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幕間ニャービスエリアにて~責任は押し付けるためにある~


 ニャービス管理センターに帰還したが、僕らは全員元気。

 死者はなし。

 バアルゼブブは先に戻り、うちの主神レイドに報告中。


 ならば今のうちに凱旋! といきたいところだが、騒動を終わらせたのは僕ではない。


 そう、MVPを奪われたのだ!

 ……。

 いや、まあ倒しても別のありえたかもしれない僕がインストールされ、無限再戦のクソゲーだったので、正直助かったのだが。


 そもそも僕の子供の頃の、ほんの小さなやらかしが繋がりに繋がってこうなったのだ。

 僕が不貞腐れるのは筋違いやらお門違い。

 だから単にクチバシを尖らせているだけの僕にアランティアが言う。


「あの、MVPを取られたぁぁぁ! みたいな顔をしてますけど、そもそも今回一番身体を張ったのはバアルゼブブさんなんじゃ……」


 こいつ、本当に人の顔色を読むのがうまいな……。

 どーなんすか、それ……と呆れた顔のアランティアを見上げ、僕はクワ!


『はぁぁぁ!? 僕の偽証魔術がなかったら、攻撃も通じてなかっただろう!?』

「うわぁぁぁ、マジで手柄を持っていかれたのが気に入らないんっすね……というか、あの……神様? みたいな人のこと、嫌いなんすか?」


 魔王の事を言っているのだろう。


『いいかアランティアよく聞け、僕は基本的に神って存在が大嫌いだ』

「えぇぇぇぇ……もう自分も神様なのにっすか? 自分大好きすぎるマカロニさんが、マカロニさん本人も嫌いなんすか?」

『なんだよ、その自分大好きすぎるって……』


 意味が分からんとジト目を作る僕に、アランティアが眉を顰め。


「え? いや――あの……毎日鏡を見ながら羽毛を整えてますし、クチバシもペタ足も磨いて輝かせてますし……マカロニさん、絶対に自分のこと大好きですよね?」

『はん! このマカロニペンギンの姿には価値があるからな! なにしろバカな主神どもも騙せるし、可愛いってだけでガチで全部許そうとする強者もそれなりにいるらしいからな! 価値あるものを磨かなくて詐欺師は名乗れないだろう!』

「あ、そーいう基準なんすね……じゃあやっぱり自分大好きじゃないっすか……」


 僕とアランティアのやりとりを見ていたメンチカツが言う。


『あぁん!? おめえらなあ、腹の外で何があったのか説明してくれるんじゃなかったのか!?』

『そうだよ、兄さん! 僕らを置いてけ堀にして! 事情ぐらい説明してくれてもいいんじゃないかな!』


 エビフライも同意見のようだ。

 ……というか、なんかもうこっちの事情を知ってるっぽいアランティアが変なだけで、中にいたこいつらは外の状況をちゃんと把握していない。

 もちろんそれはここの責任者のクリムゾン陛下も同じ。


 これから僕の夢の中、つまりはドリームランドと呼ばれる精神の中に発生した異世界に入り込む必要もある。

 事情を説明しないわけにもいかないだろう。


『しょーがない、かくかくしかじかでとっとと済ますからな!』


 というわけで、僕は僕が知る”全ての事情”を説明したのである。


 ◇


 かくかくしかじかは無事発動された。

 情報共有も終わり、僕は〆の言葉に入っていた。


『……というわけで、あの”うちの主神”と同じくらい胡散臭い魔王の魔術で片付いたってわけだ』


 ここの責任者たるクリムゾン兄陛下。

 紅蓮の髪を揺らすハイエルフのお兄さんは、頭痛を抑えるように指先で眉間の皺を押さえ。


「そうか……魔王を名乗るその御仁は、初級解除魔術で騒動を終結させいつの間にか消えていた――と」


 このお兄さんは僕たちとは違う場所の住人。

 どうやらやはり、あの胡散臭い神と知り合いのようだ。


『ああ、まさかいくらファンタジーな世界でも、恥ずかしげもなく魔王なんて名乗る愉快なヤツがいるとは思っていなかったが。あの様子からするとだ』

「如何にもマカロニ殿の感じている通り――あの方こそが正真正銘の魔王。三千世界にて使われている魔術式による世界改変現象……魔術と呼ばれる事象の祖にして、魔を統べる王。三獣神大魔帝ケトス殿が永久の忠誠を誓う賢者殿だ」


