女神討伐RTA~レベル1でラスボスをたおすとかそーいう類だろ、これ!~
それは――朝の代わりに降臨せし創造神の一柱。
明け方の陽射しと共に、朝を管理し昼に繋ぐ温かな風。
春の女神としての一面を強調した、美しくも嫋やかな女神が降臨しかけていた。
女神ペルセポネー。
これは降臨中の神のお告げ。
朝を纏いしヴェールを揺らした女神は、その口元だけを晒し語りだす。
朝の如き輝きが、重厚な声を奏で始めたのだ。
『朝と春、夜と冬。朕は四季の始まりと終わりを眺める者。終末と再生の輪廻を司りし神性。汝等は朕を春と認定し、汝らは朕を朝と認識する。嗚呼、叶うならば汝らが愛しくも輝かしい存在のままで在ったのならば、いや――全ては栓無き事。来るがよい、人類。抗って見せよ人類』
神は声だけですべてを魅了する。
皆が皆、女神の降臨に目を奪われている。
女神はただ降臨するだけで戦場を掌握できる。
人々の感情や感覚を奪う、魔術効果のようなものが発生しているのだろう。
魔術ですらない現象だが、分類するとなると効果は<行動停止>。
アランティアですら瞳を奪われ、ぼぅっとしてしまっている。
当然、メンチカツは状態異常耐性が低いのでもろに動きを固めている。
降臨時間は周囲の時間が止まっているようなモノなのだ。
彼女がまじめな性格だというのは明白。
こいつ……なんというかこう……。
画面全体が止まった中、ズズズ、ズズズズとラスボスがちょっとずつ出現するような。
そんなゆったりとした、威厳ある顕現を徹底しているのだ。
アシュトレトに言わせると、おそらくこれはただの演出である。
ぶっちゃけ、外面を気にせず出現してくるタイプだったらどうしようもなかっただろう。
まだ降臨の途中で、正確には降臨していないのだ。
まあ本来なら周囲の時間を止めているようなものなので、どれほど長い演出でも問題ないのだろう。
だが――! 当然、僕には通じない!
むしろ女神降臨の停止時間はもろ刃の刃、女神にとっても行動停止時間でもある。
僕は商業ギルドの資金で購入した”行動加速のアイテム”を全て同時に発動!
他のモノ達が女神の口上に付き合っている間にも、ペペペペっと動いていた。
ちなみにこのアイテム、話を聞きつけてきたニャイリスではないネコの行商人から通販で買ったのだが……。
超が付くほど値段が高い。
単純に素材がレアなのだそうだ。
だが出し惜しみをしていい相手でもない。
まずは神速で相手の視線から隠れるように、転移ではなくタイムラグのない最速移動を選択。
普段はバカにされそうなので絶対にしない《氷竜帝の腹滑り》を発動!
地上でのペンギンの最速移動は氷の大地に腹をつけ、腹でシュピーっと移動するのだ!
氷の道を張って、シュピー!
最速移動で物陰に隠れ、ビシ!
僕はアイテム空間に接続!
行動加速のアイテムの効果により、通常の十倍の速度でガガガガガ!
『来たれ! 異世界の神話を綴りしグリモワール!』
複数の逸話魔導書を浮かべ、並べ、全ての書を開放。
バサササササササ!
と、魔力の風が発生するほどに一斉にページが開かれる。
そのままだと消費魔力が高すぎて僕の負けだ。
だからこその解決策。
迷宮最奥で手に入れたイワバリア王国の秘宝、その装備効果を発動すべくフリッパーを天にかざす。
アイテム名:王家の腕輪。
異国の王たる僕はこの装備を見につけることができる。
けれど装備効果を発生させる時に多少の誤差が生じてしまう。
なので僕は効果を発揮させる前に、王家の腕輪に刻まれた”装備情報の捏造”を開始。
『イワバリア王国に伝わりし一族の悲願を叶えし魔道具よ! 我はマカロニ、氷竜帝マカロニ! 汝の血脈との縁を持つ者! スナワチア魔導王国の王たるマカロニペンギン! 我に力を貸すならば、我は汝の血族に慈悲を授けよう――なれど汝が我を拒絶するならば……』
僕の詠唱が続く。
ようするに、腕輪に向かい――。
僕にも効果を発動させろ、させないとぶっ壊す。
逆に協力するならイワバリア王国の血族を贔屓にしてやるぞ、と交渉しているのだ。
これは最初にアシュトレトから授かったオリジナル魔術の系列。
道具に意思をもたせる、創世魔術の範疇である。
交渉は成功。
王家の腕輪の消費魔力減少効果を発動するべく、今度は通常使用。
大いなる翼に嵌めた王家の腕輪の効果で、消費魔力を大幅軽減。
この間、僅か十秒である。
朝の女神はまだ僕の行動に気付いていない。
まあ、気付いていて放置している可能性も捨てきれないが……まじめなので口上は止められない。
女神の座につく者には、そういった一種の行動制限が発生しているという側面もあるのかもしれないが。
こちらはそこを利用するしかない。
正面から戦って勝てる相手ではないのだ。
『朕は朝、朕は夜。汝等に朝の陽ざしを照らすもの――』
口上が続く中、アイテム浪費で加速を維持する僕は僕でフリッパーを伸ばし、ガァガァガァ!
