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憂う朝日が終わる時~こんなクソゲー二度とやるか~


 女神の口上が終わりを迎える、その直前。

 分霊端末を生み出す恐怖のペンギン大王の力を借りた魔術にて、四羽に増えた僕が同時に詠唱する。

 空に浮かぶ僕らはさながら神話の獣……いや、さすがに無理があるか。


 ふつーに可愛く賢いマカロニペンギンが両手フリッパーを広げ、ペペペペガァガァ!

 四羽揃って同時に魔術をコントロールしているだけである。

 もしこの瞬間が後の歴史となるならば、僕たちをどう描くか――宮廷お抱えの美術家はとても頭を悩ませるのではないだろうか。


 ともあれ!

 これで決着だ!

 詠唱の開始と同時に、僕は天から地上を見下ろし眷属たちに言葉をかける。


『よぉぉぉぉし準備は完了だ、マカロニ隊! 僕に続け!』


 僕が手を広げ、精神を集中させたと同時にマカロニ隊も空を飛び。

 きいぃぃぃぃぃん!

 個体名”もんじゃ焼き”を中心に詠唱補助を開始。


 僕のクチバシの流れに従い、彼らも並列詠唱。

 世界の法則を書き換える呪文を詠唱し始める。


『天に遍く星々よ――暁の如き金星よ』

『天に遍く星々よ――暁の如き金星よ』

『天に遍く星々よ――暁の如き金星よ』

『天に遍く星々よ――暁の如き金星よ』


 僕が呼びかけるのは、ムカつくが、おそらくこの世界で二番目に強い存在。

 女神アシュトレト。

 一応、形の上では僕の主となる”あのぶっ飛び女神”の力を借りた、天属性の最大攻撃魔術。


 そして降らせる星はローマの流れを汲んだ”ヴィーナス”としての側面もあるアシュトレトの天体。

 金星の複製体。

 金星の重力と質量をこの世界に圧縮し召喚、敵に向かい落下させる天の魔術の秘奥義である。


 ようするに最後の最後はガチの殴り合いのようなもの。

 こちらが持てる最強火力――圧倒的な魔力質量をもつ物体を、レベルを一まで下げた朝の女神ペルセポネーにぶつけようとしているのだ。

 問題はこれがかなり高位の魔術なので、コントロールが難しい事か。


 デバフのかかっていない海の女神ダゴンにもダメージを与えられたことから、無傷という事はまずない。

 僕らは同時に翼を振り上げ。

 アシュトレトの逸話を読み解き、天の魔術への理解を深めそれを世界を書き換える魔術式に変換するべく、詠唱を続行。


『願望より生まれし信仰の女神よ、黙示録に刻まれし滅びの女帝よ』

『願望より生まれし信仰の女神よ、黙示録に刻まれし滅びの女帝よ』

『願望より生まれし信仰の女神よ、黙示録に刻まれし滅びの女帝よ』

『願望より生まれし信仰の女神よ、黙示録に刻まれし滅びの女帝よ』


 がぁあああああああぁぁぁ! アシュトレトの魔術は詠唱が重いっ。

 伊達に他の女神にすら畏れられている暴君ではないのだろう。

 ただ詠唱を重ねるだけで脳の奥の方が、ググググっと圧迫されてしまう。


 このまま魔術の制御に失敗したらとんでもないことになるのだが。

 主人の目覚めに反応したメンチカツ隊が、僕を中心に継続回復状態の補助魔術を発動していた。


 ……。

 なんかメンチカツ本体は後方親分面で腕を組んで眺めているが……。

 ここで怒鳴れば詠唱が途切れる。


 ここで僕本体だけが、最後の詠唱を開始。


『まつろわぬ神よ、汝の名はアシュトレト! 聖杯を掲げし天の盃なり!』


 残りの三羽が同時にズジャ! ズババ!