 ファンタジー世界だからなあ、ガチで魔王なんていたのか……。

 しかも全ての魔術の祖って。


『それで、なんであの変人……あんたの弟にあんなに似てたんだ?』

「我らの三千世界は一度、大魔王によって滅ぼされていてな――世界の復元能力により最初からやり直し二度目の三千世界を構築しているのだ……正確にいうのならば魔術誕生の瞬間にビックバンと呼ばれる現象が発生し、その時点で最初のリセットがかかったとも論じられているが……そちらは仮説であり確証は取られていない」

『あのなあ、悪いがそっちの宇宙や魔術の理論にはあまり詳しくないから、既に僕は、なーんもわからん状態なんだが?』


 分からん! と偉そうにフリッパーを組み頷く僕の横には、いつもの残念スリー。


「あたしにはなんとなく分かっちゃいますけどねえ」

『おまえ、本当にそーいうところあるよな……』

「そりゃああたしが希望の女神? 神話にあった封印された箱から零れた魔術だからなんすかねえ」


 あれ?


『は? おまえなんでそのことを知ってるんだよ!』

「いやいやいや! 今! さっき! マカロニさんが”かくかくしかじか”で説明したんじゃないっすか! いきなり言われて、さすがにあたしも驚きなんすけど!?」


 あ。

 あぁああああああああああぁぁぁぁああぁぁぁ!

 たしかに僕はかくかくしかじかによる説明範囲に、僕の知る範囲での”全ての事情”をセットした。

 当然、それはアランティアの事も含まれている。


「まあいいじゃないっすかあ、むふふふふ! このあたしが希望の女神パンドラなんすか! 母さんから女神としての核、魔術そのものを引き継いでるってことになるんすかねえ!」

『おまえ、なに目をキラキラさせてるんだよ』

「よーするに、あたしがいないとこの世界って魔術が発動できないんすよね?」


 あー、すっげえ悪い顔してやがる……。

 呆れる僕の横でメンチカツがゴムクチバシを、クワクワ!


『アランティアの嬢ちゃん、おめえ……相棒みてえな悪い顔してやがるぞ? わざとじゃねえなら気を付けろよ? 完全にコンビにみられるからな、それ』


 メンチカツの言葉に僕とアランティアは同時に反応し。


「は!?」

『は!?』

「こんな愉快なのと一緒の悪い顔をするわけないっすよ!?」

『こんな愉快なのと一緒の悪い顔をするわけないだろうが!』


 ビシっと指差す角度まで同じだったようで、メンチカツがニヤニヤ。


『はは! おめえらは仲が良いな、だが忘れんなよ相棒。おめえの相棒はこのオレだ、そうだろ?』

『いやいや、兄さんとセットで行動するのは僕ですよねえ』


 こちらのやりとりを眺める魔帝ニャイリスとクリムゾン兄陛下の反応は、まあ説明しなくてもいいか。

 こういうドタバタには慣れているのか、お兄さんが言う。


「ふむ、己すらも知らぬ秘密を知ってしまったそうだが……アランティア嬢。貴女に問題なければ……話を進めても?」

「あ、どうぞ」


 お構いなく~、っとまったく気にしていないアランティアに少し呆れの気配を浮かべつつも、クリムゾン兄陛下は咳払い。


「我の弟にして汝らの主神レイドとさきほどの魔王……仔細は省くが、彼らはありえたかもしれない自分自身同士、同一存在のルート分岐の果てなのだ。存在そのものが似ていて当然なのであろうな」


