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一触即発~いや、おまえらがぶつかりあったら本当に終わりだろ……~


 空中庭園にて行われている神々の会議。

 ほぼ巻き込まれた形のギルダースが顔を上げられずに俯いて、ぷるぷるぷる。

 三白眼を揺らし、チワワのように震える中。


 その正体を語られたアランティアが動揺……。

 する筈もなく。

 氷竜帝マカロニたる偽神な僕を眺め、にひぃ!


「ねえねえ! 聞きましたか!? 希望の女神らしいっすよね? ん? ん? マカロニさんはこのあたしに、なにか言うべき事があるんじゃないっすか?」


 よーするに、誉めろとか。

 いままで女神さまに対して舐めた態度を取ってましたよねえ! と、言いたいのだろう。

 ふつうは落ち込んだり動揺したりするもんだが、こいつ……。


 女騎士姿ではなく町娘の格好が似合う小娘を見上げ、いつものジト目で僕は言う。


『おまえ、能天気だよなぁ……』

「は?! なんすか! 人のことを考えなしみたいな顔をして、バカにしてます!?」

『バカにしてるし考えなしなんだよ!』


 アランティアを氷竜帝の咆哮で威圧しながらも、僕は主神レイドの胡散臭い美貌に向かい。


『で――こいつが箱から零れた魔術の継承者、希望の女神だとなんか問題でもあるのか?』

『大きな問題はありません。この世界を創世し今まで安定した空間を保てていたのがその証拠でしょう、ですが――』


 言葉を区切り、主神はやはり困った微笑を浮かべ僕らを眺め。


『アランティアさん、あなたには世界の法則を書き換える魔術そのものとしての性質もあります。そしてあなたは歴代の後継者の中で一番才覚に溢れている。魔術とは宇宙の法則を捻じ曲げる力、変わり者が扱った方が効果が高いですからね。ですので――あなたが心から望んだ希望は、魔術行使という形で叶ってしまう事があるでしょう。その御自覚がない状態は少々困ることになるかもしれません』

「自覚っすか……あぁ、あんまりないっすねえ」


 顎の下に指をぷっと当てるアランティアの返答は予想通り。

 だろうなと思いつつ。

 ジト目のままな僕と同様、主神レイドは少し困ったような表情を継続したままだった。


 詐欺師としての僕の直感が、その表情の中に僅かな違和感を掴み取り始める。

 おそらく何か知っているのだろう。

 ということは、アランティアは無自覚にその力で既に何かをやらかした可能性が高い。


 それを問おうとクチバシを開こうとしたのだが、女神アシュトレトがまるで女神のような雄大さで告げる。


『マカロニよ、それよりもそなたの記憶と過去、そしてベヒーモスの話をしなくてはなるまい』


 真剣な声だった。

 ようするに、アランティアが無自覚で叶えてしまった希望については触れるなという事だろう。

 まあこちらには勝利報酬がある、一つだけ何でも答えてくれる権利を獲得しているのだ――それを後で使い、自分に聞けと言いたいのかもしれない。


 僕は空気を読めるマカロニペンギンだ。

 おそらくアシュトレトが戯れではなく真剣に話を逸らしたと悟った僕は、一応主人ともいえる女神の意向には従い。

 ベヒーモスをじぃぃぃぃぃいい。


『それで、こいつが僕の弟だっていうのは本当なのか?』

『本当だよ、兄さん!』

『あぁぁぁぁ! だから抱き付くなって! 針が刺さるんだよ!』


 マカロニペンギンとハリモグラとカモノハシ。

 現在、異世界の魂が入り込んだ三匹の獣王が揃っていることになる。

 共通点はクチバシと卵生であること、そして合成獣のような奇抜な生態か。


 僕の心を勝手に呼んだようで、主神レイドはにっこりと糸目で微笑み。


『その通りです。そしてハリモグラは英名でエキドナ。半人半蛇の神話生物、その子供の名はキマイラにヒュドラにケルベロスにオルトロス。合成獣としての性質をもつ獣神性。戯れなるアシュトレトは合成獣キメラという属性をうまく利用し、あなた方をこの世界で拾ったのでしょう。そうですね? ペルセポネ』


