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レベリング~レベルアップでファンファーレが鳴る世界~


 裂けた空から垂れ流れる音は、霧雨とは反対の轟音。

 大量の雨だった。

 これはギルダースが装備する呪われた武器、《狂人妖刀村雨ムラサメブレード》の斬撃によって発生した効果エフェクトなのだろう。


 乾いた地面を雨が濡らす、据えた香りが伝わっていた。


 無能と呼ばれていた男の無双は想像もしていなかったのか、ナチュムリア姫はまともに顔色を変えて吠えている。


「はぁあぁぁぁ!? ななな、なんじゃあれは!?」

『アランティアが言ってただろ、ギルダースは中央大陸でベヒーモスと戦った時の主戦力だったんだ。だいぶレベルが上がってるんだよ』

「だ、だからといってっ……それに、あの禍々しい装備はいったいなんだというのじゃ!」


 まああれは完全に僕たちのせいなのだが。

 ……。

 僕とアランティアは顔を見合わせ、頷き。


『呪われた装備であってもその効果自体は強力だからな――あいつは人類のために自らが呪われても構わず禍々しい装備に手を出したんだよ』

「まさに王様にふさわしい献身っすよね!」


 完全に誤魔化すことに成功した筈だが。

 なにやらギルダースが風の魔術で声を増幅して、ギザ歯をクワ!

 僕もメガホンを持ち替え。


「おんしら! いま、自分の罪を美化して語っちょったじゃろう!」

『美化も何もおまえが人類のためにベヒーモスとタイマンしたのは事実だろうー! 美化したんじゃなくて元から美談なんだよ、美談!』

「だいたいじゃ! 今回とてワイはこのタイマン方式は――っ」


 文句を吠えるその口が止まったのは、空の割れ目や裂け目から追加の魔物が大量にやってきたからだ。

 実際に、シュン……ッ!

 と、鈍い音が空に走り、ザァァアアアアアァァ!

 血しぶきが周囲に飛散している。

 吹き飛んだのはギルダースの腕、<春の妖精>と形容したくなる妖精系の魔物に切断されていたのだ。


「くぅぅぅぅ……っ!」

『バカ――油断するな! 相手は女神の眷属だ油断してると首を刎ねられて即死するぞ!』


 言いながら僕は全ての戦場に配置しているマカロニ隊を操作。

 腕を拾わせ――メガホンによる指示を発動!

 ダンジョン都市の迷宮最奥基地にいるメンチカツへ伝令!


『聞こえてるか――メンチカツ! 敵を巻き込んでもいい! 指定座標に範囲回復魔術だ!』

『おう! ちゃんと聞こえてるぞ相棒!』


 タイムラグがある筈なのに、なぜか戦場に巨大な魔法陣が展開される。


 戦場で最高位の回復魔術が、きぃぃぃぃぃぃんっと発動しているが……。

 声は後ろから聞こえている。

 ちなみに僕は国王が住んでいた王城で、メンチカツはダンジョン都市の最奥にいたはずなのだ。


「やってくれたのう! ワイの腕を落としたのはどこのどいつじゃぁぁぁああぁ!」


 腕を取り戻したギルダースが再び空に向かい斬撃を繰り返す中。

 振り返って僕は言う。


『おまえ……なんでこっちにいるんだよ』

『あぁん!? 相棒が呼んだんだろ? 座標を指定されたから転移魔術ができねえか試してみたら、へへ、どうだ! ちゃんと転移できてるだろ?』

『なるほど……ギルダースの初撃で集まった経験値でおまえのレベルが上がったのか』


 あぁぁぁ……間違いなく転移魔術だ。

 レベルアップで覚えやがったよ、こいつ……。


 こいつの転移魔術習得は、僕の今後の私生活で少し面倒なことになりそうだが。

 まあ仕方がない。

 メンチカツは世界が発生させているレベルアップ音と共に言う。


『ん? なんでギルダースが倒した敵の経験値がオレにまで入ってるんだ?』

『だぁああああぁぁぁ! なんで覚えてないんだよっ、さんざん作戦を説明しただろう!?』

『おいおい困るぜ相棒、まさかこのオレが覚えているとでも?』


 胸を張ったカモノハシがドヤ顔をしているのだが……どうしてくれようか。

 こいつ、最近ほんとうに開き直りを覚えやがったな。

 こいつの相手をまともにしていたら神経が疲れるだけと、僕は肩ごとフリッパーを落とし。


『僕が僕の魔導書で世界を騙して、経験値が全員に入るように偽装するって言っただろう』

『へえ、そんなことができちまうんか。なんでいままでやってなかったんだ? スナワチア魔導王国を乗っ取った後にずっと使っておけば、今頃はもっとレベルも上がってただろ。なんだ相棒、出し惜しみか?』


 こいつっ。


『簡単に言うが、あの連中が作った世界のルールそのものを<詐欺師>の技術で騙してるから、実は滅茶苦茶大変なんだぞ、これ!』

『そーいや、そんなことも言ってたか』

『言ってたんだよ! おまえが作戦会議を聞き流して酒のカタログを眺めていたときにな!』


 僕は作戦指令書をメンチカツの水掻きに手渡し、フン!