 よーするにありえたかもしれないうちの主神が、アレなのか。

 まあもしかしたらこちらの方が、ありえたかもしれない扱いかもしれないが……ともあれ。


『やっぱり、おもいっきり関係者でやがるのか。あのふざけた性格とモフモフに目がない狂人っぷり。あいつ……同一存在って正体を隠す気が全くなかっただろ……』

「その……、我がこういうべきかどうかは分からぬが、すまぬ――」


 お兄さんに頭を下げられても、こちらも反応に困る。

 メンチカツが言う。


『んで? 相棒よ。結局、ありえたかもしれないお前さんはどうなってるんだよ。その魔王ってやつが世界そのものに”状態異常回復魔術”をかけて、ありえたかもしれないって現象を治して消しちまったみてえだが』

『へえ、おもしろいなそれ。解除魔術をそう解釈するって考え方もあるのか――』


 ニャイリスが唸るように言う。


『おみゃら! また話が逸れるのニャ! よーするに、ニャーたちのニャービスエリアがまた襲われても困るのニャ! ここは全ての世界の通販基地、ニャーたちの商売に滞りが出るニャ!』

『また出てくる可能性はあるだろうな。結局、僕の夢の中にいるっていう”ありえたかもしれない弟”と、僕があの日、嘘によって具現化させたらしい偽神ヨグ=ソトースをどうにかしないと、無限に僕が出現してやらかすだろうし』

『ブブ、ブニャッァア! だからなんでそんなに他人事なのニャ!』


 問い詰めてくるニャイリスに、免罪符を得たりといった表情で僕が言う。


『あのなあ、僕が偽神を誕生させたのは五歳とかそこらだぞ? 五歳の子供に罪があるわけないだろうが』

『免責にも限度があるニャ!』


 まあニャイリスが正しいだろうが、僕はこれっぽっちも引かず。


『とはいっても、ありえたかもしれない僕が現実化して発生したのはそっちの世界の三獣神、神鶏ロックウェル卿とやらの未来視が強力過ぎたせいだろう? そこから無限に引っ張り出されてるんだから、むしろこっちが被害者じゃないか?』

『にゃにゃ!? そっちの女神が偽神ヨグ=ソトースごと封印されていたおみゃあの魂をっ、冥府から解放したのが悪いんだニャ! そのせいで宇宙ごと崩壊するルートがたくさん出てきたのニャ! そっちの世界のせいだニャ!』


 ニャイリスは告げたその瞬間に、んにゃ! っと頭上に電球を浮かべだす。

 なにやら思いついたのだろう。

 そして僕も思いついていた。


 ニャイリスが悪い顔をし。

 僕も悪い顔で頷き。

 僕らはニヘェ!


『よーし、その方針で行くぞ! 全部、あの時の女神が悪い!』

『ちゃんと請求書を送りつけるニャ~!』


 アランティアが言う。


「あの……でも結局、とどのつまり……遡ればマカロニさんが全ての始まりっすよね? そこんところを突かれたらどうするんすか? ぶっちゃけ、マカロニさんこそが本人も意図してないとはいえ黒幕っすよね」


 僕とニャイリスが言う。


『大丈夫だって、交渉相手はあの主神さまだからなあ』

『ニャーたちがお腹を出して、ゴロゴロすれば一発KOだにゃ~!』

「であろうな――」


 僕たちの後の言葉の主は、吐息と共に頷くクリムゾン兄陛下である。


 お兄さんのお墨付きも貰い、僕らは元の世界に帰還。

 バアルゼブブを連れ戻す依頼も達成し、事情を説明することになったのだが――。

 本当に、お腹を出してゴロゴロしたら完了……。


 今回の偽神騒動……全責任を女神と主神側が負う事を了承してくれたのだ。


 ……。


 いや、自分でやっておいてなんだが。

 主神の野郎、こいつのモフモフ好きは異常。

 絶対に問題になると思うぞ、これ……。


 ともあれ、呆れつつも僕らは僕の夢の中の世界に入り込む計画を立て始めた。

 僕の心の世界。

 それが生前の僕が嘘から作り出したこの騒動の、最終ダンジョンである。


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