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緊急募集:ツッコミ役~ペット同伴出勤可、アットホームな世界です~


 主神と天の女神に褒美と言われ、あばばばばば!

 完全に委縮してしまっているギルダース。

 ジト汗を垂らしボソボソと語る彼の代わりに、通訳となったアランティアが言う。


「えーと……マカロニさんが今回の戦いに消費したアイテムやら費用……ってか経費の補填をしたいらしいんっすけど、その対価に見合う何かをマカロニさんに渡して貰うって事はできますか? って感じの願いみたいっすけど。どうっすか?」

『なるほど、魔力回復薬や回復アイテムを多用していましたからね』


 主神レイドは言葉を聞き眉を下げ。


『その願いを聞き届けましょう。ただ元より今回は朝の女神……つまりは私の伴侶の一柱のせいでもあったのでマカロニさんへの補填は考えておりました。他の願いもどうぞ遠慮なく』

「だそうですけど、どうします? ぶっちゃけこんな機会もう一生ないと思いますよ?」


 あばばばばば!

 と、唇をカタカタさせて僕に救いを求めるギルダースの視線に、僕ははぁ……。


『ギルダース、お前の代わりに考えてやってもいいが。意向に沿えるか分からないぞ?』

「構わないらしいっすよ」

『一応確認しておくが、あんたらもそれで構わないか?』

『妾は構わぬぞ――我が夫もそれが本当にその者のためならば異論はなかろうて。許す、神に二言はないとは言わぬが、申してみよ』


 よーし! 許可を得た。


 僕はペラペラペーラペラと条件や要求を重ねていく。

 東大陸を立て直すにはかなりの時間がかかり、統治はできても人類がまとまるのは容易ではない――仮にギルダースが王になるにしてもこれからも障害は多いだろう。

 その障害部分のせいで、再び神の虎の尾を踏む案件があっても困るからと、ペーラペラペラ!


 ダゴンの頬に汗が流れ。

 ペルセポネがベール越しに口を押さえ。

 アシュトレトですら思わず身を乗り出し――。


『こ、これ! さすがにそれほどの大量の願いは――っ』

『はぁ!? 何でも言ってみろ的な空気を出してたのはそっちだろう? それに魔術の悪用に関しても曖昧になっている部分もかなりある、後からあの時のあれは魔術の悪用になるんじゃないか? なんて掘り返されても困るだろ? ここではっきりと線を引いておくことがギルダースへの褒美に相応しい、そう思わないか?』


 僕が提案した要求は、主に国家存続に関すること。

 朝の女神を討伐したことの対価に見合うだけの、恩赦や特例を要求していた。


 様々に要求したが、重要な要求は二点。

 王となるギルダースに、主神に認められた存在である聖痕のような証を授ける事。

 そして、この時点より前の不敬を全て不問にすることだった。


 そもそも厳格そうな朝の女神が、大陸を沈めリセットさせると言いだしたほどの事案なのだ――。

 おそらく、僕が把握している以外にも東大陸の人類はやらかしまくっている筈。

 神への裏切り行為がかなり行われているだろう。


 それを後から掘り返され、せっかく治世が落ち着いた時代にこいつらがやってきて――ギルティ! 有罪! 咎じゃ! とするのはよろしくない。

 僕は今回、東大陸の連中に売った恩をずっと擦り続けるつもりなのだ。


 詐欺師のスキルで僕は要求全てを文面に変換し、書類をパチン!

 契約書という形で宙に浮かべていた。

 女神たちは呆れているが、主神の心は広いのか全て承諾し――。


 話は前向きに進んだ。


『――それではこれが契約書になります。地上へとお送りしましょう。そうですね、アランティアさん申し訳ないのですが彼を連れて地上に戻り、事情を説明していただけますか?』

「あたしっすか? 構いませんけど」


 なぜかアランティアは僕をちらりと一瞥し。


「マカロニさん、あたしがいなくて大丈夫っすか?」

『おまえに心配されたくはないんだが、”どうもありがとう”』

「うわぁ、すごい顔をしてますね。まあこの状態のギルダースさんを地上に一人下ろすのも心配ですし、仕方ないっすねえ! あたしが行ってあげますよ!」


 いちいち恩着せがましいヤツである。

 まあこれは、アランティアを除いて話をしたいという神の意志もあるのだろう。

 転移の光に乗って下界に降りたことを確認し、僕は黄金の飾り羽をファサっと揺らして振り返る。


 僕はいつも通りの軽口を漏らすつもりだ。

 だが、空気は少し真面目だった。

 覚悟を決めてこの世界の創造主にして支配者、主神レイドを見上げたのだ。


『で? これでちゃんと話をしてくれるって事でいいのか?』

『ええ、そうですね――彼女本人に自覚がなかった以上、あまり聞かせるべきではないと判断しております。悪意もなかったようですからね、咎めるつもりもありませんが――どうにかするべき事態だとは考えているのですよ』


