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ペンギン陛下の計略~勝てればいいんだよ、勝てれば~


 行動停止状態が解除されたのは、高レベルのモノ達の中でも一部だけ。


 まず動いたのはマキシム外交官。

 次にマカロニ隊とメンチカツの眷属となっているメンチカツ隊。

 元大統領のドナとバニランテ女王。

 ……。


 単純に相性の問題かアランティアは解除されていない。

 メンチカツも……行動停止状態のままだ。


 まあアランティアは女神との親和性が極めて高い。

 その影響で、女神の降臨口上から目を離せないのだろう。

 メンチカツは、まあメンチカツだから仕方がないし計算通り。計算外なのはアランティアがこの時点で行動停止状態を解除できていないことだろう。


 僕は動き出した人類に目をやった。

 このままでは彼らは僕の十分の一以下の速度でしか動けない。


 それでは意味がない。

 ここが正念場だと僕は、ペペペッペエ!

 結界を得意とする”ホワイトハウル”の逸話魔導書を装備する分霊体に指示を伝達。


 分霊体の僕が、グリモワールを開き。

 バサササササ!

 本体の僕に向かい悪態をつきつつも、消費魔力軽減効果を再発動。

 ホワイトハウルの力を借りた異世界の魔術を展開する。


『人使いが荒いペンギンだな! 指示には従うが、後で覚えておけよ! 補助状態共有結界:《群れを守りし堕天魔狼》!』


 神聖な森の香りと共に、結界が展開される。


 戦闘空間に張られた今の結界の中心は僕。

 僕にかけられている補助状態をコピー、周囲に共有させる効果のある結界だった。

 しかしこのままでは女神も加速させてしまう。

 なので、本体の僕が僕のグリモワールのページを切り替え。

 バサササササ!


『世界偽装魔術:<第十一項改定ペペンガッガ対象種族女神を除外(ガガガ、ガァガガ)>!』


 女神属性を持つ者を、結界の効果範囲の対象外にしたのだ。


 これで朝の女神ペルセポネーを除く戦場全体に、僕の補助効果がコピーされた状態を作り出した。

 しかし……異世界の魔術は本当に限度がなく使いやすいな。

 まあだからこそネコの行商人ニャイリスの露店でも、あの法外な値段で販売されているのだろうし……そもそも普通なら消費魔力の上限に引っ掛かって発動できないという本末転倒なオチがあったのだろうが。


 ともあれだ。


 すでにマキシム外交官は状況を理解し、行動を開始している。

 天の女神の力を借りた、天の魔術による目覚めの光を詠唱しスナワチア魔導王国の軍を立て直そうとしているのだろう。

 そのうちリーズナブルも動き出すか。


 アランティアも起きる筈なのだが。

 ……。


『おいこらアランティア! いいかげん動いてもらわないと困るんだが!?』

「マァ…………カ………ロォ、…………ニィ………さぁ………ん?」


 僕の呼びかけに、アランティアはほんのわずかに反応を示す。

 マカロニさん? なんか超早いっすね!? と言いたいようなのだが、明らかに遅い。

 というか、どうもこちらの動きの十分の一以下だ。


 ん? っと僕はわざわざアランティアを振り向き、”鑑定の魔眼”を発動。

 ステータス欄にバフが付与されていない。

 ……。


 ――あぁぁぁぁ。こいつ! 肝心な時に僕の補助魔術のコピーに失敗してやがる!?


 もしやと思い他のステータス情報を参照して見たが……そうか。

 なにやら異常だとは思っていたが、まさかこいつ。

 ……。


 まあ、何事にも理由というものは存在する。

 こいつの異常な魔術センスにも事情があった方がよほど現実的だ。

 本人が知ってるかどうかはまた別だが……。


 しかし今はそれを追及している時ではない。

 作戦にズレが発生しているが、詐欺師の僕はアドリブを得意としている。


 僕は片手フリッパーで僕の魔導書をそのまま、もう片手フリッパーでメガホンを装備。

 同時に並行使用しつつ、クワ!