 翼と尾羽と飾り羽をモコモコっと震わせ、身振り手振りによる僕への魔術強化の儀式を行う――その最中。

 メインアタッカーも動きを見せる。


「参ります――!」


 タイミングを計っていたリーズナブルが、聖杖を召喚しカツン!

 荒ぶる魔力の流れに髪を靡かせ宣言する。

 高位聖職者による指揮スキルを発動したのだ!


「今です、全軍! マカロニ陛下の本体に強化魔術を!」

「強化がワイら全体にもかかるっちゅーことじゃな!」

「ええ! こちらは陛下が朝の女神さまに天体魔術をぶつけた直後に追撃を!」

「しゃああぁぁぁぁ!」


 リーズナブルが鈍器を。

 ギルダースが呪いの装備を傾け、それぞれに呼吸を整える中。

 脳筋気味なリーズナブルとギルダースとは違い、月の女神の加護を持つ戦士バシムは斧を構え――回転演舞。


 戦士の扱う範囲強化の<ウォークライ>を発動するつもりなのだろう。

 淡い月光が三人を包みだす。

 腕を伸ばしたバシムが肌に血管を浮かべ、天に向かい宣言する。


「夜の寒さを知るモノよ、氷海に沈みし命を憐れむ慈悲ある母よ。大いなる月、輪廻を駆ける母なる狩猟神! 汝の名はキュベレー、盟約に従い汝の力を今我らに」


 <戦士を導く月女神の光>が発動されていたのだ。

 僕も知らない魔術だが、まあやはり範囲強化だろう。

 この月光は僕も対象にされていて、僕の羽毛は月の光を吸って良い感じに輝いていた。


 あとは人類の補助魔術が僕にかかり、それをこの三人にも転写させれば完了。

 女神の口上の終わりはもう間近。

 最悪でも僕とこの三人が生き残れば、勝てる。


 だが――アランティアが欠けたことで人類の補助魔術が間に合わない。

 いや、正確には超スローで動いているのだが。

 どちらにしても戦力外。


 どうしたものかと悩んだ一瞬に、声が響きだした。


『えへへへ、ぼ、僕の眷属も混ぜて貰って、いいよね?』


 奈落の果てから響くような、蟲の羽音が重なったような声だった。

 これは女神バアルゼブブ!?

 まずい、こいつの乱入は想定外だぞ!?


 バシムも慌てて僕を向き。


「お、おい! どーするんだ!」


 指示を仰がれてもタイミング的に無理なのだ。


 詠唱完了し終えて、金星の質量を頭上に上げている僕には対処できない。

 地面の底から何者かが、モコ!

 顔を出したのだが――これは。


「だぁあぁあぁぁぁ! こんな時にベヒーモスじゃと!?」


 引き攣ったギルダースの声が、その答え。

 顔を出したのは空中庭園でペット状態になっていたベヒーモス。

 魂の入っていない獣王のキメラである。


「陛下! どういたしましょう……っ」

「ワイらでやるしかないじゃろう!」


 メンチカツに倒させるか。

 どうしたものかと悩んだが、それは僕の杞憂だったようだ。

 何故かメンチカツ程度の大きさとなっていたベヒーモスは、モケケケケケ!

 二足歩行となり、ハリモグラの指で器用に親指を立てていたのだ。


 そしてやはりメンチカツのように、ちょっと大きくリアルなぬいぐるみ状態となったベヒーモスは存外に良い声で口を開きだす。


『大丈夫、補助なら任せてよ兄さん!』


 兄さん?

 たしかに獣王という繋がりがあるとすると……こいつはまさか。

 メンチカツの弟、なのか?


