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動かれたら終わりのクソゲー~楽をするための苦行~


 現在、僕自身は行動加速で女神は実質的な遅延状態。

 人類は行動停止状態。

 僕だけが神速で動く世界にて――。


 一度でも相手にまともに動かれたらこちらが完敗する戦場で。


 チャートを脳内でなぞりながら、僕はダダダダ!

 ペタ足ダッシュと腹滑りを組み合わせながら、魔法陣を刻み――カンペを確認して、ガガガ!

 海の女神ダゴンの力を借りた魔術を詠唱!


『世界を満たす母なる海よ! 偽神マカロニが祈り念じる、繰り返す大海の慈しみの中で我らに輪唱を与えたまえ!』


 輪唱魔術:<繰り返す大海の流れより>が発動される。


 僕の放った魔術がギルダース、流星のバシム、最高司祭リーズナブルを中心に効果を発揮。

 味方全体の魔術詠唱が二重になる……つまり、一度の詠唱で魔術が二度発動される特殊効果を付与したのだ。

 補助魔術をかけた際に繋いだ魔力をそのままに、ギルドシステムを悪用しパーティ申請を多重起動して……。


 四羽の僕がそれぞれに動く中。

 僕に朝の女神の性質を伝授した張本人たる、女神アシュトレトの声が響きだす。


『これマカロニよ、ペルセポネーの遅延状態の管理ができておらぬぞ――おぬしの体感時間で言えば七秒後に遅延状態が解除される。うかうかしていると作戦に失敗するぞ?』


 指摘は正しく、完全なフォローである。

 このままでは――こちらの加速と相手の周囲の空間の遅延、そして女神降臨の口上を利用した隙間時間が終わってしまう。

 だから本来ならかなりありがたい忠告だったのだ。


 だが――!

 僕の黄金の飾り羽は逆立ち憤怒の構え!

 僕は僕自身の、偽神マカロニのグリモワールを緊急発動!


 世界を騙し、偽証による時間逆行を成功させつつアシュトレトに吠えていた。


『だぁあああああぁぁぁ! そこまで見てるんならあんたが直接協力してくれてもいいだろう!』

『何を愚かなことをいう、女神同士の戦いなど世界崩壊。終末じゃろうて』

『なにを他人事みたいに言ってやがる! どーせ! 朝の女神もおまえたちのやらかしの尻ぬぐいをしていたからこんなに疲弊してるんじゃないのか!?』


 世界の流れを騙す裏ワザを披露しながらの僕の指摘に、うぐ!?

 天でこちらを見ているアシュトレトはおそらく視線を逸らし。


『そそそそ、そのようなことがある筈なかろう! お、憶測で語るのはよくないのじゃ!』

『心当たりしかない反応をするんじゃない!』

『っと、それよりもマカロニよ……今扱っておる時属性の魔術はあまり多用するでないぞ。妾だから動けておるが、夜の女神キュベレーや昼の女神ブリギッドは動けておらぬ。我が夫は女神を家族と思うておる、あまり悪影響を与えるようでは要らぬ懸念を抱かれるでな』


 誰のせいだと思ってやがる……。


『だいたいおまえ! なんでこの状態で普通に会話できてるんだよ!』

『妾も加速しておるからに決まっておろう?』


 空中庭園からの発言なのだろうが……。

 さらっととんでもないことを言ってやがる。

 僕がどれだけ苦労してこの状態を維持しているのか、おそらくアシュトレトには理解できていないだろう。


『安心せよ、容易ではないことぐらいは理解しておる。なれど、費用や対価をかければおぬしとてここまでできてしまう、それは非常に脅威となることもまた事実。報酬の件もある。此度の戦闘が終わったのちに、一度、空中庭園を訪れよ――』

『あのなあ……まだ勝ってもいない状態で』

『おぬしが負けるはずがなかろう。妾の眷属にして我が夫のお気に入りなのじゃぞ?』


 まあたしかに。

 本来ならこれは初見相手。

 絶対に勝てるわけないのだが……カンニングというか、なんというか――朝の女神の性質を事前に教えてもらっているので、こちらのアドバンテージはかなり高い。


 これで負けてはアシュトレトの面子もつぶれるだろう。

 ……。

 それはそれで面白そうな気もするが、一時の酔狂で周囲の信頼を失うつもりはない。


 勝つ気満々で再度行動加速状態と遅延状態を延長しつつ、僕は腹滑り!

