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便利さの代償~この世界には原産地証明書がない~


 偉大で賢い僕。

 氷竜帝マカロニの名と存在はこの世界に広がりつつあるのか。

 最近は妙に他国から侵入してきているスパイが多く――。


 けれどそんな連中を逆に利用し捕縛。

 変身能力を持つタヌヌーアがスパイに化け、やはり逆に情報を引き出す……。

 そんな平和な日々を送っていたある日のできごとだった。


 元の人間に戻る手段を探し、王国で管理している図書館を巡っていたのは僕。


 真剣に、魔導書と呼ばれ武器とも魔術の教本ともなるアイテムを一冊一冊チェック。

 この世界の知識を入手するのも王の務めと、キリ!

 読書に勤しみ!

 せっかくならば図書館内ではなく外で読もう! と、図書館の規則を改訂!


 太陽を吸っている草原の絨毯を背に、読書タイム。


 ポカポカとした陽気が、僕の嘴とペタ足の付け根を温めている。

 温まった部分から血が巡り、僕の体内もポッカポカ。

 いい感じに熱が巡り、いい気分。


 持ちだし厳禁と書かれた所蔵の一冊を枕に、グペーグペー!

 朝の陽気の下で、ぐっすりと眠っていたのだが。


 もはや聞きなれた声がした。


「ちょっと! マカロニさん! 起きてください、マーカーローニさん!」

『ん……なんだよ! 僕は昼寝なんてしてないぞ!』


 秘書たる隣国の元王女にして騎士姿のアランティアである。

 騎士の格好をしているので一応は様になっているが、おそらく普通の町娘の姿をしていれば、彼女が王たる僕の側近とは誰も気付かないだろう。

 ようするにまあ、そんなに覇気はないのだが。


「いや……めちゃくちゃ、おもっきし惰眠を貪ってたじゃないっすか……」

『勘違いするなよ! これは睡眠学習っていう僕が生み出した体力回復と学習を同時に行う、新しい魔術で――』

「あー、はいはい、そーいうのはいいんで」


 こいつは本当に神経が図太い。

 スパイとして小さな頃からこの国に潜入していただけあり、若干無能気味なくせに、僕に対して全く物怖じしない肝っ玉を持っている。

 僕はつい、恐竜を想わせる眼でその顔をじっと眺めてしまう。


「なんすか、その目は。睨まれても可愛いだけなんすけど」

『おまえ、出会った頃はもうちょっとキリっとした騎士っぽい感じだったよな』

「まあ演技っすからねえ」

『いや! おまえは僕を妙に下にみてやがるからな! どぉぉぉぉぉぉぉせ僕なら素を見せても問題ないって気を抜きまくってるんだろう!』


 ビシっと突っ込んでやる僕に、アランティアはそばかすの名残を僅かに揺らし。


「いいじゃないっすか、だってマカロニさん。あんまりかたいのも好きじゃないっすよね?」

『そりゃまあな』

「いやあ、王族としての立ち居振る舞いとかしきたりとか、逆に王族に向けての無礼のない接し方って――ぶっちゃけすげえ面倒ですからねえ……」

『そーいや、おまえ王族だったなぁ』

「いやいやいや! 正真正銘! 元王族っすからね!?」


 ファンタジーな世界の連中が王に向ける態度ときたら。

 ……。

 僕の威厳に影響を受けないこいつは、たしかに気楽な存在ではある。


『で? どーしたんだ』

「って! そうだった! まずいんですよ! 天啓なんすよ!」

『天啓ってことは、うわ……リーズナブルの所で何かあったのか』


 僕が露骨に飾り羽を顰めたのが理解できたのか。


「リーズナブルさんのこと苦手なんすか?」

『あいつはいまだに僕の事ジズ様、ジズ様ってうるさいんだよ』

「ジズの大怪鳥に自らの悪事を暴かれ、そして人類最強の座から降りたい。途中まではうまくいってたみたいっすけど」

『ふつうに考えて、人類最強を戦力として手放す筈ないって流れになるのは分かるだろうに……』


 そう、禁忌を犯し密造酒を作っていた彼女だが。

 その辺の悪事は、まるっとさくっと全て免罪で免責である。

 それをどーやらあの狂信者は情けと勘違いしたらしく。


 あれは毎日毎日。

 謁見の予約を取りつけ、うふふふふふっと無駄話をしに来るようになっていた。


「あの、悪いんっすけどマカロニさん。あの人に謁見の予約をあんまりするな……ってか、せめて週に一回ぐらいにしろって言ってくださいませんか? 最高司祭さまなんで、他の人も遠慮しちゃって、大事な内容の謁見でも躊躇しちゃうようになっちゃってるみたいなんで」