 主神に目線を向けられた朝の女神は、ふふっと微笑し。


『如何にも。朕はただ、次元の狭間で彷徨える魂に安らぎを与えたかった。輪廻の輪に戻すために手を差し伸べたのだ。彼方の地、遠き青き星の冥界神らと協力し安寧を与えていたのだ。だが――朕はミスを犯した。失敗した。冥界神の端くれでありながらも、朝となった事で油断したのか、或いは……いや、其れら全てが言い訳か』


 朝のベールの奥が揺れている。

 ペルセポネはおそらくアシュトレトに目線を向けている。

 呆れを隠さず眺めているのだろう。


『朕だけではなく、多くの冥界神が管理している空間に干渉するほどの力を持った存在が介入した。それが始まりであろうな』

『ふむつまり――妾が冥界神たちの管理空間と知らず、哀れに流れておった魂たるマカロニを拾い上げてしまったというわけじゃな』

『わけじゃな、ではなかろう……向こうの冥界神連盟に何と詫びようぞ』


 ペルセポネは冥界の管理人として、ネコの行商人ニャイリスが出入りしている外の世界との繋がりがあるのだろう。

 外の世界の神々が管理していた魂の中に、僕らもいたと考えられる。

 だが、そこに干渉した存在がいたから大問題。


 その大問題をやらかしたのがアシュトレトなのだろう。

 だが。

 やはり僕はアシュトレトの中から、誰かのために何かを誤魔化すような、そんな気遣いの空気を感じ取っていた。


 案の定アシュトレトは自らが無責任で悪いとばかりの顔で、ふん!


『分からぬのう――たかが妾一柱に干渉されるような軟な空間で管理しておった冥界神たちが悪いのじゃろ? 揺蕩う魂に慈悲を与えた妾は悪くない、そうであろう?』

『三千世界とこちらを自由に渡り歩くニャイリス殿に頼み、謝罪の文はお送りした。あちらの冥界神は人が良い、なにしろ昔からそうであったからな。おそらくは嗤って気にするなと流してくれるであろう。なれどアシュトレトよ、何故マカロニの魂に干渉したのだ。朕は秩序を重んじる。朕は真っ当に転生する筈だったマカロニの魂をこちらの世界に引きずり込んだ、そなたを理解できぬ』


 朝の女神の朝のベールが、夜のベールへと切り替わっていく。

 朝と夜、春と冬、生と死。

 相反する側面を持っているペルセポネの夜……冥界に関わる神としての性質を前面に出し始めたのだろう。


 世界が揺れ始める。

 ペルセポネは本気のようだ。

 その本気に触発されたのか、いつもは陽気なアシュトレトが冷たい美貌を作りだし。


 赤い稲光を纏い、左右に血の流れた聖杯を顕現させ。

 ギロリ――。

 ぞっとするほどの魔力がこもった声を、口紅の下から押し出し始める。


さえずるでない、おぬし如きが妾に勝てるとでも?』

『世界すらも偽証する偽神マカロニより返還されしこの経験値。そう軽いモノではない』


 ダゴンが慌てて動き出す。


『ちょっと二人とも? 旦那様の御前だと分かっているのかしら?』

『ダゴンよ、汝も汝だ。何故に、メンチカツを召喚した』

『あらあら? これは藪蛇でしたかしら、あたくしにも罪があると?』


 メンチカツが、いや……あんたぜったいなんかやらかしてるだろと、いつもの数倍増しのジト目を作っている。

 メンチカツ……こいつも女神にはだいぶ苦労させられてたみたいだしなあ。

 夜を纏う朝の女神ペルセポネが僕らを向き。


『マカロニよ、メンチカツよ。そなた等は生前の世界で、殺した者と殺された者。そこには因果が結ばれておる。かつて其の繋がりを用い異世界召喚を行った世界があった、此度も其れと同様。汝等の召喚にはおそらく天使のシステムが使われておる』