 必勝の策を構築しつつ、チャートをなぞり。

 ガァガァガァ!


 相手は超格上なので、こちらのセコンドは多い。

 僕に勝って欲しいだろう協力者たる声が、海のさざめきと共に僕の羽毛を揺らしだす。

 腹黒ダゴンである。


『ふふふふ、マカロニさん。あなたの体感時間でおよそ二十秒後にペルセポネーが<春風のとばり>を発動させるでしょう。あれは周囲に春眠、つまり眠りを与える範囲魔術。対処しなければヒーラーのメンチカツさんを失いますので、どうか――ご対応を』

『ありがたい助言だが……あんたも直接は動いてくれないのかよ?』

『ふふふふ、申し訳ありませんが――弱い者いじめは好きではないモノですから』


 この圧倒的な存在感を放つ朝の女神を、弱い者判定とは。

 上には上がいるのは知っているが……。

 まあ気にしても仕方がない。


 分霊体に状況維持を徹底させつつ、本体の僕はギルドシステムを悪用した多重ウィンドウを操作しながら告げる。


『朝の女神が悩んでいたのをあんたも知ってたんだろう? なんで止めなかったんだ』

『ストレスを溜め続けている状態で止めても、それを胸の内に収めるだけですもの。いつかは大爆発してしまうでしょう? だったらこの辺りで一度、彼女の中で溜まっている感情を吐き出させてあげたかったのです』


 よーするに。


『あんたも僕を意図的に巻き込みやがったんだな!』

『あらあら? 誤解ですのよ、あたくしはただ、あなたの対となる魂を奈落の海底から引き揚げただけですもの。殺した者と殺された者、その関係性を繋いで導いただけの話。それに……あたくしたちは人々の心を反映し顕現した女神、願われれば叶えたくなる性質もありますでしょう? これも願いの結果と言えるのかもしれません。なので、こちらだけが悪いわけではありません』

『性質もありますでしょう? じゃない! そんなこと僕は把握してないぞ!』

『まあそうでしたかしら? うふふふふふ』


 だめだ、こいつもやっぱり女神ムーヴがえげつない。


 こちらの文句も暖簾に腕押し。

 女神ダゴンは不敵に微笑したまま。

 こちらからは観測できないが、おそらくはにっこりと糸目スマイルでもしているのだろう。


 頼りになるのは夜の女神さまなのだが。

 どうやら彼女はやはり、三女神連中と比べると戦闘力ではランクが届かぬ女神。

 午後三時の女神も同じだろうが、この空間に干渉できるほどの能力はないようだ。


 強いからといって好き放題しているこの女神たちに、言いたいことは山ほどあるが。


 ともあれ――戦いに勝たなくては話にならない。


 僕は女神ダゴンの助言に従い、氷による伝令!

 分霊に指示――!

 状態異常回復も得意とする異世界の魔、ロックウェル卿のグリモワールを発動!


『強制睡眠回復魔術:<夜明け鶏が(ペッペ・)雄大に鳴く頃に(ペーペペガァ)>!』


 周囲に怪鳥を彷彿とさせるニワトリの幻影が浮かびあがり――幻影はそのまま、コケー!

 クックドゥードゥルドゥー!

 と、人類の睡眠機能を刺激する怪音波を発生させていた。


 女神降臨の口上イベントの中。

 遅延されつつもペルセポネーが発動する睡眠攻撃を妨害。

 ほぼ同時に睡眠と睡眠回復魔術が重なったので、実質無効化となったのだ。


 ぜぇぜぇ……と僕は肩を揺らし。

 メガホンを装備!


『おい! そろそろ起きろ! 今ので<行動停止状態>が解除されたヤツもいるだろう! おまえたちも手伝え!』


 僕は人類に呼び掛けた。

 そう。

 人類に語り掛け――<強制停止状態>を発生させているイベント中にアクションを起こし、変化を発生させていた。


 女神の口上の最中に、彼らの一部を動かそうとしているのだ。


 面倒でまわりくどく。

 なおかつ、まともに動かれたら負けるのだ。

 死ぬほど面倒だが、これが一番の安全策。


 そしてまた行動加速状態と遅延状態の維持に、アイテムと魔術を発動!


 こちらはこうやって女神の口上を維持しつつ、搦め手で動くしかないのである。

 僕はひたすらせこく、せこくせこく!

 地道な突破ルートを構築しつづけた。


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