まともな戦い~たまには僕の華麗なる連続魔術を見せてもいい~
ニャービス管理センターは既に戦場。
周囲のエリアも既に、ありえたかもしれない僕の影響下に入っているのだろう……転移した先はまるで肉塊の腹の中。
大きな生物の体内のような不気味なフィールドになっていた。
すぐには敵の姿は見えないのだが、それはここが敵の体内だからか。
だが、何かが空間転移で襲ってきている状況は把握できた。
空間に、僕たち以外の転移による歪みがあるのだ。
濃い魔力で眩暈しそうになっているようだが、クリムゾン陛下は無事である。
抜き放った炎の聖剣に雷の魔力を纏わせた、騎士の戦闘姿勢を取っている。
やはり敵はいる。
肉塊の壁の中から突如として出現する敵と戦っているようだ。
「はぁぁぁ――っ!」
歴史の長さを感じさせる異世界のエルフ騎士の卓越した剣技であるらしいが、しょーじき、僕は剣技には疎いので、こう……。
なんかすごいという事しか分からない。
ともあれ。
”時と次元を超えて”顕現する”肉の芽”のような魔物を切り払い、燃やし尽くすさまはまさに神話の一ページか。これ、撮影して売ったら美形エルフお兄さんが好きな層に高く売れるだろうなあ……と思いつつも、僕は転移空間から抜け出し華麗に着地!
すぐに敵が反応を示す。ありえたかもしれない僕の弟の肉片から発生した魔物だろう。
壁から排液のように這い出てくる肉の芽のような魔物を相手に、キリリ!
僕はペンギン睨み! <氷竜帝の威圧>を飛ばしつつ高速詠唱。
天の女神の力を借りた、貫通力と殲滅力のある雷攻撃魔術を選択。
珍しくまともな戦闘方法を選んだ僕が、ペタ足の先から黄金の飾り羽の先端にまで雷の魔力を纏い。
遠投槍を投げる要領で、ペタ足でタッタッタとして、せい!
『<追尾型貫通魔術:天雷の翼>』
魔術を発動!
敵を追尾し串刺しにしていく矢のような雷の翼が、シリアスに敵を貫き続ける。
さすがにここでギャグをやらかすほど、僕も落ちてはいない!
雷に貫かれた肉から、香ばしい香りが漂う空間で、僕は勝利のポーズ!
紅蓮の魔力で髪と外套を浮かせたハイエルフの王たる男がこちらを振り向き――長い耳をぴくり。
「この気配は……本物のマカロニ殿か!?」
『セーッェェェェェフ! 間に合ったようだな、ようお兄様! 本物の僕が助けに来てやったぞ! って余裕ぶりたいが、もう敵の腹の中なのか……これ』
残念スリーもニャイリスも転移空間から脱出。
着地と同時にそれぞれに戦闘態勢に移行していた。
具体的には――敵を相手にする時のみに見せる少し冷たい美貌のアランティアが魔導書を浮かせ、エビフライが糸を引くタイプのチェーンソーをギュンギュン鳴らしだし、メンチカツが機関銃を……。
……。
いや、まあアランティアは分かるが……問題は残りの三匹。
こいつら、なんでこんな物騒な武器をもってやがるんだ。
おそらくは露店で買わせた高級商品なのだろうが、いちいち突っ込んでいたらきりがない。
ギャグに流されないように、ぐぎぎぎぎっと顔を引きしめ一呼吸。
ニャイリスも露店を開きだしてやがるし……いや、まあネコの行商人の戦い方なのだろうから、こいつのコレは正常なのかもしれないが。
ツッコミたい感情をギリギリ我慢し、王の腕輪の効果で消費魔力を軽減!
僕は二冊の魔導書を召喚しバサササササ!
『僕に力を貸せ、審判の獣よ!』
バアルゼブブを探しながらもクリムゾン陛下を中心に三獣神ホワイトハウルの力を借りた<結界魔術:聖域結界・神狼>を展開。
目に見える程の聖なる結界が僕らの周囲を包みこむ。
さらに続けて、ロックウェル卿の書を開き。
バサササササ!
右手に異世界神ホワイトハウルの魔導書を、左手にロックウェル卿の魔導書をそれぞれ発動!
『<強制石化領域魔術:爬虫女神の石化眼>』
これで近づいてくる敵を聖なる結界で防ぎ、遮断。
足止めした肉の芽対策に、石化効果の蛇にらみを発生させる女神の置物で対処。
横目で結界を眺めながらも油断はせずクリムゾン陛下が言う。
「すまぬ――っ、正直倒せる気がなかったのでな」
『いやあその辺は後であんたの弟に代金を請求するから構わないが――バアルゼブブはどこにいるんだ? まさかやられたって事はないだろうが……』
僕は尾羽まで揺らし、きょろきょろ!
