕は昼の女神の魔術だけは使えないぞ?』
そう。
僕はあの女神と相性が悪く、習得していない。
それはさすがに彼らにも想定外だったらしく、慌ててアシュトレトが僕に鑑定魔術を発動。
『レ、レイドよ。大変じゃ! こやつ! 本当に習得しておらんぞ!?』
沈黙が、空中庭園に広がった。