『起きてる連中は多重起動されているパーティー申請の承認を全力で連打し続けろ! 固まってる他の連中のもだ!』


 即座に反応したドナが、女傑風に魔銃を鳴らし。

 パンパンパパパッパァン!

 <元大統領の銃砲合図>を発動。


「あぁああああああぁぁ! もう戦闘が開始されてるのかい!? あんたらもとっとと起きな! このまま行動停止のままじゃあ一生あのペンギン殿にいびられるって分かってるだろう!?」


 どうやら<気絶>や<睡眠>といった、行動不能状態の味方を起こすスキルなのだろう。

 ダガシュカシュ帝国の兄弟もドナの威力を伴わない銃撃を受け、反応を示しだす。

 ダカスコス皇帝がアラビアン爬虫類顔を歪め、顔を押さえ――。


「く……っ。これが女神の口上か。皆の者! 起きよ! 我らが一番貢献できんとなれば、マカロニ陛下は責めはしないだろうが、まあおまえらじゃあ仕方ないだろ……と冷たい目をなさるに決まっている!」


 酷い言われようである。

 ま、まあ実際そーなる可能性もあるが。

 無駄に美形な密偵とタヌヌーアの長マロンも行動停止状態から解放されたのだろう、僕の周囲に瞬時に移動。


「参戦に遅れ申し訳ありません、マカロニ陛下――ご指示を」

「我らタヌヌーアの手腕がお役に立てればと」


 再度、朝の女神ペルセポネーの周囲の時間だけを僕の魔術で弄り、巻き戻しながら僕は告げる。


『マロン、コークスクィパーの連中はどうしている』

「あやつらは吾輩と違い戦闘力自体はあまりありませんので、ご指示通りに中央大陸の商業ギルドの方で待機しているかと。ご指示とあらば、すぐに狐の皮を剥いで参りますが」


 こいつ、王に成り代わるなんて大胆なことをしていただけあって、この状況でもけっこう余裕あるなあ……。

 さりげなく狐を潰そうとしてやがる。

 まあたしかにコークスクィパーは貴重な狐獣人、その毛皮には素材としての価値もあるだろうが。


『あのなあ、そーいうのは後にしろよ……』

「どうやら陛下にも余裕がおありなようで、安心いたしました。それで、本当にどういたしましょうか? おそらくまだ行動停止状態、女神様の口上に囚われていると思われますが」


 本来ならアランティアに解除させる予定だったが。


『ならお前らはあっちと合流だ。冒険者ギルドの連中と元商業ギルド代表のゲニウスをなんとしても起こしてこい。あいつらがいないと計画が狂う』


 は! っと隠密のように消えた彼らの動きは早い。

 商業ギルドにて――行動停止状態にある筈のコークスクィパーの長キンカンの、うぎゃぁぁあぁぁぁ! っと響く叫びを聞き流し、僕は再度メガホンを構え。


『パーティー申請を全て押し終えた奴は、そのままギルドシステムを操作――ギルドの項目に魔術を追加してあるから、使用条件の同意を押して、表示されている魔術を連打で発動。可能な限り重ね掛けしろ!』

「ちょっと待ちな! 全員がギルドのシステムを知っているわけじゃないからね、その説明じゃわかりにくいよ! どこにあるんだい!?」


 ドナのフォローである。

 言われた僕が動くより前、カマイラ=アリアンテがシステムの手本を空に表示。

 おそらく起こされたであろう元商業ギルド代表で昼の女神の眷属、ゲニウスが更にそれを拡大し、投影。


 分かりやすく手順を天に表示し始めていた。

 どうやらアシュトレトも手伝っているようだ。


「なるほど、だいたい分かったよ。けれどこの、あんたが追加したギルド魔術ってのは……」

『発動の代償にレベルを下げる代わりに、奇跡を発生させる魔術だ。ランダムで表示される強大な願いを一つ叶えることができるんだが、性質上運が絡む魔術でもある。常に良い効果がでるってわけじゃないんだが、今回は僕の偽証魔術で常に一定の願いしか表示されないようになっているからな。”魔力の回復”を選び続けてループさせろ!』