『敵の腹の中にいるお兄様を見捨てて戦場を離れるとは思えないし、マジでガチで分からないんだが。どうなってるんだよ?』
「なるほど、貴殿は少々勘違いをしている――」
ん? バアルゼブブならば主神レイドのために兄を守り、全力で敵を排除する。
それこそ周囲の被害よりも最優先させるだろうと思っているが。
ハンサムエルフお兄さんは言いにくそうに言う。
「ここはバアルゼブブ神の腹の中なのだ」
『……は?』
「自分の中が一番安全だからと言い放ち、ニャービス管理センターを丸のみにしたのだよ。そして、今頃は外で夜鷹弟を纏った夜鷹兄と交戦中。彼女の中に入り込んできている夜鷹弟の眷属が、こうしてたまに我を狙っているというわけだ」
いや、そりゃあ連れ去られる危険のある外よりも、女神の腹の中の方が安全かもしれないが。
『僕たちの転移にラグが発生してたのは、バアルゼブブの腹の中だったせいなのかよ……』
「そのようだな――さて助力に感謝するマカロニ殿、我が落とされればレイドのやつが何をするか想像もできん、可能ならばこのまま護衛を頼みたいのだが。どうだろうか」
『まあ元からそのつもりだったからな、こっちは問題ないぞ。敢えて言われんでもって気がするが』
クリムゾン兄陛下はふっと微笑し。
「それでも、このように依頼の形を取った方が貴殿も心置きなく報酬を要求できよう? ……と、なんだ瞳をキラキラと輝かせて……」
『いや、あの主神の兄なのにまとも過ぎるなあって感動をだな』
「ふむ――あれはやはりそちらでもそういう感じの扱いなのだな。いや、だいぶ丸くなったと思うべきなのだろうが、うぅむ……」
唸るまともなお兄さんの悩みはともかくとしてだ、この状況をどうするべきか。
アランティアも周囲を気にしだす。
「てか、これ巨大化? したバアルゼブブさんが自分のお腹の中で匿わないと守れない状況って事っすよね?」
「であろうな――」
「んで敵は巨大化したバアルゼブブさんと戦っている、神の子を纏ったありえたかもしれないもう一人のマカロニさん……ってことでいいんすよね?」
こいつ、こっちがちゃんと説明してない部分も読み取ってやがる。
以前から不審には思っていた。
異常な魔術の才もそうだったが、おそらく知ろうと思ったその時点でゴールへとたどり着く……全ての魔術式を無視して答えを引き出せるのだろう。
これが希望の女神の力なのだろうが、無自覚でここまで真理を読み解き答えを出す……ふつーに考えてチートな能力だ。
まあ魔術そのものの擬人化ともいえる存在だから仕方ないか。
しかし、そのチートに似合わぬこの性格がもったいない。
『アランティア、おまえさあ――まともな人格だったらマジでアシュトレトたちより信仰されてたのかもしれないな……』
「なにいってるんすか?」
自覚を少し促してみたが、この反応である。
魔術そのものが人間になろうとした存在……魔術自身が人になりたいと思った結果がアランティアであり、雷撃の魔女王ダリアであり、その祖先なのかもしれない。
たぶん自分が神話にある零れた魔術とは自覚したくないのだろう。
『まあこっちの話だ。アランティアに聞きたいんだが、バアルゼブブは勝てそうか?』
願いを叶える性質もあるアランティアの本質。
その独特な魔術式を利用した問いかけは、おそらく高度な未来視として機能する筈。
アランティアの瞳の中に魔術式が流れ――。
「たぶん、ダメっすね。このままだとバアルゼブブさんの負けです」
様子を見ていたクリムゾン兄陛下が息を飲む。
僕はシリアスな顔をして――。
『そうか、お前がそういうのなら厳しいだろうな。どうにかしてこっちで動かないといけないわけだが……』
こちらの戦力は分類するならばモンク僧のくせに機関銃を構え、ムフーっとしているメンチカツ。
そして、兄さんの敵はたとえ神でも切り裂いてみせるよ! と、ブゥゥゥブゥゥゥゥゥン!
糸引きチェーンソーを鳴らすエビフライ。
アランティアは前線に出すべきではないし、クリムゾン兄陛下は護衛対象。
ニャイリスが言う。
『にゃ、にゃーがやるしかないのかニャ!?』
『いや――僕がやる。というか、現状では防げない偽証魔術がバアルゼブブの敗因だろうし、僕が偽証魔術を上書きするなり打ち消せば、少なくともこの場は勝てるんじゃないか』
僕の問いかけに、再びアランティアの瞳に魔術式が走り。
「マカロニさんなら問題ないっすねえ。ただ、マカロニさんもかなりのダメージを受けるみたいっすけど……大丈夫なんすか?」
『いや大丈夫じゃないから、痛覚を遮断した状態で分身させた”分霊体の僕”に行かせればいいだけだろ』
言って、アン・グールモーアの魔導書を開き。
バサササササ!
結界と石化女神像と分身の魔術の同時使用。
アン・グールモーアのペンギン専用分身魔術で分身した僕は、分身を操作し腹の外へと抜け出ていく準備を開始。
『おいニャイリス、このニャービスエリアを守るためだ。ありったけの自爆系アイテムを分身の僕に渡して貰いたいんだが、いいだろ?』
『それは構わニャいにゃが……まさか、おみゃあ……分身に特攻攻撃させまくるつもりニャ?』
『当たり前だろう! 自分が死んだときに発動する魔道具って効果が良いもんが多いからな! どぉぉぉぉぉっせあんまり売れないんだろ、在庫をどんどん僕に回せ!』
僕は分身と同時に、グペペペッペっと邪悪ペンギンスマイル。
『非人道的にゃ……』
『あのなあ、僕本人も分身体も良いって言ってるんだ。別に問題ないだろ。それに、誰かほかの奴に持たせて特攻させて、メンチカツの蘇生で治してまた突撃! ってよりよっぽどマシだろ。ほら、時間もないんだ。早くしろ』
僕は次々に分身し、分身体がニャイリスから特攻自爆アイテムを受け取り!
わっせわっせ!
バアルゼブブの助っ人として外へと抜けだした。