『僕はむしろ月に一度でも多いと思うんだが』

「マカロニさん、ぜったいあのひとの信仰対象にされちゃってますよね。ぷぷぷ! うけるんすけど!」


 ちなみにこのアランティア。

 他人事だからか、めちゃくちゃ面白がってやがるのだが。


『って!? また話が逸れたじゃないか! どんな天啓が下ったって!?』

「あ、はい。なんでも天の女神アシュトレト様からマカロニ陛下に向けての伝言らしくって……うわぁ、天の女神って単語にもすげえ露骨な反応しますね」

『当たり前だろう!』


 僕をペンギンにしやがった張本人かつ、僕へ”呪い”ともいえるペンギン固定の恩寵を授けた大戦犯なのだ。


『で! 内容を言え、内容を!』

「それが……その、スパイを簡単に排除しすぎるのもつまらんから、もうちょっとまともに他国の相手をしてやれと……」

『いや、つまらんからって……』

「で、でも女神様の直接のお言葉なんで……その」

『だいたい、他の国の連中はウチを何だと思ってるのさ! スナワチア魔導王国だぞ! これでも歴史的に有名になるだろう大国なんだぞ! なのに、スパイだ敵対工作だ、僕がまともに反撃したらどーなるかとか、考えられないのか!?』


 そう。

 どうもウチの魔導船が消失していることは筒抜けらしく。

 そしてどうも、僕がマカロニペンギンだということも調査されているらしく。


 おもいっきり、ウチの国。

 舐められているのである。

 人間に戻る方法を見つけるために他国を侵略……もとい、交渉してもいいとは思っているのだが。


「ま、舐められてるうちは対等な交渉なんてできないっすよね」

『その通りだよ! お前も一応、スパイのプロだろ!? 分かってるならもうちょっと補佐をしろ、補佐を!』

「はぁぁぁぁ!? ちゃんとやってるじゃないっすか!」

『へえ……じゃあおまえがなにをしてくれたって?』


 ジト目の僕に、うっと相手はわずかに引き。


「そ、それは、ほら。き、昨日だって! マカロニさんが散らかした執務室を片付けましたし!」

『斜めになってる本をまっすぐにするだけを片付けとは言わないんだよ! だいたい! おまえがやってるのは家政婦ごっこ止まり! せめて与えられた仕事はちゃんとしろ! おまえがベッドメイクを担当する時はすぐ分かるからな!』


 ちなみにこいつ、家事スキルはわりと壊滅的である。

 一応、剣と魔術の才能はそれなりにあるらしいが。

 ぷくーっとアランティア元王女は頬を膨らませ。


「元王女をメイドみたいに使う方が悪いんじゃないっすか!」

『馬鹿め! こちとら王様だぞ! 偉いんだぞ!』

「それより! どーするんすか! 女神様……特に天の女神を飽きさせると碌なことがないって神話学者たちが真面目に悩みはじめてますよ!?」


 たしかに、それは一理ある。

 しかし、こちらも迂闊に他国をどーこうしづらい状態にある。

 この世界での加減、というものがどのラインにあるのかまだ僕は把握できてはいない。


 どーしたもんかと悩む僕の目の前。

 気配が、ふっとやってくる。

 マキシム外交官が使っている密偵だった。


「ご歓談中に申し訳ありません、陛下」


 僕に負けたことをちょっと根に持っているようだが。

 ともあれ、主人に言われて僕に一応の忠誠は誓っている男である。

 それなりに顔もいいらしいので、なんかムカつくのでフードでもしとけと<美形隠し>の、僕がこの世界の技術を真似て作った、特別製のフードを下賜してやったのだが。


 フードの隙間から鷹の目を輝かせる無駄美形に、僕が言う。


『ん? どーした? 主人マキシムから伝言か?』

「はい、実は――」


 話を聞くと、どうやらまたどこかのバカ国が僕を舐め腐ったようだ。

 まだ到着はしていないが、船でどんぶらこっこ……書状を持ち、一方的な降伏勧告を送ってきているとのことである。

 上陸すらしていない情報を掴んでいるマキシム外交官の手腕はさすがだが。


 僕は言う。


『じゃあ水、止めちゃっていいよ』

「よろしいのですか?」

『だって勝手に領海内に入ってきたんなら相手が悪いし……僕がそこまで気にしてあげる義理もないし?』

「御意」


 密偵たる影はスゥ! っと転移のように高速移動。

 主人の下にすぐに戻ることができる特殊なスキルを使用しているようだ。


 アランティア元王女が言う。


「まあ、周辺国家を含めてこの辺一帯の水……船でも使えるウォーターサーバーの魔道具も、実はウチの国が全部管理してるなんて思わないっすよねえ」

『ライフラインや遠征の生命線を他国に頼るって、その時点で駄目だよな』


 生水を失った船がどうなるか。

 まあ言わずとも分かるだろう。


 船からの救助要請があったのは、その一週間後。

 さすがに相手もからくりに気が付いたようだが、後の祭り。

 こちらは相手国の使者を救助した、善良国家であるという大義名分を獲得。


 こうして、今日も僕は無双した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マカロニ氏を舐めればこうなるわな。(^_^) [一言] まぁ、船の上で真水が手に入らないのはそりゃあ命取りだわな(≧▽≦)
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