『天使ねえ……それって僕が天使なのか?』

『否、殺した者が天使となる運命さだめ。判断するに、殺戮者たるメンチカツには天使の属性が付与されておる筈。回復の魔術に長けておる、其れこそが証明となろう。すなわち――メンチカツよ。汝に与えられた力は二つ。天使の力とダゴンが与えし海たる生命の力、其の二つが重なり最上位の力を取得できておるのだろうて』


 天使という存在がどういう存在なのか、正直把握できないが。

 まあこの異常な回復の力にも理由があったというわけか。


 ペルセポネはアシュトレトとダゴンを夜のベールの下から眺め。


『戯れは許そう。余興も時には華となろう。なれど、異世界の死者の魂を軽々に巻き込んだその理由。聞かせて貰いたいが、如何か?』


 アシュトレトが言う。


『言えぬ理由がある。妾を信じよ』

『いや、信じろって……そういう言葉はふつー、いつもやらかさないヤツが言わないと説得力ないだろ』


 おもわず突っ込んだ僕に、シリアスな空気は完全に吹き飛んでいた。

 アシュトレトがくわっとコミカルに口を開き。


『なーにを言うか! 妾はいつでもやらかさない真面目女神じゃ!』

『まじめな奴は自分をまじめなんて言わないんだよ!』


 やり取りを眺めているメンチカツがギルダースに精神回復の魔術をかけつつ。


『ペルセポネさんよ、あんたの言いたいことも分かるが一応オレはこのダゴンさんに感謝をしている。なにしろ願いを叶えて貰ったからな』

『願い、であるか』

『ああ、オレは――理由をろくに知りもせず殺しちまった相手、よーするに相棒こいつにもう一度会いたかったんだよ。そっちのアシュトレトの姐さんの人間性は知らねえがな――うちのダゴンさんは腹黒で給料未払いのとんでもねえ女神だが、悪い奴じゃねえ。それは仲間のあんたも理解はしてるんだろう?』


 ふぅむ……と女神ペルセポネは考えこんでしまう。

 おそらくアシュトレトは真実を知っているが、誰かを庇っているのだろう。

 後でそれを聞くとして……。


 当事者の僕が口を挟むことで仲介するしかないか。


『まあいいんじゃないか? 僕は元の世界に帰りたいが、それでも結構この世界を気にいってるからな。ここに来た意味はあると思ってもいるぞ。それよりもだ、ギルダースをそろそろ地上に下ろしたい。限界がきているようだし、そこに異論はないだろ?』

『そうであったな――我らの主神よ、東大陸の騒動、神託を偽りし王族の処分を如何するか?』


 話を振られた主神レイドは、やはり微笑んだまま。


『対応は変わりませんよ、基本は無干渉のまま――王権を受け継いだギルダースさんに任せます。元より神が口を出す事ではないのですから』


 断言した主神の言葉に、アランティアを除く女神たち全員が頷き。

 そのまま主神が言う。


『それではギルダースさん、せっかくこちらにまでご足労いただいたのです。あなたにも何か報奨を与えましょう。何が欲しいですか? 何でも言ってみてください、叶えられるかどうかはともかく言うだけならタダですので』


 あわわわわわ!

 と、ギルダースは完全にパニック状態である。

 まあ主神の威光はレベルの上がった今の僕でもかなりきつい、それを生身の人間が浴びたらこうもなる。


 メンチカツが面白がって状態回復魔術を掛け続けているので問題はないが。


『そうじゃな! ギルダースよ! 妾もそなたには会いたかったのじゃ! うちのマカロニと仲良くしてくれて感謝しておるぞ! どれ? 顔を上げよ! ワイルドの中にも王族としての気品を持ち、愛嬌もあるそなたの顔は嫌いではない! 我が夫ほどではないがの!』


 と、アシュトレトが夫自慢をしつつルンルンでギルダースを見つめている。


 ああ……こいつら。

 おそらくとっとと地上に下ろしてやるのが一番の褒美だろうに。

 ぜんぜん返す気ねえな。


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