 ともあれベヒーモスは人類の詠唱を助けるように針を連射。


 針により魔法陣を作りだし、詠唱代わりに魔術を発動。

 詠唱加速の魔術のようで、その強化に続いてやっと発動したのが人類の強化魔術。


 この虹のごとき輝きは、複数の属性が混じった強化の光だろう。


 ドナやバニランテ女王。

 ダガシュカシュ帝国の兄弟。

 巨大な樹木。

 イワバリア王国の王族たちが頬に汗を浮かべながらも、詠唱完了。


 ……。

 彼らのシリアス顔の中に銀杏が混じっていたような気もするが……まあ気のせいだろう。


 レベリングで強化された人類の魔術はなかなかに強力。

 やはり人類とは群れで本領を発揮する種族だとよくわかる。

 まあこいつらが国家の垣根を越えて協力することなど滅多にないので、人類の種族特性というのものはわりと死んでいるのだが。


 ともあれ。

 ドナがエフェクトを束ね、メインアタッカーに転写するべく銃を発砲。

 僕に向かい強化の光が飛んでくる。


 なぜベヒーモスがこちらに協力しているかは後で考えるとしてだ。


 僕はこの機を逃すはずがなく。

 強化を受け取り、瞳を赤く染め――ギラーン!

 残り時間ギリギリで魔術発動。


『天体魔術秘奥義:<降り注げ、暁の黙示録(ガガガガッガ、ガガガ)!>』


 天体が、降り注ぐ。


 ゴォォオオオオオオォォッォオっと。

 大地を揺らす魔力の衝撃が空を割いていた。

 魔術を解き放ち自由に詠唱できるようになった僕は、メガホンを構え。


 魔導書をバサササササ!

 僕の逸話魔導書による偽証魔術で、落下速度に詐欺を発動。


『もっとだ! もぉぉぉぉぉっと早く落ちろぉおおぉぉ! やっちまえぇぇぇぇ!』


 マカロニ隊も僕を真似してメガホンを構え。

 僕を神と見立て、その力を借りた偽証魔術を発動!


 おちろー! やれー! みよ、これぞ妾の眷属じゃぁぁぁぁ!

 と吠えだすが……なんか最後にひとつアシュトレトの声が聞こえた気もするが、気にしている暇はない。

 僕らに騙された天体魔術が加速し。


 そして。


 一瞬、全てが白くなった。

 あまりのダメージに音と空気が世界から消えたのだ。

 だが次の瞬間、それらは再計算され――。


 世界に閃光が走る。


 赤く染まった金星が朝の女神に直撃したのだ。

 天体落下の衝撃に人類が巻き込まれそうになるが、メンチカツがカカカカ!

 もう一度、<毒竜帝の大号令>を重ねダメージを相殺。


 死亡状態を蘇生の力で無理やり捻じ曲げ、ダメージをゼロにし続けるという器用なことをしているようだ。

 レベルが上がった影響か考えて戦えるようになっているメンチカツは、ふっとドヤ顔を僕に送ってきているが……。

 後で褒めてやらないと面倒そうだな……これ。


 ともあれ。

 天体落下の直撃を受け、体勢を崩した朝の女神の体にメインアタッカーの攻撃が突き刺さる。

 本来ならダメージが通らないが、相手のレベルは一。


 さすがに勝負はついていた。


 やはり朝を纏っているとしか形容しようのない、厳格なる女神。

 その唇が笑みを作り。

 人類に神託を下すべく動き出す。


 つぅっと、顔を覆うヴェールの隙間から涙のような朝露を流しつつ。

 告げたのだ。


『嗚呼、見事なり――』


 女神の纏う朝が割れ。

 世界に朝陽が戻りだす。


 今この瞬間が、口上終了と戦闘開始、そして戦闘終了の合図。

 創世女神:朝の女神ペルセポネーの顕現の確認。

 そして同時に討伐の情報も確認される。


 僕の所有する”周囲の情報を全て記録する魔導書”に女神の敗北が記載されていたのだ。


 ……。

 まあ殺したわけでも滅したわけでもない、そこまですれば主神がさすがに止めに来る。

 ただ倒しただけなのだが。

 それでも勝ちは勝ちである。


 僕は分霊状態を解除し思う。

 ああ、しんどかった……と。


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