本来なら固まっている僕は事前に詠唱をしまくり、魔術を保存!
僕は緊急多重詠唱を開始。
異世界のペンギン大王《始まる世界のペン・グイン》の魔導書を開き――魔術を発動。
雷のような魔術エフェクトが僕のフリッパーを通り過ぎる中。
僕は魔術名を解き放っていた。
『分霊召喚:<増えろ増えろ、だが僕が本体だからな!>』
ペンギン大王アン・グールモーアが使っていたとされる分霊魔術を発動!
自分の分身端末を生み出し、個体として顕現させ使役する効果である。
分散している戦場のすべてに、僕の分霊体が一体ずつ配置されていた。
逸話魔導書の複製は僕のレベルが足りないのでできないが、それぞれが別の逸話魔導書を装備している。
王家の腕輪の複製は可能なので、全員が消費魔力を下げる効果を発動できている。
分霊体となった僕たちはそれぞれアイテム空間から、以前、ニャイリスから購入した食料系の全回復アイテムを使用。
ぱくぱく、あつあつ!
<大魔帝風ホットサンド>の効果により、魔力も全回復。
これで単純に四羽の僕が顕現していることになる。
行動加速のアイテムの効果時間が切れる前に、僕の中の一羽が<白銀の魔狼ホワイトハウルの逸話魔導書>を使用!
僕の一羽が、尾羽の先まで魔力を通しながらペペペペペのガァガァガァ!
ペンギンの言葉で高速詠唱。
『我はマカロニ! 偽神マカロニ! 氷竜帝にして三匹の獣王より顕現せし新たなる神性なり!』
三獣神と呼ばれる異世界の大物。
ホワイトハウルの逸話魔導書が僕を承認し、魔術効果を発動。
周囲にペンギン限定の行動加速の結界が張られ始める。
効果は本当にペンギン族を加速させるだけだが、これが重要。
相手が口上という名の無防備状態の内に、どれだけできるか。
そこが勝負。
行動加速状態の維持は必須なのだ。
そのまま状態異常を得意とする<神鶏ロックウェル卿の逸話魔導書>にも、同じプロセスで僕の存在を承認させ、魔術を発動!
一羽の僕が、状態異常を司る異神の力を制御している裏。
『――協力するって約束だっただろ! 力を貸せ!』
本体の僕が、主神レイドの力を借りたオリジナル魔術を発動!
女神相手に状態異常は効きにくいので、創世魔術で女神の周囲の<時間経過>そのものに仮の生命を付与。
対象判定を獲得した女神の周囲の空間に、ロックウェル卿の逸話魔導書による<行動遅延>の状態異常を発生させる。
これでこちらは加速、相手は遅延。
強制に近い口上降臨の時間延長に成功。
異世界の最上位に近い獣神の力を借りているので、周囲の空間には禍々しいエフェクト……狼とニワトリのオーラがウニュウニュと光っているが、まあ気にしている暇もない。
ほとんど綱渡り状態である。
僕はぜえぜぇとなりながらも、次の現場に向かうべく腹滑り移動!
氷の道を作り、ズビシー!
ここまではチャートの通り。
だが。
『あぁああああああああぁっぁあ! 分かっちゃいたが、やることが多い、多すぎる!』
超格上相手なのだから仕方ないが。
これ、本当に採算がとれるか不安になってきたんだが!?