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送り付け商法にご用心~勝手に商品を送ってくるとか、ふつーに考えて怖いって~


 その後、可能な部分での情報共有を果たした僕らは黄金宮から帰路へ。

 ペタペタペタ、ジジジジジ。

 イワトビペンギンと蟲女神でニャービス管理センターへ向かっている。


『あぁあああああああぁぁぁ! 資金をだいぶ持っていかれたぁぁぁぁぁ! 最終的にはいいようにやられる、これだから商売猫との交渉は嫌いなんだよ!』


 叫ぶ僕のフリッパーにあるのは、本屋さんで本を購入した時に入れてくれる、あの袋である。

 昔、弟に絵本を買って帰ったこともあったと思いだしそうになる紙袋の中には、表紙の絵が常に変化する黒猫の魔導書が入っている。

 結局、かなりの金額を持っていかれた原因だ。


 偽神にして氷竜帝マカロニたる僕は、分厚い紙袋を見て思うのだ。

 これニャイリスから買った方が安かったんじゃないか? と。


 ネコの行商人が並べる露店からは、ファンタジーグルメの香りも漂っている。

 いつもならアランティアたちと買い食いするところなのだが、彼らはまだ別行動。

 自身の分身蠅……分霊体と思われる分裂女神を創り出し、全ての露店で全ての食べ物を購入する全てのバアルゼブブが僕を向き言う。


『ど……どうしたの?』

『だ、大魔帝ケトスの逸話魔導書は、か、買えたんだし……』

『あ、あたしの用事もこれで終わり。も、もう帰れるよ?』


 全員で振り向くな、怖いって。

 しかも、なんか全員が僕に向かって手をスゥっと出してるし。

 これは……。


『おい、まさか払えって言うんじゃないだろうな!?』

『……そ、そうだよ?』

『おまえなあ! 全財産の三割を失った僕にたかるか、普通!?』


 まあネコの行商人の露店から食い逃げしたとなったら大問題。

 渋々ながらも僕はフリッパーを鳴らし、空間を操作……全ての露店に共通金貨を落とし料金を支払うが。


『で、でも……、国家のお金には手をつけなかったでしょ……?』

『マ、マカロニちゃんのお金って』

『ほとんどが国家の財産にしちゃってるから……き、きみ、個人の三割だと……』


 あ、バレてるな。

 そう、確かに僕の所有する資産の三割を持っていかれたが、それはあくまでも僕の資産。

 国家の方には手を付けられていない。


 僕のスナワチア魔導王国の法の抜け道……国家に献上する際には贈与税などかからない、いわゆる財産隠しである。

 まあそれを見越して結構の額を要求された可能性もある。


『あのなぁ……それでも三割だぞ、三割。だいぶ痛手だ』

『そ、そうかな? ……だ、だって、な、なんかオマケの魔導書も貰えてたよね?』

『そりゃまあ、なんか入れておいてやろうとは言ってたが……商売人がいれるオマケだ、そう大したものじゃないだろう。そもそも僕は獣王で王様だからなあ……悪辣なあいつらに商売で勝とうと思うのが間違いなんだろうな』


 餅は餅屋というが、僕は詐欺師であって商売人ではない。

 どうも結局、本職の商売人にはなかなか敵わないようだ。

 ペンギン顔をムスーッとしているので、僕がイラっとしているのは分かるのだろう。

 一緒に帰路につくマカロニ隊がひそひそひそ、それぞれが小さな魔力音で会話――今はあまりボスを揶揄わない方がいいと伝言ゲームを続けていた。


 なんか一匹増えているような気もするが……いつのまにか繁殖でもしたのだろうか。


 本来ペンギンにはない筈の、動く表情筋に釣られて黄金の飾り羽も揺れてしまう。

 まあそれでもオマケで貰った魔導書もチェックする必要があるか。

 僕は帰り道で買った雑誌を取り出す高校生のごとく、紙袋をガサガサガサとずらし。


 ビシっと完全に硬直する。


『マ……マカロニちゃん? ど、どうしたの?』

『あぁぁぁ、あいつっやりやがったな!』

『ふぇ? に、偽物だったの? だ、大王は……し、商売の時には、絶対にインチキしない筈だよ?』


 あわわわっとするバアルゼブブに僕は首羽毛を振り否定。


『違う、あの野郎……無料より高いもんはないって話をした後に、こんなもんをオマケでつけやがったんだよ』

『え……? えぇぇぇえぇぇ!? こ、こここここ、これって……っ――、ム、ムルジル=ガダンガダン大王の<逸話魔導書グリモワール>!?』


 バアルゼブブ神がこれほどの大声を上げるのは珍しいのだろう。

 周囲のネコの行商人や通行人たちが、何事かと振り返っている。

 驚く彼女の隣の僕もびっくりだが、それよりもこれは大問題だ。


 紙袋に押し込められていた魔導書の表紙には、一匹の猫。

 金銀財宝の山の上でドヤ顔でふんぞり返る、短足猫が描かれているのだ。


『うげぇ……まじで本物の逸話魔導書でやんの……これ、あいつの魔術が全部記載されてるだろ』

『ム、ムルジル=ガダンガダン大王の魔導書は、レ、レアなんだよ。あ、あんまり市場にも出回らないから……。も、もしかしたら、だ、大魔帝ケトスの逸話魔導書よりもレ、レアかもなんだよ』


 バアルゼブブは引き続き、珍しく興奮気味である。

 それほどレアな魔導書をオマケ感覚で押し付けてきた。

 それはつまり……。


『マカロニちゃん……よっぽど、だ、大王に気に入られたんだろうね』

『魔導書の中に僕宛のメッセージ魔術まで仕込んであるな、ガハハハハ! これは同情ではなく先行投資である! ありがたく受け取るがよい! 余の力、存分に扱うとよかろう……だそうだが』


