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緊急依頼と拒否権と~サービスエリアのホットスナック自動販売機の値段は(以下略)~


 ここはスナワチア魔導王国の執務室。


 僕はいつものように全世界に僕の水を設置する計画を順調に進め、ご満悦。

 なんで僕のぬいぐるみは売っていないんだい、兄さん!? と、弟が騒ぐ前に行動開始。

 マカロニ神殿で販売する”獣王エビフライ”のぬいぐるみ量産計画を進めていたのだが――。


 その声は突然降ってきた。


『マカロニよ、そなたの妾じゃ。何度も連絡を送っても返答がないのでそなたの脳内に直接メッセージを送っておる。聞こえておるな? 理由もおぬしならば理解しておろう。く返事をせよ』


 天啓を受けておる理由は分かるな?

 と、上司に言われたときは大抵は面倒な話が待っているだろう。

 だから僕こと偽神で氷竜帝なマカロニは、賢いマカロニペンギンの頭脳を働かせ。


 天を見上げて、偽証魔術を発動。


『いや、悪いが――知らないし分からないからきっと僕には関係ない話だな』


 そのまま視線を下げて以降は無視。

 ハリモグラの背中のトゲをどうぬいぐるみ化するか、すっかり僕の相談役となっているバニランテ女王と魔術でやり取りを再開。


『聞こえておるな、マカロニよ。真面目な話じゃ、面を上げよ』

『いや、こっちもまじめな話なんだよ。なにしろ二度世界で暴れたベヒーモスの偶像は重要だ。せっかくなら僕ら三柱の獣王、”ジズの大怪鳥””リヴァイアサン””ベヒーモス”、この全員が人類から信仰される相乗効果を狙ってるんだ。この世界でもやっぱり”箱推し”(カテゴリー愛)って概念もあるだろうからな』


 商売にもなるしと、本当に国家単位で作戦を進めている計画表をちゃんと見せ。

 こっちはおまえらと違って忙しいんだよ! アピール。

 それじゃあな!


 とペカーっと輝く天の光……つまりアシュトレトを無視して僕は通信魔術を遮断。

 緊急で結界を多重展開し、通信を完全に断ったはずだったのだが。

 なぜか僕の張った結界をふつうに素通りし、上司たる天の光が言う。


『なぁぁぁにを無視をしておるか! おぬしが管理責任を担っているはずのイワバリア王国の地下にて、神の水たるワインが氾濫! 海を侵食し、周囲の空間を一時期乱したと聞いておるが! どうなのじゃ? 無視するのならばアレを問題とし、魔術悪用の罪で罰を下してもよいのじゃぞ!』

『って! あんたは本当になんでもありだな! なんで僕の結界を無視できるんだよ!』

『ふふ――そう飾り羽を揺らしながら褒めるでない、年甲斐もなく照れるではないか!』


 よし、これでアシュトレトの結界破りが凄い!

 という話題に変更できた。

 そのまま僕はペーラペラペラのペペペペ!


 アシュトレトはおだてに弱いし、なによりも実際に僕の本気の結界が貫通されたのは本当で……だから感心しているのも事実。

 文句を言う建前でアシュトレトを褒めたたえれば、このまま誤魔化しきることができるだろう。

 だがそんな彼女にも理解のある主神くんがついていて……。


 全ての生きとし生ける者を魅了するほどの、甘ったるくも渋い主神レイドの声が響き渡る。


『アシュトレト……今のマカロニさんはそれなり以上のツワモノ。名のある獣神の比較対象に挙げられるほど成長したアニマル神。時にあなたですら術中に嵌められる可能性があると、事前に伝えていたでしょう――あなた、既にやられていますよ』