 んーっと考えるメンチカツがまじめな顔で。


『しっかし、これは朝の女神がこっちのレベルを上げるための慈悲なんだろう?』

『そこはちゃんと聞いてたんだな』

『分からねえなあ。本来なら女神が先に攻めてくるはずだったんなら、獲得経験値の十倍化に経験値の同時全員取得なんて意味ねえだろう。倒す相手がいないまま女神と戦いになるんじゃあ、タイミングがねえだろが』


 本当に作戦を聞いてなかったんだな、こいつ。

 他の戦場に支援魔術を発動しつつアランティアが言う。


「人間も厳密に言えば魔物判定になりますからね、人間同士の戦争が起こった後、国家の平均レベルが上昇しているっていう事実もあります。それがちゃんと、人間を倒しても経験値が入る証拠……魔物に分類されるって判断できると言えるんすよ。んで、この国にはちょうど都合よく、反省をする必要がある人間がいっぱいいたじゃないっすか」

『あぁん? 誰の事だ?』

「妾たちの事じゃ、実際、おぬしらを沈めて謀殺しようとしたのは事実なのじゃ。その罰として、本来ならば妾たちを相手に戦闘しレベル上げをするつもりじゃったのだろうて。メンチカツ(おぬし)のような蘇生すら可能な優秀なヒーラーがおるからこそできる作戦であろうがな」


 と、ナチュムリア姫である。


『一応、おまえたち兄弟からの許可は取ってあったぞ? そもそも黒幕のシャインが神託偽装をして、その虚言を信じて暴走した王族連中が悪いんだからな。その罪滅ぼしに、あいつらが本来ならレベリングの相手になる筈だったんだよ』

「ならばなぜ妾は知らぬのじゃ!」


 まあ単純に考えれば、倫理上というか外聞の問題。

 一応は女性である姫が何度も殺され蘇生されるというのは、他の兄弟もいささか問題があると判断したのだろう。

 しかし僕の考えが正しければ。


『朝の女神のやつ……兄弟殺しをさせたくないから経験値用の魔物を送り込んできたのかもな』

「こっちでレベリングさせたいのはメインアタッカーのギルダースさんや、うちの最強戦力のリーズナブルさんっすからねえ。効率を考えると二人にイワバリア王国の王族連中を何度も倒させるのがいいっすし……やっぱまじめなんすねえ、あの女神ひと


 レベリングが続く戦場を監視しつつも、僕は考える。


 ここまでまともな女神を怒らせた人類にも思うところはあるが。

 おそらくこの世界にとって朝の女神を失う事は大損失。

 まともではないアシュトレトやバアルゼブブを思うと、まともな神が減ること自体が大問題だとすぐに理解できる。


 しかし、正直な話だ。

 神の座を降りる、そこまで責任を感じる程の事態が起こっていたとは思えない。

 おそらくこの大陸の事だけではない、何かほかの理由もあるような気がするのだが。

 それが分からない。


 ただ予想はできる。

 朝の女神は冥府の管理者としての性質もあるらしい。

 それは文献……この世界創世以前の神話から読み解ける。


 過去の資料を辿ると、ペルセポネーがかつて冥府の女帝だったとの記述があるのだ。

 ペルセポネーという神自体が、半分の時間を死の世界で、もう半分の時間を生者の世界で暮らす神性。

 だからこそ――今の彼女は朝……つまり春の象徴たる、生者としての側面が強く出ていると考えられる。


 だが、彼女から死の世界を束ねる側面が消えているわけではない。

 そしてだ。

 実は気になっていたのだが……最近になって死者にまつわる大きな問題が二つ、起こっている。


 というか、きっとこれで確定だと僕は考えている。


 僕はメンチカツに目をやり、はぁ……と息を吐く。

 たぶんだが。

 夜の女神が責任を感じている理由は――おそらく。


 外の世界の死者の筈だったケモノ。

 かつて人間だった獣王の僕らだ。


 ……。

 まあそれもアシュトレトのせいなんですけどね。


 まじめなペルセポネーは気にし、まじめではないアレは気にしない。

 こーいうのも、かなりよくある話だろう……。

 僕はペンギン眼をじとぉぉぉぉっとさせ、天を見上げて思う。


 しょーじき。

 朝の女神より天の女神アシュトレトをぶっ飛ばした方が、この世界のためなんじゃないだろうか。

 ――と。


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