 僕は魔導書にフリッパーを乗せ。

 瞳を閉じる。

 使える魔術を確認しようとしているのだ。


 僕にはその方面の才能はさほどないが、ある程度の未来視の魔術。

 商売猫神としての行商人の魔術。

 それとアシュトレトの天の魔術のように、攻撃魔術に特化した魔術属性を扱えるようになるようだ。


 そしてこれらの魔術は魔力ではなく金銭で代用が可能。

 魔力が切れた際の選択肢として、金さえあれば大王の魔術を使えるという利点はかなりでかい。

 はっきりと言って、オマケでつけていいような品物ではない。


 まあどうやらその消費した金が、ムルジル=ガダンガダン大王に流れる仕組みになっているようだ。

 魔力の容量が低い僕にとってもありがたいのは確かであるが。


『あいつ、僕に恩を着せるついでに自動販売機を設置したようなもんじゃないか』

『ア、アシュちゃんも……た、たぶん、き、興味を持つから……、そ、それを見せて欲しいって、言われるかも?』

『いっそ複製してやろうかと思うんだが……ああ、やっぱり僕の複製能力でもエラーがでるな』


 純粋に僕の力不足か、或いはコピーできない仕組みにしているのか。

 ともあれ、僕はあの大王の魔導書を無料でゲットしてしまったわけである。

 まあとりあえずプラスになる話ではあるだろう。


 気分を切り替え僕は言う。


『用事も済んだし、あいつらを回収したら帰るか。あんまりここに長居するわけにもいかないしな』

『ん? ど、どうして?』

『あのなあ……ありえたかもしれない僕の弟がなんで黄金宮を襲っていたのか、分かるだろう?』


 バアルゼブブは本当にキョトンとした顔で、首をかしげるのみ。

 フリッパーの羽毛をくちばしからの息で揺らし、僕が言う。


『たぶんあいつは僕の気配を感じて、あそこで待ってたんだろう』

『あ……ぁ、な、なるほど?』

『で、でも』

『き、君の所じゃなくて、あ、ありえたかもしれない君の所に、い、いくんじゃないかな?』


 そういう考えもある。

 だが。


『んー、まだありえたかもしれない僕が行動を開始していないんじゃないか』

『んー……ど、どうだろう……』

『どっちにしろおまえを連れて帰らないとこっちの世界の大地が消えるんだ、おとなしく今は従って貰わないと困るぞ……って!? 目を離したすきにまた消えやがったな!』


 バアルゼブブは次の露店の前で、じぃぃぃぃっと口の端を溶かして涎をダラダラ。

 買い食いしたりないのだろう。

 暴食の神かなんかか、こいつと思いつつ料金の支払いに向かうが……。


 僕の目の端に、見慣れた姿が引っ掛かる。

 ネコの行商人ニャイリスである。


『ニャイリス? おまえ! こんな所で何してるんだよ、あいつらの見張りはどうした!?』

『うにゃにゃ!? はにゃ? にゃんでマカロニ氏がここに!?』

『マカロニ氏がここに!? じゃない! あの三馬鹿を自由にさせたら絶対問題を起こすだろうが! おまえが案内してるっていうから安心してたが、これじゃあ何をやらかすか!』


 ペタ足ダッシュで詰め寄る僕にニャイリスは猫の眉間を、んにゅーっと歪め。


『ま、待つニャ! どーいうことだにゃ!』

『なんだよ!』

『さ、さっき”こいつらの案内は僕が引き継ぐから戻ってていい”って言ったのはおみゃーだニャ! にゃんであの問題児どもを放置してるのニャ!』


 どうも話が食い違う。

 というか。

 これ……。


『やられたな、たぶん偽証魔術を使ってイワトビペンギンに化けた”僕”があいつらを連れて行ってるのか』

『……!? や、やばいのニャ! なにを落ち着いて露店に料金を払ってるのニャ!』

『なにって、あのなあ食い逃げをしたらブラックリスト入りだろ? さすがに僕もおまえたちネコの行商人を敵にしたくないんだよ』

『ニャーたちも時と場所と場合を考えるニャ! TPOだにゃ! こんな時に金を取ったりしないのニャ、早く合流しないと危ないにゃ!』


 ニャイリスは大慌てだが、僕は平然としたままだった。


『あのなあ……たしかにふつーならヤバイ状況で、ありえたかもしれない僕が悪意をもって近づいてきてるのは確かだろうが』

『緊急事態だニャ!』

『僕であることに違いはないだろうからな。最近は慣れてきたとはいえ、あいつら三馬鹿が揃うと僕でも制御できない。そんな連中を相手に残念スリー未履修の僕が、何の準備もなく姿を変えて近づいたって――』


 どうせ振り回されて失敗するだけだ。

 そう言い切る前に、ズガガガゴゴゴォォォォン!

 シリアス顔なニャイリスとは裏腹、あいつらのギャグ空間に慣れたジト目の僕の頭上をナニかが通過する。


 自分の頭と耳で聞く時とは異なる、けれど確実に僕と分かる声が響く。


「はぁぁぁ!? な……っ、なんでだよ! あんな馬鹿そうな連中にバレてるとかありえないだろう!」


 はい、僕確定。

 きっと同じ状況なら同じことを言うだろうし、間違いない。

 もう行動を開始しているようだ。


 先ほど見えたのは、圧倒的な破壊力に吹き飛ばされる偽物ペンギンの光景。

 市場の奥にて、おそらくメンチカツだろう<暴力の波動>が全開で発動されていたのだ。

 なんか波動……拳? とか技名が聞こえたがスルーしておこう。


 ペタペタ、もきゅもきゅ、タタタタ――!

 三馬鹿の足音が近づいてくる。


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