『は!? あまりにも心地よい言葉であったが――まあ良い、褒めていたのは本心であったようじゃからな。妾は許そう。ふふ、もっと褒めたたえても良いのじゃぞ?』


 騙してやったのに、すぐにこれだ。

 ……。

 こいつ、本当に折れないな。


 しかし主神レイドが出張ってきたのは引っかかる。

 僕は彼らとは別の魔術回線をイメージし、魔術構築。


『なあ朝の女神、なにかあったのか?』

『な!? マカロニよ! 妾と我が夫が天啓を授けているというのに、なあぁぁぁぁぁぁにをペルセポネに訊ねておる!』

『適材適所に決まってるだろうが!』


 主人と眷属の言い合いが続く中。

 まさに厳格な女神といった様子の、重厚な朝の女神の声が響きだす。


『偽神マカロニよ、朕すら打ち破った新しき神性よ。実はそなたに依頼がある』

『依頼?』


 実際にいま僕が忙しいのは事実。

 既に僕やメンチカツが暮らしているスナワチア魔導王国はともかく、他の地域……特に獣王が暴れた地域にとって、エビフライは恐怖の対象でしかない。

 彼らに弟を受け入れさせる印象操作は必須なのだ。


『悪いんだが、ちゃんと事情を説明して貰えるか? 内容次第なら動いてもいいんだが』

『無論である。軽々にできぬ案件である。故に資料を転送する、しばしの刻を待たれよ』

『あんたはちゃんと常識があって、真っ当な交渉も意味ある話もできてやりやすいな』

『世辞は要らぬ、朕はただ世界の調和と平穏を保つのみ――』


 あいかわらず真面目な女神だ。

 夜の女神さまとは違った意味で、僕は朝の女神とは良い関係を築けている。

 適度な距離というやつだ。


 まあ……朝の女神との通信の裏。

 彼女の後ろで騒いでいるだろうアシュトレトが『妾の時と態度が違い過ぎるのではないか!?』と、騒いでいるのだろう。

 かなり長文の女神ノイズが走っているが気にしない。


 朝の女神が僕の執務室に資料を具現化させ、一息。

 溜めの時間を作る。

 なんだ、この反応は。


 どうやら結構な案件らしいが――。


 案の定、朝の女神はしばしの間の後に重い声で告げ始めた。


『依頼内容自体は単純である。そうさな。要人警護……否、要人保護と告げるべきであろうか』

『要人の保護、ねえ……』


 まあこいつらが動くと文字通り世界が動く。

 安全を確保したい要人や、要人警護を僕に依頼すること自体はそう変な話ではない。

 だが、どうもきな臭い。


『で? その要人ってのは誰なんだ?』

『そなたも知っておる神性、地の女神バアルゼブブ――』


 ……。

 これがもし、アシュトレトとの通信だったら。

 僕はとっくに完全切断をし、超本気の結界を張って今度こそ面会謝絶状態を作った事だろう。


 だが朝の女神は真面目な女神。

 まっすぐなのだ。

 僕が依頼を断ったら動き出してしまう可能性はある。


『あの呪い大好き女神……いったいなにをやらかしたんだよ』

『あやつが外界との間に結界を張ったことは覚えておろう?』

『ああ、うちの弟を追ってきたりアランティアを任意同行されないように……って話はもちろん僕も知ってるが』


 朝の女神が言う。


『実は――その際にバアルゼブブが見てしまったのだ。ニャイリスとは異なるネコの行商人が、異世界の魔導書を買いつけている場面を、ゆったりと、まじまじとな。そしてあやつは自由なる蟲神の軍勢。猫の足跡銀河を辿り、そのまま気のまま、風のまま……こちらと向こうの世界との狭間に生まれし”新たなる空間”へと散歩に出かけてしまったのだ』


 朝の女神が示す資料によると、二つの世界を結ぶ足跡銀河。

 その中央にどちらの世界でもない、ネコの行商人が出入りするサービスエリアにも似た異次元、独立した世界が誕生しているらしいのだが……。

 どーやら、そこにお散歩に行ってしまったらしい。


 それも。

 いなくなると世界から大地が消滅する、かなり重要な女神が。

 ……。


『そして、厄介なことに……あやつは金銭をあまり持ち歩かぬのだ。此方の世界ならば融通も根回しもできようが……彼の地は独立世界。支払いでトラブルとなると非常にまずい。ネコの行商人団体に拘束され取り調べを受けている間に数年でも経てば……此方へのあやつの加護が途絶える。其れは即ち、世界の終焉詩の一つ。そうなる前に、マカロニよ、バアルゼブブを何としてでも連れ戻して欲しい』


 うわぁ……思ったより大ごとでやんの。


『大丈夫なのか……?』

『だから我らも慌てておるのだ、マカロニよ。あやつに何かがあればこの世界から大地が消える。人類のことで伝えるのならば、此れを大問題……そう呼ぶのであろうな』


 ゆったり厳格な口調で言いきりやがったっ。


 天の女神アシュトレトが言う。


『ほぉぉれ、見よ! だから言ったであろう! 妾の話を無視したその罪の重さを噛み締めよ!』

『いや……ていうか、おまえらが止めろよ……』

『そ、そこはほれ……バアルゼブブはその、……正直妾でも制御できん。あやつは本当に、昔から何を考えておるか分からぬのじゃ。とにかく! あそこは中立世界でもある! こちら側の創世神たる妾らが動けば問題となる。そこでおぬしの出番というわけじゃな!』


 あちらの世界は僕に興味を持っていた。

 そしてアランティアとエビフライについても身柄を要求している。

 ようするにだ。


『いや、これ罠だろ』


 断言する僕に主神の声が響く。


『確かにマカロニさんの言う通り。この機会に向こうでも何か動きがあるのは確かでしょう。ただあの空間が中立地帯であることは確かなので、過激なことはしてこないとは思いますよ。それに――』

『なんだよ』


 確か、確かと繰り返す主神はまるで詠唱するように息を吐く。

 それは僕の偽証魔術に似た波動。

 半強制的に相手を納得させる魔術のような言葉を発動させていたのだ。


『あなたの前世はあちらが故郷。こちらの事情を優先する私たちだけの言葉を聞いて、今後どうするかを決めさせてしまうのは少々どうかとも思っているのです。そもそものあなたの望みは帰還でしたでしょう? そしてあなたの死後、弟さんがなにをなさったのか――事情を知っているあちらや、中立の存在から話を聞くにはいい機会だと思っております。これはあなたのためでもあります。行ってくれますね?』


 言葉による正論パンチが僕のみぞおちに直撃。

 僕の魔術とは異なるが、プロセスを真似されたと思っていいっ。


 しかも主神こいつは既に根回ししていたのだろう。

 アランティアとエビフライとメンチカツが遠足気分でルンルン。

 既に準備を終えた状態で、早く来てくださいっすよ~と、手を振っている景色が僕の脳内に転写される。


 主神こいつ、あの三馬鹿を利用し僕をなんとしてでも巻き込むつもりのようだ。


 残念スリーの説得など宇宙をひっくり返すより面倒なのは明白。

 あぁ……。

 これ、拒否権ないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今章は前世と向かい合うお話になるようですね 描写されてる限りだと前世はあの世界の過去のようですが… あまりにもあの世界は色々ありすぎて生前の常識は通じなさそうですねえ…
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