 やっぱりそういうことか。

 まあ、そんなことだろうとは思っていた。

 女神たちも事情はだいたい察しているようで、朝も天も海も静かに顔を下げている。


 主神が告げる。


『マカロニさん、あなたはどこまで気付いているのですか?』

『だいたいの見当はついてるんだが――僕とメンチカツとこのベヒーモスの魂がこの世界に呼ばれた最大の理由は、あいつなんだろ?』


 話で触れられたメンチカツが、モニュっと眉間にしわを寄せ。


『あいつ? 誰のことを言ってやがるんだ』

『希望の女神アランティアに決まってるじゃないか、兄さん、さっきから気になっていたんだけど――このタワシみたいなカモ男、ちょっと頭が悪くないかな?』

『あぁん!? なんだとこのタワシ野郎!』


 あぁ……バカとバカがやり始めやがった。

 しかし、互いに罵倒がタワシって……。

 たしかにカモノハシもタワシみたいなカモと見えなくもないし、ハリモグラもタワシのようなフォルムが針を背負っているイメージはある。


 カモノハシがカカっと武道の構えをしてみせ、ハリモグラがササっと背を向け針を飛ばす構えをして見せる中。

 主神はデレデレと美形を崩し、スマホのような魔導板でカシャシャシャシャ!

 ……。

 カシャシャシャシャカシャシャシャシャカシャシャシャシャ!

 と、連続撮影。


 ジト目で僕は言う。


『おい、あんたの世界の珍獣がやらかしてるんだから、止めろよ』

『あなたがたの魂がやってきたのは三千世界あちらがわ、ニャイリスさんたちがいらしている猫の足跡銀河の先にある世界ですから。こちらの責任も半分かと』

『なあペルセポネさんさあ、この主神……なんとかならないのか?』


 この中ではまともよりな朝の女神に訴えるが、彼女は首を横に振り。


『主神レイド。此の者は<魔性>と呼ばれし、制御困難な性質を獲得した存在。心を暴走させ、魂から常に魔力を発生させる特異なる者。アニマルに癒しを得なければ何をやらかすか分からぬ』


 魔力とは心からくる力。

 だからこそ心を暴走させると無限の魔力を得られる、そこまで感情を昂らせた存在を<魔性>と定義している。

 ということか。


『何をやらかすか分からぬって……』

『かつてレイド=アントロワイズ=シュヴァインヘルト=フレークシルバーと呼ばれたこの者は、宇宙全てを巻き込み魔術そのものを失くすべく、全宇宙に宣戦布告をした。全てを敵とした。宇宙の敵となると同義の事件を起こした事があった程なのだ。多くの神霊、多くの神獣、多くの神々が協力し事なきを得たが――あの暴走が実現していたら、宇宙全てが初期化され……無へと帰っていた。魔術無き世界へと作り替えられておった。要するに、滅んでいたも同然』


 こやつからアニマルセラピーを奪う事は宇宙の滅びとなろう。

 そう真剣な声で、謡うように告げられた僕のその時の心を答えよ。

 ……。

 僕は女神と主神をそれぞれ眺め。


『あんたらって、ほんっとうにどーしようもないな……アニマルで癒されないと宇宙をリセットさせたがるって、何考えてるんだよ……』

『ペンギンさんから褒めていただけるとは、とても恐縮ですね』


 褒めてねえ。

 状態回復魔術を自分にかけ続けるメンチカツと、状態異常の針攻撃を続けるベヒーモス。

 僕の弟だと名乗るベヒーモスの方が、ニコニコっとしながら僕に告げる。


『兄さん、また話が逸れてますよ!』

『誰のせいだと思ってる、だれの!』


 ぜぇぜぇとフリッパーを揺らす僕はようやく思い至った。

 この状況。

 ツッコミ役が僕しかいねえじゃねえか!


 ともあれ、この流れでもはや確信していた。

 これ以上ツッコミに精神を奪われてたまるかと、僕は牽制攻撃。

 無理やりにまじめな空気へと切り替え――。


 クチバシをゆったりと開く。


『ようするに、アランティアの希望ねがいが僕らをこの世界へと召喚した。そういうことでいいんだな?』

『おそらくは、間違いないでしょうね』


 そう。

 全ての始まりはあのアランティア。

 僕らは彼女の無自覚な希望によって、この地へと招かれたのだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] なぁに食っちゃ寝してないと世界破壊散歩する猫もいるんだリセットくらいカワイイもんよワハハハ
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