 月の女神の結界を展開し、女神の遅延に協力し始めたバシムの声が響く。


「魔術っつったって、オレは戦士だぞ!?」

『おまえらでも発動できるように改造してあるんだよ! いいから連打しろ!』


 イワバリア王国の連中も行動停止状態が解除され始めたのだろう。

 ギルドシステムによるパーティー申請を承認し、ポチリ。

 わりと考えなしの第一王女、ナチュムリア姫も家臣に命令する集団指示を発動しながら言う。


「なるほどのう、レベルを消費する……レベルを代価に発動できる魔術だからこそレベリングが必要であったのじゃな。しかし、これ! 意味ないじゃろう! 魔力の回復を選択し続けても、ただただ延々と同じ魔術を繰り返すだけではないか!」

「そこの姫さんの言う通りさね! なにか策があるのかい!」


 続いたドナの声に、僕はグペペペペペッペエ!

 邪悪なペンギンスマイルを浮かべて言ってやる。


『僕が事前に設定してあったから気付いてないやつもいるのかもしれないが、この奇跡の魔術の代償をどこから使ってるか、よぉぉぉぉぉぉぉく確認してみろ!』

「対象って……――!? あ、あんた! なんてえげつない事してるんだい!」


 ドナの叫びもまあ仕方がない。

 レベルが下がるという特大ペナルティーのある魔術のループなど、本来なら意味がないどころかマイナスだが――。

 僕がレベル消費のペナルティー相手に設定したのは、パーティーメンバーに表示されている最高レベルの存在。


 <朝の女神ペルセポネー>である。


 そう。

 あの時、会話するために女神がわざわざ顕現した時にこっそりとパーティー申請。

 さらにこっそり承諾を押し仕込みは完成。


 朝の女神の行動パターンを事前に聞いていたからこそできる、反則技である。


 だからこそ会話しに、相手が降臨した時点で勝ち確だったのだが――。

 勝ち方にも色々と幅があるので油断はできない。

 後はどれだけ人類を強化できるか。


『さあおまえら! 魔術を連打しろ! これは魔術発動のペナルティーによるレベルの消費だからな、相手の耐性を貫通する。おまえらが押せば押すほど、アホみたいに高い女神のレベルが落ちていく。女神のレベルを1にしたらメインアタッカーと僕、あとメンチカツを起こして総攻撃で――!』


 勝てる!

 と、僕は女神遅延と行動加速状態を維持しつつ。

 僕もまた、レベル消費ペナルティーの魔術を、ポチポチポチポチ!


 ギルドシステムを悪用し、多重申請しているおかげでここにいる全員が僕のパーティー化している。


 レベルを消費し、ギルドに設定されている魔術により魔力回復という奇跡を発動。

 多重申請している分、多重でその奇跡は発動する。

 さらに、輪唱の魔術をかけているので、押すたびに魔術発動が輪唱される。


 人類による耐性貫通のレベルダウン攻撃が発動し続ける中。

 ナチュムリア姫が言う。


「せ、せこすぎんか、これ!?」

『はぁぁぁ!? 女神の方がせこいからな!? 言っておくが、このレベル差はレベルの暴力。それを覆すには搦め手が必須だろ!? だいたい相手の方が先に絶対に勝てない戦いを仕掛けてきたんだ、僕はいっさい悪くないぞ!』


 絶対に勝てる格下相手を襲うのだ、何を言いだしても言い訳になる。

 ……筈だ。

 実際せこいし卑怯だが――はっきりと言いきり、僕は状態を維持する綱渡りを継続し続けた。


 天でこちらを見ている夜の女神さまが。

 いや……さすがにこれ、せこすぎないか? と頬を掻いているようだが。

 僕はいっさい、気にしない!


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